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第七章 ブレイメン公国の改革

第三十五話 ゴムの木を求めて

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 第三十五話 ゴムの木を求めて
 
 俺たちは新生ブレイメン公国を作るべく決意を新たに誓いそれぞれ動き出した。
 ブレイメン大公家はフリッツ君を徹底的に鍛えるべく、フランツ宰相が手配した教育係が昼夜を問わず身体を鍛え勉学に励ませている。
 オットー大公は国内の味方してくれそうな貴族と歓談の場を設け親密さを増していく。
 今まで大公と食事を共にする機会などなかった男爵や騎士爵まで招いて、食事会や竜騎士の競技。
 ドラゴンに乗りながら互いの優劣を競う空中戦や弓の競い合いを始めた。
 いやそれって事故死に見せかけた暗殺されるんじゃないですか?
 俺のそんな心配は杞憂で流石ブレイメン大公の名は伊達ではなく、竜騎士百人で一斉に襲い掛かっても勝てないだろう。
 フリッツ君も将来はあのレベルになるまで鍛えられるのだろうか。
 頑張れ義弟よ。
 フリッツ君が酒を飲めるようになったら愚痴を聞いてやろうと思った。
 
 オットー大公の弟で宰相のフランツさんは国内の貴族の動きを今まで以上に監視を強めている。
 元々各貴族の家にスパイを潜り込ませていてかなり詳細な動きまで把握しているという。
 冗談でミナセ伯爵家にもスパイを潜入させてるんですかと聞いたら笑顔で「まさか。身内を疑うような事はしませんよ」と返事が返ってきた。
 ───この国で一番恐ろしいのはこの人かもしれない。
 フランツ宰相には子供がいない。
 貴族には珍しい恋愛結婚で結ばれた夫人がいたが生来病弱で子供はできなかったようだ。
 だからフランツ宰相の愛情は兄の子供であるクリスとフリッツ君に注がれた。
 二人の為ならどんな汚れ仕事でもやりそうだ。
 
 俺の父さんは早速ブレイメン公国の地図を作り始めた。
 といっても一人ではなく俺の作った大学に外国人の測量士を招いて共同作業を行う。
 同時にコンクリートの強度実験なども行っている。
 コンクリートは完全に固まるまで時間がかかるのでコンクリートブロックを量産して街道沿いに敷き詰める。
 まずは首都チュロスの大通りを整備する事から始めた。
 ただ道路の問題だけではない。
 馬車の耐久性の問題が浮上した。
 この世界の馬車はサスペンションが二枚の重ね板ばねだったので積載重量が限られ故障が多い。
 そこで板バネを五枚に増やして馬車への衝撃を改良した。
 しかしどうしようもない事がある。
 タイヤだ。
 これはゴムがないと作れない。
 タイヤがないと車輪が壊れやすい。
 
 「石油があれば合成ゴムが作れるけれどね」
 
 などと仰るのは妹の茜だ。
 いやそれは理論的にはそうだろうが、石油からゴムの材料を抽出する高熱とかどうするつもりだろう。
 我が愛する妹よ、そもそもここには石油も電気も無いぞ?
 
 「お兄ちゃん、この世界にゴムの木はないの?」
 
 「あるかもしれないが多分南国だろうな」
 
 「そうだよね」

 ゴムの木こと天然ゴムを作り出すパラゴムノキは地球だと東南アジアや南米に生えている。
 ゴムには二種類あって天然ゴムはパラゴムノキの樹皮を傷つけて樹液を採取する。
 この採取した樹液はラテックスという物質でこれが天然ゴムだ。
 ラテックスそのままだと熱と寒さに弱く溶けたり固くなったりする。
 このラテックスに硫黄を混ぜて焼くと温度変化に強くかつ柔軟性のあるゴムになる。
 1839年、アメリカのグッドイヤーという人が硫黄を天然ゴムに混ぜて焼いたら出来たという。
 勿論偶然ではなく当時からゴムの有用性は理解されていたが実用化するには難しく、グッドイヤー氏は何度も破産して必死に実験を繰り返して得た技術だ。
 
 「ようはラテックスがあればいいのよ。ロシアだとタンポポから採取したからブレイメン公国の植物にもあるかもね」
 
 「あるかもな」
 
 「見つけてきて」
 
 「───はい?」
 
 「ゴムの木みたいに白い樹液が出る植物を探してきてよお兄ちゃん。色々な村を巡ればそういう言い伝えとかあるかもでしょ」
 
 「いやまあそうだが」
 
 「お願いね」
 
 そう言って可愛く笑顔をうかべる茜。
 おお我が愛する妹よ。
 いつの間にこんなに人使いが荒くなったのだ。
 という訳で俺はゴムの原料になるラテックスを探すことになった。
 
 ◆◆◆
 
 かくて俺はクリスと一緒に空の旅へ出かける事になった。
 護衛はクリスの部下のエスト以下竜騎士十人。
 他の竜騎士は今頃各地に分散して「白い樹液」という物がないか村々を聞きながら飛んでいる。
 
 「ハヤトの妹は楽しい子だな。知識と探求心があるのは良いことだ」
 
 「笑いごとじゃないよクリス。それに茜はクリスにとっても義理の妹になるんだぞ」
 
 「そうだな。とても頭がよくて賢くて可愛い義妹ができて私も嬉しい」
 
 「仮にも伯爵と伯爵夫人を使い走りにするのが賢いとは思えないが」
 
 そう言いながら俺たちが飛んでいると流水で出来た川の中州に沢山の果物が生えている谷を見つけた。
 川の流れに表面を洗われながら残った黒い中州。
 こんなのを見たのは初めてだ。
 
 「クリス、あれはなんだ?」
 
 「私も初めて見る。エストあれはなんだ?」
 
 クリスの声に隣を飛んでいた竜騎士のエストが答える。
 
 「あれは竜神様の排泄物です」
 
 つまりドラゴンの糞か。
 ドラゴンは不思議な生物だ。
 空も飛べるし炎も噴けるし、糞も肥料になる。
 ドラゴンの糞を使えばよい肥料になるかもしれないな。
 
 「クリス。ドラゴンが育てられている場所は近くにある?」

 「もう少し先に行けば山の尾根がある。その先が放牧場だ」
 
 「調べたい事がある。少し寄り道していいか?」

 「勿論いいぞ」
 
 「ありがとう」
 
 しばらく飛ぶと俺たちを乗せたドラゴンと気球はゆっくりと高度を下げていく。
 そして山の尾根を越え放牧場が見えてくる。
 一面に広がる緑豊かな牧草地帯だ。
 だがこの牧草地帯には幾つか丘がありその一つに竜舎があった。
 放牧場には十数匹の幼いドラゴンの子供がいる。
 
 「エスト。あれがドラゴンの子供か?」

 「はい。成長途上で調教前です」
 
 それは好都合だ。
 俺はクリスにお願いする。
 
 「クリス、あの竜舎に降りてくれないか」
 
 「わかった」
 
 そう言って俺たちは竜舎の前に着陸した。
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