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第六章 愛しい人
第三十二話 政争の始まり
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第三十二話 政争の始まり
パーティの前にクリスから事前に貴族の簡単な情報を聞いておいた。
それによるとピースクラウト侯爵は四十五歳。
立派な筆髭を生やし小太りの善人そうな風貌だがこういう人は侮れない。
クリスたちブレイメン大公家の親戚で国内で権勢が強い。
元々クリスを息子に嫁がせるのが目的でまだ公に発表していないのが幸いだが、貴族の間では当然そういう話があったし俺が戻らなければ彼の息子とクリスが結婚させられていたのは間違いない。
そしてピースクラウト侯爵家の現当主アレイスター侯爵はクリスの父親であるオットー大公と仲が悪い。
元々自分がブレイメン公国を継ぐ地位と権勢を誇っていたが性格に難がありオットー大公の父親が危険視したのだ。
つまり俺とクリスが結婚するのはピースクラウト家にとって重要な大公位継承権が遠のく大事件なのだ。
「ハヤト殿、この度はご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます。侯爵様」
「しかし羨ましいですな」
「はい?」
「いや失礼。ハヤト殿はまだお若いのに美しいクリスさまを奥方を娶られるので羨ましい限りですぞ」
「いえいえそんな……」
俺は愛想笑いで返す。
「奥方は大変お美しくて社交会でも話題の的ですぞ。私の愚息もクリスさまに求愛していたのですが残念なことです」
「ははは、恐縮です」
「この度は我が国に気球をもたらしてくれまして感謝しますぞ」
そう言って侯爵が手を握ってくる。
この手の人間は苦手だ。
自分の権力で金と全てを手に入れられると思い込んでいるのだ。
そしてそれを手にする為に手段を選ばない。
いや、選ばせないといったほうが正しいか? だから俺は笑顔で返す。
「いえいえ、俺は気球を作っただけです。それを上手く使ったのはオットー大公とフランツ宰相です」
「ふむ。ハヤト殿は謙虚でいらっしゃる。それにご家族で移住されるとはブレイメン公国の貴族の一人として歓迎いたしますぞ」
そう言って侯爵が手を離した。
俺は笑顔で返す。
この野郎。
俺が家族を連れて来たのはクリスの家を乗っ取ろうしていると思ってやがるな。
ゲスの勘繰りと言ったところか。
自分が家族を政争の道具としか見ていないので他者もそうだと思っているのだろう。
「ではまた後ほど」
「はい、ありがとうございます」
そんなやり取りがあった後にクリスが耳元でささやく。
「すまない。ブレイメン公国の貴族は全員が協力的ではないんだ」
「わかってるよ。でもクリスの家族は俺が守るから」
「……ありがとう」
そう言ってクリスが微笑む。
俺はこの笑顔を守りたい。だからどんな困難も乗り越える覚悟だ。
そしてパーティは続いている。
会場には楽団がいて優雅な音楽を奏でている。
そんな中で貴族達はワインを片手に談笑してきた。
俺とクリスは挨拶に来た貴族達と話をしながら、貴族たちの名前と性格を記憶しておく。
クリスが時折フォローを入れてくれるので助かった。
大別するとクリスの家を支持してくれる貴族が五割。
アレイスター侯爵のように今のブレイメン大公家を消極的に支持している貴族が三割。
両者の争いに関与したくない貴族が二割といったところか。
そしてアレイスター侯爵には娘もいる。
「きっとその娘をフリッツに嫁がせようと陰謀を巡らせているだろう」
「酷い話だな」
「貴族に恋愛結婚など許されないから」
「そういうのはどこの世界でも一緒なんだな」
俺とクリスが結婚できたのも俺が伯爵で気球をもたらした最大の功労者だからだ。
そうでなければ平民でしかも異世界から来た日本人の俺が公女のクリスと結婚できる筈がない。
結婚は家同士の結びつきだ。
だから俺はクリスとの結婚式でブレイメン大公家の後ろ盾を得たのだ。
「まあなんて中世的なんだか」
「中世とはなんだ?」
「おれの暮らしていた日本ではブレイメン公国みたいに色んな貴族が集まっている時代は中世って言うんだよ。これが発展すると絶対君主制っていうブレイメン大公家が全ての貴族を従える時代になる。俺のいた世界ではだけどな」
「ふむ、想像しか出来ないな。ハヤトの住んでいた世界では政略結婚は無いのか?」
「ある事はあるけどそれほど活発じゃないなあ」
「そうなのか。政略結婚が無いのは羨ましいな」
「俺がいた世界では政略結婚なんてまずありえないよ。離婚の自由とか恋愛の自由とか色々あって、みんな結婚したい相手が自由に選べるんだ」
「信じられない世界だな」
クリスが驚きの表情を見せる。
「でも俺はそういう自由な社会が好きかな」
「ハヤトらしいな」
そう言ってクリスが俺の腕をドレスで包まれた胸におしつけて微笑む。
ああ可愛いなあ。こんな美人が俺の嫁さんになるのだから異世界転移したかいがあるというものだ。
「ハヤト。結婚したばかりだが私は嫉妬深い」
「うん?」
「だから側室はあまり持たないでくれると嬉しい」
「ぶっ!?」
いきなり何を言うんだ。
俺はクリス一途だというのに。
「側室なんて持つ気はないよ」
「だがハヤトは伯爵だ。跡継ぎをつくる義務がある。私がハヤトの子供を産めるとはかぎらないだろう?だから何人か側室をもつのは貴族の義務だ」
「貴族も大変だな。でもそうだな。俺はクリス以外と結婚する気は無いし、クリスとの間に子供が生まれなかったらフリッツ君に俺の領地を返上すればいい」
「本気なのか!?」
「本気だ。大体おれはフリッツ君に権力が集中する事を望んでる。ブレイメン大公家が強くなければ他国からブレイメン公国を守れないからな。金銀が豊富で気球なんてものまで持ってる国を他国が放っておくわけがないだろう?必ず内部分裂を仕掛けてくるさ」
そういって俺は先ほどのアレイスター侯爵を見る。
「さっきのアレイスター侯爵みたいな有力貴族を焚きつけて反乱をおこさせて、ブレイメン公国を傀儡にするくらいはやりかねないさ」
「それはありえるな。だがどうするんだ?」
「結婚式が終わったら家族で相談しよう」
そう言って俺はクリスの腰に手を回してキスをした。
周りから拍手されるが気にしない。
結婚指輪をはめたクリスは美しかった。
うん、可愛いなあ俺の嫁さんは。
俺とクリスに若者達が群がってくる。
どうやら主役なのでご挨拶したいようだ。
ああ面倒くさい。
今は愛する嫁とキスして二人の世界に浸りたいというのに邪魔しないで欲しい。
「ハヤト。末永くよろしく頼む」
「こちらこそよろしく。一緒に助け合って生きて行こう」
そう言って俺とクリスは皆の目の前で再びキスをしたのだった。
パーティの前にクリスから事前に貴族の簡単な情報を聞いておいた。
それによるとピースクラウト侯爵は四十五歳。
立派な筆髭を生やし小太りの善人そうな風貌だがこういう人は侮れない。
クリスたちブレイメン大公家の親戚で国内で権勢が強い。
元々クリスを息子に嫁がせるのが目的でまだ公に発表していないのが幸いだが、貴族の間では当然そういう話があったし俺が戻らなければ彼の息子とクリスが結婚させられていたのは間違いない。
そしてピースクラウト侯爵家の現当主アレイスター侯爵はクリスの父親であるオットー大公と仲が悪い。
元々自分がブレイメン公国を継ぐ地位と権勢を誇っていたが性格に難がありオットー大公の父親が危険視したのだ。
つまり俺とクリスが結婚するのはピースクラウト家にとって重要な大公位継承権が遠のく大事件なのだ。
「ハヤト殿、この度はご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます。侯爵様」
「しかし羨ましいですな」
「はい?」
「いや失礼。ハヤト殿はまだお若いのに美しいクリスさまを奥方を娶られるので羨ましい限りですぞ」
「いえいえそんな……」
俺は愛想笑いで返す。
「奥方は大変お美しくて社交会でも話題の的ですぞ。私の愚息もクリスさまに求愛していたのですが残念なことです」
「ははは、恐縮です」
「この度は我が国に気球をもたらしてくれまして感謝しますぞ」
そう言って侯爵が手を握ってくる。
この手の人間は苦手だ。
自分の権力で金と全てを手に入れられると思い込んでいるのだ。
そしてそれを手にする為に手段を選ばない。
いや、選ばせないといったほうが正しいか? だから俺は笑顔で返す。
「いえいえ、俺は気球を作っただけです。それを上手く使ったのはオットー大公とフランツ宰相です」
「ふむ。ハヤト殿は謙虚でいらっしゃる。それにご家族で移住されるとはブレイメン公国の貴族の一人として歓迎いたしますぞ」
そう言って侯爵が手を離した。
俺は笑顔で返す。
この野郎。
俺が家族を連れて来たのはクリスの家を乗っ取ろうしていると思ってやがるな。
ゲスの勘繰りと言ったところか。
自分が家族を政争の道具としか見ていないので他者もそうだと思っているのだろう。
「ではまた後ほど」
「はい、ありがとうございます」
そんなやり取りがあった後にクリスが耳元でささやく。
「すまない。ブレイメン公国の貴族は全員が協力的ではないんだ」
「わかってるよ。でもクリスの家族は俺が守るから」
「……ありがとう」
そう言ってクリスが微笑む。
俺はこの笑顔を守りたい。だからどんな困難も乗り越える覚悟だ。
そしてパーティは続いている。
会場には楽団がいて優雅な音楽を奏でている。
そんな中で貴族達はワインを片手に談笑してきた。
俺とクリスは挨拶に来た貴族達と話をしながら、貴族たちの名前と性格を記憶しておく。
クリスが時折フォローを入れてくれるので助かった。
大別するとクリスの家を支持してくれる貴族が五割。
アレイスター侯爵のように今のブレイメン大公家を消極的に支持している貴族が三割。
両者の争いに関与したくない貴族が二割といったところか。
そしてアレイスター侯爵には娘もいる。
「きっとその娘をフリッツに嫁がせようと陰謀を巡らせているだろう」
「酷い話だな」
「貴族に恋愛結婚など許されないから」
「そういうのはどこの世界でも一緒なんだな」
俺とクリスが結婚できたのも俺が伯爵で気球をもたらした最大の功労者だからだ。
そうでなければ平民でしかも異世界から来た日本人の俺が公女のクリスと結婚できる筈がない。
結婚は家同士の結びつきだ。
だから俺はクリスとの結婚式でブレイメン大公家の後ろ盾を得たのだ。
「まあなんて中世的なんだか」
「中世とはなんだ?」
「おれの暮らしていた日本ではブレイメン公国みたいに色んな貴族が集まっている時代は中世って言うんだよ。これが発展すると絶対君主制っていうブレイメン大公家が全ての貴族を従える時代になる。俺のいた世界ではだけどな」
「ふむ、想像しか出来ないな。ハヤトの住んでいた世界では政略結婚は無いのか?」
「ある事はあるけどそれほど活発じゃないなあ」
「そうなのか。政略結婚が無いのは羨ましいな」
「俺がいた世界では政略結婚なんてまずありえないよ。離婚の自由とか恋愛の自由とか色々あって、みんな結婚したい相手が自由に選べるんだ」
「信じられない世界だな」
クリスが驚きの表情を見せる。
「でも俺はそういう自由な社会が好きかな」
「ハヤトらしいな」
そう言ってクリスが俺の腕をドレスで包まれた胸におしつけて微笑む。
ああ可愛いなあ。こんな美人が俺の嫁さんになるのだから異世界転移したかいがあるというものだ。
「ハヤト。結婚したばかりだが私は嫉妬深い」
「うん?」
「だから側室はあまり持たないでくれると嬉しい」
「ぶっ!?」
いきなり何を言うんだ。
俺はクリス一途だというのに。
「側室なんて持つ気はないよ」
「だがハヤトは伯爵だ。跡継ぎをつくる義務がある。私がハヤトの子供を産めるとはかぎらないだろう?だから何人か側室をもつのは貴族の義務だ」
「貴族も大変だな。でもそうだな。俺はクリス以外と結婚する気は無いし、クリスとの間に子供が生まれなかったらフリッツ君に俺の領地を返上すればいい」
「本気なのか!?」
「本気だ。大体おれはフリッツ君に権力が集中する事を望んでる。ブレイメン大公家が強くなければ他国からブレイメン公国を守れないからな。金銀が豊富で気球なんてものまで持ってる国を他国が放っておくわけがないだろう?必ず内部分裂を仕掛けてくるさ」
そういって俺は先ほどのアレイスター侯爵を見る。
「さっきのアレイスター侯爵みたいな有力貴族を焚きつけて反乱をおこさせて、ブレイメン公国を傀儡にするくらいはやりかねないさ」
「それはありえるな。だがどうするんだ?」
「結婚式が終わったら家族で相談しよう」
そう言って俺はクリスの腰に手を回してキスをした。
周りから拍手されるが気にしない。
結婚指輪をはめたクリスは美しかった。
うん、可愛いなあ俺の嫁さんは。
俺とクリスに若者達が群がってくる。
どうやら主役なのでご挨拶したいようだ。
ああ面倒くさい。
今は愛する嫁とキスして二人の世界に浸りたいというのに邪魔しないで欲しい。
「ハヤト。末永くよろしく頼む」
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そう言って俺とクリスは皆の目の前で再びキスをしたのだった。
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