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第6章 ハーフエルフの兄妹
第38話 フェリシアの吐露。
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第38話 フェリシアの吐露。
僕とミレーヌとフェリシアは食後のお茶を飲みながら話を続ける。
クヌートと違いフェリシアは人と話すのが好きなようだ。
「クヌート兄さまは私の為にエルフや人間への警戒心が強いのです」
そう言って紅茶の入ったカップを口にするフェリシア。
紅茶の入ったカップと言っても陶器製ではなく木製のカップだ。
陶器の中でもに白磁は貴族でもないと所持できないくらい高価な輸入品で、庶民は粘土を焼いただけの代物に白い塗料を塗って使っていたりする。
フレーベル王家の科学者や技術者がしのぎを削って白磁の製法を解明し、模造品を作るまでは成功したが高度な美術的要素は未完成だ。
科学技術と美術は似ているようで異なり本物にはまだ及ばない。
「ハーフエルフがどのようにして生まれるかご存じでしょうか?」
「……ボクは人間とエルフの間に生まれた子供だと聞いています」
ハーフエルフは呪われた種族で望まれて生まれる事は少ない。
エルフの中で知識欲旺盛な変わり者が故郷の森を出て人間と暮らす事はあるがほんの一握りだけ。
美しいエルフは娼婦にうってつけなので、人間に捕らえられ人間の男にレイプされたエルフが身ごもる事がある。
エルフは気高い種族で自分から望んで下賤な人間と交わる事はほぼない。
あったとしてもそれは故郷の森に戻れない事を意味する。
ミレーヌはそれを知っているから黙り込む。
女性がレイプという言葉を使いたくないのは当然だろう。
「私たち兄妹の母は人間のいる世界に興味があって森から出てレイプされたのです。人間は美しいエルフを所持したがるもの。その事を母は知りませんでした」
安全な森の中で生まれ育ったエルフは警戒心が弱い。
騙す事に長けた人間の奴隷商人にとって格好の獲物だったに違いない。
同じ人間の男として申し訳ない気がする。
「私たちを身ごもった母はなんとか逃亡に成功し故郷に戻りましたが、そこで待っていたのは激しい蔑視と差別でした」
そう言ってフェリシアは俯く。
こういう時自分から話を急かす事はしない。
僕はティカの入ったカップに口づけてフェリシアの言葉の続きを待つ。
「母は私たちを堕胎することなく生んでくれました。いえ産まざるを得なかった。もう堕胎するには遅すぎたからです。ですが望まれず生まれた私たちはエルフの森では邪魔者扱いされ、母にはあからさまに避けられました。エルフが禁忌にしている肉を食べるという行為も嫌悪された理由でした」
僕もミレーヌも両親に望まれ祝福されて生まれて来た。
恵まれた僕達がクヌートとフェリシアの言葉の意味を完全に理解する事はできないだろう。
「そんな私たちは成長した後、森から追放されました。不思議と寂しくは無かったです。人間の世界に入った当初も乞食をしたり酒場の下働きをしたりして日々の糧を得ました。そんな私たちを引き取ってくれた孤児院を運営する老魔術師の元で文字を学び魔法を習得しました。その老魔術師が冒険者になりなさいと言ったのです。ハーフエルフが差別なく生きていくには冒険者になるしかないと」
そう言ってフェリシアは小さな魔法の杖、ワンドと呼ばれる杖を見せてくれた。
ワンドの先には赤い宝玉が取り付けられていた。
「ハーフエルフはウィザードになれる唯一の種族。その魔法の力を生かすのは冒険者だけ。冒険者になれば好奇と憐憫の中でも生きていける。それだけが唯一の道だと」
そう言ってフェリシアは杖を優しく撫でた。
魔法使いは修業を終わると師匠から魔法の杖を送られると聞いたことがある。
その杖は見るからに高価で老魔術師がどれだけクヌートとフェリシアを大切に育ててくれたかわかる。
「冒険者になっても私たちを待っていたのは好奇と憐憫。ですが必要とされる。それが私と兄さまを支えてくれているのです」
「どうして僕達にそんな話をするんですか?」
ほぼ初対面の僕とミレーヌにそんな話をする理由がわからない。
僕にハーフエルフを憐れに思う心が無いと言えば嘘になるし物珍しいのも本音だ。
あからさまに差別はしないが自分の心が善意で無い事くらいはわかる。
「ユキナとミレーヌの心を映し出す精霊が老魔術師と同じだからです。あなた達二人は私と兄さまを受け入れてくれる。それが見えるのです」
それは買い被りすぎな気がするがエルフは精霊魔術に長けた種族なのでそう見えるのかもしれない。
僕に限って言えば前世は病院のベッドで憐れみの視線をずっと感じていた事が大きいと思う。
前世で僕を産んでくれた両親が、僕を慈しみながら葛藤していたのを僕はよく知っている。
「クヌート兄さまにもそれが見えている。だから慎重になっているのです。兄さまはユキナとミレーヌを信じていいのか戸惑っている。ですから兄さまの事を許してください。兄さまは私が傷つくのをもう見たくないだけなのです」
「わかりましたと安請け合いは出来ません。ですが僕はフェリシアとクヌートを大切な仲間だと思っています」
「ボクもだよ。フェリシアの事全部はわからないけどボクとユキナは大切な仲間だって思ってる」
「ありがとうございます。二人に話してすっきりしました。私もユキナとミレーヌの事を大切な仲間だと信じます」
そう言ってフェリシアはぎこちなく微笑んでくれた。
いつかクヌートとも仲間の絆を結ぶことができるのだろうか。
僕はそうなる事を願っていた。
僕とミレーヌとフェリシアは食後のお茶を飲みながら話を続ける。
クヌートと違いフェリシアは人と話すのが好きなようだ。
「クヌート兄さまは私の為にエルフや人間への警戒心が強いのです」
そう言って紅茶の入ったカップを口にするフェリシア。
紅茶の入ったカップと言っても陶器製ではなく木製のカップだ。
陶器の中でもに白磁は貴族でもないと所持できないくらい高価な輸入品で、庶民は粘土を焼いただけの代物に白い塗料を塗って使っていたりする。
フレーベル王家の科学者や技術者がしのぎを削って白磁の製法を解明し、模造品を作るまでは成功したが高度な美術的要素は未完成だ。
科学技術と美術は似ているようで異なり本物にはまだ及ばない。
「ハーフエルフがどのようにして生まれるかご存じでしょうか?」
「……ボクは人間とエルフの間に生まれた子供だと聞いています」
ハーフエルフは呪われた種族で望まれて生まれる事は少ない。
エルフの中で知識欲旺盛な変わり者が故郷の森を出て人間と暮らす事はあるがほんの一握りだけ。
美しいエルフは娼婦にうってつけなので、人間に捕らえられ人間の男にレイプされたエルフが身ごもる事がある。
エルフは気高い種族で自分から望んで下賤な人間と交わる事はほぼない。
あったとしてもそれは故郷の森に戻れない事を意味する。
ミレーヌはそれを知っているから黙り込む。
女性がレイプという言葉を使いたくないのは当然だろう。
「私たち兄妹の母は人間のいる世界に興味があって森から出てレイプされたのです。人間は美しいエルフを所持したがるもの。その事を母は知りませんでした」
安全な森の中で生まれ育ったエルフは警戒心が弱い。
騙す事に長けた人間の奴隷商人にとって格好の獲物だったに違いない。
同じ人間の男として申し訳ない気がする。
「私たちを身ごもった母はなんとか逃亡に成功し故郷に戻りましたが、そこで待っていたのは激しい蔑視と差別でした」
そう言ってフェリシアは俯く。
こういう時自分から話を急かす事はしない。
僕はティカの入ったカップに口づけてフェリシアの言葉の続きを待つ。
「母は私たちを堕胎することなく生んでくれました。いえ産まざるを得なかった。もう堕胎するには遅すぎたからです。ですが望まれず生まれた私たちはエルフの森では邪魔者扱いされ、母にはあからさまに避けられました。エルフが禁忌にしている肉を食べるという行為も嫌悪された理由でした」
僕もミレーヌも両親に望まれ祝福されて生まれて来た。
恵まれた僕達がクヌートとフェリシアの言葉の意味を完全に理解する事はできないだろう。
「そんな私たちは成長した後、森から追放されました。不思議と寂しくは無かったです。人間の世界に入った当初も乞食をしたり酒場の下働きをしたりして日々の糧を得ました。そんな私たちを引き取ってくれた孤児院を運営する老魔術師の元で文字を学び魔法を習得しました。その老魔術師が冒険者になりなさいと言ったのです。ハーフエルフが差別なく生きていくには冒険者になるしかないと」
そう言ってフェリシアは小さな魔法の杖、ワンドと呼ばれる杖を見せてくれた。
ワンドの先には赤い宝玉が取り付けられていた。
「ハーフエルフはウィザードになれる唯一の種族。その魔法の力を生かすのは冒険者だけ。冒険者になれば好奇と憐憫の中でも生きていける。それだけが唯一の道だと」
そう言ってフェリシアは杖を優しく撫でた。
魔法使いは修業を終わると師匠から魔法の杖を送られると聞いたことがある。
その杖は見るからに高価で老魔術師がどれだけクヌートとフェリシアを大切に育ててくれたかわかる。
「冒険者になっても私たちを待っていたのは好奇と憐憫。ですが必要とされる。それが私と兄さまを支えてくれているのです」
「どうして僕達にそんな話をするんですか?」
ほぼ初対面の僕とミレーヌにそんな話をする理由がわからない。
僕にハーフエルフを憐れに思う心が無いと言えば嘘になるし物珍しいのも本音だ。
あからさまに差別はしないが自分の心が善意で無い事くらいはわかる。
「ユキナとミレーヌの心を映し出す精霊が老魔術師と同じだからです。あなた達二人は私と兄さまを受け入れてくれる。それが見えるのです」
それは買い被りすぎな気がするがエルフは精霊魔術に長けた種族なのでそう見えるのかもしれない。
僕に限って言えば前世は病院のベッドで憐れみの視線をずっと感じていた事が大きいと思う。
前世で僕を産んでくれた両親が、僕を慈しみながら葛藤していたのを僕はよく知っている。
「クヌート兄さまにもそれが見えている。だから慎重になっているのです。兄さまはユキナとミレーヌを信じていいのか戸惑っている。ですから兄さまの事を許してください。兄さまは私が傷つくのをもう見たくないだけなのです」
「わかりましたと安請け合いは出来ません。ですが僕はフェリシアとクヌートを大切な仲間だと思っています」
「ボクもだよ。フェリシアの事全部はわからないけどボクとユキナは大切な仲間だって思ってる」
「ありがとうございます。二人に話してすっきりしました。私もユキナとミレーヌの事を大切な仲間だと信じます」
そう言ってフェリシアはぎこちなく微笑んでくれた。
いつかクヌートとも仲間の絆を結ぶことができるのだろうか。
僕はそうなる事を願っていた。
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