上 下
16 / 103
第2章 冒険へ

第16話 生き残りたい

しおりを挟む
 第16話 生き残りたい。
 
 山賊の数は30人ほどで森で動きやすいレザーアーマーとショートソードで武装していた。
 こちらは金髪と大斧使いと反っ歯男が山賊側なのでそれ以外を合計すると僕含む護衛が7人と武装した商人が20人。
 
 数だけなら互角だけど戦いに慣れない商人は荷馬車を守るのに集中しているから護衛7人で30人を相手にする計算になる。
 
 「ユキナとミレーヌは援護に徹してくれ!!山賊は私とセシルで片をつける!!」
 
 シグレさんが太刀を手に山賊へと突っ込んでいく。
 事前に決めた作戦だと人間を相手に戦った事のない僕とミレーヌは戦闘で足手まといになりかねないので魔法で援護。
 援護を受けたシグレさんとセシルさんが山賊のボスを見つけて倒す。
 そうすれば頭を失った山賊はバラバラになって逃げていくだろう。
 
 「群れで弱い者に襲い掛かるしかない賊など恐れる事は無い!!」

  そう言って皆を叱咤するシグレさん。
 山賊のなかには昨日まで兵士だった逃亡兵も混じっているから腕前が劣る訳ではないが山賊同士で訓練もしていない寄せ集めなので集団戦には弱い。
 
 「はああっっ!!」
 
 シグレさんが気合の叫びと共に刀を振るうと山賊の一人が袈裟懸けに切り倒される。
 返す刀で背後の一人を切り殺すと山賊が怯んだのか背を向ける者まで現れた。
 
 シグレさんは手練れの技で、山賊の着るレザーアーマーが覆っていない部位を切り戦闘力を奪っていく。
 他の傭兵が泣き叫ぶ山賊を確実に仕留めていく。
 数こそ劣るものの戦いに慣れた傭兵と冒険者によって山賊は一人ずつ倒されて行った。
 
 「おっと逃がさないよ」

 セシルさんが荷馬車の隙間から短弓を手に逃げる山賊の背中を射る。
 商人達が松明で照らし月明かりが明るいので標的がよく見えるのか、ほぼ外れる事無く射殺されて行く。
 他の傭兵達も慣れた様子で切り叩き魔法で吹き飛ばしている。
 奇襲失敗の時点で山賊に勝ち目は無かった。
 
 「畜生この糞ガキ!!」
  
 山賊たちに合図した反っ歯男が僕に向かってくる。
 ショートソードをラウンドシールドで受け止めロングソードを振るおうとしたが、人間を切るという行為に手が震えてロングソードを振るえない。
 
 「ビビってんのかクソガキ」

 僕の内心を見抜いた反っ歯男がショートソードを振り回しながら向かってくる。
 剣術も何もあったものじゃない乱暴な攻撃をシールド防御するのは簡単だがこのまま防戦一方だといずれ斬られる。
 
 「死ねやクソガキ!!」

 反っ歯男が大振りでショートソードを振りかぶりながら向かってきた。
  出鱈目な攻撃を盾で防ぎつつ後退する。
 
 「くっ!!」

  この世界の人間は人を殺めるのに抵抗がないのだろうか。
 僕は前世人間を殺す事は勿論、鳥を絞めた事すらない。
 ロングソードを一振りすればいい。
 それだけでいいのに出来ない。
 
 「オラオラオラ!!死ね死ね死ね!!」
 
 ラウンドシールドに傷が増えていく。
 魔法付与されているとはいえまったく無抵抗では成すすべがない。
 
 「死ね死ね死ね!!ぐがっ!!」
 
 僕を攻撃していた反っ歯男の動きが止まり血を吐いて倒れた。
 反っ歯男から引き抜かれるエストック。
 ミレーヌだった。
 
 「……ユキナ大丈夫?」
 
 ミレーヌの持つエストックが血に濡れている。
 反っ歯男の血だ。
 気丈に振舞っているがミレーヌの手は震えていた。
 僕を助けるためにミレーヌは人を殺した。
 
 「ごめんミレーヌ…ごめんね」

 「いいよ。いつか慣れるから」

 この世界出身のミレーヌでも殺人は怖いのだ。
 シグレさんもセシルさんも最初は怖かっただろう。
 そう考えていた時、ミレーヌの後ろに大斧を持った筋骨隆々とした山賊の仲間の傭兵が立っていた。
 
 「クソチビがああああ!!」
 
 そのまま巨大なグレートアックスをミレーヌに振りかぶる。
 背後の男の気配に気が付いたミレーヌの目が恐怖に見開かれた。
 
 僕は必死になってミレーヌを横に突き飛ばし、グレートアックスを盾で受け止めるが、魔法付与されたラウンドシールドでも防ぎきれない。
 ラウンドシールドごと吹き飛ばされた僕にグレートアックスが迫る。
 
 (嫌だ死にたくない!!)
 
 そう思った瞬間ロングソードを構えて傭兵の胸に飛び込んだ。
 グレートアックスは僕のブレストアーマーに命中するが魔法付与の高級品はその一撃に耐えきる。
 直後傭兵の胸に僕のロングソードが突き刺さる。
 傭兵の着ていたレザーアーマーを切り裂き傭兵の背中までロングソードの刃が貫通していた。
 
 「ぐああああ!!クソガキィィィ!!」

 傭兵は僕の首にめがけて腕を伸ばし手で掴もうとする。
 あんな手に掴まれたら僕の首なんて一発で折られてしまうだろう。
 
 「うあああああ!!」
 
 僕は傭兵に刺さったままのロングソードから手を離し腰に挿していたショートソードを引き抜いて傭兵の腕に切りかかる。
 ショートソードが傭兵の腕に食い込み寸断した。

 ズバブシュ!!
 
 傭兵の腕が切り飛ばされる。
 傭兵の腕から血が噴き出し辺りを血で染める。
 胸に突きさされたロングソードと腕を切り落とされた痛みに傭兵が唸る。

 「ぐぎゃああああ!!」
 
 痛みで地面にのたうちまわる傭兵の背中に僕はショートソードを突き刺した。
 ブスリという音と肉が切り裂かれる感触。
 骨に当たり骨ごと砕く剣先。
 
 「ぐふあ!!」
 
 傭兵が大量の血を口と傷口から吹き出し動きを止める。
 僕のブレストアーマーと服が血で真っ赤に染まり、ショートソードを引き抜くとぬるりとした感触と共に傭兵の背中から刃が抜かれる。
 地面に広がる血だまりに僕は尻もちをついてしまう。
 
 「人、人を殺した」

 ガチガチと歯が鳴り手が震える。
 妖魔であるゴブリンを殺す事に抵抗感が無かった訳ではないが、あの戦場でそんな事を考えていたら今頃僕は死体になって地面に埋められていただろう。

 でも今は違う。

 殺人という前世で絶対の禁忌を犯してしまった。
 この時僕は自分が前世とは全く違う世界に生きていると知った。
 
 僕が震えている間に大勢は決していた。
 こちらの損失は傭兵の軽傷者2人。
 山賊側は10体程の死体を残して逃げ散った。
 
 「ユキナよくやった」
 
 そう言ってタオルを渡してくれるシグレさん。
 シグレさんの身体も返り血で赤く染まっていた。
 渡されたタオルで顔を拭くと固まった血がタオルに剥がれ落ちる。
 僕は血だらけになったタオルを握りしめて声を上げて泣いた。
 僕の手を包んでくれるミレーヌの手。
 ミレーヌも声を上げて泣いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート

猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。 彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。 地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。 そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。 そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。 他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...