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第8章 勇者ミレーヌ
第55話 愛しい娘の守りびと
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第55話 愛しい娘の守りびと
(私の愛しい娘を守ってくれる勇気のある男の子。私の声が聞こえますか?)
苦痛に歪んでいた僕の脳裏にミレーヌにそっくりな大人の女性が浮かぶ。
背中に天使の羽根を付けた女性はミレーヌと同じ笑みを浮かべていた。
直接会った事は無いけれど、僕はその女性がミレーヌのお母さん。
勇者マリータだとわかった。
(あなたはミレーヌのお母さんですか?)
(はい私はマリータです。私の娘を想ってくれている男の子。ユキナと言うのですね)
(どうして僕の名前を知っているんですか?)
(それはミレーヌが最も愛する人の名前だからですよ。いつもミレーヌを傍で支えてくれてありがとう)
そう言うとマリータさんが光の粒子となって僕とミレーヌを包み込む。
そしてミレーヌを掴んだ手から凄まじいエナジーが送り込まれてきた。
(この力はなんですか?)
(ミレーヌの力は愛する人と共にいないと発揮できません。それが出来るのは世界でたった一人、ユキナさんだけなのです。今からミレーヌの手を通して勇者の力をユキナさんに送ります。短時間だけですがユキナさんにも勇者の力が与えられます)
マリータさんの言葉のとおりに僕の身体が光り輝いた。
僕の身体が青色の光で輝きミレーヌのような羽根が生えていた。
大魔導士ベスパルが僕の姿を見て恐れおののく。
「なんだと!?貴様も勇者だというのか!?」
「僕は勇者じゃない。僕は勇者ミレーヌと共に生き歩み導く唯一の者だ」
そう言って僕は片手で身体を支えて尖塔の壁を上る。
尖塔の中で僕は大魔導士ベスパルと対峙した。
僕はミレーヌを抱きしめて頬にキスしたあとミレーヌを横たえる。
「よくもミレーヌを傷つけてくれたな!!」
「ぬかせ!!まがい物の勇者よ!!貴様ごとその小娘も始末してくれるわ!!」
そう叫びながら大魔導士ベスパルは漆黒の色をした水晶の器を取り出した。
禍々しい闇の力を封じた水晶を地面に叩きつけるとベスパルの身体に闇が吸収される。
「この街で集めた恨み、呪い、苦しみ、嘆き、あらゆる負の思念を凝縮した闇の水晶だ。貴様が勇者だというならこの闇を浄化してみよ!!」
そう言ってベスパルの身体が膨張し巨大化していく。
その身体は漆黒の闇で出来ていてあらゆる怨念の集合体だとわかった。
常人なら見ただけで発狂し狂い死にするほどの闇。
この闇に取り込まれた人間はベスパルの操り人形となる。
ベスパルはこの闇で兵士を操り内乱状態にしたのだ。
その恐ろしさに僕は後ずさりしそうになる。
(ユキナさん負けては駄目!!勇者の力は光の力。闇を照らし浄化できるのは貴方だけなのよ!!)
挫けそうになった僕の心にマリータさんの叫び声が聞こえる。
ベスパルが取り込んだのは闇の力。
これほどまでに人の悪意を集めれば人々が邪悪になるのは当然だろう。
「大魔導士ベスパル。お前の悪行と不幸を僕が切り裂く!!」
僕の身体に勇者マリータと勇者ミレーヌの力が流れ込み両手に光が集まった。
その光を集めて一本の剣と成す。
僕は光の剣を手に巨大化した大魔導士ベスパルへと向かい飛翔する。
「うおおおおっ!!」
「死ね小僧!!」
大魔導士ベスパルの身体から漆黒の闇が具現化した槍が触手のように現れ、僕の身体を引き裂こうとする。
僕はその槍をかわしながらベスパルの心臓。
この街全ての怨念の塊へ剣を向ける。
僕の身体を10本以上の槍が貫くのと光の剣がベスパルの心臓を切り裂いたのはほぼ同時だった。
「ぐああああっ!!馬鹿な!!これだけの怨念を浄化するとは!!貴様何者だ!!」
「言っただろう!!僕は勇者ミレーヌと共に生き歩み導く唯一の者だ!!」
ベスパルの断末魔の叫びと共に僕の身体が落ちていく。
全身を闇の槍で貫かれて光の加護を失ったのだとわかった。
落下する僕の身体を光の粒子が優しく包みこみ傷を癒してくれる。
マリータさんが抱きしめてくれていた。
(ユキナ。勇者として旅立つ娘ですがどうかよろしくお願いいたします)
(わかりましたマリータさん。ミレーヌは僕が必ず守り抜きます)
(ありがとうユキナ。私がいなくなってもミレーヌにはあなたがいます。あなたの存在がミレーヌの力になります。闇の力に負けないで。全ての人々を光の下に導いてください)
そう言うとマリータさんが僕に微笑んだまま光の粒子となって消えていった。
◆◆◆
「ユキナっ!!ユキナっ!!ユキナ!!目を開けてよ死んじゃやだ!!ボクを一人にしないで!!」
うっすらと目を開けると目の前に涙で顔をぐしゃぐしゃにしたミレーヌがいた。
あの戦いの後どのくらい経ったのだろうか?
仰向けになって倒れたまでは覚えている。
僕が目を覚ますとミレーヌが僕の身体を支えてくれていた。
いつの間にか緑色の光は消えていて勇者になる前のミレーヌの姿に戻っている。
「ミレーヌ怪我してないみたいだね。良かったよ」
「ユキナの馬鹿!!ボクの事より自分の身体の心配してよ!!」
ミレーヌの言う通り僕の身体は満身創痍だった。
闇の槍で貫かれた傷は塞がっていたけど完全な治癒には至らず激痛が走っている。
左腕は骨折しているのか動かない。
右目も霞んでいて視界がぼやけている。
それでも僕はミレーヌの無事な姿を見て心の底から安堵した。
僕は右手でミレーヌの涙を拭いながら微笑みかける。
「僕格好悪いな。これじゃ恋人失格だってマリータさんに笑われそうだよ」
「そんな事無い。ボクのお母さんだってきっと喜んでくれるよ」
ミレーヌはそう言って僕に微笑んでくれた。
その微笑みだけで心が満たされる。
僕がこの世界で一番大切な笑顔だ。
「マリータさんとお話はできた?」
「うん。もう助けてあげる事はできないけどユキナと一緒ならどんな苦難も必ず乗り越えられるって言ってた。あとユキナに伝言」
「伝言?」
「私の愛しい娘をよろしくお願いしますって伝えておいてって」
「…照れるね」
「うん。照れるよね」
そう言って二人で笑いあう。
「あ~いい雰囲気のとこすまないけどさ。いい加減降りてこないと危ないよ~。多分そこ崩れるんじゃないかな」
尖塔の下に続く階段からセシルさんの声がする。
僕とミレーヌは顔を見合わせて立ち上がった。
骨折して動かない左腕をミレーヌに支えて貰いながらミレーヌと一緒に階段を下りていく。
これからもこうやって二人で支えあって生きていくんだ。
それが僕たちが選んだ未来なのだから。
(私の愛しい娘を守ってくれる勇気のある男の子。私の声が聞こえますか?)
苦痛に歪んでいた僕の脳裏にミレーヌにそっくりな大人の女性が浮かぶ。
背中に天使の羽根を付けた女性はミレーヌと同じ笑みを浮かべていた。
直接会った事は無いけれど、僕はその女性がミレーヌのお母さん。
勇者マリータだとわかった。
(あなたはミレーヌのお母さんですか?)
(はい私はマリータです。私の娘を想ってくれている男の子。ユキナと言うのですね)
(どうして僕の名前を知っているんですか?)
(それはミレーヌが最も愛する人の名前だからですよ。いつもミレーヌを傍で支えてくれてありがとう)
そう言うとマリータさんが光の粒子となって僕とミレーヌを包み込む。
そしてミレーヌを掴んだ手から凄まじいエナジーが送り込まれてきた。
(この力はなんですか?)
(ミレーヌの力は愛する人と共にいないと発揮できません。それが出来るのは世界でたった一人、ユキナさんだけなのです。今からミレーヌの手を通して勇者の力をユキナさんに送ります。短時間だけですがユキナさんにも勇者の力が与えられます)
マリータさんの言葉のとおりに僕の身体が光り輝いた。
僕の身体が青色の光で輝きミレーヌのような羽根が生えていた。
大魔導士ベスパルが僕の姿を見て恐れおののく。
「なんだと!?貴様も勇者だというのか!?」
「僕は勇者じゃない。僕は勇者ミレーヌと共に生き歩み導く唯一の者だ」
そう言って僕は片手で身体を支えて尖塔の壁を上る。
尖塔の中で僕は大魔導士ベスパルと対峙した。
僕はミレーヌを抱きしめて頬にキスしたあとミレーヌを横たえる。
「よくもミレーヌを傷つけてくれたな!!」
「ぬかせ!!まがい物の勇者よ!!貴様ごとその小娘も始末してくれるわ!!」
そう叫びながら大魔導士ベスパルは漆黒の色をした水晶の器を取り出した。
禍々しい闇の力を封じた水晶を地面に叩きつけるとベスパルの身体に闇が吸収される。
「この街で集めた恨み、呪い、苦しみ、嘆き、あらゆる負の思念を凝縮した闇の水晶だ。貴様が勇者だというならこの闇を浄化してみよ!!」
そう言ってベスパルの身体が膨張し巨大化していく。
その身体は漆黒の闇で出来ていてあらゆる怨念の集合体だとわかった。
常人なら見ただけで発狂し狂い死にするほどの闇。
この闇に取り込まれた人間はベスパルの操り人形となる。
ベスパルはこの闇で兵士を操り内乱状態にしたのだ。
その恐ろしさに僕は後ずさりしそうになる。
(ユキナさん負けては駄目!!勇者の力は光の力。闇を照らし浄化できるのは貴方だけなのよ!!)
挫けそうになった僕の心にマリータさんの叫び声が聞こえる。
ベスパルが取り込んだのは闇の力。
これほどまでに人の悪意を集めれば人々が邪悪になるのは当然だろう。
「大魔導士ベスパル。お前の悪行と不幸を僕が切り裂く!!」
僕の身体に勇者マリータと勇者ミレーヌの力が流れ込み両手に光が集まった。
その光を集めて一本の剣と成す。
僕は光の剣を手に巨大化した大魔導士ベスパルへと向かい飛翔する。
「うおおおおっ!!」
「死ね小僧!!」
大魔導士ベスパルの身体から漆黒の闇が具現化した槍が触手のように現れ、僕の身体を引き裂こうとする。
僕はその槍をかわしながらベスパルの心臓。
この街全ての怨念の塊へ剣を向ける。
僕の身体を10本以上の槍が貫くのと光の剣がベスパルの心臓を切り裂いたのはほぼ同時だった。
「ぐああああっ!!馬鹿な!!これだけの怨念を浄化するとは!!貴様何者だ!!」
「言っただろう!!僕は勇者ミレーヌと共に生き歩み導く唯一の者だ!!」
ベスパルの断末魔の叫びと共に僕の身体が落ちていく。
全身を闇の槍で貫かれて光の加護を失ったのだとわかった。
落下する僕の身体を光の粒子が優しく包みこみ傷を癒してくれる。
マリータさんが抱きしめてくれていた。
(ユキナ。勇者として旅立つ娘ですがどうかよろしくお願いいたします)
(わかりましたマリータさん。ミレーヌは僕が必ず守り抜きます)
(ありがとうユキナ。私がいなくなってもミレーヌにはあなたがいます。あなたの存在がミレーヌの力になります。闇の力に負けないで。全ての人々を光の下に導いてください)
そう言うとマリータさんが僕に微笑んだまま光の粒子となって消えていった。
◆◆◆
「ユキナっ!!ユキナっ!!ユキナ!!目を開けてよ死んじゃやだ!!ボクを一人にしないで!!」
うっすらと目を開けると目の前に涙で顔をぐしゃぐしゃにしたミレーヌがいた。
あの戦いの後どのくらい経ったのだろうか?
仰向けになって倒れたまでは覚えている。
僕が目を覚ますとミレーヌが僕の身体を支えてくれていた。
いつの間にか緑色の光は消えていて勇者になる前のミレーヌの姿に戻っている。
「ミレーヌ怪我してないみたいだね。良かったよ」
「ユキナの馬鹿!!ボクの事より自分の身体の心配してよ!!」
ミレーヌの言う通り僕の身体は満身創痍だった。
闇の槍で貫かれた傷は塞がっていたけど完全な治癒には至らず激痛が走っている。
左腕は骨折しているのか動かない。
右目も霞んでいて視界がぼやけている。
それでも僕はミレーヌの無事な姿を見て心の底から安堵した。
僕は右手でミレーヌの涙を拭いながら微笑みかける。
「僕格好悪いな。これじゃ恋人失格だってマリータさんに笑われそうだよ」
「そんな事無い。ボクのお母さんだってきっと喜んでくれるよ」
ミレーヌはそう言って僕に微笑んでくれた。
その微笑みだけで心が満たされる。
僕がこの世界で一番大切な笑顔だ。
「マリータさんとお話はできた?」
「うん。もう助けてあげる事はできないけどユキナと一緒ならどんな苦難も必ず乗り越えられるって言ってた。あとユキナに伝言」
「伝言?」
「私の愛しい娘をよろしくお願いしますって伝えておいてって」
「…照れるね」
「うん。照れるよね」
そう言って二人で笑いあう。
「あ~いい雰囲気のとこすまないけどさ。いい加減降りてこないと危ないよ~。多分そこ崩れるんじゃないかな」
尖塔の下に続く階段からセシルさんの声がする。
僕とミレーヌは顔を見合わせて立ち上がった。
骨折して動かない左腕をミレーヌに支えて貰いながらミレーヌと一緒に階段を下りていく。
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