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第九章 ブレイメン公国の戦争

第四十八話 戦雲

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 第四十八話 戦雲
 
 銀山開発。
 それは王国にとってもメリットが有る話だった。
 俺はアカネが開発した龍肥と新型肥料、そしてサツマイモの量産を大学や各村で指導している最中だ。
 その傍らで銀山の採掘状況を確認する。
 
 「鉱山の方はどうだ?」
 
 「順調です」
 
 「そうか。このまま続けてくれ」
 
 俺が確認しているのは銀の鉱脈が見つかった場所。
 この異世界フォーチュリアでも金銀は貴重で貨幣にもなる。
 ブレイメン公国では東方にあるシリカ国のクラン銀貨と同じく純度の高いブレイメン銀貨を作っている。
 自国で通貨発行できない国は経済的に自立できない。
 他の国がブレイメン公国から銀を買って自国通貨を作るのは当然だ。
 シリカ国は銀を殆ど産出しないので、うちの銀は高値で買い取ってくれる上客だ。
 世界中から銀を買い集めてシリカ国は銀貨を作っている。
 
 「銀山が見つかればブレイメン公国は安泰だな」
 
 「ああ。この鉱山の採掘権は我が大公家が独占しているので、他の貴族も手が出せない」
 
 「それはよかった」
 
 俺は大学で雇った農村の有力者に龍肥の作り方を各村で指導する傍らで、銀山や金山の採掘と今まで入れなかった鉱脈の発見に力を入れている。
 既に各地に山師を派遣して各種の鉱脈を発見した。
 鉄や銅は武器や日用品、農具などを作るのにつかわれている。
 鉄や銅は輸出が制限されているが、それは他国に武器を作らせない為と鉄鉱石を鉄に加工する過程で深刻な環境破壊をひきおこすからだ。
 日本の戦国時代に大量の鉄が使われ山を禿山にしてしまった。
 禿山は土砂崩れで森の豊富な栄養を持つ土を雨で流してしまう。
 これは深刻な問題だ。
 
 徳川幕府は森の管理を徹底して行った。
 毎年各大名に領地の森にある木の数と用途を詳細に記した管理表を提出させた。
 その提出書には木の太さまで縄を張って記録されていて、基準に合わない使い方をした場合重い罰則を科した。
 この管理表を提出する制度は明治まで続き、日本の森林保護と植樹に繋がった。
 そして日本が世界屈指の森林大国になったのは言うまでもない。
 
 話がそれたが、鉄鉱石や銅鉱石の輸出制限と環境破壊抑制はブレイメン公国で最重要課題の一つだ。
 ブレイメン公国では石炭も産出するのでそれを使えばいいと思うが、こっちはこっちで環境破壊になるので難しい。
 という事で戦時に備えて大量の弓矢や鎧や要塞に使われる。
 ブレイメン公国は軍事国家に生まれ変わろうとしていた。
 
 大量の弓矢を発射するのは熟練の長弓を扱う弓兵が必要だが戦い方も変えた。
 連弩(れんど)と呼ばれる弓矢の連続発射を可能にする機械式の弓である。
 中国では秦の始皇帝の頃には既に使われていたし、名軍師の諸葛亮が改良した諸葛弩(しょかつど)という物もある。
 ローラーチェーンという自転車のチェーンを用いた設計で連続発射出来る。
 ただ残念な事に長弓に比べて命中率と射程距離と威力に欠ける。
 だがそれで十分なのだ。
 
 というのも敵歩兵の頭を上げさせなければいい。
 これを拘束といい、敵歩兵を動けない状態にして竜騎士が先日の長槍や火炎瓶を落すのだ。
 もっと戦術を改良して浸透強襲という敵の弱い場所を精鋭で突破し、敵の司令部や補給拠点などを襲って壊滅させるという第一次世界大戦で使われた戦法を行うのに重要だ。
 実際浸透強襲は日本軍やドイツ軍が得意とした戦い方で、これがのちの電撃戦に繋がる。
 ただこの戦い方は高度な知識と訓練が必要なので実用化は難しい。
 
 このように矢を大量生産できる鉄を持っているというだけで戦争に有利になる。 
 話を戻すがブレイメン公国の経済と軍備は豊富な地下資源に支えられている。
 
 だがそれだけでは勿論駄目なので、余裕のあるうちに技術力を高めておく必要がある。
 この肥料もその一つだ。
 龍肥の作り方を各村で指導する傍らで、俺は大学や各村で様々な研究をしている。
 この新型肥料が普及すればブレイメン公国は食糧自給率が向上して経済も発展するだろう。 
 そしてアカネは龍肥をさらに改良すべく新型肥料の開発に勤しんでいる。
 そんな訳で俺達兄妹とクリス、それに護衛のエストは今日も忙しいのだ。
 だがそんな日々も長く続かなかった。
 それは俺が大学にいる時だった。
 
 突然ドラゴンの遠吠えが大学に響き渡った。
 ドラゴンはブレイメン公国の守り神で、その咆哮は敵襲を知らせるものだった。
 俺とクリスは慌てて大学を飛び出し空を見る。
 そこには巨大なドラゴンがいた。
 
 「あれは戦竜だ」

 「戦竜ってなんだ?」
 
 「戦争の前触れを伝える守り神で国境守備隊が大切に崇めている」
 
 「という事は国境でなにかあったのか?」
 
 「そういう事だ。いくぞハヤト」
 
 「ああ!!」
 
 俺は貴族の礼服に、クリスは竜騎士甲冑に着替えてドラゴンのジェイソンの下へ急ぐ。
 おれは気球のバーナーに火をつけて暖かい空気を気嚢(きのう)という気球の袋に暖かい空気を送り込む。
 気嚢が膨らんで俺の気球が舞い上がった。
 そして王都を目指す。
 
 戦竜がブレイメン公国に危機を知らせに来た。
 その報告を聞いたブレイメン公国の竜騎士が首都チュロスに集結する。
 俺もクリスと一緒に王城へ向かった。
 
 「公王陛下にお目通り願いたい」
 
 俺はそう言ってチュロスの城門で衛兵に言う。
 門番は俺を怪しむ目で見つめたがすぐ後ろから歩いてきたクリスに慌てて敬礼して門を開けた。
 
 「役目ご苦労」
 
 クリスがそう門番に声をかけると門番は最敬礼で答える。
 流石クリス、ブレイメン公国で一番と言われる竜騎士だ。
 伯爵になりたての俺とは格が違う。
 妻の凛とした格好よい仕草に俺は惚れ直した。
 そこにエストがやってきた。
 鎧を身に着けているのに汗一つかいていないエストも格好いい。
 
 「ハヤト様!!クリス様!!」
 
 「エストも来たか」
 
 「はい。戦竜がブレイメン公国に危機を知らせたのです。これは一大事です」
 
 「そうだな。だがまずは公王陛下に報告だ」
 
 俺達は謁見の間に入る前に身支度を整え、そしてクリスとエストは騎士として、俺は伯爵の礼服に身を包んで謁見の間に入った。
 そこにはオットー公王陛下とフランツ宰相閣下とフリッツ君がいた。
 俺とクリスとエストはオットー大公に跪いて報告する。
 
 「大公陛下。戦竜が国境から急使としてまいりました」
 
 「うむ」
 
 「戦竜の鳴き声は五回。五回を繰り返しています。これは国境に軍が終結しているという事です」
 
 「どこの国境だ?」
 
 「西方にあるアルスラン帝国との国境です」
 
 クリスがそう言うと三人とも黙り込んだ。
 世界最大最強の国家がなぜブレイメン公国を狙うのか。
 その事に考えを巡らせているようだった。 
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