【完結済み】ブレイメン公国の気球乗り。異世界転移した俺は特殊スキル気球操縦士を使って優しい赤毛の女の子と一緒に異世界経済を無双する。

屠龍

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第十章 シリカ国編

第五十九話 シリカ国首都シルク

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 第五十九話 シリカ国首都シルク
 
 俺たちはブレイメン公国から南東にあるシリカ国へ向かう。
 簡単に言うが途中には長大な山脈があり、人間が歩くと二か月かかる。
 山脈なので山の高低があり道も曲がりくねっているのだ。
 だが俺が乗っているのはジェイソンというブレイメン公国でも有数の優れたドラゴンなので一日あれば越えられる。
 空を飛ぶという事はこれほどチート級の速度なのだ。
 ブレイメン公国の気球船団がどれだけ交易に有利なのかという事だ。
 
 「そりゃあ戦争してでも奪い取りたくなるよな」
 
 俺は自分で作り上げた気球という物がどれだけ優れたものか実感する。
 人間が馬を何頭も引き連れて山脈を二か月がかりで踏破する距離を一日で突破してしまうのだ。
 ドラゴンは強靭な肉体を持っているから一日どころか数日飛んでも余裕だし、悪天候の時以外は気球も飛べる。
 ブレイメン公国の気球船団最大の敵は悪天候で途中で引き返す事もあるが大体は迂回して往復する。
 これが人間の足だと何日も嵐に閉じ込められる事になる。
 まさに命懸けの旅を軽々と超えてしまうのだ。
 気球一機の搭載量は牛三十頭。
 秘密は死んだ気球に取り付けたドラゴンの翼で、その揚力があるからこんな芸当が出来る。
 地球にはもっと優れた飛行機というチートな乗り物があるが、この世界に飛行機は無い。
 アルスラン帝国は気球を欲しがっているのだ。
 
 無論だまし討ちして一機二機の気球は手に入るが量産は死んだドラゴンの翼がなければ出来ない。
 しかもそんな事をすればブレイメン公国はアルスラン帝国との交易を別ルートで行う事になる。
 アルスラン帝国と交易している国経由で交易すればいい。
 アルスラン帝国はブレイメン公国が取引している東方の絹や香辛料を他国経由で買わねばならなくなる。
 地球の歴史でも胡椒はインドからイラン、アラビアを経由してヨーロッパに運ばれた。
 インドでは格安の胡椒が関税を通すと金と同じくらいの価値になる。
 それと同じ事が発生する。
 
 では今から向かうシリカ国ではどうなのかというと、シリカ国には海があり巨大な帆船を何十隻も持っている。
 つまり速度では気球に及ばないが搭載量でブレイメン公国に勝るのだ。
 ブレイメン公国は内陸国家なので船が使えないが、内陸で産出する金銀などを運ぶのがメインでシリカ国は船で他国から大量の胡椒などを運んでくるという棲み分けが出来ている。
 経済力だけをみればシリカ国が優位だが胡椒は内陸国に運んでこそ利益があるので、ブレイメン公国の気球船団と組む事は利益になる。
 そういう経済的関係からシリカ国とはライバルでもあり商売相手でもあるのだ。
 とはいえアルスラン帝国との戦争でシリカ国が味方になってくれるという保証はない。
 だがアルスラン帝国が気球を手に入れてしまったらシリカ国はアルスラン帝国に経済的不利となるだろう。
 ブレイメン公国はシリカ国を裏切った事は一度もない。
 アルスラン帝国はシリカ国との取引を自分の都合で破らないだろうか?
 
 「それは無理だろうなあ」
 
 俺は自分の疑問に首を振った。
 アルスラン帝国は超大国あるあるで尊大だ。
 シリカ国を格下に見ている彼らは自分の都合で条約を破るだろう。
 大国は約束を守らないものだ。
 それがわからない商業国家とも思えない……多分。
 そんな事を考えているとシリカ国が眼下に見えてきた。
 
 「あれがシリカ国か」

 シリカ国の港には何十という帆船が停泊していた。
 その周りを巨大なガレー船や、フリゲート艦などの軍船が取り囲んでいる。
 まるで海に浮かぶ要塞のようだ。
 巨大な湾を囲む人工の丘には巨大な攻城弓や投石機などが配置され弓兵が常時警戒している。
 平和が続いた国にしては守りが厳重なのは常に危険と隣り合わせだからだろう。
 交易国家は相手に舐められてはおしまいだ。

 「あの要塞を攻略するには骨が折れそうだ」
 
 俺は思わずそう呟いた。
 シリカ国の港に着地すると、シリカ国の兵士や商人が出迎えてくれる。
 その先頭にはヒゲを生やした大男がいる。
 
 「ようこそお越し下さいましたハヤト様」
 
 彼の名はムワ・シナルカと言いブレイメン公国の大使館付き武官だ。
 その隣に外交部門の長らしい官僚風の男が立っている。
 前もって話を通しておいたからよかったが、知らずに訪れたら行き場に困ったに違いない。
 
 「まずはブレイメン公国の大使館へご案内いたします」
 
 「自分の足で歩いていくんだがなあ」
 
 そう呟く俺とクリスとジェイソンに有無を言わさぬ態度で接するシナルカ殿。
 彼は護衛の任務を果たす為、譲る気は無いらしい。
 気球を畳んでジェイソンの背中に乗せて俺たちは馬車に乗る。
 ジェイソンは俺たちの乗る馬車の上を旋回して守ってくれていた。
 ジェイソンの姿を見てみな驚きつつ珍しそうに見ていた。

 シリカ国首都シルク。

 豊かな田園地帯が広がる大きな河の河口に作られた海に面した街で、高い城壁に囲まれている市場を中心にされた商業地と住宅地。
 砦に守られた港で区画割をされている商都である。
 城壁の海側は開けていて港がありアルスラン帝国の首都アストラハンが陸の大都市ならシルクは海の大都市だ。

 港から陸揚げされる交易品で広場や大通りはとても賑わい活気がある。
 着ている服も綿だけでなく絹を着ている人も多く一目で裕福な人が多いとわかる。
 外国人の数も多く異国の工芸品や宝石の店が立ち並び、広場の真ん中には香辛料を商っている店が軒を連ねている。
 建造物は三階建の石造りが多く一階が商店になっている建物が殆どだ。

 シルクの街は上下水道が完備されていて、道行く馬車や犬の糞が蝿の繁殖を防ぐためにすぐ回収されている。一見してわかる繁栄した通りで馬車道も整備されている。
 馬車六台が楽に通れる道はいざという時に避難経路とされているのだろう。
 京都のように区画ごとに分けられ、要所に警官が立っていて治安も良さそうだ。
 裕福そうな市民が楽し気に歩いている。
 シリカ国の豊かさを気球船団の乗組員から聞いていたが、雑多な街が多いブレイメン公国は田舎だなと認めるしかなかった。
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