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第五章 帰還
第二十八話 日本の閉塞感
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第二十八話 日本の閉塞感
俺たちは飯塚教授の家に到着した。
飯塚教授は結構な高給取りでうちの家より一見してわかる大きくて立派な家に住んでいる。
地元の名家で顔役でもある。
大きな倉があるのは元々酒蔵を持っていたからだという。
父さんと母さんと同じく山岳部に所属していたから筋肉質な身体をしていたが今はお腹がたるんでるのが悩みの種だそうだ。
「これは驚いたね」
飯塚教授が俺たちを見て驚く。
俺が家族と別れたくないと悩んでいたのは飯塚教授も知っていたが、まさか異世界へ家族で移住するという選択肢を考えているとは思いもしなかったようだ。
「まさか家族が全員来るとはな」
父さんが家族全員を連れて来た事に飯塚教授は驚いているようだ。
母さんは茜を抱きしめているし茜も母さんに抱き着いていた。
「隼人は異世界フォーチュリアとかいう所に戻りたいらしい。だから俺たち家族に一緒に移住して欲しいって言ってる」
父さんの発言に飯塚教授は困ったなとつぶやく。
飯塚教授は隼人が異世界フォーチュリアに行く事は予想していたが、まさか移住しようと言い出すとは予想外だった。
俺たち家族の愛情がそれほど強固だとは思わなかったのだ。
親離れ子離れ出来ていないと笑われてもいい。
俺たち家族は血で繋がっているのだから。
「お前が言うには日本に戻ってくる事は出来ると聞いたが本当か?」
「本当だ。といいたいが確実とは言えない。だが隼人君が戻って来れたように往復できる可能性は高い。だが何年後に戻れるかはわからん。一か月後か何年後かわからんぞ」
飯塚教授は真剣な顔で父さんを見据える。
父さんは険しい顔をしながら飯塚教授を見つめ返す。
俺もその会話に聞き入っていた。
もし日本に戻る事が出来なかった時の為に家族はどうするか決意してここに来たのだ。
父さんも母さんも茜も飯塚教授の説明に真剣に話を聞いている。
そして俺は家族全員と飯塚教授に異世界フォーチュリアのクリスへの想いを伝える。
それは俺がクリスを愛している事であり、クリスが俺を愛してくれているという事だ。
恥ずかしいなんて言っていられない。
これが人生の分かれ道だ。
「俺の勤めている会社はいつ潰れてもおかしくない」
父さんは建築会社に勤めている。
現場から叩き上げでセメントから鉄筋や配管工事も出来て更に建築士にまでなった凄い人だ。
だが最近は家族の俺から見ても過重労働だった。
休みの日が殆どないのだ。
働いても働いても報われない。
父さんがこれほど会社や社会に不満があるとは思わなかった。
「それに給料も安くてやりがいのある仕事も無い。いつまでこの不況が続くかわからない。だから会社を辞めて再就職先を探そうと考えていた。再就職先が異世界だというのも悪くない」
日本はいつまでこの不況が続くかわからない。
父さんは働き盛りの四十代。
景気が回復した頃には五十代を超えているかもしれない。
その頃には体力の落ちた自分と後から続く若輩にこき使われるのが目に見えている。
俺が思っているより閉塞感が強かったようだった。
「私の会社も似たような物よ。いつまでたっても給料は上がらないし、新人と同じ待遇だから転職したいけどお父さんの収入だけじゃ大変だから辞められないのよね」
母さんも経理や事務まで仕事をさせられて苦労している。
営業職も仕事を取って来れないから会社も人件費を浮かそうと焦っている。
真っ先に首を切られるのは事務職だ。
遠からず人員整理という名前の首切りにあうと母さんは思っている。
だが収入が途絶えるのは困るから一日でも長く会社で働きたいと思っている。
二人とも現状を変えたいと思っているがどうしようもないのだ。
いつまで経ってもどれだけ働いても明るい未来が見えない。
「はいはい。わたしも就職先があるかわかりません。あっても地元じゃなくて東京に行かないといけないんだよね。それにお父さんとお母さんと離れ離れに暮らすなんて嫌だから」
茜も大学卒業後は東京に行くしかないと思っていた。
理系だが全然関係がない職場しかないだろう。
つまり三人とも現在の日本に希望がもて無いのだ。
「おじいちゃんとおばあちゃんと永遠に別れる訳じゃないなら悪くは無いかもな」
三人とも乗り気なのは俺と離れたくないという気持ちもあるが、はっきりいってやってられないのだ。
遠からず満州やブラジルに移民せざるを得なかったかつての日本のような状態になるかもしれない。
いや既に日本を捨てて中国やアメリカへ渡る日本人は少なくないのだ。
そしてますます人材不足で干上がっていく。
四十代は子供が巣立っていく世代だから一番お金がかかるし残りの人生で稼げる金額もわかる世代。
やり直しが出来る最後の世代だと思う。
「フォーチュリアって所は隼人が言うにはあまり発展していないんだろ?俺は橋や道路や建物が作りたいし、と母さんの事務や経理の知識が役立つならいいかもな」
「わたしもさ。もう科学の大幅な発展は無いって思ってるんだよね。大体完成されちゃったというかさ。前の世代の遺産で食いつないでる日本は駄目だよ」
日本の理系は予算を削られる一方だ。
技術大国日本は過去の話になりつつある。
茜も将来はアメリカに移住するしかないって言っていた。
要約するとみんな日本に期待が持てないのだ。
父さんは家族を養えるし、母さんと茜も家族で生活できるならいいという結論になった。
飯塚教授はそんなみんなの意見に頷く。
異世界フォーチュリアへの移住は可能だという事だ。
そして俺はクリスを愛している気持ちに変わりはないという事だ。
だがその想いが叶うかどうかはわからない。
もし日本に戻る事が出来なかった場合の覚悟だけはしておいてくれと飯塚教授は言う。
俺もそれは考えていたから頷いた。
俺たちは飯塚教授の家に到着した。
飯塚教授は結構な高給取りでうちの家より一見してわかる大きくて立派な家に住んでいる。
地元の名家で顔役でもある。
大きな倉があるのは元々酒蔵を持っていたからだという。
父さんと母さんと同じく山岳部に所属していたから筋肉質な身体をしていたが今はお腹がたるんでるのが悩みの種だそうだ。
「これは驚いたね」
飯塚教授が俺たちを見て驚く。
俺が家族と別れたくないと悩んでいたのは飯塚教授も知っていたが、まさか異世界へ家族で移住するという選択肢を考えているとは思いもしなかったようだ。
「まさか家族が全員来るとはな」
父さんが家族全員を連れて来た事に飯塚教授は驚いているようだ。
母さんは茜を抱きしめているし茜も母さんに抱き着いていた。
「隼人は異世界フォーチュリアとかいう所に戻りたいらしい。だから俺たち家族に一緒に移住して欲しいって言ってる」
父さんの発言に飯塚教授は困ったなとつぶやく。
飯塚教授は隼人が異世界フォーチュリアに行く事は予想していたが、まさか移住しようと言い出すとは予想外だった。
俺たち家族の愛情がそれほど強固だとは思わなかったのだ。
親離れ子離れ出来ていないと笑われてもいい。
俺たち家族は血で繋がっているのだから。
「お前が言うには日本に戻ってくる事は出来ると聞いたが本当か?」
「本当だ。といいたいが確実とは言えない。だが隼人君が戻って来れたように往復できる可能性は高い。だが何年後に戻れるかはわからん。一か月後か何年後かわからんぞ」
飯塚教授は真剣な顔で父さんを見据える。
父さんは険しい顔をしながら飯塚教授を見つめ返す。
俺もその会話に聞き入っていた。
もし日本に戻る事が出来なかった時の為に家族はどうするか決意してここに来たのだ。
父さんも母さんも茜も飯塚教授の説明に真剣に話を聞いている。
そして俺は家族全員と飯塚教授に異世界フォーチュリアのクリスへの想いを伝える。
それは俺がクリスを愛している事であり、クリスが俺を愛してくれているという事だ。
恥ずかしいなんて言っていられない。
これが人生の分かれ道だ。
「俺の勤めている会社はいつ潰れてもおかしくない」
父さんは建築会社に勤めている。
現場から叩き上げでセメントから鉄筋や配管工事も出来て更に建築士にまでなった凄い人だ。
だが最近は家族の俺から見ても過重労働だった。
休みの日が殆どないのだ。
働いても働いても報われない。
父さんがこれほど会社や社会に不満があるとは思わなかった。
「それに給料も安くてやりがいのある仕事も無い。いつまでこの不況が続くかわからない。だから会社を辞めて再就職先を探そうと考えていた。再就職先が異世界だというのも悪くない」
日本はいつまでこの不況が続くかわからない。
父さんは働き盛りの四十代。
景気が回復した頃には五十代を超えているかもしれない。
その頃には体力の落ちた自分と後から続く若輩にこき使われるのが目に見えている。
俺が思っているより閉塞感が強かったようだった。
「私の会社も似たような物よ。いつまでたっても給料は上がらないし、新人と同じ待遇だから転職したいけどお父さんの収入だけじゃ大変だから辞められないのよね」
母さんも経理や事務まで仕事をさせられて苦労している。
営業職も仕事を取って来れないから会社も人件費を浮かそうと焦っている。
真っ先に首を切られるのは事務職だ。
遠からず人員整理という名前の首切りにあうと母さんは思っている。
だが収入が途絶えるのは困るから一日でも長く会社で働きたいと思っている。
二人とも現状を変えたいと思っているがどうしようもないのだ。
いつまで経ってもどれだけ働いても明るい未来が見えない。
「はいはい。わたしも就職先があるかわかりません。あっても地元じゃなくて東京に行かないといけないんだよね。それにお父さんとお母さんと離れ離れに暮らすなんて嫌だから」
茜も大学卒業後は東京に行くしかないと思っていた。
理系だが全然関係がない職場しかないだろう。
つまり三人とも現在の日本に希望がもて無いのだ。
「おじいちゃんとおばあちゃんと永遠に別れる訳じゃないなら悪くは無いかもな」
三人とも乗り気なのは俺と離れたくないという気持ちもあるが、はっきりいってやってられないのだ。
遠からず満州やブラジルに移民せざるを得なかったかつての日本のような状態になるかもしれない。
いや既に日本を捨てて中国やアメリカへ渡る日本人は少なくないのだ。
そしてますます人材不足で干上がっていく。
四十代は子供が巣立っていく世代だから一番お金がかかるし残りの人生で稼げる金額もわかる世代。
やり直しが出来る最後の世代だと思う。
「フォーチュリアって所は隼人が言うにはあまり発展していないんだろ?俺は橋や道路や建物が作りたいし、と母さんの事務や経理の知識が役立つならいいかもな」
「わたしもさ。もう科学の大幅な発展は無いって思ってるんだよね。大体完成されちゃったというかさ。前の世代の遺産で食いつないでる日本は駄目だよ」
日本の理系は予算を削られる一方だ。
技術大国日本は過去の話になりつつある。
茜も将来はアメリカに移住するしかないって言っていた。
要約するとみんな日本に期待が持てないのだ。
父さんは家族を養えるし、母さんと茜も家族で生活できるならいいという結論になった。
飯塚教授はそんなみんなの意見に頷く。
異世界フォーチュリアへの移住は可能だという事だ。
そして俺はクリスを愛している気持ちに変わりはないという事だ。
だがその想いが叶うかどうかはわからない。
もし日本に戻る事が出来なかった場合の覚悟だけはしておいてくれと飯塚教授は言う。
俺もそれは考えていたから頷いた。
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