28 / 84
第五章 帰還
第二十八話 日本の閉塞感
しおりを挟む
第二十八話 日本の閉塞感
俺たちは飯塚教授の家に到着した。
飯塚教授は結構な高給取りでうちの家より一見してわかる大きくて立派な家に住んでいる。
地元の名家で顔役でもある。
大きな倉があるのは元々酒蔵を持っていたからだという。
父さんと母さんと同じく山岳部に所属していたから筋肉質な身体をしていたが今はお腹がたるんでるのが悩みの種だそうだ。
「これは驚いたね」
飯塚教授が俺たちを見て驚く。
俺が家族と別れたくないと悩んでいたのは飯塚教授も知っていたが、まさか異世界へ家族で移住するという選択肢を考えているとは思いもしなかったようだ。
「まさか家族が全員来るとはな」
父さんが家族全員を連れて来た事に飯塚教授は驚いているようだ。
母さんは茜を抱きしめているし茜も母さんに抱き着いていた。
「隼人は異世界フォーチュリアとかいう所に戻りたいらしい。だから俺たち家族に一緒に移住して欲しいって言ってる」
父さんの発言に飯塚教授は困ったなとつぶやく。
飯塚教授は隼人が異世界フォーチュリアに行く事は予想していたが、まさか移住しようと言い出すとは予想外だった。
俺たち家族の愛情がそれほど強固だとは思わなかったのだ。
親離れ子離れ出来ていないと笑われてもいい。
俺たち家族は血で繋がっているのだから。
「お前が言うには日本に戻ってくる事は出来ると聞いたが本当か?」
「本当だ。といいたいが確実とは言えない。だが隼人君が戻って来れたように往復できる可能性は高い。だが何年後に戻れるかはわからん。一か月後か何年後かわからんぞ」
飯塚教授は真剣な顔で父さんを見据える。
父さんは険しい顔をしながら飯塚教授を見つめ返す。
俺もその会話に聞き入っていた。
もし日本に戻る事が出来なかった時の為に家族はどうするか決意してここに来たのだ。
父さんも母さんも茜も飯塚教授の説明に真剣に話を聞いている。
そして俺は家族全員と飯塚教授に異世界フォーチュリアのクリスへの想いを伝える。
それは俺がクリスを愛している事であり、クリスが俺を愛してくれているという事だ。
恥ずかしいなんて言っていられない。
これが人生の分かれ道だ。
「俺の勤めている会社はいつ潰れてもおかしくない」
父さんは建築会社に勤めている。
現場から叩き上げでセメントから鉄筋や配管工事も出来て更に建築士にまでなった凄い人だ。
だが最近は家族の俺から見ても過重労働だった。
休みの日が殆どないのだ。
働いても働いても報われない。
父さんがこれほど会社や社会に不満があるとは思わなかった。
「それに給料も安くてやりがいのある仕事も無い。いつまでこの不況が続くかわからない。だから会社を辞めて再就職先を探そうと考えていた。再就職先が異世界だというのも悪くない」
日本はいつまでこの不況が続くかわからない。
父さんは働き盛りの四十代。
景気が回復した頃には五十代を超えているかもしれない。
その頃には体力の落ちた自分と後から続く若輩にこき使われるのが目に見えている。
俺が思っているより閉塞感が強かったようだった。
「私の会社も似たような物よ。いつまでたっても給料は上がらないし、新人と同じ待遇だから転職したいけどお父さんの収入だけじゃ大変だから辞められないのよね」
母さんも経理や事務まで仕事をさせられて苦労している。
営業職も仕事を取って来れないから会社も人件費を浮かそうと焦っている。
真っ先に首を切られるのは事務職だ。
遠からず人員整理という名前の首切りにあうと母さんは思っている。
だが収入が途絶えるのは困るから一日でも長く会社で働きたいと思っている。
二人とも現状を変えたいと思っているがどうしようもないのだ。
いつまで経ってもどれだけ働いても明るい未来が見えない。
「はいはい。わたしも就職先があるかわかりません。あっても地元じゃなくて東京に行かないといけないんだよね。それにお父さんとお母さんと離れ離れに暮らすなんて嫌だから」
茜も大学卒業後は東京に行くしかないと思っていた。
理系だが全然関係がない職場しかないだろう。
つまり三人とも現在の日本に希望がもて無いのだ。
「おじいちゃんとおばあちゃんと永遠に別れる訳じゃないなら悪くは無いかもな」
三人とも乗り気なのは俺と離れたくないという気持ちもあるが、はっきりいってやってられないのだ。
遠からず満州やブラジルに移民せざるを得なかったかつての日本のような状態になるかもしれない。
いや既に日本を捨てて中国やアメリカへ渡る日本人は少なくないのだ。
そしてますます人材不足で干上がっていく。
四十代は子供が巣立っていく世代だから一番お金がかかるし残りの人生で稼げる金額もわかる世代。
やり直しが出来る最後の世代だと思う。
「フォーチュリアって所は隼人が言うにはあまり発展していないんだろ?俺は橋や道路や建物が作りたいし、と母さんの事務や経理の知識が役立つならいいかもな」
「わたしもさ。もう科学の大幅な発展は無いって思ってるんだよね。大体完成されちゃったというかさ。前の世代の遺産で食いつないでる日本は駄目だよ」
日本の理系は予算を削られる一方だ。
技術大国日本は過去の話になりつつある。
茜も将来はアメリカに移住するしかないって言っていた。
要約するとみんな日本に期待が持てないのだ。
父さんは家族を養えるし、母さんと茜も家族で生活できるならいいという結論になった。
飯塚教授はそんなみんなの意見に頷く。
異世界フォーチュリアへの移住は可能だという事だ。
そして俺はクリスを愛している気持ちに変わりはないという事だ。
だがその想いが叶うかどうかはわからない。
もし日本に戻る事が出来なかった場合の覚悟だけはしておいてくれと飯塚教授は言う。
俺もそれは考えていたから頷いた。
俺たちは飯塚教授の家に到着した。
飯塚教授は結構な高給取りでうちの家より一見してわかる大きくて立派な家に住んでいる。
地元の名家で顔役でもある。
大きな倉があるのは元々酒蔵を持っていたからだという。
父さんと母さんと同じく山岳部に所属していたから筋肉質な身体をしていたが今はお腹がたるんでるのが悩みの種だそうだ。
「これは驚いたね」
飯塚教授が俺たちを見て驚く。
俺が家族と別れたくないと悩んでいたのは飯塚教授も知っていたが、まさか異世界へ家族で移住するという選択肢を考えているとは思いもしなかったようだ。
「まさか家族が全員来るとはな」
父さんが家族全員を連れて来た事に飯塚教授は驚いているようだ。
母さんは茜を抱きしめているし茜も母さんに抱き着いていた。
「隼人は異世界フォーチュリアとかいう所に戻りたいらしい。だから俺たち家族に一緒に移住して欲しいって言ってる」
父さんの発言に飯塚教授は困ったなとつぶやく。
飯塚教授は隼人が異世界フォーチュリアに行く事は予想していたが、まさか移住しようと言い出すとは予想外だった。
俺たち家族の愛情がそれほど強固だとは思わなかったのだ。
親離れ子離れ出来ていないと笑われてもいい。
俺たち家族は血で繋がっているのだから。
「お前が言うには日本に戻ってくる事は出来ると聞いたが本当か?」
「本当だ。といいたいが確実とは言えない。だが隼人君が戻って来れたように往復できる可能性は高い。だが何年後に戻れるかはわからん。一か月後か何年後かわからんぞ」
飯塚教授は真剣な顔で父さんを見据える。
父さんは険しい顔をしながら飯塚教授を見つめ返す。
俺もその会話に聞き入っていた。
もし日本に戻る事が出来なかった時の為に家族はどうするか決意してここに来たのだ。
父さんも母さんも茜も飯塚教授の説明に真剣に話を聞いている。
そして俺は家族全員と飯塚教授に異世界フォーチュリアのクリスへの想いを伝える。
それは俺がクリスを愛している事であり、クリスが俺を愛してくれているという事だ。
恥ずかしいなんて言っていられない。
これが人生の分かれ道だ。
「俺の勤めている会社はいつ潰れてもおかしくない」
父さんは建築会社に勤めている。
現場から叩き上げでセメントから鉄筋や配管工事も出来て更に建築士にまでなった凄い人だ。
だが最近は家族の俺から見ても過重労働だった。
休みの日が殆どないのだ。
働いても働いても報われない。
父さんがこれほど会社や社会に不満があるとは思わなかった。
「それに給料も安くてやりがいのある仕事も無い。いつまでこの不況が続くかわからない。だから会社を辞めて再就職先を探そうと考えていた。再就職先が異世界だというのも悪くない」
日本はいつまでこの不況が続くかわからない。
父さんは働き盛りの四十代。
景気が回復した頃には五十代を超えているかもしれない。
その頃には体力の落ちた自分と後から続く若輩にこき使われるのが目に見えている。
俺が思っているより閉塞感が強かったようだった。
「私の会社も似たような物よ。いつまでたっても給料は上がらないし、新人と同じ待遇だから転職したいけどお父さんの収入だけじゃ大変だから辞められないのよね」
母さんも経理や事務まで仕事をさせられて苦労している。
営業職も仕事を取って来れないから会社も人件費を浮かそうと焦っている。
真っ先に首を切られるのは事務職だ。
遠からず人員整理という名前の首切りにあうと母さんは思っている。
だが収入が途絶えるのは困るから一日でも長く会社で働きたいと思っている。
二人とも現状を変えたいと思っているがどうしようもないのだ。
いつまで経ってもどれだけ働いても明るい未来が見えない。
「はいはい。わたしも就職先があるかわかりません。あっても地元じゃなくて東京に行かないといけないんだよね。それにお父さんとお母さんと離れ離れに暮らすなんて嫌だから」
茜も大学卒業後は東京に行くしかないと思っていた。
理系だが全然関係がない職場しかないだろう。
つまり三人とも現在の日本に希望がもて無いのだ。
「おじいちゃんとおばあちゃんと永遠に別れる訳じゃないなら悪くは無いかもな」
三人とも乗り気なのは俺と離れたくないという気持ちもあるが、はっきりいってやってられないのだ。
遠からず満州やブラジルに移民せざるを得なかったかつての日本のような状態になるかもしれない。
いや既に日本を捨てて中国やアメリカへ渡る日本人は少なくないのだ。
そしてますます人材不足で干上がっていく。
四十代は子供が巣立っていく世代だから一番お金がかかるし残りの人生で稼げる金額もわかる世代。
やり直しが出来る最後の世代だと思う。
「フォーチュリアって所は隼人が言うにはあまり発展していないんだろ?俺は橋や道路や建物が作りたいし、と母さんの事務や経理の知識が役立つならいいかもな」
「わたしもさ。もう科学の大幅な発展は無いって思ってるんだよね。大体完成されちゃったというかさ。前の世代の遺産で食いつないでる日本は駄目だよ」
日本の理系は予算を削られる一方だ。
技術大国日本は過去の話になりつつある。
茜も将来はアメリカに移住するしかないって言っていた。
要約するとみんな日本に期待が持てないのだ。
父さんは家族を養えるし、母さんと茜も家族で生活できるならいいという結論になった。
飯塚教授はそんなみんなの意見に頷く。
異世界フォーチュリアへの移住は可能だという事だ。
そして俺はクリスを愛している気持ちに変わりはないという事だ。
だがその想いが叶うかどうかはわからない。
もし日本に戻る事が出来なかった場合の覚悟だけはしておいてくれと飯塚教授は言う。
俺もそれは考えていたから頷いた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~
ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。
城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。
速人は気づく。
この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ!
この世界の攻略法を俺は知っている!
そして自分のステータスを見て気づく。
そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ!
こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。
一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。
そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。
順調に強くなっていく中速人は気づく。
俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。
更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。
強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
カクヨムとアルファポリス同時掲載。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる