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第31話 二人の気持ち。

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 第31話 二人の気持ち。
 
 ヒロが医療ポッドから出てきたのは2日後の事だった。
 怪人に食いちぎられた右腕は跡形もなく治り、軽いリハビリをする事になる。
 今までのデータから推測するとヒロの活躍でダメージを受けたダークネスシャドーは怪人の生産に手間がかかるのか、最低一週間は大きな活動が出来ない事がわかっている。
 またカレンだけを戦わせていた負い目からかヒロは毎回戦闘員と怪人を一人残らず殺し徹底的にアジトを破壊しつくし、かつデータ消去も得意なので時間稼ぎには最適の人材と言える。

 ようするに。

 戦闘だけしか考える余裕のなかったカレンと違い仲間の支援のあるヒロは頭脳面で恵まれていた。
 また毎回死ぬ寸前まで戦い続けたカレンにはその余裕が無かった。
 AI・マシロの能力はカレンの生存に忙殺されダークネスシャドーの集める情報を消去する余裕が無かったのが大きい。
 なのでヒロは戦闘で受けた傷の再生とリハビリの時間を用意する事が出来るのだ。
 リハビリから戻るとヒロはいつもカレンの部屋に来てくれる。
 カレンはその時を待ちわびていた。
 ヒロの来訪を告げる音と共にヒロが室内に入った途端カレンはヒロに抱き着いた。
 
 「ヒロッ!!ヒロッ!!生きていてくれたんだね!!」

 「カ、カレン!?」

  神威ヒロの胸元にカレンは飛び込み思い切り泣く。
 周りにいたスタッフや神威由紀が驚くほどの大声で泣いた。
 神威由紀はその様子を微笑ましく見ていたが、周りのスタッフが慌てて二人を引き離した。
 ヒロの身体はまだ万全ではなく無理は禁物だ。
 だが閉ざされかけたカレンの心が開いていくのを神威由紀は感じこれならいけると確信する。
 神威由紀は二人に歩み寄り、ヒロとカレンを抱きしめる。
 
 「二人の時間を大切にして。それとヒロ」

 そう言って神威由紀がヒロの耳元に何かを囁くとヒロの顔が真っ赤に染まった。
 彼女の目は真剣だった。
 これから話す事がどれほど重要なのか彼女は知っているのだ。
 ヒロは神威由紀の目を見て頷いた。
 神威由紀は話し始める。

 「まず最初に言っておきます。ヒロが当面戦えない事は他言無用です。いいですね?」
 
 二人は頷く。
 ヒロが戦えない以上ソシアルナイツはダークネスシャドーの侵略があっても対処できない。
 どうしてもカレンの力が必要だった。
 そして神威由紀にはカレンが再びレッドバスターになれる唯一の方法を知っていた。
 傷ついた雛月カレンという少女が再び誰かの為に戦う意志を取り戻す事。
 その理由が全人類の為でなくてもいい。
 ヒロ個人に対する愛情でも構わない。
 立ち直りさえすればカレンが再び人々を愛せると信じていた。
 そしてその方法はもう見つかっている。
 後はきっかけだけだ。
 
 「私が調べた所、現在日本で最も強い戦士は貴女、雛月カレンさんです。つまり貴女さえいれば戦力的に問題ありません」
 
 「……え」
 
 いきなり自分の名前が出た事に驚くカレンだったが、今の自分にバスタースーツが着こなせるのか不安だった。
 それでもヒロと一緒に戦いたい。
 ヒロと離れたくないという気持ちもある。
 だが自分はヒロの足手まといになりたくは無い。
 自分の存在がヒロの負担になるのは嫌だった。
 ヒロはカレンの気持ちを察して神威由紀に言った。

 「答えは僕自身にかかっているという事ですね」

 「ええそうよ。本当はこういう事を急ぎたくないけどヒロはカレンの事を愛せる?」

 カレンを立ちなおせるには純粋な愛情が必要だった。
 義務で恋人関係になってもカレンの心は救われない。
 同じ女としてカレンの気持ちはほぼ間違いなく恋だろうと思う。
 あとはヒロの気持ち一つ。
 これだけは強制出来ない。
 神威由紀は二人が本当に愛し合う事が出来る事を祈る。
 
 「僕はカレンの事が好きです」

 ヒロの言葉にカレンの顔が恥ずかしくも嬉しくなっていく。
 でも汚れた自分にそんな資格があるのか今でも不安だった。
 そんなカレンの手をそっと握ってくれたヒロの手は暖かかった。
 それだけで涙が出そうになる。
 でも今は泣いている場合ではない。
 ここで答えを出さないと一生後悔する気がした。
 ヒロの顔を見てはっきり答える事にした。
 嘘偽りのない本心を。
 それが今のカレンに出来る精一杯の答えだったから。

 「ボクもヒロの事が好き。この気持ちに偽りはありません」
 
 そんな二人を見て神威由紀は胸をなでおろす。
 これで人類は救われる。
 二人の愛の絆の強さがあればきっとどんな敵にも勝てるだろう。
 例え相手がダークネスシャドーの首領であっても負ける気がしない。
 そう確信したからだ。
 
 「カレンさんの身体でもっとも傷ついていたのは子宮と膣内です。あれだけ激しい行為を強いられたのだから当然の事。だから念入りに修復しておきました。カレンさんの身体は乙女のままです」

 「それってつまり」

 「カレンさんの身体は処女の状態です。これ以上言わせないでよ恥ずかしい」
 
 肉体的にカレンの身体は綺麗なまま。
 あとはカレンが過去の自分を受け入れられるかだ。
 
 「ボクはヒロに全てを捧げたい。ヒロが好き。大好き。こんなボクをヒロが愛してくれるなら」

 「こんなボクなんて言わないで。僕はカレンさんの心が綺麗な事を知っている。カレンさんは世界中の誰よりも綺麗な心を持っているよ」
 
 そう言ってヒロはカレンを抱きしめる。
 カレンの過去は変えられないけどカレンの心は乙女のままだ。
 そんなカレンを心の底から愛しいと思っている。
 ずっと好きだった。
 カレンが傷つくたびにヒロは苦悩していた。
 もっと早く自分が戦えたらと思わない日はなかった。
 
 「ヒロには2日間自由時間を与えます。カレンさんを大切にするのよ」

 そう言って神威由紀はヒロの部屋を出て行った。
 扉の向こうにいる最愛の弟にエールを送りたい。
 だが一つだけ心配事もある。
 
 「ヒロ童貞なのよね」

 百戦錬磨のカレンを満足させられるかどうか。
 姉として真剣に悩むのだった。
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