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第12章 フミンの少女
第80話 海風
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第80話 海風
シーサーペントとの激闘から3日後の朝、目が覚めた僕は久しぶりに太陽の光を浴びて伸びをする。
身体の調子も良いしこれなら大丈夫だろうと思いベッドから起き上がったのだが、水中での無理な動きでこわばった身体はまだ完治したわけではないようで全身が痛いし動きづらい。
しかし、護衛として雇われているのにずっとベッドの上という訳にはいかない。
「ユキナおはよう♪」
「ミレーヌおはよう」
僕の隣で起きたばかりなのか目を手でこするミレーヌ。
その仕草が可愛くて僕は思わず笑みを浮かべた。
そんな僕の視線に恥ずかしそうな顔をしながらも満面の笑顔で微笑んでくれるミレーヌ。
僕とミレーヌはおはようのキスをしようと───。
「朝っぱらからお熱いのはいいけどさ。あたい達がいる事を忘れないでくれよな」
セシルさんが僕とミレーヌを呆れた顔で見つめている。
見れば周りの女性陣はにやにやと笑い、クヌートは少し冷たい目で僕を見つめていた。
僕とミレーヌは慌てて離れると後ろからの好奇とあきれた視線を感じながら部屋を出る事にした。
部屋を出てみると甲板には船員がいて、僕達が姿を見せると手を休めて笑顔で手を振ってくれた。
シーサーペントから船を守った僕とミレーヌはちょっとした英雄扱いされていたけど、亡くなった冒険者の事を思うと胸が痛む。
もっと早くシーサーペントを倒していれば彼は死ななくて済んだ。
どうしてもそう考えてしまう。
亡くなった冒険者は酒を飲み騒いでいた人の一人だった。
彼の葬式は簡単なもので冒険者ギルドに報告する事と、死亡した時に支払われる増額された給金を家族に送る事をジョルジュ船長が全員の目の前で宣言する。
その後ジョルジュ船長が合図の手を振ると、彼の遺体はゆっくりと海中へ投入された。
航海中に死んだ船員は海に葬られる。
無念にも死を遂げた彼の事を思うと悔やまれるが、僕がもっと強ければ。そうおもう。僕はなんでも自分が解決できると思うのはうぬぼれだろうか。
「ユキナ。自分がもっと強かったらあの人を助けられたとか思ってるでしょ」
僕の隣で海を見ていたミレーヌが僕の心を見透かすような事を言う。
ミレーヌとは幼馴染で恋人だからか僕の考えてる事がわかるのだろう。
だから僕は素直に頷いた。
「ユキナは頑張ったよ。あれ以上の事なんて誰にもできないよ」
そう言ってミレーヌが僕の手を取って優しい微笑みを浮かべてくれた。
「でも助けられなかった。そうだろ?」
「そうだね。ボクもそう思うし悔しいよ。ボクがもっと勇者の力をうまく使えれば。そう思ってる」
ミレーヌだって辛いんだ。
勇者の力を思い通りに使えない事が悔しい。
その気持ちを、弱音を必死に我慢してる。
それをさせたのは僕だ。
僕がしっかりしていればミレーヌだって我慢する必要なんてない。
ミレーヌの瞳から涙が零れると我慢の限界だったのだろう。
僕はミレーヌを抱きしめて腕で彼女の顔を隠す。
波と風の音で誰にも声は聞こえない。
ミレーヌは僕の腕の中で泣き続けた。
「ごめんね。涙で濡らしちゃった」
小一時間くらい泣いてすっきりしたのかミレーヌはそう言って泣き止み微笑んでくれた。
その笑みは空元気なのはわかってたけど僕は騙されたふりをする。
多分ミレーヌもその事に気が付いているのだろう。
「僕は海が好きだな」
海風が僕とミレーヌを吹き抜けていく。
ミレーヌの緑色の美しい髪がふわりと広がっていき風にたなびいた。
その髪を押さえたミレーヌが僕に聞いてくる。
「どうして?」
「うん。とても懐かしい気持ちになるんだ」
前世の僕は身体が弱くて入退院を繰り返していた。
僕が元気になった時、前世の両親はよく海に連れて行ってくれた。
泳ぐことはできないけど打ち寄せる波を見ていると心が落ち着いた。
海辺の旅館でお刺身とか焼き魚とかを食べて、3人で枕を並べて眠った。
僕はとても愛された子供だと思う。
転生した僕の両親も僕を愛してくれているけど前世の両親の事を思い出すのは、僕が病死したあと両親はどうなったのかという事が気がかりだからだ。
きっと悲しんでくれたとおもう。
僕は幸せな子供だった。
僕とミレーヌが海を見てお喋りを楽しんだあと船室へ帰ろうとすると、前から歩いてくる人影が見える。
ジョルジュ船長だった。
彼は僕を見ると話しかけてきた。
全身打撲と疲労で寝込んでいた僕をどうやら心配してくれていたらしい。
そこで僕は自分の身体の状態を話した後、改めてお礼の言葉を述べた。
「すみません。護衛の仕事を3日も休んでしまって」
「何を言う。君たちがいなければこの船も俺たちも全員海の底だよ。聞きたい事があるから少しいいかな?」
そう言ってジョルジュ船長は僕とミレーヌに葉巻を勧めてくれる。
僕は吸わないから丁重に断ると、嫌な顔一つせず笑ってくれた。
そのまま船長室に案内されたので僕は素直についていく。
まさかこのあと、酷い仕打ちが待っているのを僕たちはしらなかった。
船長室に入った僕を確認したジョルジュ船長は部屋の外に他人がいないか念入りに確認した後、鍵をかけて扉を閉めて椅子に座る。
椅子は簡易なもので前世でいうパイプ椅子のような木を使わない金属制の椅子だった。
火事になったら燃えないようにするためだ。
「それで聞きたい事があるとはだ」
そう言ってジョルジュ船長は苦虫を噛み潰したような表情になる。
「俺も船に乗って長いが、今まであんなモンスターに襲われたことは無い。海賊の来襲に備えて航路も変えてあった。それなのになぜ襲われたかだ。あいつはミレーヌの事を勇者だと言っていたがミレーヌは本当に勇者なのか?」
勇者とは世界を救う希望に満ちた光の存在。
そう言われてはいるけど人によってはそれに異議や疑問を持つ人もいるだろう。
僕は返答に困った。
シグレさんかセシルさんなら上手く言い逃れも出来るだろうけど僕には無理だ。
勿論それを察して僕に聞いたのだろう。
こういう時上手く受け答えが出来るほど僕は器用ではなかった。
シーサーペントとの激闘から3日後の朝、目が覚めた僕は久しぶりに太陽の光を浴びて伸びをする。
身体の調子も良いしこれなら大丈夫だろうと思いベッドから起き上がったのだが、水中での無理な動きでこわばった身体はまだ完治したわけではないようで全身が痛いし動きづらい。
しかし、護衛として雇われているのにずっとベッドの上という訳にはいかない。
「ユキナおはよう♪」
「ミレーヌおはよう」
僕の隣で起きたばかりなのか目を手でこするミレーヌ。
その仕草が可愛くて僕は思わず笑みを浮かべた。
そんな僕の視線に恥ずかしそうな顔をしながらも満面の笑顔で微笑んでくれるミレーヌ。
僕とミレーヌはおはようのキスをしようと───。
「朝っぱらからお熱いのはいいけどさ。あたい達がいる事を忘れないでくれよな」
セシルさんが僕とミレーヌを呆れた顔で見つめている。
見れば周りの女性陣はにやにやと笑い、クヌートは少し冷たい目で僕を見つめていた。
僕とミレーヌは慌てて離れると後ろからの好奇とあきれた視線を感じながら部屋を出る事にした。
部屋を出てみると甲板には船員がいて、僕達が姿を見せると手を休めて笑顔で手を振ってくれた。
シーサーペントから船を守った僕とミレーヌはちょっとした英雄扱いされていたけど、亡くなった冒険者の事を思うと胸が痛む。
もっと早くシーサーペントを倒していれば彼は死ななくて済んだ。
どうしてもそう考えてしまう。
亡くなった冒険者は酒を飲み騒いでいた人の一人だった。
彼の葬式は簡単なもので冒険者ギルドに報告する事と、死亡した時に支払われる増額された給金を家族に送る事をジョルジュ船長が全員の目の前で宣言する。
その後ジョルジュ船長が合図の手を振ると、彼の遺体はゆっくりと海中へ投入された。
航海中に死んだ船員は海に葬られる。
無念にも死を遂げた彼の事を思うと悔やまれるが、僕がもっと強ければ。そうおもう。僕はなんでも自分が解決できると思うのはうぬぼれだろうか。
「ユキナ。自分がもっと強かったらあの人を助けられたとか思ってるでしょ」
僕の隣で海を見ていたミレーヌが僕の心を見透かすような事を言う。
ミレーヌとは幼馴染で恋人だからか僕の考えてる事がわかるのだろう。
だから僕は素直に頷いた。
「ユキナは頑張ったよ。あれ以上の事なんて誰にもできないよ」
そう言ってミレーヌが僕の手を取って優しい微笑みを浮かべてくれた。
「でも助けられなかった。そうだろ?」
「そうだね。ボクもそう思うし悔しいよ。ボクがもっと勇者の力をうまく使えれば。そう思ってる」
ミレーヌだって辛いんだ。
勇者の力を思い通りに使えない事が悔しい。
その気持ちを、弱音を必死に我慢してる。
それをさせたのは僕だ。
僕がしっかりしていればミレーヌだって我慢する必要なんてない。
ミレーヌの瞳から涙が零れると我慢の限界だったのだろう。
僕はミレーヌを抱きしめて腕で彼女の顔を隠す。
波と風の音で誰にも声は聞こえない。
ミレーヌは僕の腕の中で泣き続けた。
「ごめんね。涙で濡らしちゃった」
小一時間くらい泣いてすっきりしたのかミレーヌはそう言って泣き止み微笑んでくれた。
その笑みは空元気なのはわかってたけど僕は騙されたふりをする。
多分ミレーヌもその事に気が付いているのだろう。
「僕は海が好きだな」
海風が僕とミレーヌを吹き抜けていく。
ミレーヌの緑色の美しい髪がふわりと広がっていき風にたなびいた。
その髪を押さえたミレーヌが僕に聞いてくる。
「どうして?」
「うん。とても懐かしい気持ちになるんだ」
前世の僕は身体が弱くて入退院を繰り返していた。
僕が元気になった時、前世の両親はよく海に連れて行ってくれた。
泳ぐことはできないけど打ち寄せる波を見ていると心が落ち着いた。
海辺の旅館でお刺身とか焼き魚とかを食べて、3人で枕を並べて眠った。
僕はとても愛された子供だと思う。
転生した僕の両親も僕を愛してくれているけど前世の両親の事を思い出すのは、僕が病死したあと両親はどうなったのかという事が気がかりだからだ。
きっと悲しんでくれたとおもう。
僕は幸せな子供だった。
僕とミレーヌが海を見てお喋りを楽しんだあと船室へ帰ろうとすると、前から歩いてくる人影が見える。
ジョルジュ船長だった。
彼は僕を見ると話しかけてきた。
全身打撲と疲労で寝込んでいた僕をどうやら心配してくれていたらしい。
そこで僕は自分の身体の状態を話した後、改めてお礼の言葉を述べた。
「すみません。護衛の仕事を3日も休んでしまって」
「何を言う。君たちがいなければこの船も俺たちも全員海の底だよ。聞きたい事があるから少しいいかな?」
そう言ってジョルジュ船長は僕とミレーヌに葉巻を勧めてくれる。
僕は吸わないから丁重に断ると、嫌な顔一つせず笑ってくれた。
そのまま船長室に案内されたので僕は素直についていく。
まさかこのあと、酷い仕打ちが待っているのを僕たちはしらなかった。
船長室に入った僕を確認したジョルジュ船長は部屋の外に他人がいないか念入りに確認した後、鍵をかけて扉を閉めて椅子に座る。
椅子は簡易なもので前世でいうパイプ椅子のような木を使わない金属制の椅子だった。
火事になったら燃えないようにするためだ。
「それで聞きたい事があるとはだ」
そう言ってジョルジュ船長は苦虫を噛み潰したような表情になる。
「俺も船に乗って長いが、今まであんなモンスターに襲われたことは無い。海賊の来襲に備えて航路も変えてあった。それなのになぜ襲われたかだ。あいつはミレーヌの事を勇者だと言っていたがミレーヌは本当に勇者なのか?」
勇者とは世界を救う希望に満ちた光の存在。
そう言われてはいるけど人によってはそれに異議や疑問を持つ人もいるだろう。
僕は返答に困った。
シグレさんかセシルさんなら上手く言い逃れも出来るだろうけど僕には無理だ。
勿論それを察して僕に聞いたのだろう。
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