【完結済み】ブレイメン公国の気球乗り。異世界転移した俺は特殊スキル気球操縦士を使って優しい赤毛の女の子と一緒に異世界経済を無双する。

屠龍

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第二章 ブレイメン公国の人々

第八話 ノブレス・オブリージュ

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第八話 ノブレス・オブリージュ
 
そういえばここは山国だし船の話をしてみようか。
何十トンも一気に運べる貨物船の話をしようとした時だった。
足早にクリスぱぱんに近づいた家臣が耳打ちするとクリスぱぱんが顔色を変えた。

「すまない急用が出来たので私は席を外す」

そう言ってナプキンを外し席を立ったクリスぱぱんの顔は、娘の客人を迎える父親から大公の顔に戻っていた。
顔色が変わった父親の様子に怪訝な顔をしたクリスが父親を呼び止める。

「父上何かあったのですか?」

「ベルヒス金鉱で事故があった。すぐに現場に向かう」
 
クリスぱぱんがそう言うと居並ぶ貴族が一斉に立ち上がった。
先ほどまでの温和な晩餐会に出席していた人々の顔つきが真剣そのものになる。
宰相のフランツさんも俺に頭を下げ退室しようとする。
俺はフランツさんを呼び止めて事情を聞いた。

「ベルヒス金鉱って金山ですか?」

「我が国の最重要の金山です。ベルヒス金鉱は山深いブレイメン公国の中でも難所にあります。ブレイメン公国は地下資源、とりわけ金の採掘で外貨を稼いでいますが山深い場所にばかり集中していて採掘が進まないのです。馬車で金鉱石を運ぶ事もできないので掘った金鉱石は綱で崖下におろし、そこから製錬所へ運び金として利用しますが手間がかかりすぎて収入源としては心もとないのです」
 
「勿体ないですね。近くの川から運んだりできないのですか?」
 
「無論計画がありましたが予算不足で遅々として進まないのです。竜騎士を使っての探索で山脈の他の部分に銅や銀がある可能性のある地帯が確認されてますが、獣でもないとたどり着けない山奥にあるので手が出せないのです。ハヤト殿の気球があれば金を直接運べると思ったのですが」
 
先ほどフランツ宰相が考え込んでいたのはそういう事か。
気球を見てすぐ軍事に使えないかと考えたクリスぱぱんと経済に使えないかと考えたフランツ宰相。
やっぱこの国天下取れるんじゃね?
惜しい事に経済が厳しいようだ。

竜騎士からの急報に大公は素早く指示を出しているがそれでも限界がある。
クリスも素早く騎士甲冑に着替えるべく自室に戻り、晩餐会に出席していた他の貴族達も退席していった。
足早に歩きながら周りの騎士たちに指示をだすクリスの隣を歩く。
 
「ハヤト折角の晩餐会を中止して申し訳ない」

「いや事情が事情だから仕方がないさ」

「今夜は忙しくなりそうだ」

「金鉱で事故という事は死傷者も大勢出たという事だよな?」

「ああ。現地には医師もいるがそれほど多数は常駐してない。環境が過酷すぎて鉱山に行きたがらないのだ。元々ブレイメン公国に医者は少ない。昼間言ったように人口が希薄すぎて散らばっているのだ」

「医師の派遣はできないのか?」

「竜騎士に乗るには特別な訓練が必要なのだ」

山奥にあるベルヒス金鉱に最も早く向かえるのは竜騎士だけだが、現地は辺鄙な場所にありすぎて医師団の派遣も難しいらしい。
そこでふと思いついた。

「俺の気球なら医師を現地に運ぶ事ができるよ」

「ハヤトそれは本当か!?」

「気球に乗るだけなら誰でもできるからな。子供でも乗れる」

幸い俺が乗ってきたのは六人乗りの気球だ。
単純に考えて医師を五人ずつ運べる。
薬剤も運べるだろう。
 
「それは助かる。ハヤト頼む我々に協力してくれ」
 
「晩飯まで世話になって断れないよな」
 
「私は駐騎場で現場に向かう準備をする。ハヤトは気球の準備をしてくれ」
 
「了解」

俺は首元に巻いたスカーフを外す。
この服装は動きにくいが時間がない。
俺は近くにいた給仕に俺が着て来た服を持ってきてもらい部屋で着替えると中庭に向かう。
中庭には初めて会った時と同じ軍装をしたクリスが愛竜のジェイソンにまたがって俺を待っていた。
俺の話を聞いて部下に指示を飛ばしたクリスが医師を何人か連れてきていた。

「医薬品は竜で運ぶ。お前たちはその気球に乗れ」

「無茶です姫様、こんな得体のしれないものに乗れません」

確かにいま初めて見る気球を見て、はいそうですかと乗る豪胆さは医師には無いだろう。
こんな事をしている間に時間が過ぎていく。
拉致があかない事に苛立ったのか、クリスがドラゴンから飛び降りて俺と医師たちに足早に歩いてくる。
ブレストプレートと鎖帷子が音を立て、怒りに身を任せているのがありありと見て取れる。
まさか医師を何人か切って無理やり乗せるつもりか。
俺が青ざめているとクリスは医師達に深く頭を下げた。

「頼む。私達の同胞が死にかかってるんだ。お前たちの力を貸してくれ!!」

「姫様お顔をお上げください!?」

医師の一人がそう言ってもクリスは頭をあげない。
医師から見れば雲の上の存在の公女が自分たちに頭を下げている。
日本で例えるなら殿様の姫が町医者に頭を下げてお願いしている状態だ。
小心者の俺なら土下座している。

「頼む!!この間にも同胞が苦しんでいるんだ!!」

クリスは頭を上げない。
俺は自分のために頭を下げることは多いが、他人のために頭を下げた事なんて一度もない。
クリスは姫様だ。
その姫様が同胞を救う為に頼むと医師に頭を下げている。

ノブレス・オブリージュ。

高貴な身分には義務と責任が伴うという意味の言葉。
自分の民を一番に考え屈辱もいとわない。
クリスは心身ともに高貴な存在だった。
医師達は顔を見合わせる。

「姫様お顔をお上げください。わかりました。我々もブレイメン公国に生を受けたもの。姫様の御心に従います」

「すまない。お前たちの愛国心を私は忘れない」

俺の気球を見て怖がっていた医師たちも覚悟を決めたようだ。
皆の目が変わっているのがわかる。
全員が気球のバスケットに乗り込んだらジェイソンの吐いた炎で温かい空気を気嚢という気球の袋に送り込んで気球が浮かびあがった。

「それじゃいきますよ。しっかり捕まっていてください」
 
医師たちは初めて乗る気球に驚きながら指示に従ってくれた。
俺の気球は医師たちを乗せて空に舞った。
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