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五章 魔法使いは幻想と共に
情けは人の為ならず
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新緑の風が大地を滑る。青々とし草木の薫風はある種の爽快感を感じさせてくれる。
その風を背に受け、俺は引き金を引いた。
視線の先にいる人間の男の足を貫き、血肉が爆ぜた痛みをその口から存分に放出させ、弾丸は役目を果たし地面に突き刺さる。
「今だっ! 行けジェリコ、ルチアも行ってくれ!」
「あいよ!」
「援護は任せるよ!」
俺の言葉に反応し、二人はそれぞれ馬で駆けていく。蹄の音が後ろから前方へと動いていき、あっという間に過ぎ去っていく。
俺はさらに狙いを定める。
前方約三百の位置。そこには幌付きの馬車一台に幌無しで樽や木箱などの荷物を沢山詰め込んだ馬車が三台あった。
そしてそれを囲む三十人程の武装した男達。棍棒やら片手剣やら、革鎧を身に付け服装の統一がされていない集団だった。一目で分かる。襲っている盗賊達と襲われている旅商人の一行だと。
よく見ると商人の護衛と思われる戦士が数人いたが皆身体から血を流しており、中には微動だにせず地に伏せている者もいる。
「次は……アイツか!」
俺は狙いを馬に乗る盗賊の男に定め、再び引き金を引いた。
狙い澄ました弾丸は銃身内を通り、その身に線条痕を刻み、銃口から衝撃波と共に飛び出ると太陽の光を一身に受ける。一瞬の煌めきをこの世界に残すと、最後に俺が狙った男の膝を撃ち砕く。
「命中! 見え過ぎるぜ!」
撃たれた男の顔が歪み、口が苦痛の悲鳴を発するために大きく開かれる。その声は離れた位置にいる俺の耳にまで届く。
「ルチア達は……あそこか。まだ撃った方がいいな」
視線を一度逸らして前方を確認すると二人は俺の射線から外れるように右から大回りで盗賊達の元へ向かう。距離にして俺から百の位置。盗賊達と接触するまでの距離二百。馬を全力で飛ばして仕掛けているのでもう間も無く戦闘が始まる。
「あと、二人はいける!」
俺は目線を戻し、あるモノを覗く。
それは小銃の上部に取り付けられていており、円筒状の筒にレンズが取り付けられたモノだ。横に調節用のつまみが飛び出ていて、円筒の先には蓋の役目を持つカバーが付いていた。
レンズを覗くとそこには三百メートル先にいる盗賊の姿が拡大されて映る。銃撃を受けた男を助けようと駆け寄り、止まらぬ出血に動揺しているのがよくわかる。
89小銃用照準補助具。俗に言うスコープである。
小銃上部に取り付けられたスコープ越しに俺は前方の敵を狙う。
男の頭に照準を定めた。そして……
「恨むなよ」
僅かに下へ動かし、男の太腿を撃ち抜く。
つんのめるように跳ねた男は突然の痛みと衝撃に反応が追いつかず、受け身も取れぬまま地面へと倒れこむ。
俺はそこで軽く息を吸い、少しだけ吐く。そして、軽く引き金を引く。
発砲音が俺の鼓膜を揺らすのとほぼ同時に、馬車の裏に隠れて弓を構えていた男の腕を撃ち抜いた。
右往左往する盗賊達。そんな彼らにルチアとジェリコが襲い掛かる。
統率していたと思われる馬上の盗賊を無力化し、その側近や遠距離攻撃である弓持ちも今や戦闘不能である。残るは徒歩の盗賊達。ただでさえ強いルチアが騎乗した状態で襲えば、多少の数の優劣は関係無い。
「あーあ。容赦ねぇなオイ……」
一太刀で盗賊の腕を切り飛ばし、返す刀で胴を薙ぎ払う。馬上の勢いを利用した斬撃は革製の鎧もろとも人間の身体を二つに切り分ける。
一方のジェリコは敵に肉薄しても馬の速度を緩めない。むしろ加速してそのまま盗賊の一人に馬で体当たりをする。
馬と人間の体重差だ。真正面からのぶつかりは、単純に考えれば人間に勝てる道理は無い。盗賊は手に持つ棍棒ごと馬に轢かれて折れていった。
馬の体当たりが当たる直前、ジェリコは跳躍し草原の地面に躍り出る。っと同時に腰に着けている二振りの短刀を抜き放つと、未だに呆気にとられている盗賊達を切り裂いていく。
二対二十数名。側から見れば人数が多い方が有利だろう。だが、いまや数の有利など盗賊達には無く、ただ掃討されていくのみであった。
「……」
それでも俺は黙ってスコープを覗く。優勢に事を運ぶルチア達の援護では無い。狙いは一つ。
「…………見えたッ!」
商人達が乗る幌馬車の後方、砂塵除けの布をめくり現れた盗賊。その手には大きな矢が装填されたクロスボウガンが握られていた。一矢で人の身体を貫通せしめる威力が見ただけで想像できる。
俺はその男に照準を合わせた。そして引き金を……
「……っ!?」
引かなかった。
スコープ越し映る男の身体が突如として真っ二つに割ける。いや、男どころか幌馬車の後部の木組みもろとも両断されたのだ。
長旅に耐えうる耐久性を誇る馬車が、まるでビスケットを割るかのように砕け、盗賊の男の肉を断ち、最後に地面を深く抉り取る。後に残るは両断された身体と地面に飛び散った赤い液体のみ。
遅れて聞こえてきた音の波は雷の如く俺の耳をつんざく。その音を出した正体を見るために、俺はスコープから目を離し空を見上げた。
「……さすがは異世界だぜ。あんなのがいるなんてな」
天高く舞うそれは太陽の光を背に受け不規則に空を泳ぐ。そして獲物を見つけたのか一転して急降下すると、ぐんぐん速度を上げていくと離れた位置にいた盗賊へ迫る。一瞬だけ金属の光の反射がチカリと見えると次の瞬間には盗賊の身体は腰から上が無くなっていた。
空を不規則に飛ぶ物体。太陽の陽射しに邪魔され視認しにくいが、それは確かに存在した。
赤き鱗に身を包み、鋭き眼光は猛禽類が愛玩動物に思えるほど威圧的だ。子牛を噛み潰せるほど大きな口に生えた白い歯はギザギザ。触れれば人の手などスラリと抵抗なく切り落とされるだろう。軽トラック並みの図体に生えた翼は目一杯に広げると俺の視界から太陽を隠す。
それはこの世界で空の覇者と呼ばれる飛龍という種族だ。
その背中に一人の人間が乗っていた。
太陽の光に負けないほどの輝きを放つ銀髪に、身の丈を超える槍斧を手に握っている。肉厚の刀身は血に塗れており、赤黒く染まっている。
突如として飛龍が急降下する。その直下には盗賊達の中で唯一まともな武装をしている男。金属製の鎧兜に鉄で補強された大きな盾。
「えげつねぇな」
俺が視線を男に移したのとほぼ同時に、男のなれの果てが地面に転がっていた。胸の部分は消し飛び、重さから解放された下半身と自由になった両腕が、支えを無くした案山子のように地面へ倒れこむ。遅れて飛び出た血は鮮血の色を見せつける。
その後も轟音と共に盗賊達をその身を散らしていき、やがて極少数にまで減った盗賊達は我先にと背を向けて逃げ出していった。
「新たな敵勢は……無しだな」
蜘蛛の子を散らして逃げる盗賊を追撃する飛龍を見送り、幌馬車の商人達と接触しているルチア達を確認すると俺は胸元からタバコを取り出す。
大した相手では無かったが、勝利の一服をするのに敵の大小は関係無い。口に咥え、今まさに火を点けんとライターを弄る。
「コラッ! なにをしておるか!」
「イッテェッ!?」
威勢の良い怒鳴り声と共に後頭部に衝撃が襲う。
しかし、声の勢いの割には頭に受けた衝撃はとても弱く、俺には大して効かなかった。
「こ、こ、このっ! おぬしィッ! それは煙いからやめろと言っておろうに!」
続けて浴びせられた注意の言葉に俺が振り返ると、そこには幼さを残した一人の少女がいた。
明るい茶色な髪は艶があり毛先にウェーブがかかっている。色白な肌に柔らかな果実を思わせる唇はうっすらと紅が付いている。尊厳な態度に俺を指差す人差し指は一切ブレが無く真っ直ぐだ。
「妾のこの高貴な香りにおぬしのその……たばこぉ? ……の不快な香りが付いたらどうするつもりじゃ!」
タバコの発音が少し違うが、この少女が怒っていることに変わりは無い。俺は苦笑いを交えつつ深く頭を下げる。
「……申し訳ありません。プリシテラお姫様」
そう。この少女こそが俺達の護衛対象。賢王ディリーテの一粒種。プリシテラ・ガートルード・グロリアスその人なのだ。
「妾のことはプリシラと呼べと言っておるだろうが! あとお忍びなのじゃぞ? お姫様を付けるな!」
「イッテェ!?」
お姫様の蹴りが俺の脛を直撃する。口では痛いと言いつつも、大した威力では無い。
それよりも自分でお忍びと言いながらも、着ている服は上物であり鼻に入ってきた匂いから香水もつけているのだろう。見るモノが見れば一目で高貴な生まれだと分かる立ち振る舞いなのだ。言葉に説得力はさほど無い。
「全く。父上もウェスタもなんでこんな奴を護衛に選んだのであろうな……」
ブツブツと文句を言い、お姫様は俺達の後ろにある馬車へと乗り込む。御者席にいる背筋の伸びた老人は姫に手を貸し馬車の中へ入れると一息をつき、俺に会釈する。
「……全くってのは俺の台詞だっつーの」
暴れん坊でワガママなプリンセス。王城に勤める者達に、その粗暴で自分優先の性格かつ人を見下した性格から[暴れん坊なお人形]と揶揄されているお姫様。それが俺の護衛対象なのだ。
「あーあ。なんでもするなんて言わなきゃよかったぜ……」
まだ、この任務は始まったばかり。これからどのような困難が待ち受けているのだろうと想像するだけで嫌になる。
俺は盛大に肩を落とし、空を舞う飛龍の自由な姿をただ呆然と眺めていた。
その風を背に受け、俺は引き金を引いた。
視線の先にいる人間の男の足を貫き、血肉が爆ぜた痛みをその口から存分に放出させ、弾丸は役目を果たし地面に突き刺さる。
「今だっ! 行けジェリコ、ルチアも行ってくれ!」
「あいよ!」
「援護は任せるよ!」
俺の言葉に反応し、二人はそれぞれ馬で駆けていく。蹄の音が後ろから前方へと動いていき、あっという間に過ぎ去っていく。
俺はさらに狙いを定める。
前方約三百の位置。そこには幌付きの馬車一台に幌無しで樽や木箱などの荷物を沢山詰め込んだ馬車が三台あった。
そしてそれを囲む三十人程の武装した男達。棍棒やら片手剣やら、革鎧を身に付け服装の統一がされていない集団だった。一目で分かる。襲っている盗賊達と襲われている旅商人の一行だと。
よく見ると商人の護衛と思われる戦士が数人いたが皆身体から血を流しており、中には微動だにせず地に伏せている者もいる。
「次は……アイツか!」
俺は狙いを馬に乗る盗賊の男に定め、再び引き金を引いた。
狙い澄ました弾丸は銃身内を通り、その身に線条痕を刻み、銃口から衝撃波と共に飛び出ると太陽の光を一身に受ける。一瞬の煌めきをこの世界に残すと、最後に俺が狙った男の膝を撃ち砕く。
「命中! 見え過ぎるぜ!」
撃たれた男の顔が歪み、口が苦痛の悲鳴を発するために大きく開かれる。その声は離れた位置にいる俺の耳にまで届く。
「ルチア達は……あそこか。まだ撃った方がいいな」
視線を一度逸らして前方を確認すると二人は俺の射線から外れるように右から大回りで盗賊達の元へ向かう。距離にして俺から百の位置。盗賊達と接触するまでの距離二百。馬を全力で飛ばして仕掛けているのでもう間も無く戦闘が始まる。
「あと、二人はいける!」
俺は目線を戻し、あるモノを覗く。
それは小銃の上部に取り付けられていており、円筒状の筒にレンズが取り付けられたモノだ。横に調節用のつまみが飛び出ていて、円筒の先には蓋の役目を持つカバーが付いていた。
レンズを覗くとそこには三百メートル先にいる盗賊の姿が拡大されて映る。銃撃を受けた男を助けようと駆け寄り、止まらぬ出血に動揺しているのがよくわかる。
89小銃用照準補助具。俗に言うスコープである。
小銃上部に取り付けられたスコープ越しに俺は前方の敵を狙う。
男の頭に照準を定めた。そして……
「恨むなよ」
僅かに下へ動かし、男の太腿を撃ち抜く。
つんのめるように跳ねた男は突然の痛みと衝撃に反応が追いつかず、受け身も取れぬまま地面へと倒れこむ。
俺はそこで軽く息を吸い、少しだけ吐く。そして、軽く引き金を引く。
発砲音が俺の鼓膜を揺らすのとほぼ同時に、馬車の裏に隠れて弓を構えていた男の腕を撃ち抜いた。
右往左往する盗賊達。そんな彼らにルチアとジェリコが襲い掛かる。
統率していたと思われる馬上の盗賊を無力化し、その側近や遠距離攻撃である弓持ちも今や戦闘不能である。残るは徒歩の盗賊達。ただでさえ強いルチアが騎乗した状態で襲えば、多少の数の優劣は関係無い。
「あーあ。容赦ねぇなオイ……」
一太刀で盗賊の腕を切り飛ばし、返す刀で胴を薙ぎ払う。馬上の勢いを利用した斬撃は革製の鎧もろとも人間の身体を二つに切り分ける。
一方のジェリコは敵に肉薄しても馬の速度を緩めない。むしろ加速してそのまま盗賊の一人に馬で体当たりをする。
馬と人間の体重差だ。真正面からのぶつかりは、単純に考えれば人間に勝てる道理は無い。盗賊は手に持つ棍棒ごと馬に轢かれて折れていった。
馬の体当たりが当たる直前、ジェリコは跳躍し草原の地面に躍り出る。っと同時に腰に着けている二振りの短刀を抜き放つと、未だに呆気にとられている盗賊達を切り裂いていく。
二対二十数名。側から見れば人数が多い方が有利だろう。だが、いまや数の有利など盗賊達には無く、ただ掃討されていくのみであった。
「……」
それでも俺は黙ってスコープを覗く。優勢に事を運ぶルチア達の援護では無い。狙いは一つ。
「…………見えたッ!」
商人達が乗る幌馬車の後方、砂塵除けの布をめくり現れた盗賊。その手には大きな矢が装填されたクロスボウガンが握られていた。一矢で人の身体を貫通せしめる威力が見ただけで想像できる。
俺はその男に照準を合わせた。そして引き金を……
「……っ!?」
引かなかった。
スコープ越し映る男の身体が突如として真っ二つに割ける。いや、男どころか幌馬車の後部の木組みもろとも両断されたのだ。
長旅に耐えうる耐久性を誇る馬車が、まるでビスケットを割るかのように砕け、盗賊の男の肉を断ち、最後に地面を深く抉り取る。後に残るは両断された身体と地面に飛び散った赤い液体のみ。
遅れて聞こえてきた音の波は雷の如く俺の耳をつんざく。その音を出した正体を見るために、俺はスコープから目を離し空を見上げた。
「……さすがは異世界だぜ。あんなのがいるなんてな」
天高く舞うそれは太陽の光を背に受け不規則に空を泳ぐ。そして獲物を見つけたのか一転して急降下すると、ぐんぐん速度を上げていくと離れた位置にいた盗賊へ迫る。一瞬だけ金属の光の反射がチカリと見えると次の瞬間には盗賊の身体は腰から上が無くなっていた。
空を不規則に飛ぶ物体。太陽の陽射しに邪魔され視認しにくいが、それは確かに存在した。
赤き鱗に身を包み、鋭き眼光は猛禽類が愛玩動物に思えるほど威圧的だ。子牛を噛み潰せるほど大きな口に生えた白い歯はギザギザ。触れれば人の手などスラリと抵抗なく切り落とされるだろう。軽トラック並みの図体に生えた翼は目一杯に広げると俺の視界から太陽を隠す。
それはこの世界で空の覇者と呼ばれる飛龍という種族だ。
その背中に一人の人間が乗っていた。
太陽の光に負けないほどの輝きを放つ銀髪に、身の丈を超える槍斧を手に握っている。肉厚の刀身は血に塗れており、赤黒く染まっている。
突如として飛龍が急降下する。その直下には盗賊達の中で唯一まともな武装をしている男。金属製の鎧兜に鉄で補強された大きな盾。
「えげつねぇな」
俺が視線を男に移したのとほぼ同時に、男のなれの果てが地面に転がっていた。胸の部分は消し飛び、重さから解放された下半身と自由になった両腕が、支えを無くした案山子のように地面へ倒れこむ。遅れて飛び出た血は鮮血の色を見せつける。
その後も轟音と共に盗賊達をその身を散らしていき、やがて極少数にまで減った盗賊達は我先にと背を向けて逃げ出していった。
「新たな敵勢は……無しだな」
蜘蛛の子を散らして逃げる盗賊を追撃する飛龍を見送り、幌馬車の商人達と接触しているルチア達を確認すると俺は胸元からタバコを取り出す。
大した相手では無かったが、勝利の一服をするのに敵の大小は関係無い。口に咥え、今まさに火を点けんとライターを弄る。
「コラッ! なにをしておるか!」
「イッテェッ!?」
威勢の良い怒鳴り声と共に後頭部に衝撃が襲う。
しかし、声の勢いの割には頭に受けた衝撃はとても弱く、俺には大して効かなかった。
「こ、こ、このっ! おぬしィッ! それは煙いからやめろと言っておろうに!」
続けて浴びせられた注意の言葉に俺が振り返ると、そこには幼さを残した一人の少女がいた。
明るい茶色な髪は艶があり毛先にウェーブがかかっている。色白な肌に柔らかな果実を思わせる唇はうっすらと紅が付いている。尊厳な態度に俺を指差す人差し指は一切ブレが無く真っ直ぐだ。
「妾のこの高貴な香りにおぬしのその……たばこぉ? ……の不快な香りが付いたらどうするつもりじゃ!」
タバコの発音が少し違うが、この少女が怒っていることに変わりは無い。俺は苦笑いを交えつつ深く頭を下げる。
「……申し訳ありません。プリシテラお姫様」
そう。この少女こそが俺達の護衛対象。賢王ディリーテの一粒種。プリシテラ・ガートルード・グロリアスその人なのだ。
「妾のことはプリシラと呼べと言っておるだろうが! あとお忍びなのじゃぞ? お姫様を付けるな!」
「イッテェ!?」
お姫様の蹴りが俺の脛を直撃する。口では痛いと言いつつも、大した威力では無い。
それよりも自分でお忍びと言いながらも、着ている服は上物であり鼻に入ってきた匂いから香水もつけているのだろう。見るモノが見れば一目で高貴な生まれだと分かる立ち振る舞いなのだ。言葉に説得力はさほど無い。
「全く。父上もウェスタもなんでこんな奴を護衛に選んだのであろうな……」
ブツブツと文句を言い、お姫様は俺達の後ろにある馬車へと乗り込む。御者席にいる背筋の伸びた老人は姫に手を貸し馬車の中へ入れると一息をつき、俺に会釈する。
「……全くってのは俺の台詞だっつーの」
暴れん坊でワガママなプリンセス。王城に勤める者達に、その粗暴で自分優先の性格かつ人を見下した性格から[暴れん坊なお人形]と揶揄されているお姫様。それが俺の護衛対象なのだ。
「あーあ。なんでもするなんて言わなきゃよかったぜ……」
まだ、この任務は始まったばかり。これからどのような困難が待ち受けているのだろうと想像するだけで嫌になる。
俺は盛大に肩を落とし、空を舞う飛龍の自由な姿をただ呆然と眺めていた。
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