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第八章 政治と軍事と微妙な立場

第四十一話 反体制派貴族

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 第四十一話 反体制派貴族
 
 俺とフランツ宰相は午後のお茶を楽しみながら話を続ける。
 本来ならこういう個別の提案は良くないのだがフランツ宰相というフィルターを通してオットー大公にも伝わるだろう。
 
 「ハヤト殿は貴族に悪い印象をお持ちのようですな」
 
 そう言ってたしなめるようにフランツ宰相は言った。
 俺も伯爵様だから立派な貴族だしクリスを妻に迎えたのだから侯爵までは楽に進むだろう。
 異世界人で爵位を持ち、かつ大公家の一員の俺が貴族の権力を弱めようとしている。
 それはフランツ宰相にとって嬉しさ半面といった所だろう。
 俺が侯爵になればクリスを妻に迎えた事もあって次期大公のフリッツ君の強力な後ろ盾になるだろうし、オットー大公もフランツ宰相もそれを望んでいる。
 半面俺が外戚、つまりクリスの夫という立場を利用してフリッツ君の権力を脅かそうとするという危険もある。 
 フランツ宰相は考え方が保守派の人だから俺の提案に驚くのも無理はない。
 
 はっきりいって俺は王様になんてまったく興味がない。
 クリスが一緒にいてくれるなら庶民として一生を過ごしてもいいんだ。
 そんな俺が政治に口出す理由はたった一つ。
 クリスの笑顔が見たいからだ。
 だから俺が粛清されるなどと言ったことは絶対に避けなくてはいけない。
 そして改革などを公に叫べば遠からず暗殺されるだろう。 
 
 「仰られる通り良い印象は持っていません。貴族が権力者で官僚で軍人でもあり高度な教育を受けたエリートだという事は理解しています。でもフリッツ君の政治に口出しする、もしくは妨害するなら排除する必要があると考えています」
 
 「過激なお考えですな」
 
 「俺の住んでいた日本では官僚も軍人も教師も全て学業で選別されます。全国民が教育を受ける事が出来る社会で建前上は全員平等に勉強し、貧しい子でも宰相になる事ができます。あくまで建前ですが」
 
 「建前ですか?」

 「建前です。俺自身大学の学費を返済する為に大学時代はアルバイト───ええと仕事をしていました。裕福な家の子が大学のレストランでパスタを食べてる時に握り飯を食って我慢したものです」
 
 日本も裕福な子は良い大学へ進学する比率が高いという厳然たる事実がある。
 昼飯に八百円するパスタを歓談しながら食べられる金持ちとバイトに追われる貧乏人の俺とは雲泥の差がある。
 これは能力だけでは埋められない。
 だが建前上だけでも平等な教育が施されているだけでも十分凄い事だ。
 ブレイメン公国に必要なのは小学校の教師であり教師を養成するには高校が必要で高校教師を養成するには大学が必要だ。
 だから俺は大学を作った。
 
 「ですので日本に貧富の差はありますが基本全員平等です。だから貴族という階層は名前以外にはありません」
 
 「想像つきかねますな」
 
 「ですよね。俺も逆の立場なら頭がおかしいと思うでしょう」
 
 そう言う俺の言葉にフランツ宰相は苦笑する。
 やっぱり誇大妄想な人間だと少しは思っていたのだろう。
 当たり前なので俺も苦笑するしかない。
 それでも聞いてくれるのだからフランツ宰相は懐が深い。
 
 「ですので将来は貴族が必要無くなるでしょうが今すぐは無理なのもわかっています」
 
 「それで貴族の官僚化という方策ですな」
 
 「まあこれも上手くやらないとフリッツ君に抵抗する勢力になりますから難しいですが、領地と軍隊を持っている貴族よりはやりやすいでしょう」
 
 「確かに。フリッツ公子が任免権を持つ官僚なら最悪罷免してしまえばよいですが、貴族を敵にすると最悪戦争ですからな」
 
 貴族の反乱は最悪の結果をもたらす。
 不平貴族が反乱を起こせば外国の勢力が反乱に加担するのは目に見えているからだ。
 フリッツ君に不満がある貴族を取り込もうと外国が動いているのは間違いないだろうし。
 だから平和な日本人の俺は本当はやりたくない方法を取る事にする。
 軍事力の強化である。
 
 「軍隊を強化してフリッツ君を守りましょう。軍事も政治も両方経済力があるほうの勝ちです。ですからまず全ての産業と税をフリッツ君に集めてフリッツ君を守る軍隊を作るんです」
 
 「思い切った事を考えられますな。そんな事が可能なのですか?」
 
 「俺のいた日本では全ての軍は一番偉い政治家の命令に従います」

 「ふむ。興味深いですね」
 
 この世界の人たちに民主主義を押し付けるつもりは無い。
 そもそも民主主義に必要なのは高い学力と同じ国家という国民意識が必要だ。
 両方欠けてるブレイメン公国に民主化しようという意識はあったとしてもまだ早い。
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