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四章 幻想調査隊隊員日本一
三十年の刻
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時刻は午前八時。街の住民が一日の始まりの余韻を忘れ、徐々に日々の労働の準備をしだす頃。
冒険者が依頼をこなす為に王都の門を出発し、遠くに行商人の馬車の土煙を見送る。彼らの仕事の始まりは早いのだ。
城内の兵は日頃の訓練の賜物なのか、眠気の味を出すものはいない。日々の過酷な訓練や職務を考えると、まだ夢の中に身を預けたい筈なのにそんな気配は微塵も感じさせない。
「ふわぁっ……はっふん……」
そんな彼らの前でルチアは遠慮の無い欠伸を見せつける。はしたないと注意したくなるほど大きく口を開き、喉の奥の口蓋垂がゆらゆらと揺れている。
「ルチア殿。ハジメ殿。こちらで暫しお待ちを」
前を歩き案内してくれているのは昨日牢屋の前で見張りに付いていたフェンだ。夜通し見張りに着いていたのだろう。顔に疲れが出ている。
案内された部屋は城内の廊下を何度も曲がり、来た道順が記憶の彼方に消え去るほど歩いた場所にあった。
中に入ると至ってシンプルな客間がそこに存在していた。簡素な調度品に木製の机に三名ほどが腰掛けられるソファ。置いてある茶器も特に飾り気が無い無色なモノ。最低限の出迎え用といった風情だ。
「では、ウェスタ将軍を呼んできます。ごゆるりとお待ちください」
ドアが閉まる音と遠ざかる足音を聞き、俺はソファに深く腰掛ける。
「はぁ……、なんかこう、謝ろうって変に意識すると緊張するな?」
「不安なの? 手でも握ってあげましょうか?」
俺の真剣な話に軽口で答え、ルチアは俺の隣に座ると手を差し出す。その手を苦笑いでやんわりと断り、俺は首の後ろで手を組んだ。
「なぁルチア。お前は由紀って女の子知らないか?」
「……ん~。知らないよ?」
顎先に指を置き、考える仕草をし、それでも思い浮かばなかったのかルチアは首を傾ける。
「ハジメの知り合い? 昨日もその名前言ってたよね?」
「あぁそうだ。俺の大切な……いや」
俺はそこで一旦言葉を濁す。
「俺が大切にしたかった人さ……」
大切な人と言いきるにはある種の後ろめたさがあった。
想いも伝えられず、目の前で火に焼かれ、そしてこの世界では死に様すら知らない。そんな俺に彼女を大切な人と言い切れる訳が無かった。
会話が終わると部屋の外から足音が聞こえ、次いで部屋のドアが開く。
そこには俺が話さなければいけない人物がいた。
「……頭は冷えましたか?」
ウェスタは部屋の入り口で突っ立ったまま俺に声をかける。
「……充分冷えたよ。ウェスタ」
俺は立ち上がりウェスタの目の前に立つ。俺が殴った跡は少しも残っておらず、いつもと変わらない姿でそこにいた。
「傷は無いんだな?」
「異世界って便利なんすよ? 治癒魔法で大抵の傷は癒えますもん」
昨日の出来事は気にもしてないのか、普段と特別変わった様子は無い。
それでも俺は頭を深く下げた。
「すまない。俺……頭に血が上ったみたいでよ。許してくれ」
「……」
頭を下げたが当のウェスタからは言葉は無く、少しの沈黙が続く。時間にしては数秒程度だと思うが、俺はその数秒が随分と長く感じた。
「……いいんすよ、別に謝らなくて。俺も伝え方が悪かったですしね?」
俺の肩に手を置き、軽く叩くとウェスタは俺の身体を引っ張りソファへと誘導する。引かれるままに座ると向かい側にウェスタが座る。
「それに俺は大人ですからね。若者のやんちゃは許さなきゃいけないっすよ?」
「ははっ、抜かせ」
ウェスタが顎の髭を手で弄りながら言うものなので、俺はぎこちないながらも乾いた笑いを出した。
「ん。仲直りできたみたいね! 私のおかげかな?」
「ルチアは何もやってないだろ?」
隣で何もしていないルチアが何故か誇らしげに胸を張っていた。それがまたどこか可笑しくて俺は自然と笑みをこぼす。
「ふ~。さてと、パイセン? 今度はしっかりと話を聞いてくださいよ? 次また殴ったら将軍の権限で処刑しちゃいますよ?」
ウェスタは手刀で自分の首をトントンと叩くと悪戯っぽい笑みを見せる。
俺はそんな事は分かってると言わんばかりにため息を吐き腕を組んだ。
「あぁ、次やったら火炙りでもギロチンでも絞首刑でも、なんでもやって構わねぇよ!」
「おっ! 言質とりましたからね? ルチアちゃんが証人っすよ!」
「じゃあ介錯も私が……剣持って来てて良かったよ~」
「今じゃねぇよ!」
意外なルチアの悪ノリに俺は慌てて剣の柄頭を押さえる。
「パイセン。ルチアちゃん。イチャつくのはそこまでにしましょう。昨日の続きを話すんですけどね。もう一人当事者の方を呼んでもいいっすか?」
当事者と聞き俺は首を捻って誰なのかと想像してみるが、考えてみれば俺はこの世界に知り合いと呼べる者はそう多くない事に気が付き、とりあえず呼んで来てもらう事にする。
「いいぜ。俺の知ってる人か?」
「うーん……まぁ、部屋の前にいるんで見れば分かりますよ。おーいっ! ディートゥ! 入っていいっすよー!」
ウェスタが部屋の入り口へ叫ぶとゆっくりとドアが開いた。そしてディートゥと呼ばれた人物が部屋に入って来た瞬間、俺とルチアは同時に声を出してしまった。
「「賢王ディリーテ!?」」
茶色のウェーブがかかった長髪に整った身形。老齢に差し掛かかりながらも伸びた背筋が若さすら感じさせる。そして穏やかな視線は慈愛の念を振り撒いて見る者の警戒心を解きほぐす。
「よい、楽にせよ。……それとウェス。随分と懐かしい名で呼んでくれるな?」
咄嗟に立ち上がろうとした俺とルチアを手で制し、賢王ディリーテはウェスタの隣に座る。その所作の一つ一つが王たる所以からなのか、絵になる動きであった。
「お互い様ですよ? 由紀先輩のことを考えたらついでに昔を思い出してしまいましてね。嫌でしたらやめますよ。ねぇ、賢王様?」
「ふん。今更そのような仲では無かろうに。好きにしろ」
悪態を吐きつつも親しげに話す二人に俺とルチアは揃って顔を見合わせ戸惑う。
「お、おいウェスタ? お前と王様はどんな関係なんだ?」
以前の謁見の際はあくまで王と王に仕える者の関係性に思えた。しかし、目の前でどこか親しげに話す二人はそんな関係で収まるような間柄では無いのは明白であった。
「うん? ……おいウェス。早く幻想を使ってくれ。私は日本語で会話は出来ないのだぞ?」
俺の言葉に首を傾げたディリーテは隣のウェスタを肘で小突く。急かされたウェスタは小声で何かを呟く。すると途端に部屋の空気が変わった気がした。
「ふむ。……ヒノモト殿。もう一度何か喋ってくれないか?」
「えっ? ええっと……二人はどんな関係なのですか?」
俺の言葉に満足気な様子を見せるディリーテ。その隣のウェスタは何故か得意気な顔で俺を見ていた。
「俺とディートゥは昔からの……それこそディートゥがまだ王で無かった頃からの友達なんですよ!」
「三十年来の友人だ。いや、悪友とでも呼ぶべきか……」
楽し気に笑うウェスタと対称的にディリーテはどこか遠い目で呆れた雰囲気を纏っていた。見た目は二人共決して若く無いのだが、軽い口調と飾らない言葉が実際の年齢よりも若く見せる。
「……っ」
「ルチア?」
ふっと隣を見てみるとルチアが小刻みに揺れている。額には薄っすらと汗を流しているのだが、身体に熱は感じず、さらに緊張からか若干顔が白くなっている。
無理も無い。俺はこの世界に来てまだ幾ばくも経ってないが、ルチアはこの国ずっといたのだ。将軍とはいえ慣れているウェスタはともかくとして、この国で最も偉い人物と近距離で向かい合うのに緊張しない訳がない。
(仕方ねぇな……)
俺はルチアの手をギュッと握りしめる。ビクリと身体を震わせたルチアは突然手を握られて焦るが、俺がそちらを向かないで無視をすると何も言えずに黙った。
「……緊張してんだろ? 手ぇ握ってやるよ……」
「……変態……」
お互いにしか聞こえない声で会話を交わした。その最中も終わった後もルチアは俺の手から手を離さなかった。
「さて、私も公務があるのでな。手短に話そう。どこまで話したのだ?」
ディリーテは咳払いを一つして隣に質問をした。すると、ウェスタは何やらバツが悪そうに顔を歪ませ、荒い手つきで髪を掻き毟る。
「どこまでっていうか……最後だけ話しちゃいましてね……そしたらパイセンがマジギレしちゃって……」
「最後というと……?」
「由紀先輩が命を落としたところです。……俺が殺したんですからね。アレは……」
「……ッ!」
ウェスタの言葉は後半になると力を無くした。俺は胸の内側がまたしても熱くなりそうになったが、手から伝わるルチアの体温が沸騰しかける熱を冷ます。
「あぁ……ウェス。お前はいつもそうだ。普段は要領が良いくせに、肝心な所で言葉が足りない。昔からそこだけは変わらないな?」
呆れを隠さずにディリーテはウェスタを責める。そして悟ったかのように深いため息を吐き出すと、一転して鋭い目つきで俺を見つめる。
決して威圧的では無いが、余計な言葉を発っすることを許さないそれは王の威光とでも言うべきだろう。
「私が話そう。三十年前に何が起きたか。ヒノモト殿と同郷であり、我らの仲間であったユキ殿が何故命を落す事になったかを。その全てをな……」
ディリーテは目を閉じると、昔を懐かしんでいるのか天を仰いで暫し瞑想する。そして、カッと目を見開くとゆっくりと口を開いた。
冒険者が依頼をこなす為に王都の門を出発し、遠くに行商人の馬車の土煙を見送る。彼らの仕事の始まりは早いのだ。
城内の兵は日頃の訓練の賜物なのか、眠気の味を出すものはいない。日々の過酷な訓練や職務を考えると、まだ夢の中に身を預けたい筈なのにそんな気配は微塵も感じさせない。
「ふわぁっ……はっふん……」
そんな彼らの前でルチアは遠慮の無い欠伸を見せつける。はしたないと注意したくなるほど大きく口を開き、喉の奥の口蓋垂がゆらゆらと揺れている。
「ルチア殿。ハジメ殿。こちらで暫しお待ちを」
前を歩き案内してくれているのは昨日牢屋の前で見張りに付いていたフェンだ。夜通し見張りに着いていたのだろう。顔に疲れが出ている。
案内された部屋は城内の廊下を何度も曲がり、来た道順が記憶の彼方に消え去るほど歩いた場所にあった。
中に入ると至ってシンプルな客間がそこに存在していた。簡素な調度品に木製の机に三名ほどが腰掛けられるソファ。置いてある茶器も特に飾り気が無い無色なモノ。最低限の出迎え用といった風情だ。
「では、ウェスタ将軍を呼んできます。ごゆるりとお待ちください」
ドアが閉まる音と遠ざかる足音を聞き、俺はソファに深く腰掛ける。
「はぁ……、なんかこう、謝ろうって変に意識すると緊張するな?」
「不安なの? 手でも握ってあげましょうか?」
俺の真剣な話に軽口で答え、ルチアは俺の隣に座ると手を差し出す。その手を苦笑いでやんわりと断り、俺は首の後ろで手を組んだ。
「なぁルチア。お前は由紀って女の子知らないか?」
「……ん~。知らないよ?」
顎先に指を置き、考える仕草をし、それでも思い浮かばなかったのかルチアは首を傾ける。
「ハジメの知り合い? 昨日もその名前言ってたよね?」
「あぁそうだ。俺の大切な……いや」
俺はそこで一旦言葉を濁す。
「俺が大切にしたかった人さ……」
大切な人と言いきるにはある種の後ろめたさがあった。
想いも伝えられず、目の前で火に焼かれ、そしてこの世界では死に様すら知らない。そんな俺に彼女を大切な人と言い切れる訳が無かった。
会話が終わると部屋の外から足音が聞こえ、次いで部屋のドアが開く。
そこには俺が話さなければいけない人物がいた。
「……頭は冷えましたか?」
ウェスタは部屋の入り口で突っ立ったまま俺に声をかける。
「……充分冷えたよ。ウェスタ」
俺は立ち上がりウェスタの目の前に立つ。俺が殴った跡は少しも残っておらず、いつもと変わらない姿でそこにいた。
「傷は無いんだな?」
「異世界って便利なんすよ? 治癒魔法で大抵の傷は癒えますもん」
昨日の出来事は気にもしてないのか、普段と特別変わった様子は無い。
それでも俺は頭を深く下げた。
「すまない。俺……頭に血が上ったみたいでよ。許してくれ」
「……」
頭を下げたが当のウェスタからは言葉は無く、少しの沈黙が続く。時間にしては数秒程度だと思うが、俺はその数秒が随分と長く感じた。
「……いいんすよ、別に謝らなくて。俺も伝え方が悪かったですしね?」
俺の肩に手を置き、軽く叩くとウェスタは俺の身体を引っ張りソファへと誘導する。引かれるままに座ると向かい側にウェスタが座る。
「それに俺は大人ですからね。若者のやんちゃは許さなきゃいけないっすよ?」
「ははっ、抜かせ」
ウェスタが顎の髭を手で弄りながら言うものなので、俺はぎこちないながらも乾いた笑いを出した。
「ん。仲直りできたみたいね! 私のおかげかな?」
「ルチアは何もやってないだろ?」
隣で何もしていないルチアが何故か誇らしげに胸を張っていた。それがまたどこか可笑しくて俺は自然と笑みをこぼす。
「ふ~。さてと、パイセン? 今度はしっかりと話を聞いてくださいよ? 次また殴ったら将軍の権限で処刑しちゃいますよ?」
ウェスタは手刀で自分の首をトントンと叩くと悪戯っぽい笑みを見せる。
俺はそんな事は分かってると言わんばかりにため息を吐き腕を組んだ。
「あぁ、次やったら火炙りでもギロチンでも絞首刑でも、なんでもやって構わねぇよ!」
「おっ! 言質とりましたからね? ルチアちゃんが証人っすよ!」
「じゃあ介錯も私が……剣持って来てて良かったよ~」
「今じゃねぇよ!」
意外なルチアの悪ノリに俺は慌てて剣の柄頭を押さえる。
「パイセン。ルチアちゃん。イチャつくのはそこまでにしましょう。昨日の続きを話すんですけどね。もう一人当事者の方を呼んでもいいっすか?」
当事者と聞き俺は首を捻って誰なのかと想像してみるが、考えてみれば俺はこの世界に知り合いと呼べる者はそう多くない事に気が付き、とりあえず呼んで来てもらう事にする。
「いいぜ。俺の知ってる人か?」
「うーん……まぁ、部屋の前にいるんで見れば分かりますよ。おーいっ! ディートゥ! 入っていいっすよー!」
ウェスタが部屋の入り口へ叫ぶとゆっくりとドアが開いた。そしてディートゥと呼ばれた人物が部屋に入って来た瞬間、俺とルチアは同時に声を出してしまった。
「「賢王ディリーテ!?」」
茶色のウェーブがかかった長髪に整った身形。老齢に差し掛かかりながらも伸びた背筋が若さすら感じさせる。そして穏やかな視線は慈愛の念を振り撒いて見る者の警戒心を解きほぐす。
「よい、楽にせよ。……それとウェス。随分と懐かしい名で呼んでくれるな?」
咄嗟に立ち上がろうとした俺とルチアを手で制し、賢王ディリーテはウェスタの隣に座る。その所作の一つ一つが王たる所以からなのか、絵になる動きであった。
「お互い様ですよ? 由紀先輩のことを考えたらついでに昔を思い出してしまいましてね。嫌でしたらやめますよ。ねぇ、賢王様?」
「ふん。今更そのような仲では無かろうに。好きにしろ」
悪態を吐きつつも親しげに話す二人に俺とルチアは揃って顔を見合わせ戸惑う。
「お、おいウェスタ? お前と王様はどんな関係なんだ?」
以前の謁見の際はあくまで王と王に仕える者の関係性に思えた。しかし、目の前でどこか親しげに話す二人はそんな関係で収まるような間柄では無いのは明白であった。
「うん? ……おいウェス。早く幻想を使ってくれ。私は日本語で会話は出来ないのだぞ?」
俺の言葉に首を傾げたディリーテは隣のウェスタを肘で小突く。急かされたウェスタは小声で何かを呟く。すると途端に部屋の空気が変わった気がした。
「ふむ。……ヒノモト殿。もう一度何か喋ってくれないか?」
「えっ? ええっと……二人はどんな関係なのですか?」
俺の言葉に満足気な様子を見せるディリーテ。その隣のウェスタは何故か得意気な顔で俺を見ていた。
「俺とディートゥは昔からの……それこそディートゥがまだ王で無かった頃からの友達なんですよ!」
「三十年来の友人だ。いや、悪友とでも呼ぶべきか……」
楽し気に笑うウェスタと対称的にディリーテはどこか遠い目で呆れた雰囲気を纏っていた。見た目は二人共決して若く無いのだが、軽い口調と飾らない言葉が実際の年齢よりも若く見せる。
「……っ」
「ルチア?」
ふっと隣を見てみるとルチアが小刻みに揺れている。額には薄っすらと汗を流しているのだが、身体に熱は感じず、さらに緊張からか若干顔が白くなっている。
無理も無い。俺はこの世界に来てまだ幾ばくも経ってないが、ルチアはこの国ずっといたのだ。将軍とはいえ慣れているウェスタはともかくとして、この国で最も偉い人物と近距離で向かい合うのに緊張しない訳がない。
(仕方ねぇな……)
俺はルチアの手をギュッと握りしめる。ビクリと身体を震わせたルチアは突然手を握られて焦るが、俺がそちらを向かないで無視をすると何も言えずに黙った。
「……緊張してんだろ? 手ぇ握ってやるよ……」
「……変態……」
お互いにしか聞こえない声で会話を交わした。その最中も終わった後もルチアは俺の手から手を離さなかった。
「さて、私も公務があるのでな。手短に話そう。どこまで話したのだ?」
ディリーテは咳払いを一つして隣に質問をした。すると、ウェスタは何やらバツが悪そうに顔を歪ませ、荒い手つきで髪を掻き毟る。
「どこまでっていうか……最後だけ話しちゃいましてね……そしたらパイセンがマジギレしちゃって……」
「最後というと……?」
「由紀先輩が命を落としたところです。……俺が殺したんですからね。アレは……」
「……ッ!」
ウェスタの言葉は後半になると力を無くした。俺は胸の内側がまたしても熱くなりそうになったが、手から伝わるルチアの体温が沸騰しかける熱を冷ます。
「あぁ……ウェス。お前はいつもそうだ。普段は要領が良いくせに、肝心な所で言葉が足りない。昔からそこだけは変わらないな?」
呆れを隠さずにディリーテはウェスタを責める。そして悟ったかのように深いため息を吐き出すと、一転して鋭い目つきで俺を見つめる。
決して威圧的では無いが、余計な言葉を発っすることを許さないそれは王の威光とでも言うべきだろう。
「私が話そう。三十年前に何が起きたか。ヒノモト殿と同郷であり、我らの仲間であったユキ殿が何故命を落す事になったかを。その全てをな……」
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