【完結済み】ブレイメン公国の気球乗り。異世界転移した俺は特殊スキル気球操縦士を使って優しい赤毛の女の子と一緒に異世界経済を無双する。

屠龍

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第三章 空のシルクロード

第十一話 気球お披露目

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 第十一話 気球お披露目
 
 首都チュロスの大広場に大公一家と群衆が集まっていた。
 大広場に入れない民衆は近くの宿や家のベランダに押し寄せている。
 広場には屋台が立ち並びお祭り状態だ。
 普段娯楽の少ない山国のブレイメン公国では初めて見る気球に皆が興味津々だ。
 クリスが満面の笑顔でみんなに手を振っている。
 あの事故以来久しぶりに見るクリスの笑顔。
 クリスは怒った顔も魅力的だが、今の笑顔が一番かわいくて俺は好きだ。
 
 日本と気球の関係は明治時代にさかのぼる。
 明治時代に明治天皇の見守る中、イギリスのスペンサーという気球乗りの人が気球で空高く上がり落下傘で地上に降下という興行を行ったら大ブームになり全国でゴム風船が売り切れになったそうだ。
 今日は俺の気球のお披露目も兼ねた興行を行う。
 先日の鉱山事故で落ち込んだ民を慰めて欲しいというクリスぱぱんのお願いだし、俺も久しぶりのイベントで張り切っている。

 気球はジェイソンの吐く炎で膨らんでいて、いつでも飛び立てる状態だ。
 俺は先日の貴族衣装で恭しく人々に一礼して気球のゴンドラに乗り込む。
 俺がゴンドラに乗り込むと同時に楽隊がブレイメン公国の愛唱歌を演奏し、教会の少年合唱団が歌い上げる。

 準備は万端整った。

 「それでは皆さん。私が乗ってきた気球という不思議な乗り物をお楽しみください」

 そう言って俺が大きく手をふってバーナーに点火。
 ブレイメン公国にはよい風が吹いているので悠々と気球が舞い上がる。
 群衆がどよめきやがて拍手に変わる。
 俺の気球の隣を竜騎士姿のクリスがジェイソンに跨って旋回しながら飛んでいる。
 用意された沢山の白い鳩が放たれ、気球とクリスの周りを飛ぶ。
 群衆の大歓声を受けながら俺とクリスは上空から手を振った。
 
 異世界フォーチュリアの空に巨大な熱気球が舞い上がる。
 今まで空を飛べるのは竜騎士など空を飛べる生物に乗れるものだけだったのだ。
 俺の気球には抽選で選ばれた5人家族が一緒に乗っていて、気球から吊るされたゴンドラから遠くはなれていく広場を見下ろして驚きの声を上げている。
 これからはドラゴンに乗らなくても誰でも空を飛べる。

 高気圧で晴れ渡った青空と浮かぶ雲。
 日差しは強く風は順風。
 遠くの雪に覆われた山々が見える。
 沢山の人にこの景色を見てもらいたい。
 この時初めて俺は気球乗りという仕事がたまらなく楽しく誇りある仕事だと知った。

 「素晴らしい乗り物だなハヤト!!」

 「俺のいた世界の乗り物もたいしたものだろう」

 「そうだな。大変素晴らしい」

 気球の隣をドラゴンに乗った竜騎士姿のクリスが楽しそうに広場の人たちに手を振っている。
 おれの気球は何組かの抽選に当たった家族を乗せて飛んだ後大広場に着地して一礼した。
 割れんばかりの拍手が巻き起こり小心者の俺は予想以上の大好評に気圧された。
 慌てて隣のクリスを見てしまうがクリスの笑顔に支えられて踏みとどまる。

 「次はこの気球がどれだけの物を運べるかご披露します」

 俺の気球は五百キログラムまで搭載可能だが、先日判明したこの異世界の翼の下に発生する浮力の実験も兼ねてゴンドラの下に取り付けた檻に入れた牛を一頭釣り上げる。

 「これで失敗したら大恥だな」
 
 「いいじゃないか。それはそれで盛り上がるぞ」

 どこの世界にもちゃっかりした人がいるもので、牛を何頭持ち上げれるのか賭けが行われている。
 今日ばかりは大公も賭け事を禁止しなかったので、堂々と売り買いが行われていた。

 「まずは一頭目!!」

 俺が大声で叫ぶと同時に楽隊が演奏して盛り上げる。
 一頭目が檻ごと持ち上がる。
 大喝采に楽隊が音楽で盛り上げる。
 二頭目を釣り上げると広場に賭け札が舞い散った。
 どうやら大半が一頭までに賭けていたらしい。
 群衆の熱狂を盛り上げるべく楽隊が音楽で盛り上げる。
 牛を増やした檻が次々に持ち上げられ拍手喝采がまきおこる。
 しかし予想外の自体が発生していた。

 「もっと牛を連れてくるんだ!!」

 王家が用意した五頭目の牛をやすやすと釣り上げると、フランツ宰相が大急ぎで追加の牛を用意させる。
 群衆は驚いていたが俺が一番驚いた。

 「嘘だろ」

 常識ではありえない重量を持ち上げている。
 この世界の浮力はどれだけ常識外なんだ。
 結果十頭目でようやく浮遊は止まった。

 驚いている間もつかの間。
 再び抽選で選ばれたお客さんを空中へ案内する。
 もっと大きなゴンドラを用意すればよかったのだが仕方がない。
 抽選で選ばれた人たちを乗せて気球が飛ぶ。
 竜騎士以外見ることが出来なかった光景にお客さんは大喜びだ。
 眼下の広場では屋台に人が群がり男女が踊っている。
 イベントは大成功だった。

 「これは当分お客には困らないぞ」

 噂を聞きつけて全人口が集まったりしないよな。
 そんな事を考えていたらクリスが俺に耳打ちした。

 「この気球があれば沢山の人や物を運べるんじゃないか?」

 確かにそれは良いアイデアかもしれない。
 普通の国と違って馬車道も整備されていないブレイメン公国にとって、空を移動できるというのは革命的な事だ。
 推力を考えれば飛行船だが大きすぎる飛行船だと村々には着陸できない。
 そもそも空気より軽い水素などがこの異世界フォーチュリアにあるのだろうか。
 熱気球なら竜騎兵とセットで運用すれば推力も得られる。
 あとはバーナーに使える燃料があるかどうか。
 そもそも気球をこの国の技術で作れるのかどうか。
 夢は膨らむが実現できるかは別だ。
 気球は人々を笑顔に出来る。
 まずは大きなイベントから始めてみよう。
 村々を回って巡業もいいなと俺はこの時考えていた。
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