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第12章 フミンの少女
第83話 商魂
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第83話 商魂
「なあ。本当に船を降りるのかい?」
そう言ってクボハさんが僕たちに声かける。
茶色の肌に黒い瞳で赤毛の女性冒険者。
大きく胸元が開いたレザーアーマーを着て腰に大きな剣をさしている。
耳には宝石のように輝く貝殻のついたピアスをつけ、胸元には竜をかたどった紋章が入れ墨されていた異国の戦士。
クボハさんにはお世話になった。
「船長がそう言うんだ。世話になったな」
シグレさんがそう言ってクボハさんに握手を求める。
僕もクボハさんと握手して別れの挨拶をしているとセシルさんが船室に入ってきた。
「船長が全員甲板に集まれって言ってるよ」
何事かと僕たち護衛と船員全員が甲板に集められた。
全員の前で僕たちにジョルジュ船長が大声で話し出す。
その手には魔法で届けられた電報のようなものが書かれた紙がある。
「シャムド男爵が破産した。その抵当にこの船と積み荷が入っていた。全員に報酬を支払うから下船してくれ」
その言葉に船員と護衛の僕たちは顔を見合わせた。
どういう事だろう?シャムド男爵が破産したという事は僕たちは用済みになったという事だろう。
でも、船がシャムド男爵の持ち物ならその処分は所有者に委ねられるはずだ。
皆が不安がっていた。
船員は突然解雇され、護衛も多額の借金を抱える者が船長に詰め寄る。
船長と上級船員が宥めているがしばらくは混乱が続くだろう。
「どういうことですか?」
僕が声をかけるとジョルジュ船長が振り返る。
その顔には苦悩の表情が浮かんでいた。
「ユキナとミレーヌは来てくれ。詳しくは船長室で話す」
そう言うとジョルジュ船長は僕達を船長室に案内するのだった。
◆◆◆
船長室に入った僕とミレーヌは金属椅子に座る。
テーブルには高価なお茶が用意されていた。
僕とミレーヌは緊張しながら出されたお茶を飲む。
ほのかな甘い香りがするのは貴重な香料と砂糖が入っているからだろう。
お茶を飲みながらジョルジュ船長の話を聞いた。
「実はな、俺はシャムド男爵と縁がある。と言うか俺が取引きしている相手がシャムド男爵なんだ」
どういう事だろう?僕が首をかしげているとジョルジュ船長が口を開く。
「シャムド男爵は借金を抱えていてな、それの担保としてこの船と積み荷を俺に売ったんだ。つまり俺が所有者という事になる」
ジョルジュ船長は困ったような顔をしていた。
「何故そのような事を?」
僕が尋ねるとジョルジュ船長が頭をかきながら話を続ける。
「そりゃ俺が直接シャムド男爵の船と積み荷を運んだ方が利益が出るからさ。利益は俺が7割シャムド男爵が3割だった。だがシーサーペントに襲われたから船が沈む危険性が増した。だから俺がシャムド男爵に貸し付けている借金の棒引きの代わりに俺がこの船と金塊を手に入れたって事さ。俺はシャムド男爵ほど商売が下手じゃない。この港を拠点に持ってきた金塊を武器にしてひと稼ぎするさ」
「つまり最初からシャムド男爵からこの船と積み荷を奪い取る気だったという事ですか?」
「人聞きが悪いな。危険性が増したって俺が判断したからだ。安全ならそのほうが堅実な儲けが出るはずだった。だが俺が状況をしたため魔法で送った文面を読んだシャムド男爵は、俺が貸し付けた膨大な借金を清算したほうが得だと判断したんだろう。まったく馬鹿な男だ。あの程度の商才で生きていけるものか。男爵だから大人しく小さな領地経営で暮らしていたらよかったのによ」
「でも借金を清算されたジョルジュ船長のほうが損害は大きいのではないですか?」
「どうせシャムド男爵は俺への借金を返せるほどの財産を持っていない。小さな屋敷と痩せた領地を差し押さえても足りないだろう。帰って来ない借金より目の前の船と金塊を手に入れたほうが確実って訳だ」
ジョルジュ船長がシャムド男爵に貸し付けた借金は余程の金額なのだろう。
きっと詐欺みたいな手段を使ったのだろうけどそこは聞かない事にする。
シャムド男爵が騙されたとはいえ契約を結んだ以上、ジョルジュ船長の勝ちなのだから。
「そこで相談なんだが、俺は海の上に勇者ミレーヌがいると魔王軍に思われてると大変都合が悪い。海の危険性が増すからな。だからミレーヌ達にはここから遠く離れた場所で勇者は陸にいるぞって宣伝してもらいたい」
勝手な申し出だけど理由はわかる。
海が危険な状態ではジョルジュ船長の商売は失敗するからだ。
「あんたらの目的は魔王を倒す事だろう?深い闇を消して世界を平和にするっておとぎ話を俺は信じちゃいなかったが、勇者ってのが本当にいるって目の前で見ちまったから信じるしかないさ。俺はそのおとぎ話に一役買いたいって訳さ。何しろ世界が平和になってくれなきゃいくら金を稼いでも無駄だからな」
ミレーヌに初めて会った時ジョルジュ船長は僕たちの事をただの護衛だと思っていた。
勇者という存在を信じていなかったのだろう。
しかしシーサーペントを倒すところを見てしまった今は勇者ミレーヌを心底信じ切っていて、その勇者が魔王を倒す事に協力すると言っている。
「僕の一存では決められません。仲間と相談させてください」
「そうしたほうがいいな。だがこの船から降りてもらうってのは決定事項だ」
そんな事を言われたら従うしかない。兎も角今後の事をみんなで決めないといけない。
僕はセシルさんが一足先に確保してくれている港の宿へ向かう。
突然居場所を無くした船員たちが、陸でやけ酒を飲んで宿を押さえることになるとセシルさんは言っていた。
この辺は流石セシルさんだと思う。
僕は下船してミレーヌ達が仮の宿にしている壁が厚くて会話が洩れない高い宿へと向かった。
「なあ。本当に船を降りるのかい?」
そう言ってクボハさんが僕たちに声かける。
茶色の肌に黒い瞳で赤毛の女性冒険者。
大きく胸元が開いたレザーアーマーを着て腰に大きな剣をさしている。
耳には宝石のように輝く貝殻のついたピアスをつけ、胸元には竜をかたどった紋章が入れ墨されていた異国の戦士。
クボハさんにはお世話になった。
「船長がそう言うんだ。世話になったな」
シグレさんがそう言ってクボハさんに握手を求める。
僕もクボハさんと握手して別れの挨拶をしているとセシルさんが船室に入ってきた。
「船長が全員甲板に集まれって言ってるよ」
何事かと僕たち護衛と船員全員が甲板に集められた。
全員の前で僕たちにジョルジュ船長が大声で話し出す。
その手には魔法で届けられた電報のようなものが書かれた紙がある。
「シャムド男爵が破産した。その抵当にこの船と積み荷が入っていた。全員に報酬を支払うから下船してくれ」
その言葉に船員と護衛の僕たちは顔を見合わせた。
どういう事だろう?シャムド男爵が破産したという事は僕たちは用済みになったという事だろう。
でも、船がシャムド男爵の持ち物ならその処分は所有者に委ねられるはずだ。
皆が不安がっていた。
船員は突然解雇され、護衛も多額の借金を抱える者が船長に詰め寄る。
船長と上級船員が宥めているがしばらくは混乱が続くだろう。
「どういうことですか?」
僕が声をかけるとジョルジュ船長が振り返る。
その顔には苦悩の表情が浮かんでいた。
「ユキナとミレーヌは来てくれ。詳しくは船長室で話す」
そう言うとジョルジュ船長は僕達を船長室に案内するのだった。
◆◆◆
船長室に入った僕とミレーヌは金属椅子に座る。
テーブルには高価なお茶が用意されていた。
僕とミレーヌは緊張しながら出されたお茶を飲む。
ほのかな甘い香りがするのは貴重な香料と砂糖が入っているからだろう。
お茶を飲みながらジョルジュ船長の話を聞いた。
「実はな、俺はシャムド男爵と縁がある。と言うか俺が取引きしている相手がシャムド男爵なんだ」
どういう事だろう?僕が首をかしげているとジョルジュ船長が口を開く。
「シャムド男爵は借金を抱えていてな、それの担保としてこの船と積み荷を俺に売ったんだ。つまり俺が所有者という事になる」
ジョルジュ船長は困ったような顔をしていた。
「何故そのような事を?」
僕が尋ねるとジョルジュ船長が頭をかきながら話を続ける。
「そりゃ俺が直接シャムド男爵の船と積み荷を運んだ方が利益が出るからさ。利益は俺が7割シャムド男爵が3割だった。だがシーサーペントに襲われたから船が沈む危険性が増した。だから俺がシャムド男爵に貸し付けている借金の棒引きの代わりに俺がこの船と金塊を手に入れたって事さ。俺はシャムド男爵ほど商売が下手じゃない。この港を拠点に持ってきた金塊を武器にしてひと稼ぎするさ」
「つまり最初からシャムド男爵からこの船と積み荷を奪い取る気だったという事ですか?」
「人聞きが悪いな。危険性が増したって俺が判断したからだ。安全ならそのほうが堅実な儲けが出るはずだった。だが俺が状況をしたため魔法で送った文面を読んだシャムド男爵は、俺が貸し付けた膨大な借金を清算したほうが得だと判断したんだろう。まったく馬鹿な男だ。あの程度の商才で生きていけるものか。男爵だから大人しく小さな領地経営で暮らしていたらよかったのによ」
「でも借金を清算されたジョルジュ船長のほうが損害は大きいのではないですか?」
「どうせシャムド男爵は俺への借金を返せるほどの財産を持っていない。小さな屋敷と痩せた領地を差し押さえても足りないだろう。帰って来ない借金より目の前の船と金塊を手に入れたほうが確実って訳だ」
ジョルジュ船長がシャムド男爵に貸し付けた借金は余程の金額なのだろう。
きっと詐欺みたいな手段を使ったのだろうけどそこは聞かない事にする。
シャムド男爵が騙されたとはいえ契約を結んだ以上、ジョルジュ船長の勝ちなのだから。
「そこで相談なんだが、俺は海の上に勇者ミレーヌがいると魔王軍に思われてると大変都合が悪い。海の危険性が増すからな。だからミレーヌ達にはここから遠く離れた場所で勇者は陸にいるぞって宣伝してもらいたい」
勝手な申し出だけど理由はわかる。
海が危険な状態ではジョルジュ船長の商売は失敗するからだ。
「あんたらの目的は魔王を倒す事だろう?深い闇を消して世界を平和にするっておとぎ話を俺は信じちゃいなかったが、勇者ってのが本当にいるって目の前で見ちまったから信じるしかないさ。俺はそのおとぎ話に一役買いたいって訳さ。何しろ世界が平和になってくれなきゃいくら金を稼いでも無駄だからな」
ミレーヌに初めて会った時ジョルジュ船長は僕たちの事をただの護衛だと思っていた。
勇者という存在を信じていなかったのだろう。
しかしシーサーペントを倒すところを見てしまった今は勇者ミレーヌを心底信じ切っていて、その勇者が魔王を倒す事に協力すると言っている。
「僕の一存では決められません。仲間と相談させてください」
「そうしたほうがいいな。だがこの船から降りてもらうってのは決定事項だ」
そんな事を言われたら従うしかない。兎も角今後の事をみんなで決めないといけない。
僕はセシルさんが一足先に確保してくれている港の宿へ向かう。
突然居場所を無くした船員たちが、陸でやけ酒を飲んで宿を押さえることになるとセシルさんは言っていた。
この辺は流石セシルさんだと思う。
僕は下船してミレーヌ達が仮の宿にしている壁が厚くて会話が洩れない高い宿へと向かった。
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