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第四章 ミナセ伯爵誕生

第十七話 ミナセ伯爵領

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 第十七話 ミナセ伯爵領
 
 俺には伯爵の爵位と領地が与えられた。
 ミナセ伯爵というと完全に日本の貴族の名前だ。
 日本で爵位というのは明治維新で功績をあげた軍人や大名に与えられるもので伯爵ともなれば20万石の大名クラスになる。
 具体的に言うと滋賀県の大名だった井伊家くらい。
 そんな俺が貰った領地は首都チュロスの近くにある人口六千人の土地で最大の街はクナイ。
 クナイは人口八百人なのでチュロスの一万人に比べれば雲泥の差がある。
 利点は木材が豊富で近くの鉱山から銀が出ることだ。
 ブレイメン公国では鉱山は全て公国管理だから、うちの銀山から算出される銀も殆どが公国の国庫に納められる。
 それでも莫大な利益が手に入る。
 
 「領主さまかあ」
 
 俺はミナセ伯爵領にある邸のバルコニーでくつろいでいた。
 ブレイメン公国は山自体が防衛拠点なので居心地が悪い城より邸に住む貴族が多い。
 城ってジメジメしてるし暗いし空気は澱んでる。
 そんな所に住んでいたら気がめいってしまうだろう。
 
 「どうしたミナセ伯爵殿。不満なのか?」
 
 俺の隣でバルコニーに佇むクリスが笑いながらいう。
 ちなみにクリスは大公の娘なので大公女殿下だ。
 つまりクリスは俺より爵位が上になる。
 今更だが、ため口で話していい存在じゃない。
 
 「いや不満じゃないよ。ただ貴族って大変そうだなと思ってね。それにそのミナセ伯爵殿ってやめてくれよ。ここに来てから伯爵様って言われ続けてうんざりしてるんだ」
 
 「そうか?それなら今まで通りハヤトと呼ぶぞ」
 
 クリスはそう言うと俺の横に座った。
 俺はクリスの綺麗な赤髪が風になびいているのを見てドキッとする。
 そして少し気恥ずかしくなって話題を変えた。
 俺がこの世界に来てからもう二か月になる。
 そんな長いようで短い時間の間に俺とクリスは随分仲良くなったと思う。
 いや仲良すぎだろうってくらい仲がいい。
 多分ブレイメン公国で大公一家以外でクリスと一番仲がいいと思う。
 
 「それでハヤトはここの統治を任されたのだがどうするつもりだ?」

 「それなら決めている。幸い銀山があるからその資金で大学を作って学問の都にするつもりだ」
 
 「普通は鉱山や材木に手を出すと思うのだがな」

 「そっちも勿論やるさ。材木は紙にして大学で使うし余ったらチュロスで売る。それで大学を作る」
 
 大学は来月までに建築設計が終わり来年四月には開校できる。
 ブレイメン公国は識字率が低いからまずは文字の読み書きを学ばせる所からだ。
 国語、算数、理科、社会と基礎的な学問を教えるつもりだ。
 そしていずれは大学に専門の学部を作りたい。
 例えば医学や法学や土木学などだ。
 この世界では医療技術はあまり発展していない。
 怪我や病気の治療には薬草を使うか神頼みしかないのが現状だ。
 
 「俺はベルヒス鉱山で沢山の人を看取った。医学や土木学が発展したら鉱山での犠牲は少なくなるはずだ」
 
 「学生はどうするんだ?貴族の子弟はここまで来て勉強などしないぞ」
 
 クリスが当然の疑問を口にする。
 ブレイメン公国では教育は貴族の特権でその権利を侵害されたくないだろう。
 だが俺はブレイメン公国の未来の為に教育は必要な事だと考えている。
 だからここは押し通すしかない。
 
 「気球を使って全国に布告してもらうんだ。村々で記憶力や理解力の高い学ぶ意思のある子供を募集する」
 
 「だがこの街に来る旅費や学費や生活費はどうするんだ?」
 
 「全額俺が負担する」
 
 「本気か!?」
 
 俺はクリスに向き直って真剣に話す。
 その真剣さにクリスも姿勢を正して俺の目を見る。
 そして俺は自分の考えを全て話す。
 
 「足りない分は公国からの援助をお願いするが基本は銀山と紙の収益でなんとかするさ。ここの卒業生には戻った村で読み書きを教える教師になって貰うし、勉強が続けたければ研究員として大学で雇用してもいい」

 「だがそれではハヤトの負担が大きすぎる。それにそこまでする理由がわからない」
 
 「理由か?それは簡単だよ。俺はブレイメン公国をもっと豊かにしたいんだ。その為に教育は欠かせない」
 
 俺はずっと日本が先進国である理由を考えていた。
 豊かな地下資源、特に石油が無く資源を他国から輸入する国。
 そんな国が生き延びれたのは国民の教育のお陰が大きい。
 勿論海のお陰で他の国から侵略されなかった事も大きい。
 ブレイメン公国は他国と深い山脈で遮断されていて防衛には事欠かない。
 陸続きだから要所に要塞を作る必要があるが攻め込まれる心配は少ないだろう。
 
 あとはブレイメン公国の国民がこの世界で生きていく為に必要な知識と技術を身に付けることだ。
 今まで他の国と閉ざされていた条件は空を気球で移動できるようになった事でいずれ解決できるだろう。
 世界経済と気球で繋がった事で守りやすく攻めにくい国だった弱点は克服できた。
 あとは金以外の産業と他国との貿易で得た利益を教育に使えば他国に売る資源を自分たちで使えるようになる。
 鉄鉱石は鉄に、銅鉱石を銅や真鍮に、木材を紙や肥料にだ。
 いずれは他の国の学生も受け入れられる知の国家にしたいと俺は考えた。
 そんな俺の考えを聞いたクリスは驚きを隠せない様子だ。
 
 「だが全ての国民が教育を受けられるのか?」
 
 「それはこれからだ。だけどそれが出来るように努力するし、その為の資金も集めるさ」
 
 「そうか……ハヤトはそこまでブレイメン公国の事を考えてくれていたんだな。なら私も全力で協力しよう」
 
 「ありがとうクリス。これからもよろしく頼むよ」
 
 俺とクリスは握手をした。
 この握手にブレイメン公国の未来がかかっているんだ。
 俺はクリスと何日も話し合い、フランツ宰相や大公に上奏する文面を作り上げた。
 そして俺とクリスの二人が揃って王宮に行く日が来た。
 俺はブレイメン貴族の着る幅広で刺繍が施された服にマントを付けた出で立ちだ。
 こんな格好でお偉いさんに会うことになるとは人生何があるかわからないな。
 そんなことを考えているとクリスがやって来た。
 今日のクリスは真っ白なドレスを着ている。
 それはまるで花嫁のようで目を奪われてしまう。
 
 本当に綺麗だな……。
 
 俺がそう思っているとクリスが隣に立ってくれる。
 その頬は少し赤らんでいるようだ。
 もしかして俺の考えすぎだろうか? 
 そんなことを考えているうちに王宮に着いた。
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