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第7章 オーガの罠

第46話 墓掘り人夫の正体。

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第46話 墓掘り人夫の正体。
 
 ゴブリンの洞窟から飛行の魔法で一時間もかからずにホレ村に到着した。
 早速シムさんを探そうと広場に向かうが空から飛んできた僕達を見ていたのだろう。
 シムさんと数人の村人が広場に集まっていた。
 
 「いったいなんじゃあの魔法は?あんたら何者じゃ?」
 
 人が飛ぶところなんて見たことが無いし僕も空を飛んだのは初めての経験だった。
 本当はもっと感慨深く空を飛んだ感想を語る所だけどそんな余裕は無い。
 
 「僕達はただの冒険者です。それより大変な事がおこってるんですよ!!」
 
 シムさんの質問を遮って僕は事情を説明する事にした。
 
 「この村で疫病で死んだ人は何人ですか?」
 
 「昨日また一人死んで10人じゃ」
 
 「その人は埋葬されたんですね。土葬ですか?」
 
 「うむ。疫病が流行ってるから火葬にしたいが薪が足りないんじゃ」
 
 森にオーガが出没するから薪を取りに行けない。
 つまり病死した村人は土葬で葬るしかない。
 もしオーガが森で発見されていななければ薪を使って火葬にしたはずだ。
 
 これで全てが繋がった。
 
 オーガはわざと自分から村人に姿を見せたのだ。
 オーガがいれば薪を取りに行けないから、疫病の死者は墓地に埋めるしかない。
 つまり食べごろの人間の死体が墓に貯蔵されるという事になる。
 この村はオーガやゴブリンにとって精肉工場だったんだ。
 
 「どうしたんじゃ難しい顔をして」
 
 これをシムさんにどうやって説明しよう。
 説明して納得してもらえればいいが、どちらにせよこの一件にオーガが関係している事は確かだ。
 それに説明を聞いてもらえたとして病気が収まらなければ土葬される遺体が増える。
 まずは病気をなんとかしないと。
 
 流行り病というと大体水が影響している。
 ここは異世界フォーチュリアだから前世の常識が通用するかはわからない。
 でも一つずつ可能性は潰していこう。
 
 「流行り病にオーガが関係している可能性があります。水場を見せてもらえませんか?」
 
 「耕作と洗濯の水は沢から引いておる。飲み水は井戸を使っておるが」

 「では井戸をお願いします」
 
 まず疑うのは飲み水からだ。
 早速広場にある井戸へと案内してもらった。
 井戸水を汲んで見るが濁りや嫌な臭いはしない。
 
 「この水はそのまま飲んでいますか?」

 「いや普段は煮沸して飲んでおる。しかし最近薪が足りないのでそのまま飲んでおる」

 煮沸とは火で加熱して一旦湯にして飲むという方法。
 沸騰させる事で病原菌や虫などを殺す事ができる。
 普段は薪を使って煮沸してから飲むという事は病原菌なり虫などがいるのだろう。
 ここでも薪が無い事が影響している。
 
 だけどすぐに病気が発生するほど悪い水だろうか?
 煮沸しないと飲めないとはいえギルドに依頼があった日から逆算して、今日でまだ2週間くらいしか経っていない。
 村の薪がすぐに無くなるとは思えない。
 病気になるには早すぎる。
 
 僕がそう考えていると横からクヌートが井戸水を覗き込んだ。
 そして顔を曇らせると僕の袖を引っ張ってシムさんやミレーヌ達と離れていく。
 僕とクヌートの事をミレーヌ達が不思議そうな顔で見ていた。
 
 「どうしたのクヌート?」

 「あの井戸水には魔の毒素を吐き出す魔法の微生物が含まれていて、あの水を飲めばすぐ病気になる。自然界には発生しない生物だから誰かが混入させたと見るべきだろう。」
 
 「それはわかったけど、どうしてみんなの前で言わないの?」

 「ハーフエルフの言葉を人間が聞き入れると思うか?」
 
 「僕だって人間だよ?」

 「ユキナはハーフエルフってだけで俺とフェリシアを差別しない変わり者だからな」
 
 それは褒められているのだろうか?
 そもそもハーフエルフが生まれながらに悪い人々だなんて僕には思えない。
 僕がフレーベルの街で借りている宿で働いているミリアちゃんだって、仕事で得た少ない給金を使って勉強に励んでいる。
 全員がミリアちゃんみたいに勤勉ではないかもしれないが、ハーフエルフへの扱いが不当すぎて犯罪者にしてしまう面があると思う。

 「だとすると村人の誰かがオーガに殺されていて、その被害者にオーガが化けていると思っていいのかな?」

 「そう考えていいと思う。問題は誰がオーガに取って代わられているかだな」
 
 オーガは殺した人間の心臓を喰らう事でその人間に化ける事が出来る。
 オーガが化けた人物は普段と違った活動をする事がある。
 オーガは変身を24時間維持する事は出来ない。
 必ず変身が解ける時間があるので誰にも目を付けられない状態が好ましい。
 
 これから考えるとほぼ一日農作業を行う農民は不適切だ。
 オーガは農作業などしないし、したとしても熟練の農民と同じ動きはできない。
 農作業は早朝から夜まで行われるから化け続けるのは無理だろう。
 誰にも目を付けられない状態。
 老人や浮浪者など世間からは隔絶した人物が良い。
 
 「村の人を全員広場に集めて貰っていいですか?」
 
 「どうしてだい?」
 
 僕のお願いにシムさんが当然の質問をする。
 迷ったけど僕には上手く嘘を付く演技力は無いから正直に言う方がいい。
 
 「もしかしたら村人の中に魔物がいるかもしれないからです」
 
 広場にいたシムさん達がざわめいた。
 いきなり何を言い出すんだろうという顔だ。
 それはそうだろうと思う。
 だけどゴブリンの洞窟で何があったのか説明するだけでは信じて貰えない。
 村の皆の前でオーガの正体を暴くのが一番早い。
 
 僕の言葉に半信半疑ながら村人が集まってきた。
 200人以上いるので一人ずつ調べて行くのは骨がかかる。
 そう思っていた時クヌートが僕に耳打ちする。
 
 「俺なら簡単に見つけられる」
 
 「でも200人以上いるよ。どうするの?」

 「魔法を使う。まず邪悪な考えを持つ者を選別しよう」
 
 オーガやゴブリンは邪悪な思考を持っている。
 人間にも自己中心的や他人を傷つけても平気な人間はある一定の人数はいるが、殆どの人間は邪悪というほどじゃない。
 クヌートが全員を横一列に並ぶように言うと嫌々ながら皆は横一列にならんだ。
 全員が横一列に並んだのを確認して村人全員に魔法をかける。
 自分の視界に入った人間の敵意を察知する魔法らしい。
 
 「我に敵意を持つ者、汝の魂を示せ。センス・エネミー」
 
 クヌートが呪文と共に印を結ぶと村人全員に光が吸い込まれる。
 殆どの村人には変化が無かったが数人の村人の身体から黒い霧が発生した。
 
 「今黒い霧が出た人は前に出てください」
 
 そう言った瞬間一人の男が列から飛び出すと墓掘り用の大型のショベルスコップを手に襲い掛かってきた!!
 僕は剣を抜いてクヌートを庇う。
 男は身体の大きさから見てかなり鍛えられている。
 墓掘り人夫は一見すると人間にしか見えなかったが、フェリシアがすかさず印を結び魔法を唱えた。
 
 「心を司る闇の精霊。汝の恐れる姿を成せ!!フィア!!」
 
 フェリシアが対象に恐怖を感じさせる精霊魔法を唱えた瞬間、墓掘り人夫が頭を押えて苦しみだした。
 彼の頭の中では精神に異常をきたす程の恐怖が渦巻いている。
 つまり精神集中が途切れる。
 精神集中が途切れた墓掘り人夫は苦しみながらその正体を現した。
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