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第五章 帰還
第二十四話 帰還
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第二十四話 帰還
「ここは日本なのか?」
草原に大の字になって寝転がっている。
身体に感じる芝生の感触と匂い。
この匂いはブレイメン公国には無い植物の匂い。
観光地の気球乗りとして何度も嗅いだ芝生に包まれていると俺は無性に涙が出てくる。
俺は日本に帰って来たんだ。
「おおい大丈夫か~~?」
すぐ近くから仲間の気球乗りの声が聞こえる。
この声は浜田のものだ。
俺の所属する『ナガノ・バルーン・フェスティバル』という観光事業を手掛ける同僚で浜田が駆け寄ってくる。
ナガノ・バルーン・フェスティバルは長野県の俺の実家から車で一時間の場所にある施設で俺は車で通っていた。
「水無瀬じゃないか!!お前生きてたのか!?」
気球から這い出してきた俺を出迎えたのは浜田の驚いた声だ。
浜田のどこか抜けた声に俺は涙が止まらなかった。
俺はやはり俺は遭難者扱いだったらしい。
家に帰る前に近くのロッジで浜田が煎れてくれたコーヒーを飲んでいると長野県警から警察官が慌ててやってきた。
俺の知り合いの警察官で年齢は55歳。
名前は広橋さん。
俺の家の近くの交番勤務で子供のころはよく遊んでくれた。
「水無瀬くんみんな心配していたんだぞ。今までどこにいたんだ」
広橋さんが当たり前の疑問を投げかけてくる。
当たり前だ。
今の時間を聞いてみると俺が異世界フォーチュリアに飛ばされてから八か月経っている。
てっきり山奥に飛ばされて遭難死したと思われていた。
「いやその異世界フォーチュリアって所に飛ばされて帰ってきたんです」
「………水無瀬君。冗談を言っている場合じゃないぞ。ご家族も友達もみんな心配していたんだ。君を捜索する為に今も50人からの山岳ボランティアが君を探している。おっと山岳ボランティアに連絡しないとな」
山岳ボランティアとは山で遭難した人を捜索してくれる人で土地に住んでる山岳の知識と経験が豊富な人たちだ。
警察官も人手が足りない事があって捜索者や山道の整備とかを委託している場合もあれば文字通りボランティアで参加してくれている場合もある。
山登りをする人たちが安全に登山できるように活動している方々で頭が上がらない。
「ご家族には連絡したから」
そう広橋さんが言った途端ロッジの扉が開いて家族が飛び込んできた。
父親の浩司と母親の妙子。そして妹の育代だ。
父が俺を見て涙を流して抱き着いてくる。
「馬鹿野郎!!いままでどこにいたんだ!!みんな心配したんだぞ!!」
父の尖ったあご髭が頬に当たる。
子供のころから慣れ親しんだあご髭だ。
父は土木作業員で家の近くの建設会社で働いている。
筋骨隆々という言葉通りの立派な体格で、いまだに俺は父親に腕相撲で勝った事がない。
母親の妙子は四十代だというのにまだ若々しくどう見ても三十代にしか見えない。
若いころは父親と一緒に山岳部に所属していたから中年特有の身体に贅肉がついているという事がなく、それが若々しく見える要因だろう。
長年事務員をしているベテラン事務員だ。
妹の茜は俺の大学受験予定の後輩で十八歳。
サイドテールがよく似合う可愛い俺の自慢の妹だ。
フリッツ君は茜と同じくらいの年齢だったなと思う。
医学部を目指していて成績はいい。
うちの大学は教授が揃っているので農学とかの知識も学んでいる。
将来の夢は医学の知識を生かして発展途上国の医療を行う国連の医師団に入る事だ。
なかなかの変人だと思う。
「本当に心配したのよ。お父さんと一緒に山登りをしていたらあんたが居なくなったって聞いてどれだけ心配したか」
母が涙をハンカチで拭くが涙は一向に止まる気配はない。
妹の茜も泣いている。
「お兄ちゃん無事でよかった」
妹は俺が行方不明になった時から塞ぎこんでしまっていたらしい。
兄想いの妹なのだ。
俺の家族はみんないい人たちだ。
「ごめんよ心配かけて」
俺は両親や妹と抱きしめあい再会を喜んだ。
そこに警察から連絡を受けた捜索隊の人たちがやってきて家族同様に喜んでくれた。
そのあと浜田達友人たちと捜索隊の人たちと勤務時間を終えた広橋さんが俺の無事を祝してロッジ近くにある川でバーベキューパーティを開いてくれて、俺は改めて友達や同僚にお礼を言って回った。
みんな心配していたと口々で言ってくれたのが嬉しい。
そしてなにより両親と一緒に家で寝られるのが嬉しかった。
翌日日本に戻ってきた実感が沸いて、テレビのニュースを見る余裕が出来たので俺は驚いた。
俺が行方不明になったというニュースはテレビやネットを通じて一年も前に報じられていたからだ。
心配してくれた大学教授の先生たちにも挨拶にいかないとな。
それに聞きたい事があるし。
久しぶりの実家に戻って畳の上にあぐらをかいて座ると日本に戻ってきたという実感がわく。
異世界フォーチュリアでは床に座るなんてありえない行動で勿論畳なんかない。
当たり前のように家族会議が行われた。
お茶請けは俺の好きなくるみの入ってゆべしというお菓子だ。
ゆべしは小麦粉と砂糖と醤油を混ぜた生地にくるみを入れて蒸したお菓子。
長野県のお土産として有名なお菓子の一つでもある。
「つまり異世界フォーチュリアという所へ行っていたという事だな?」
父親の浩司がそう言って俺の話を聞いてくれる。
頭ごなしに否定するのではなくちゃんと聞いてくれるいい父親だ。
まあすぐに理解できるとは思わない。
「病院の精密検査でも特に異常は見られないし服も綺麗だったから変だとは思ってるけどね」
母の妙子はそう言って俺が着ていたシャツを手に確認していた。
山の中にいたらシャツはボロボロだし骨になっていてもおかしくない。
遭難者の遺体に野犬の歯形がついて発見されるという事はよくある。
それに俺が痩せてたりしていないのにも気が付いたのだろう。
山の中で八か月もいたのならこんなに健康な筈はない。
母は半信半疑だ。
「お兄ちゃん異世界に行ったって事は異世界転移ってやつだね。いいなあ、あたしも行ってみたい」
一番理解があるのが妹の茜だ。
いや我が最愛の妹よ。
俺が言うのも変だがそんなに簡単に信じていいのか?
「だって異世界転移なんて小説やアニメの世界の話だって思ってたからね。お母さんが言うように山の中にいたって言った方が不自然だよ」
そう言って妹はいくつかの異世界アニメを持ってきた。
父も母もそういう知識がないからだ。
こうしてしばらくゆべしを食べながら家族で異世界アニメの鑑賞会が始まった。
「ここは日本なのか?」
草原に大の字になって寝転がっている。
身体に感じる芝生の感触と匂い。
この匂いはブレイメン公国には無い植物の匂い。
観光地の気球乗りとして何度も嗅いだ芝生に包まれていると俺は無性に涙が出てくる。
俺は日本に帰って来たんだ。
「おおい大丈夫か~~?」
すぐ近くから仲間の気球乗りの声が聞こえる。
この声は浜田のものだ。
俺の所属する『ナガノ・バルーン・フェスティバル』という観光事業を手掛ける同僚で浜田が駆け寄ってくる。
ナガノ・バルーン・フェスティバルは長野県の俺の実家から車で一時間の場所にある施設で俺は車で通っていた。
「水無瀬じゃないか!!お前生きてたのか!?」
気球から這い出してきた俺を出迎えたのは浜田の驚いた声だ。
浜田のどこか抜けた声に俺は涙が止まらなかった。
俺はやはり俺は遭難者扱いだったらしい。
家に帰る前に近くのロッジで浜田が煎れてくれたコーヒーを飲んでいると長野県警から警察官が慌ててやってきた。
俺の知り合いの警察官で年齢は55歳。
名前は広橋さん。
俺の家の近くの交番勤務で子供のころはよく遊んでくれた。
「水無瀬くんみんな心配していたんだぞ。今までどこにいたんだ」
広橋さんが当たり前の疑問を投げかけてくる。
当たり前だ。
今の時間を聞いてみると俺が異世界フォーチュリアに飛ばされてから八か月経っている。
てっきり山奥に飛ばされて遭難死したと思われていた。
「いやその異世界フォーチュリアって所に飛ばされて帰ってきたんです」
「………水無瀬君。冗談を言っている場合じゃないぞ。ご家族も友達もみんな心配していたんだ。君を捜索する為に今も50人からの山岳ボランティアが君を探している。おっと山岳ボランティアに連絡しないとな」
山岳ボランティアとは山で遭難した人を捜索してくれる人で土地に住んでる山岳の知識と経験が豊富な人たちだ。
警察官も人手が足りない事があって捜索者や山道の整備とかを委託している場合もあれば文字通りボランティアで参加してくれている場合もある。
山登りをする人たちが安全に登山できるように活動している方々で頭が上がらない。
「ご家族には連絡したから」
そう広橋さんが言った途端ロッジの扉が開いて家族が飛び込んできた。
父親の浩司と母親の妙子。そして妹の育代だ。
父が俺を見て涙を流して抱き着いてくる。
「馬鹿野郎!!いままでどこにいたんだ!!みんな心配したんだぞ!!」
父の尖ったあご髭が頬に当たる。
子供のころから慣れ親しんだあご髭だ。
父は土木作業員で家の近くの建設会社で働いている。
筋骨隆々という言葉通りの立派な体格で、いまだに俺は父親に腕相撲で勝った事がない。
母親の妙子は四十代だというのにまだ若々しくどう見ても三十代にしか見えない。
若いころは父親と一緒に山岳部に所属していたから中年特有の身体に贅肉がついているという事がなく、それが若々しく見える要因だろう。
長年事務員をしているベテラン事務員だ。
妹の茜は俺の大学受験予定の後輩で十八歳。
サイドテールがよく似合う可愛い俺の自慢の妹だ。
フリッツ君は茜と同じくらいの年齢だったなと思う。
医学部を目指していて成績はいい。
うちの大学は教授が揃っているので農学とかの知識も学んでいる。
将来の夢は医学の知識を生かして発展途上国の医療を行う国連の医師団に入る事だ。
なかなかの変人だと思う。
「本当に心配したのよ。お父さんと一緒に山登りをしていたらあんたが居なくなったって聞いてどれだけ心配したか」
母が涙をハンカチで拭くが涙は一向に止まる気配はない。
妹の茜も泣いている。
「お兄ちゃん無事でよかった」
妹は俺が行方不明になった時から塞ぎこんでしまっていたらしい。
兄想いの妹なのだ。
俺の家族はみんないい人たちだ。
「ごめんよ心配かけて」
俺は両親や妹と抱きしめあい再会を喜んだ。
そこに警察から連絡を受けた捜索隊の人たちがやってきて家族同様に喜んでくれた。
そのあと浜田達友人たちと捜索隊の人たちと勤務時間を終えた広橋さんが俺の無事を祝してロッジ近くにある川でバーベキューパーティを開いてくれて、俺は改めて友達や同僚にお礼を言って回った。
みんな心配していたと口々で言ってくれたのが嬉しい。
そしてなにより両親と一緒に家で寝られるのが嬉しかった。
翌日日本に戻ってきた実感が沸いて、テレビのニュースを見る余裕が出来たので俺は驚いた。
俺が行方不明になったというニュースはテレビやネットを通じて一年も前に報じられていたからだ。
心配してくれた大学教授の先生たちにも挨拶にいかないとな。
それに聞きたい事があるし。
久しぶりの実家に戻って畳の上にあぐらをかいて座ると日本に戻ってきたという実感がわく。
異世界フォーチュリアでは床に座るなんてありえない行動で勿論畳なんかない。
当たり前のように家族会議が行われた。
お茶請けは俺の好きなくるみの入ってゆべしというお菓子だ。
ゆべしは小麦粉と砂糖と醤油を混ぜた生地にくるみを入れて蒸したお菓子。
長野県のお土産として有名なお菓子の一つでもある。
「つまり異世界フォーチュリアという所へ行っていたという事だな?」
父親の浩司がそう言って俺の話を聞いてくれる。
頭ごなしに否定するのではなくちゃんと聞いてくれるいい父親だ。
まあすぐに理解できるとは思わない。
「病院の精密検査でも特に異常は見られないし服も綺麗だったから変だとは思ってるけどね」
母の妙子はそう言って俺が着ていたシャツを手に確認していた。
山の中にいたらシャツはボロボロだし骨になっていてもおかしくない。
遭難者の遺体に野犬の歯形がついて発見されるという事はよくある。
それに俺が痩せてたりしていないのにも気が付いたのだろう。
山の中で八か月もいたのならこんなに健康な筈はない。
母は半信半疑だ。
「お兄ちゃん異世界に行ったって事は異世界転移ってやつだね。いいなあ、あたしも行ってみたい」
一番理解があるのが妹の茜だ。
いや我が最愛の妹よ。
俺が言うのも変だがそんなに簡単に信じていいのか?
「だって異世界転移なんて小説やアニメの世界の話だって思ってたからね。お母さんが言うように山の中にいたって言った方が不自然だよ」
そう言って妹はいくつかの異世界アニメを持ってきた。
父も母もそういう知識がないからだ。
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