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四章 幻想調査隊隊員日本一
西方屋敷
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~~二年前。隊舎、日本一居室にて~~
「人生何が起きるかわかんないっすね~」
「全くだよねー。あ、これ負けた人がコーヒー買ってくるのはどう?」
「……」
楽しげに話す西野と由紀とは対照的に俺は口を一文字にして黙っていた。ただ黙々と目の前に広がる盤上の駒を手で掴みとり、一歩、また一歩と歩ませる。駒を動かし終えると俺は握っていた六面体に点が刻印されたモノを由紀に渡す。
「ん、ありがとう。よきにはからえ」
「……うっせぇ」
清々しいまでの笑顔を向けられたが、それに対して俺は仏頂面で返す。尚もニヤける由紀の顔は子供のように純真で見ているものを癒してくれる気がする。
普段の俺ならば間違い無くつられてニヤけてしまうのだが、この盤上の真剣勝負においてそんなことをする余裕は無い。
「人生ゲームってヤバいな。俺の借金が二七億円なんだけどさ、どうゆう事?」
「日頃の行いが悪いんだろうね?」
善良な人間ならば決して背負う事の無い額を背負い込むこの駒は一体どんな悪行を積んできたのだろうか。俺の興味はそこに逸れていった。
「パイセンの日頃の行いが悪いって意味っすよ?」
「意味知ってるわ! 俺は悪くねぇよ!」
当たり前の事を嫌みたらしく確認の為に再度聞いてきた西野の顔を睨みつけ、俺は仏頂面で腕組みをする。
俺とは対照的にウキウキとした顔で由紀は賽を投げる。放物線を描いて落ちていき、コロコロと盤面を転がり真上にきた面は点が六個刻まれていた。
「六だ。えっと……わぉ! セカンドライフ、ボーナス確定だってさ!」
「まじっすか! 良いなー由紀先輩」
駒をトントンと進め、マスに書いてある文言を読み童心に帰った由紀は手放しで喜ぶ。無邪気に挙げられた両手は喜びの感情を表すのにこれ以上は無いと言えるほど真っ直ぐだ。
「よーし、俺もやるっすよ! そりゃあッ!」
気合いとともに投げられた賽を投げ、盤の上を力強く転がる。六面体の絵柄は転がる勢いとほぼ同じように回り表情を変える。
「あぁっ!? 一っすわ~。しかも一回休みっすわ……」
「お前は日頃の行い悪いからな」
「否定しないっす」
淡々と答えた西野だが、歯を噛み締め頬を引攣らせる表情を見るに悔しさはあるようだ。
「俺の番だな。行くぜ!」
俺は賽子を握りしめ手の内で回す。手の平に感じる角ばりながらも丸みを帯びた形を皮膚で受け止め、真っ直ぐに伸ばした人差し指と中指を伝い放った。
「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか。はたまた何が来るかな?」
手から離れた賽の行方を俺は神に縋る思いで祈り、そして希望を託した。
―――――
「人生何が起こるかわかんないもんだな?」
銃を肩に背負い見上げる俺の視界にそびえる建造物。西洋風の豪華な建物と言ってしまえばそこで終わりなのだが、細かに見るとそんな言葉では済まされないことがよく分かる。
見上げる高さから判断するに恐らく五階建て。居並ぶ窓はそのまま部屋の多さを表す。レンガ造りの外壁の美しさは一つ一つ丁寧に積み重ねられた事の証明であり、建てた職人の技量が伺える。入り口の観音開きの玄関も造りはシンプルながら、装飾のさりげない美しさが光る。見る者には分かる造りと言えよう。
また、そこに辿り着くまでの道のりも風情が溢れる。屋敷の周りに広がる庭は庭園と呼べ、刈りそろえられた芝生に生垣の花も整えられ見る者の心を満遍なく満たしていく。
点々と立つ木には見ただけで熟されてるのが分かる果実が垂れていた。捥ぎ取り手に収め、齧り付き口に含めば、途端に甘みを全身に行き渡らせる事間違い無しだろう。それらの加工された自然を含めて尚、屋敷の美しさを増長させて行く。
最後に。俺の目の前にある門はそんな楽園への入り口相応しく、厳かながらも堅牢だ。
城を守る塀のように屋敷の全周を四角く囲う壁はこれまた美しい。屋敷の外壁と同じレンガが使われている。無論、こちらも職人の技量は言うまでも無い。
数少ない出入り口として存在する門は無骨なまでに強固。分厚い木材を何枚も重ねて作られた門は並大抵の威力の武器では破壊は不可能。よく見ると木材と木材の間に鉄板らしきものが仕込んであり、おそらく現代火器でも対戦車火器並みの威力が無ければ動揺させることすら出来ないだろう。
レンガの塀を目でなぞっていくと所々に木組みの矢倉が建っていてそこには弓を手にした兵がいた。監視の役目といざという時に高所からの射撃の任を任されているのだろう。
豪邸でありながらも要塞。それが俺の持つこの屋敷の第一印象だ。
「こんなとこに俺も住めるとはな。今まで考えられなかったぜ」
開かれた強固な門の金具を触り、ヒンヤリとした感覚を指先に感じさせる。凝った装飾は何を象徴しているのかは分からないが、趣は悪くない造形だ。
「どうしました? ヒノモト殿?」
俺が指で撫で繰り回していると門の脇にいる剣を腰に差した門兵が声を掛けてきた。
「ん? あぁ、昨日初めて来た時も思ったけど良い仕事をしてるなってさ」
「ほぅ、ヒノモト殿は造形に関して詳しいのですね!」
若いながらも無精髭を蓄えた見た目は無骨な武人を思わせる。顔の手入れをする暇があれば剣の手入れをしたいと言ってしまうタイプだろう。
「よせやい。俺はそんなに詳しくねぇよ」
俺の知識は言ってしまえば現代人ならば殆どの者が利用しているインターネットの知識だ。それにプラスして趣味の海外ドラマで得た知識な程度だ。褒められたり人に教えたり出来るほど博識な訳じゃない。
「謙遜なさらずとも。ヒノモト殿は初めて見た時から只者では無いとわかっていましたので」
鼻をすすりながら答える門兵に俺は首を傾げる。よく見ても出会った記憶などは無く当然昔からの顔馴染みでも無い。顔をしかめて注意深く覗き込んでいると門兵は困ったように頬を指で擦る。
「覚えてないのも当然です。ほら、私はアレです。王の謁見の時に連行した兵士ですよ」
「あぁ~、うん。すみません覚えてないです」
そういえば俺を羽交い締めにした兵士がいたなと思い記憶を辿るが、いかんせんあの時は異世界に来たばかりでいきなり牢に押し込められるなど通常ではあり得ない事態に遭遇して俺自身気が気でなかった事もあり、正直ただの兵士を覚える余裕などは無かった。
「はは、大丈夫ですよ? これから覚えて頂ければ結構です」
雑に生やした無精髭を摩り目元に皺を寄せて笑う。気の良さそうな門兵に俺は頭を下げる。
「グロリアス王国西方軍所属の兵士、ウォンです。ご気軽にお申し付けください!」
俺のお辞儀に負けないほど頭を深く下げたウォンに俺は決して気が悪くない笑みを浮かべる。
「ウォンね。じゃあ早速頼んでも良いか?」
「えぇ、どうぞ」
二つ返事で答えたウォンに俺は門の外を指差しながら言う。
「ジェリコとルチアがな、俺が射撃で使った資材を持ってくるから整備して置いとけって伝えてくれ。なんか文句言ったら……『村ではよく寝れただろ?』って言えば平気だ」
「は? はぁ……分かりました」
理由を知らないウォンは俺が何を言っているのかは分かってないのか、戸惑いの色を見せたまま返事をする。
「じゃ、頼む」
俺は肩に背負う銃の位置を指で直すと屋敷の玄関へと歩き出す。
「あ、お気をつけください! メイド長がヒノモト殿の部屋が汚いとお怒りでしたよ!」
「げっマジかよ。仕方ないだろ、昨日の夕方到着してまだ間もないんだからよ……」
俺は背中から聞こえて来た不穏な文言に顔をしかめ、苦虫を噛み潰したような顔をする。
(さて、鬼が出るか蛇が出るか。……どちらにせよ怖えな?)
心の中で記憶にある諺を唱え、俺は一歩ずつ重い足取りで屋敷へ向かっていった。
「人生何が起きるかわかんないっすね~」
「全くだよねー。あ、これ負けた人がコーヒー買ってくるのはどう?」
「……」
楽しげに話す西野と由紀とは対照的に俺は口を一文字にして黙っていた。ただ黙々と目の前に広がる盤上の駒を手で掴みとり、一歩、また一歩と歩ませる。駒を動かし終えると俺は握っていた六面体に点が刻印されたモノを由紀に渡す。
「ん、ありがとう。よきにはからえ」
「……うっせぇ」
清々しいまでの笑顔を向けられたが、それに対して俺は仏頂面で返す。尚もニヤける由紀の顔は子供のように純真で見ているものを癒してくれる気がする。
普段の俺ならば間違い無くつられてニヤけてしまうのだが、この盤上の真剣勝負においてそんなことをする余裕は無い。
「人生ゲームってヤバいな。俺の借金が二七億円なんだけどさ、どうゆう事?」
「日頃の行いが悪いんだろうね?」
善良な人間ならば決して背負う事の無い額を背負い込むこの駒は一体どんな悪行を積んできたのだろうか。俺の興味はそこに逸れていった。
「パイセンの日頃の行いが悪いって意味っすよ?」
「意味知ってるわ! 俺は悪くねぇよ!」
当たり前の事を嫌みたらしく確認の為に再度聞いてきた西野の顔を睨みつけ、俺は仏頂面で腕組みをする。
俺とは対照的にウキウキとした顔で由紀は賽を投げる。放物線を描いて落ちていき、コロコロと盤面を転がり真上にきた面は点が六個刻まれていた。
「六だ。えっと……わぉ! セカンドライフ、ボーナス確定だってさ!」
「まじっすか! 良いなー由紀先輩」
駒をトントンと進め、マスに書いてある文言を読み童心に帰った由紀は手放しで喜ぶ。無邪気に挙げられた両手は喜びの感情を表すのにこれ以上は無いと言えるほど真っ直ぐだ。
「よーし、俺もやるっすよ! そりゃあッ!」
気合いとともに投げられた賽を投げ、盤の上を力強く転がる。六面体の絵柄は転がる勢いとほぼ同じように回り表情を変える。
「あぁっ!? 一っすわ~。しかも一回休みっすわ……」
「お前は日頃の行い悪いからな」
「否定しないっす」
淡々と答えた西野だが、歯を噛み締め頬を引攣らせる表情を見るに悔しさはあるようだ。
「俺の番だな。行くぜ!」
俺は賽子を握りしめ手の内で回す。手の平に感じる角ばりながらも丸みを帯びた形を皮膚で受け止め、真っ直ぐに伸ばした人差し指と中指を伝い放った。
「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか。はたまた何が来るかな?」
手から離れた賽の行方を俺は神に縋る思いで祈り、そして希望を託した。
―――――
「人生何が起こるかわかんないもんだな?」
銃を肩に背負い見上げる俺の視界にそびえる建造物。西洋風の豪華な建物と言ってしまえばそこで終わりなのだが、細かに見るとそんな言葉では済まされないことがよく分かる。
見上げる高さから判断するに恐らく五階建て。居並ぶ窓はそのまま部屋の多さを表す。レンガ造りの外壁の美しさは一つ一つ丁寧に積み重ねられた事の証明であり、建てた職人の技量が伺える。入り口の観音開きの玄関も造りはシンプルながら、装飾のさりげない美しさが光る。見る者には分かる造りと言えよう。
また、そこに辿り着くまでの道のりも風情が溢れる。屋敷の周りに広がる庭は庭園と呼べ、刈りそろえられた芝生に生垣の花も整えられ見る者の心を満遍なく満たしていく。
点々と立つ木には見ただけで熟されてるのが分かる果実が垂れていた。捥ぎ取り手に収め、齧り付き口に含めば、途端に甘みを全身に行き渡らせる事間違い無しだろう。それらの加工された自然を含めて尚、屋敷の美しさを増長させて行く。
最後に。俺の目の前にある門はそんな楽園への入り口相応しく、厳かながらも堅牢だ。
城を守る塀のように屋敷の全周を四角く囲う壁はこれまた美しい。屋敷の外壁と同じレンガが使われている。無論、こちらも職人の技量は言うまでも無い。
数少ない出入り口として存在する門は無骨なまでに強固。分厚い木材を何枚も重ねて作られた門は並大抵の威力の武器では破壊は不可能。よく見ると木材と木材の間に鉄板らしきものが仕込んであり、おそらく現代火器でも対戦車火器並みの威力が無ければ動揺させることすら出来ないだろう。
レンガの塀を目でなぞっていくと所々に木組みの矢倉が建っていてそこには弓を手にした兵がいた。監視の役目といざという時に高所からの射撃の任を任されているのだろう。
豪邸でありながらも要塞。それが俺の持つこの屋敷の第一印象だ。
「こんなとこに俺も住めるとはな。今まで考えられなかったぜ」
開かれた強固な門の金具を触り、ヒンヤリとした感覚を指先に感じさせる。凝った装飾は何を象徴しているのかは分からないが、趣は悪くない造形だ。
「どうしました? ヒノモト殿?」
俺が指で撫で繰り回していると門の脇にいる剣を腰に差した門兵が声を掛けてきた。
「ん? あぁ、昨日初めて来た時も思ったけど良い仕事をしてるなってさ」
「ほぅ、ヒノモト殿は造形に関して詳しいのですね!」
若いながらも無精髭を蓄えた見た目は無骨な武人を思わせる。顔の手入れをする暇があれば剣の手入れをしたいと言ってしまうタイプだろう。
「よせやい。俺はそんなに詳しくねぇよ」
俺の知識は言ってしまえば現代人ならば殆どの者が利用しているインターネットの知識だ。それにプラスして趣味の海外ドラマで得た知識な程度だ。褒められたり人に教えたり出来るほど博識な訳じゃない。
「謙遜なさらずとも。ヒノモト殿は初めて見た時から只者では無いとわかっていましたので」
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「覚えてないのも当然です。ほら、私はアレです。王の謁見の時に連行した兵士ですよ」
「あぁ~、うん。すみません覚えてないです」
そういえば俺を羽交い締めにした兵士がいたなと思い記憶を辿るが、いかんせんあの時は異世界に来たばかりでいきなり牢に押し込められるなど通常ではあり得ない事態に遭遇して俺自身気が気でなかった事もあり、正直ただの兵士を覚える余裕などは無かった。
「はは、大丈夫ですよ? これから覚えて頂ければ結構です」
雑に生やした無精髭を摩り目元に皺を寄せて笑う。気の良さそうな門兵に俺は頭を下げる。
「グロリアス王国西方軍所属の兵士、ウォンです。ご気軽にお申し付けください!」
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「は? はぁ……分かりました」
理由を知らないウォンは俺が何を言っているのかは分かってないのか、戸惑いの色を見せたまま返事をする。
「じゃ、頼む」
俺は肩に背負う銃の位置を指で直すと屋敷の玄関へと歩き出す。
「あ、お気をつけください! メイド長がヒノモト殿の部屋が汚いとお怒りでしたよ!」
「げっマジかよ。仕方ないだろ、昨日の夕方到着してまだ間もないんだからよ……」
俺は背中から聞こえて来た不穏な文言に顔をしかめ、苦虫を噛み潰したような顔をする。
(さて、鬼が出るか蛇が出るか。……どちらにせよ怖えな?)
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