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第12章 フミンの少女
第87話 7人目の仲間
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第87話 7人目の仲間
今夜は幸運な事に曇り空で月あかりが無く真っ暗だった。
こういう日は盗賊に襲われる危険があるから町の人は家に籠る。
人目を避けるのは一苦労だと思っていたけどクヌートの案内で路地裏を抜けて歩いていく。
だけどどうしても通らないといけない場所がある。
町の大通りにある広場と大通りだ。
昼間は人が多かった広場と大通りも閑散としたものだ。
広場は祭りなどの催しだけでなく、火事などの時に逃げる場所として作られているので街区の区切りになっている。
つまり広場だけは裏路地経由で抜けれないのだ。
夜の見回りの兵士に注意しながら身を屈め隠れながら歩いていく。
クヌートが僕たちの足元にサイレント(沈黙の呪文で音を消す)をかけてくれたので足音はしない。
フェリシアがインヴィジビリティの呪文で僕たちの姿を消す。
僕たちの姿が見えない兵士はランタンを掲げながら夜の見回りを行っているが注意する相手は兵士だけではない。
犬だ。
兵士は数人に一匹の割合で凶悪なドーベルマンみたいな犬を連れている。
犬は音だけでなく匂いにも敏感だ。
当然僕たちの匂いにも気が付くはずだ。
予想通り犬が僕たちの方を振り向いた。
犬を排除するのは簡単だけど派手な事をして気づかれる事は避けたい。
「コンシール・セルフ」
フェリシアが音と姿と匂いを消す古代魔法を僕たちにかけると犬たちの反応が止まる。
あちこちきょろきょろと頭を回す犬をみて兵士が周囲を確認した。
「何もいないじゃないか」
コンシール・セルフは術者の精神集中が切れるまでしか使えない魔法だ。
普通の魔法使いなら活発に動くなんてできない。
でもフェリシアは精神集中を切らすことなく走っている。
クヌートもフェリシアもハーフエルフだけがなれるウィザードという、全ての魔法を使える究極の魔法使いだからこんな事が出来る。
文字通り音もなく無事に広場を突破した僕たちは、仮の家として止まっている宿屋へ到着した。
◆◆◆
「相談する時間が無かったとはいえ、軽率だったな」
僕たちが皆が借りている宿の一室でシグレさんとセシルさんに事情を説明すると、シグレさんが困ったとばかりにため息をつく。
それはそうだろう。
いきなり差別されているフミンという民族の少女をかくまうなんて言われて驚かないはずはない。
「とか言って同じ立場ならシグレだって同じことしただろ?」
こちらは貧民街出身で孤児として生まれ、散々辛苦をなめた人生を歩んできたセシルさんがシグレさんの肩を叩く。
シグレさんはセシルさんの手を鬱陶しそうに払いのけると再びため息をついた。
図星のようでシグレさんはぎこちなくフミンの少女の頬を撫でようとする。
フミンの少女は一瞬だけビクリと震えたが、シグレさんに敵意が無いことを感じ取ったのか素直に撫でられていた。
「あたいもシグレも反対はしないけどさ。あたい達はこれから生きて帰れるかわからない旅に出るんだよ。その辺りは考えたのかい?」
「………すみません」
セシルさんの考えはもっともだと僕は思う。
保護した以上、この子の安全は確保する責任が僕達にはある。
可哀そうだからという理由で危険な旅に連れて行く訳にはいかない。
可能なら同じフミンの民の所へ連れて行って保護して貰うのが一番だけど全く見当もつかない。
僕たちが頭を捻っていると。
「わ…わたし…皿洗いでも荷物持ちでもなんでもします。お願い捨てないで」
フミンの少女がそう言ってフェリシアの袖をぎゅっと掴む。
「君喋れたの!?」
僕達全員が驚く。
てっきり喋れないと思っていた少女が流暢なフレーベル語で話をしたのだ。
「キミどうして黙ってたの?」
ミレーヌが怖がらせないように優しく聞いてみる。
僕達全員が見つめると少女が話を始めた。
「わたしロッテっていいます。言葉がわかるってバレたら売り飛ばされると思ったから黙ってました。男の人は女をレイプする時、その国の言葉で叫ぶと喜ぶって聞いてたから……」
確かに言葉が通じない相手をレイプするより言葉が通じる相手をレイプする方が喜ぶかもしれない。
そういう輩と一緒にされた僕とクヌートは怒っていいのかどうか困った。
ただ10代前半の小学生くらいの彼女にとっては切実な問題だったのだろう。
見つけ次第殺されるフミンという民族の少女にとって、レイプは身近な危険だったのだ。
「ロッテは他の国の言葉もわかるの?」
「放浪してる時に覚えました。アルスラン帝国以外の言葉もわかります」
そう言ってにぱって笑顔になる。
言語は得意のようだ。
「あなた達お風呂に入れてくれてご飯を食べさせてくれた。きっといい人。一緒にいさせてください」
そう言ってロッテはフェリシアの裾を引っ張っておずおずと僕たちに懇願する。
これからの旅に通訳は欠かせないし、どこから秘密が漏れるかわからないから信頼できる人に通訳を任せたい。
そう思っていた僕たちにとって得難い人材だと思う。
「みんなどうかな?僕は最初からロッテの事を保護する気だったけど通訳してくれるなら言う事ないって思うんだ」
「ボクもそう思うよ。通訳として一緒に来てくれるなら問題ないよね、ね」
僕とミレーヌの言葉に皆顔を見合わせながら悩んだけど僕たちは元々ロッテを保護するつもりだったし、役に立ちたいと言ってくれる子を見放すなんて論外だと思ってる。
少なくとも勇者一行として見捨てるって選択肢は最初から無いのだ。
「ま、みんなの意見は一緒みたいだしいいんじゃないか?旅は賑やかなほうがあたいは好きだからさ」
そう言ってセシルさんが笑うとみんなも釣られて苦笑いした。
こうして僕たちの旅に7人目の仲間が参加する事になったんだ。
今夜は幸運な事に曇り空で月あかりが無く真っ暗だった。
こういう日は盗賊に襲われる危険があるから町の人は家に籠る。
人目を避けるのは一苦労だと思っていたけどクヌートの案内で路地裏を抜けて歩いていく。
だけどどうしても通らないといけない場所がある。
町の大通りにある広場と大通りだ。
昼間は人が多かった広場と大通りも閑散としたものだ。
広場は祭りなどの催しだけでなく、火事などの時に逃げる場所として作られているので街区の区切りになっている。
つまり広場だけは裏路地経由で抜けれないのだ。
夜の見回りの兵士に注意しながら身を屈め隠れながら歩いていく。
クヌートが僕たちの足元にサイレント(沈黙の呪文で音を消す)をかけてくれたので足音はしない。
フェリシアがインヴィジビリティの呪文で僕たちの姿を消す。
僕たちの姿が見えない兵士はランタンを掲げながら夜の見回りを行っているが注意する相手は兵士だけではない。
犬だ。
兵士は数人に一匹の割合で凶悪なドーベルマンみたいな犬を連れている。
犬は音だけでなく匂いにも敏感だ。
当然僕たちの匂いにも気が付くはずだ。
予想通り犬が僕たちの方を振り向いた。
犬を排除するのは簡単だけど派手な事をして気づかれる事は避けたい。
「コンシール・セルフ」
フェリシアが音と姿と匂いを消す古代魔法を僕たちにかけると犬たちの反応が止まる。
あちこちきょろきょろと頭を回す犬をみて兵士が周囲を確認した。
「何もいないじゃないか」
コンシール・セルフは術者の精神集中が切れるまでしか使えない魔法だ。
普通の魔法使いなら活発に動くなんてできない。
でもフェリシアは精神集中を切らすことなく走っている。
クヌートもフェリシアもハーフエルフだけがなれるウィザードという、全ての魔法を使える究極の魔法使いだからこんな事が出来る。
文字通り音もなく無事に広場を突破した僕たちは、仮の家として止まっている宿屋へ到着した。
◆◆◆
「相談する時間が無かったとはいえ、軽率だったな」
僕たちが皆が借りている宿の一室でシグレさんとセシルさんに事情を説明すると、シグレさんが困ったとばかりにため息をつく。
それはそうだろう。
いきなり差別されているフミンという民族の少女をかくまうなんて言われて驚かないはずはない。
「とか言って同じ立場ならシグレだって同じことしただろ?」
こちらは貧民街出身で孤児として生まれ、散々辛苦をなめた人生を歩んできたセシルさんがシグレさんの肩を叩く。
シグレさんはセシルさんの手を鬱陶しそうに払いのけると再びため息をついた。
図星のようでシグレさんはぎこちなくフミンの少女の頬を撫でようとする。
フミンの少女は一瞬だけビクリと震えたが、シグレさんに敵意が無いことを感じ取ったのか素直に撫でられていた。
「あたいもシグレも反対はしないけどさ。あたい達はこれから生きて帰れるかわからない旅に出るんだよ。その辺りは考えたのかい?」
「………すみません」
セシルさんの考えはもっともだと僕は思う。
保護した以上、この子の安全は確保する責任が僕達にはある。
可哀そうだからという理由で危険な旅に連れて行く訳にはいかない。
可能なら同じフミンの民の所へ連れて行って保護して貰うのが一番だけど全く見当もつかない。
僕たちが頭を捻っていると。
「わ…わたし…皿洗いでも荷物持ちでもなんでもします。お願い捨てないで」
フミンの少女がそう言ってフェリシアの袖をぎゅっと掴む。
「君喋れたの!?」
僕達全員が驚く。
てっきり喋れないと思っていた少女が流暢なフレーベル語で話をしたのだ。
「キミどうして黙ってたの?」
ミレーヌが怖がらせないように優しく聞いてみる。
僕達全員が見つめると少女が話を始めた。
「わたしロッテっていいます。言葉がわかるってバレたら売り飛ばされると思ったから黙ってました。男の人は女をレイプする時、その国の言葉で叫ぶと喜ぶって聞いてたから……」
確かに言葉が通じない相手をレイプするより言葉が通じる相手をレイプする方が喜ぶかもしれない。
そういう輩と一緒にされた僕とクヌートは怒っていいのかどうか困った。
ただ10代前半の小学生くらいの彼女にとっては切実な問題だったのだろう。
見つけ次第殺されるフミンという民族の少女にとって、レイプは身近な危険だったのだ。
「ロッテは他の国の言葉もわかるの?」
「放浪してる時に覚えました。アルスラン帝国以外の言葉もわかります」
そう言ってにぱって笑顔になる。
言語は得意のようだ。
「あなた達お風呂に入れてくれてご飯を食べさせてくれた。きっといい人。一緒にいさせてください」
そう言ってロッテはフェリシアの裾を引っ張っておずおずと僕たちに懇願する。
これからの旅に通訳は欠かせないし、どこから秘密が漏れるかわからないから信頼できる人に通訳を任せたい。
そう思っていた僕たちにとって得難い人材だと思う。
「みんなどうかな?僕は最初からロッテの事を保護する気だったけど通訳してくれるなら言う事ないって思うんだ」
「ボクもそう思うよ。通訳として一緒に来てくれるなら問題ないよね、ね」
僕とミレーヌの言葉に皆顔を見合わせながら悩んだけど僕たちは元々ロッテを保護するつもりだったし、役に立ちたいと言ってくれる子を見放すなんて論外だと思ってる。
少なくとも勇者一行として見捨てるって選択肢は最初から無いのだ。
「ま、みんなの意見は一緒みたいだしいいんじゃないか?旅は賑やかなほうがあたいは好きだからさ」
そう言ってセシルさんが笑うとみんなも釣られて苦笑いした。
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