61 / 103
第9章 勇者と恋人
☆第61話 どんな時でも隣にいるよ。
しおりを挟む(別荘の留守番なんて、そう何日も出来るものではないな。ハリソン様の従者の腰が治ってくれて良かった)
宰相まで上り詰めたハリソンの古くからの部下であるセドリックは独り言ちた。
ハリソンに頭が上がらないのは昔からだが、ノーマンに何の罪も無いことを知っているだけにセドリックの気は滅入っていた。
休みを貰ったが、雨の日に家の中にいても暗く、余計にどんよりしてきたので、セドリックはゆるゆると当てのない散歩に出掛けた。
ふらりと入った公園は、屋根付きのベンチやパラソル付きのテーブルセットなどが所々に置いてあって、こんな雨の日でも照りつける暑い日でも過ごしやすいようになっていた。
小振りなテーブルセットに腰を下ろしたセドリックは、斜め向かいに若くて可愛らしい女の子が3人いることに気付いた。
若くして平民落ちした元子爵令息のセドリックは青春時代の全てを労働と隣国との諍いに費やしてなんとか騎士爵を掴んだが、40も半ばになろうかという今まで恋人に恵まれたことは無かった。
恋とも言えない程の慕情を感じた娘はいたが、セドリックにはどうすることも出来なかった。
後に再び彼女と出会えたが、隠居した貴族の後妻になっていた。
ジャクリーンは隣国との境近くの村の食事処の娘だった。
彼女の両親はジャクリーンを表に出したがらなかったが、長引く諍いで駐屯する兵士は増員していて、どうしても手が足りずジャクリーンも店を手伝っていた。
たちの悪い連中の話はセドリックも耳にしていた。
だが、ある夜、セドリックを見張りに立ててジャクリーンを襲ったのは上司だったハリソンだった。
何もかも終わってから全てを知って崩れ落ちるセドリックに、ハリソンは「お前も共犯だからな」と言った。
平民落ちしたセドリックを拾ってくれたハリソンには逆らえず、セドリックはそのままずっとハリソンの犬だった。
そしてその隣国との諍いで武功を上げたセドリックとハリソンは爵位を賜った。
セドリックは結局騎士爵止まりだったが、ハリソンは元の男爵から子爵になり、侯爵家に婿入りして宰相にまでなった。
その原動力が復讐であることをセドリックは知っていた。
求心力を失いつつあった前国王と、当時は王太子だったレモネルは、起死回生の手段として“辺境伯の子供たち”を使った。
横領や領地での圧政、不当な増税、密輸、それらに阿る者、見逃す者、全てが摘発された。
セドリックの子爵家は密輸グループに追随していたことで取り潰しとなり、王都追放で一家は離散して13だったセドリックは理不尽な思いを堪えながら、住み込みで港の荷運び労働をしていた。
ハリソンの公爵家は男爵落ちで留まれていたが、ハリソン自身が学園での王太子の婚約破棄騒動に巻き込まれていた。
婚約者のオランディーヌ嬢がいるレモネル王太子との親密な関係を装って高位の令息たちを翻弄した男爵令嬢サティに、ハリソンは惹かれていた。
オランディーヌ嬢を誹り、レモネル王太子の失脚を画策したハリソンは、王都追放を命じられたのだ。
なんとしてでも返り咲くことを決意したハリソンは、同じ恨みを持つ仲間を増やしていった。
港で出会ったセドリックとハリソンは兵士に志願して武功を立て、王都に舞い戻ることを誓い合ったのだった。
(ハリソン様に恩義は感じているが、ジャクリーンのことを思うと……ん?あの子が着けているペンダントは…ジャクリーンに娘がいると聞いて居ても立ってもいられずに贈ってしまった物と似て…いや、メイベルに贈ったのと同じ物だ。あの子のブレスレットも、あの子の髪飾りも…!こんな偶然があるか?まさか…)
“辺境伯の子供たち”を撲滅したいハリソンは、マイラー・ネルソンの屋敷が“表”の施設であることを突き止めて、行商人を装ったセドリックに偵察に行かせた。
その先でセドリックは期せずしてジャクリーンと出会い、拾い聞きした会話からメイベルという娘がいることを知ったのだった。
視力がとても良いセドリックは、3人組の女の子たちが身に着けているアクセサリーに見覚えがあった。
見知らぬ娘にジャクリーンを重ねて選び抜いたのだから見違えることはなかった。
(待ち合わせか?あの男の子たちか。1人は保護者か?どういうグループなんだ?)
セドリックは6人の後を追って、馴染みの無いカフェに入った。
近付こうとしたが入り口近くの1人用の席に通されたセドリックは、よく分からないメニューを適当に選んで食べた。
6人は盛り上がっていてデザートまで頼んでいるようだったので、間が持たなくなったセドリックは店を出て6人を待って、後を尾行した。
(バラバラのペースで歩いているが、どうやら同じ所に向かっているみたいだな。え?…この先は確かドルトレッド伯爵の…もしかしてあの男の子たちのどちらかがフレッドなのか?…だとしたらあの金髪の小柄なほうだな)
ゆっくり歩いていた最後の女の子が屋敷に入るまで見送ったセドリックは、5人しか屋敷に入っていないことに気付かないまま、踵を返した。
逆に自分が尾行されていることにも気付かずに。
宰相まで上り詰めたハリソンの古くからの部下であるセドリックは独り言ちた。
ハリソンに頭が上がらないのは昔からだが、ノーマンに何の罪も無いことを知っているだけにセドリックの気は滅入っていた。
休みを貰ったが、雨の日に家の中にいても暗く、余計にどんよりしてきたので、セドリックはゆるゆると当てのない散歩に出掛けた。
ふらりと入った公園は、屋根付きのベンチやパラソル付きのテーブルセットなどが所々に置いてあって、こんな雨の日でも照りつける暑い日でも過ごしやすいようになっていた。
小振りなテーブルセットに腰を下ろしたセドリックは、斜め向かいに若くて可愛らしい女の子が3人いることに気付いた。
若くして平民落ちした元子爵令息のセドリックは青春時代の全てを労働と隣国との諍いに費やしてなんとか騎士爵を掴んだが、40も半ばになろうかという今まで恋人に恵まれたことは無かった。
恋とも言えない程の慕情を感じた娘はいたが、セドリックにはどうすることも出来なかった。
後に再び彼女と出会えたが、隠居した貴族の後妻になっていた。
ジャクリーンは隣国との境近くの村の食事処の娘だった。
彼女の両親はジャクリーンを表に出したがらなかったが、長引く諍いで駐屯する兵士は増員していて、どうしても手が足りずジャクリーンも店を手伝っていた。
たちの悪い連中の話はセドリックも耳にしていた。
だが、ある夜、セドリックを見張りに立ててジャクリーンを襲ったのは上司だったハリソンだった。
何もかも終わってから全てを知って崩れ落ちるセドリックに、ハリソンは「お前も共犯だからな」と言った。
平民落ちしたセドリックを拾ってくれたハリソンには逆らえず、セドリックはそのままずっとハリソンの犬だった。
そしてその隣国との諍いで武功を上げたセドリックとハリソンは爵位を賜った。
セドリックは結局騎士爵止まりだったが、ハリソンは元の男爵から子爵になり、侯爵家に婿入りして宰相にまでなった。
その原動力が復讐であることをセドリックは知っていた。
求心力を失いつつあった前国王と、当時は王太子だったレモネルは、起死回生の手段として“辺境伯の子供たち”を使った。
横領や領地での圧政、不当な増税、密輸、それらに阿る者、見逃す者、全てが摘発された。
セドリックの子爵家は密輸グループに追随していたことで取り潰しとなり、王都追放で一家は離散して13だったセドリックは理不尽な思いを堪えながら、住み込みで港の荷運び労働をしていた。
ハリソンの公爵家は男爵落ちで留まれていたが、ハリソン自身が学園での王太子の婚約破棄騒動に巻き込まれていた。
婚約者のオランディーヌ嬢がいるレモネル王太子との親密な関係を装って高位の令息たちを翻弄した男爵令嬢サティに、ハリソンは惹かれていた。
オランディーヌ嬢を誹り、レモネル王太子の失脚を画策したハリソンは、王都追放を命じられたのだ。
なんとしてでも返り咲くことを決意したハリソンは、同じ恨みを持つ仲間を増やしていった。
港で出会ったセドリックとハリソンは兵士に志願して武功を立て、王都に舞い戻ることを誓い合ったのだった。
(ハリソン様に恩義は感じているが、ジャクリーンのことを思うと……ん?あの子が着けているペンダントは…ジャクリーンに娘がいると聞いて居ても立ってもいられずに贈ってしまった物と似て…いや、メイベルに贈ったのと同じ物だ。あの子のブレスレットも、あの子の髪飾りも…!こんな偶然があるか?まさか…)
“辺境伯の子供たち”を撲滅したいハリソンは、マイラー・ネルソンの屋敷が“表”の施設であることを突き止めて、行商人を装ったセドリックに偵察に行かせた。
その先でセドリックは期せずしてジャクリーンと出会い、拾い聞きした会話からメイベルという娘がいることを知ったのだった。
視力がとても良いセドリックは、3人組の女の子たちが身に着けているアクセサリーに見覚えがあった。
見知らぬ娘にジャクリーンを重ねて選び抜いたのだから見違えることはなかった。
(待ち合わせか?あの男の子たちか。1人は保護者か?どういうグループなんだ?)
セドリックは6人の後を追って、馴染みの無いカフェに入った。
近付こうとしたが入り口近くの1人用の席に通されたセドリックは、よく分からないメニューを適当に選んで食べた。
6人は盛り上がっていてデザートまで頼んでいるようだったので、間が持たなくなったセドリックは店を出て6人を待って、後を尾行した。
(バラバラのペースで歩いているが、どうやら同じ所に向かっているみたいだな。え?…この先は確かドルトレッド伯爵の…もしかしてあの男の子たちのどちらかがフレッドなのか?…だとしたらあの金髪の小柄なほうだな)
ゆっくり歩いていた最後の女の子が屋敷に入るまで見送ったセドリックは、5人しか屋敷に入っていないことに気付かないまま、踵を返した。
逆に自分が尾行されていることにも気付かずに。
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる