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第九章 ブレイメン公国の戦争

第四十七話 龍肥

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 第四十七話 龍肥
 
 ドラゴンの糞をアカネに渡してはや二週間。
 ああでもないこうでもないとアカネが苦心して作った肥料を見せてもらう。
 場所は大学の一角に作られた農業試験場。
 将来は農業科になる予定だ。
 
 「これがお兄ちゃんが最初に作った木のチップに鶏糞と石灰とかを混ぜたもの。材料はわかってるとはいえ苦労したよ」
 
 木を砕いたものを鶏糞などと混ぜ水を足しまた混ぜて微生物を発酵させて肥料にする。
 これは実際に日本で行われている肥料で、利点は木材が豊富なブレイメン公国で材料に困らない事だ。
 この木材を発酵させた肥料は大量生産が可能で、むしろ大量生産しないと肥料の中で発酵がすすまないのだ。
 大量生産された木製肥料にアカネはドラゴンの糞を混ぜて実験を繰り返した。
 比率をかえ水量を変えなど、大学に招いた農業のプロ。
 ようするに富農と呼ばれる人たちが雇っている土づくりや肥料づくりのプロを高額で召し抱えた。
 日本の土とブレイメン公国の土は全然違うらしい。
 だからまずは土づくりから始めなくてはならない。
 
 「それでこっちが採取してきたブレイメン公国南部と西部と東部と北部の土」
 
 南部と東部は比較的温暖なので作物が育ちやすいが西部と北部は農耕に向かない。
 それぞれの土に竜の糞を混ぜてどの土にどの比率で肥料を足せばいいのか。
 これも地道な研究だ。
 我が妹ながら頭が下がる。
 
 「試した結果、それぞれの土地に最適な肥料が出来たよ」
 
 そう言って取り出したのは新型肥料だ。
 臭いと思っていたが無臭だった。
 
 「ドラゴンの糞を混ぜたら発酵が進んでね。微生物の分解能力がびっくりするくらい進んだんだよ。だから臭くないの」
 
 「そうなのか?」

 農学は専門外な俺にはよくわからない。
 そしてアカネは自慢げにそれぞれの土に合わせた堆肥で育てた植物を見せてくれた。
 この短期間で育っていたのだ。
 
 「これがサツマイモ、こっちがカボチャ、ジャガイモ、大根、白菜、テンサイとかの野菜と大豆。トマトは大丈夫だったけどトウモロコシは日照量が足りなくて無理だったよ。最後はどどん!!まだ芽を吹いたばかりだけど稲だよ」
 
 成長が早い野菜はある程度予想していたが、この短時間に稲まで出来るとは。
 アカネは本当に天才だ。
 まだ苗を土の中に植えただけで田んぼに水を張りはしてないが、俺が作った肥料でも十分に稲は育ちそうだ。
 
 なんといってもここは異世界フォーチュリア。
 地球とは違う法則がある世界なのだ。
 だから俺はこの新型肥料の出来栄えに満足し、そしてアカネの頭をなでた。
 
 「えへへ。私がんばったよ。植物にもよるけど十分肥料として使えると思う」

 「この肥料に名前を付けないとな」

 「実は考えてあるの。龍肥ってどうかな」
 
 「龍肥か。いい名前だな」
 
 早速この肥料を作る為にブレイメン公国全てのドラゴンの糞を大公家へ献上する布告がなされる。
 ドラゴンの糞と引き換えにこの龍肥をわたすのだ。
 今はまだ管理が出来ないと失敗するが、将来は各村の代表者に龍肥の作り方を教えて地元でも作れるように指導しよう。
 そうすればブレイメン公国は豊かになる。
 そして俺は龍肥をアカネに託して大学を後にした。
 アカネが新型肥料の開発に成功して、それを各村の代表者へ教える事が決まった。
 
 俺はというと、アカネが開発した新型肥料の作り方を各村へ教える為に奔走している。
 この龍肥は俺が作った肥料よりも質がいいのでブレイメン公国全土で作らせるのだ。
 そうすればブレイメン公国の農業が発展して豊かになる。
 
 「夢のようだなハヤト。ブレイメン公国で作物といえばライ麦やカラス麦などが主流だったのに。このサツマイモというのは甘くておいしい」
 
 クリスはすっかりサツマイモの虜になってしまった。
 果物は成長に時間がかかるから実用化には時間がかかるが、龍肥でそだてた植物の成長速度を考えると遠からず成功するだろう。
 ブレイメン公国の人々が甘くておいしい果物を食べられる日は近いかもしれない。
 また輸入に頼っていた砂糖もテンサイという砂糖を含んだ蕪のお陰で解決しそうだ。
 ブレイメン公国の農民は栄養状態が良くないので各村で肉食を推奨する為に豚や鶏を飼わせる事にした。
 飼料は今まで食べていた大麦やカラス麦や大豆で、人間はジャガイモやサツマイモ、将来は米を食べることになる。
 
 「あまり食べると太るぞ?」

 「構わん。ハヤトの子供を産むために少し太いくらいがいい」
 
 ダイエットが盛んな日本と違いブレイメン公国では太い女性が美しいとされている。
 それは子供を産む為にカロリーを消費するからだ。
 この食事改善で出産率も上がるだろう。
 また外国からの輸入に頼っていた医薬品の効果をまとめた医学書の編纂も進めている。
 ブレイメン公国にも朝鮮人参が自生していたので早速量産を始めた。
 少しずつだがブレイメン公国も豊かになっていく。
 豊かといえばクリスの胸も大きくなった気がする。
 栄養状態が良くなったからだろうか。
 
 「太るなって訳じゃないが、俺は今のクリスが一番いいな」
 
 「そうか?それならサツマイモは控えるとしよう」
 
 「ごめんな」

 「いい。私はハヤトの子供が産みたいから魅力的でなくなる方が嫌だ」
 
 そう言ってクリスは俺の耳たぶにキスをする。
 これはまあそういう合図で。
 クリスの体調がいいときはお互い求めあうというサインだ。
 
 「早くハヤトの子供を産みたいな」

 「ああうん。それじゃ今夜も励むとしよう」
 
 「そうしよう。私はハヤトに愛されているという事を、いつも思い出させてくれてとても嬉しい」
 
 俺とクリスがそんな話をしているとエストが顔を真っ赤にして俯く。
 エストは俺とクリスの護衛も兼ねているのでたまにこういう場面に遭遇する。
 クリスより少し年下のエストには少し刺激が強かったか。
 
 「すまないエスト。見せつけてしまったな」

 「いえ伯爵ご夫婦が仲睦まじく私も嬉しいです」
 
 「ハヤト、私は嫉妬深いぞ」
 
 俺がエストに声をかけるだけでクリスは焼きもちを焼く。
 いや俺にそういう気はまったくないのだが。
 多分クリスは俺の子供を産めないのか不安なのだろう。
 そんな心配なんてしなくていいよと今夜もわからせないといけない。
 そういえばエストに恋人はいないのだろうか?
 エストは贔屓目に見ても美人だ。
 ピンクの髪も美しく瞳も顔立ちもとても整っている。
 鼻立ちも口元も良い形をしているから男が放っておかないだろう。
 だがそんな事を聞いたら愛妻に殴られるのは確実だ。
 黙っておいたほうがいいだろう。 
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