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三章 首無し騎士と幻想無し

共に陽の下を歩みます。

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 ~~一年前の夏。隊舎内、日本一の居室にて~~

「……とまぁこんな感じよ。俺の暴走族時代の話はよぉ」

 薄手のシャツが皮膚にべったりとくっつくほどに暑い真夏の夜の熱帯夜。
 怪談百物語ならぬ武勇伝百譚を聞いた俺達は目の前で冷えた缶コーヒーで喉を潤す中元班長に視線を集めていた。

「スゲェっすよ……なんつーか、中元班長が暴走族に見えてきたっすよ」

「なんかテレビで見る人の話みたいです……私、中元班長のこと見直しました!」

「人は見かけによらないってのは本当なんだな……まさか中元班長がこんなに壮絶な人生を送ってたなんて思わなかったですよ?」

 蛇牙亜脳吐第十五代特攻隊長。
 それがかつての中元昴の肩書である。現在二等陸曹である中元班長の人柄とは全く異なる武勇伝に俺達はただ感嘆の溜息を吐いていた。

 やれ対立する暴走族との敵味方入り乱れの三百人以上による抗争。時には美人局に引っかかった仲間ツレの為に悪徳業者の事務所に殴り込みしに行く。はたまた法外なショバ代を迫る暴力団に真っ向から反発し、七首で脇腹を刺され重傷を負いながらなも組員数名を病院送りにするなど。それを認められて地元のヤクザに一目置かれる存在になったとか。
 どれもこれもが平凡な日常を送ってきた俺からすれば信じられないことであり、それの当事者が目の前で缶コーヒーの茶色い液体を迷彩服に零して慌ててる人物であることは到底信じられない。

「おい日本一、信じてないだろ? 俺にだって血気盛んな時代はあったんだぜ?」

 中元班長は俺の新隊員時代の班長でもある。基本的に新隊員と言うのは厳しく規律や隊務を指導されるのだが、中元班長は基本的に温厚であり一度も怒ったり暴力を振るったりするところは見た事が無い。
 もっとも、それは班長の代わりに班付きであるタケさんが激烈指導を行っていたからとの理由もあり得る。

「何で暴走族なんかやってたんすか? 目立ちたがりですか?」

「西野、聞き方考えろ!」

 団扇ウチワで自分だけ涼んでいる西野はそんなことを言う。相手の事なぞ全く考えぬ物言いは相手が相手ならとんでもない事になるだろう。
 だが俺の鋭い注意を手で制して中元班長はフッと笑う。

「そうだな……今思えば俺は死にたがりだったんだろうな」

「死にたがり?」

 物騒な言葉に俺は同じ言葉を繰り返して聞き返す。

「若気の至りだ。自分が何が出来るのか、何を成したいのかわからなくてよ……その鬱憤が溜まってたんだろうな?」

 自嘲するような言葉に中元班長は一転して空気が変わり、珈琲の似合う渋さを身に纏う。俺達は何も言えずに次の言葉が出るのを待った。
 数分の間を置いて中元班長は口を開き、苦い香りと共に息を吐き出す。

「……地元の関西でよ。俺がまだケツの青いクソ餓鬼の頃に馬鹿デケェ地震があったんだよ」

 関西地方の地震と聞き、俺は学生時代に見た教科書を頭に描く。
 確か死傷者も多数出た非常に悲惨な災害だったと教科書には書かれていた記憶がある。

「そん時にな、自衛隊の人が助けに来てくれたんだよ。知ってるか? 昔は今と違って自衛隊なんてクソみたいな扱いだったんだぜ」

 昔の自衛隊は税金泥棒や金食い虫、軍国主義者など考えられるだけの罵詈雑言を民衆から浴びせられたと先人から聞いた事がある。今のように災害派遣や海外での援助活動などがあまり報道されない時代の話だ。

「あの人達はよ、世間から嫌われてるにも関わらずその批判の声を出した人達を助けたんだ。そんな事を出来るかお前らは?」

 言われて俺は黙ってしまう。由紀も西野も同様に押し黙り、タケさんだけは無言で頷いていた。

「そっからだ、俺の目が覚めたのは。今の俺はもう昔の俺とは別人さ……悪い事なんて一つもしない。人を助ける為に粉骨砕身働くってな!」

 満足気に語り尽くすと中元班長は胸元からタバコを取り出し咥え、火を点けようとライターに指をかける。

「禁煙です。部屋の中で吸わないでください」

 タバコ嫌いの由紀の辛辣な言葉に中元班長は一時停止し視線だけを向ける。

「北村……上官の言う事には服従するのが自衛官だぞ?」

「今は勤務時間外です。そもそも営内は禁煙の規則ですよ?」

 先程まで尊敬に近い目で見ていた由紀だったが、今やその目は冷めており俺がタバコを吸う時と同じような敵意を向けている。
 目力に押され、渋々といった具合でタバコをしまい大きく溜息を吐く中元班長。その身体からは哀愁すら感じる。

「ま、まぁ、とにかく俺は改心したんだ。少なくとも俺の目が黒いうちは昔みたいに暴れまわる事はねえから安心しろよ!」

「じゃあ白くなったら暴れるんすかね?」

 西野の切り返しの言葉が思いのほか面白かったのか、中元班長は口に含んだコーヒーを噴き出し、えづいてしまう。

「ゲホ、ゲホ……おめえ面白いこと言うな! そしたら目ん玉無くなっても暴れちまうかもなぁ!?」

「頭無くなったりしても暴れるかもですね!あ、そしたら死んでるか?」

「俺はゾンビかっつーの! 笑わせんな馬鹿野郎共っ!」

 俺の最後の言葉がトドメとなり、中元班長は大笑いしてしまう。そしてコーヒーをズボンにまた零してしていた。
 真夏の夜が深まりテレビに映るゾンビ映画がクライマックスを迎える中、俺の部屋は気持ちの良い笑いに包まれていた。


 ―――――


 暗い廊下は静寂が支配し、立ち尽くす俺と床に倒れたままの首無し自衛官を包んでいた。
 吹き込んでくる風の音がいつもより大きく感じ、耳に当たる感触までしかと感じられる。それ程までに俺の身体は緊張感が高まっていた。

「どうなってんだよ……本当に、この世界はよ……」

 俺の問い答える者などいるはずも無く、隙間風が吐いた言葉を何処かへ持っていく。

 自衛官がこの世界にいる事はまだ分かる。あの場にいた俺は勿論のこと西野もこの世界へと来ているのだ。原理は分からなくとも前例が二つある以上は現実として納得はできる。では何故この姿でいるのかだ。
 俺は日本にいた頃と全く同じ姿である。西野も大分年を取っていて印象は変わっているがまだ面影を残している。
 だが、この中元班長と仮定した自衛官は面影どころの話では無い。なにせ首が無いのだから。着ている迷彩服もかなりボロボロとなっていて、持ち物も中元昴と書かれたラッパ以外には何一つとして持っていない。

「とにかく、誰であれ連れて帰らなきゃな」

 無論捨て置くと言う選択肢は無い。俺の試験という事もあるが顔馴染み可能性も残っている以上、連れ帰って調べなければならない。
 乱暴な扱いをしたせいで根元から折れた剣を投げ捨て乾いた金属音を鳴らさせると、俺は空いた手で倒れた首無しを肩に背負う。頭部が無いせいなのか思ったよりも軽く、本来なら担ぐのに邪魔な位置に来る頭も無いので運ぶのはそれほど大変では無い。

「本当は簀巻すまきにして抵抗出来なくしたいんだけどな……」

 武器も鎧も無く、意識も失っているので直ちに暴れ出すとは思わないが、先程まで命のやり取りをしていた相手である。出来れば身体を縛って完全に無力化させたいがそうする為の道具は流石に持ち合わせていない。リュックも武器も作戦の為に俺と入れ替わったエレットが持って行ってしまっているのだ。

「仕方ない、このまま歩くしか無いな。さっさとこいつを片してイオンの所に行かないとな」

 避難させた部屋で今なお眠りについている筈のイオンを想い、俺は肩に重みを感じたまま歩き出した。
 暗い城内に戦いの疲労も手伝ってか俺の足取りは重く、完全に途切れた集中力も相まってしまい、何度も道に迷ってしまった俺が城内を出れたのは夜明け前の時間となっていた。
 彼方の空は微かに白み始め、朝日がすぐ近くまで来ていることを証明する。朝の冷えた空気は一夜の激闘の熱を冷ますには丁度良い塩梅である。
 神官服を汗で満遍なく湿らせ、身体にべったりとへばり付かせた俺は疲労感を全身に感じつつも無事に城の入り口となる門を出た。

「エレット?」

 門の柱に隠れるように一人の女性がいた。上下迷彩服に金髪の髪を覗かせる神官エレットである。
 男性用のサイズである迷彩服は彼女の丈には合わず裾が大分余っているのだが、唯一胸の箇所だけは俺の迷彩服に悲鳴を上げさせるほど盛り上がっている。
 体育座りで銃を抱え、顔を突っ伏していたのだが俺の声に気がつくと呆然とした様子で顔を上げる。

「ムーロ……ハジメ?」

 寒さからか、一人で待ち続けた孤独からか、震える唇から俺の名前が出てくる。それに答えるように俺は笑顔を向け肩に寄りかかる首無しを揺する。

「終わったぜ。とりあえずな」

「……イ、ムー、ガルアデ、ヨォウ、アロエ、フインエッ!」

「うおっと!?」

 すぐに俺の言葉が理解できなかったのか惚けたように目を丸くする。首無しと俺を交互に見てようやく戦いが終わった事実を飲み込めたのエレットは勢いそのままに胸へと抱きついて来た。
 あまりの勢いに姿勢を崩しそうになったが何とか耐え、顔に掛かる髪のこそばゆさとお腹に当たる二つの柔らかなモノを堪能してから俺はエレットの頭を軽く撫でる。埃まみれの髪が指に絡んでいき、エレット自身の頑張りを感じることができた。

「心配掛けてゴメンよ。でも、終わったから……」

 背中を軽くさすりエレットが落ち着くまでなされるがままになる。
 数分間の抱擁でようやく気が済んだのか、俺の胸から離れたエレットの顔はやけに晴れ晴れとしていた。
 その様に満足した俺は次の行動に移るべく肩に背負った首無しの自衛官を慎重に下ろす。

「こいつが俺達の調査目標だ。エレット、しばらくこいつを見張っててくれ」

「ワハテ?」

 言葉は通じているはずなのに首を傾げられ、俺は困ってしまう。

「イオンを迎えに行きたいんだよ。だから頼む」

 俺の脳裏には今も生死の境を彷徨っているだろうイオンの姿が思い浮かぶ。最後に見た時は呼吸が安定していたのだが重症なのは変わりは無く、早く治療を受けさせなければならない。

「イ、スエエ。イ、ワイルル、ゲオ!」

 俺の言葉にそう答えたエレットは了承したとばかりに頷く。そして銃を俺に押し付けて城内へと歩き出す。そそくさと足早に歩き出したその姿に俺は慌てて肩に手を伸ばして止める。

「あれ、聞いてた? イオンを迎えに行きたいんだけど?」

「イ、スエエ」

 そんな事は分かってると言いたいのか、俺の言葉に相槌を打つ。そしてまた再び歩き出した。

「ちょっとエレットさん?」

 尚も止めに入る俺の手に捕まり、エレットは眉間に皺を寄せる。物を聞かぬ態度に俺は不信感を抱くが、そんな俺に向けてエレットは胸元から取り出したナニかを押し付けてきた。

「ハジメさん。言葉はわかりますか?」

 エレットの手には蒼い宝石が付いたペンダントが握られていて、それをそのまま俺の首に着けてきた。戸惑う俺に御構い無しエレットは言葉を続ける。

「貴方はもうボロボロなんですよ? 私が迎えに行きますからここで大人しくしてくださいッ!」

 半ば怒っているような剣幕に押され、俺は一歩下がってしまう。確かに自分の格好を改めて見てみると凄まじい有様となっていた。
 裾は当然破れていており、罠に誘導している際に斬られていたのか背中や腰にもうっすら切傷がある。耐火性能を増したはずの神官服は至る所が焦げていた。
 手は慣れぬ剣を力任せに扱った所為なのか血豆が出来そのうちのいくつかは破れていた。

「安静にしてください。貴方はそれだけ頑張ったんですから……」

 表情が一転して変わり、柔和に目を細めるその姿は神官ではなく救いの女神とも呼びたくなる。それ程までに俺への慈愛に溢れていた。

「もう何言っても聞きませんよ? だって、もう言葉・・はわかりませんからね!」

 最後にゆっくりと手を離し、俺に背を向けてエレットそれだけ言うと城の中へと歩き出してしまった。

「ありがとう。エレット」

 後ろ姿をただ見送る俺はそれだけしか言えなかった。

 迷彩服が城の中に消えたのを確認し、俺は神官服の胸の隙間からタバコを取り出し火を点ける。
 吐き出された紫煙はいつもと同じように宙を漂い、あてもなく消えていく。その姿は窮地を脱しこれからくる平穏な朝を迎えに行っているようだ。

「終わったな……」

「終わったね」

「……はっ!?」

 詩的な気分に浸る俺の言葉に答える者がいた。まさか答える者がいるとは思わなかった俺は間の抜けた返事をする。その返事に答えるように尻に激痛が走った。
 堪らず膝から崩れ落ち、衝撃の勢いでタバコは手から離れ煙と同じように宙を舞い、そして落ちた。
 尻を押さえて地面に倒れる俺の目の前に落ちたタバコを踏みつける黒い足。そこから視線を上に向けると俺が会いたかった人物がいた。

「ハジメくん。こんな臭いモノを吸ってると女の子に嫌われてしまうよ? 良いのかい?」

「なんでここにいるんだよッ! イオンッ!」

 黒いブーツに黒いズボン。黒いコートに黒の仮面。ポケットに手を突っ込んで全身黒尽くめのこの姿を見間違うはずがない。
 瀕死の重傷を負い、動けない筈のイオンが俺の前に立っていたのだ。

「一体どうやって……」

「言っただろう? 僕は不死者だってさ」

 傷の具合は全く問題無さそうであり、答えになっていない答えを自信満々に言う姿に俺は呆れつつも嬉しさが込み上げてくる。
 俺は膝に着いた汚れを払い落とすとじっくりとイオンを見る。そして勢いそのままに抱きついた。

「なぁッ!? な、何するんだハジメくん!」

「良かった……本当に良かった……お前、俺を何回も助けて……傷付いて……」

 窮地に陥る度にイオンは身を呈して俺を助けてくれていた。どんな想いがあるにせよ、俺には感謝の感情しか無かった。俺は力一杯イオンを抱きしめ言葉に出来ない感謝の気持ちを伝える。

「……気持ちはありがたいけど、その・・格好で抱き締められると複雑だね?」

「いや、これには深い訳があってな?」

 イオンの抑揚の無い声に自分がどんな格好をしているのか思い出し、俺は赤面する。その様子を見ておかしくなったのか仮面の内側でクスクスと笑い声を漏らしていた。

「無事に終わって良かったよ。ハジメくん、君は良く頑張った」

「俺だけじゃ無理だったよ。それは間違い無い」

 言葉の通り、俺一人では今回の件は成功しなかった。
 イオンやエレット。そして名もなき冒険者達の働きがあったからこそ成功したのだ。

「そうだ! エレットがお前を迎えに行ったんだよ、呼び戻さないと」

「待った! その前に済ませたい事がある」

 走り出そうとする俺の身体をイオンは手を握り締める事で止める。予想以上に強く握られ俺は思わず短い悲鳴を上げた。

「ご、ごめん……何はともあれ。僕は君に伝えなければいけない事がある。良いかい?」

 急に改まった態度になったイオンに違和感を覚えつつも俺は頷く。咳払いを二、三度行ったイオンは手で服装の乱れを直した後、右手を胸元に当て姿勢を正す。

「グロリアス王国。賢王直下部隊、監視者オブザーバー兼幻想調査隊特別顧問イオンの名において承認する。此度こたびの調査試験を達成した功績により、日本一殿を幻想調査隊仮隊員から改め、正式な幻想調査隊隊員として認める」

 何をやるのかと思えば俺への任命式であった。たしかにこれは俺と幻想調査隊と監視者のイオンの問題である。
 イオンは口上を終えると自分のポケットから小さな金属板を取り出し俺の首にかける。二枚組のそれは互いがぶつかり合い小さな金属音を鳴らしていた。

「君たちの世界では認識票ドッグタグって言うらしいね」

「あぁ、そうだな」

 まさかこの異世界で戦士の証を身に付けるとは思っていなかった俺は苦い笑みを浮かべる。
 微かに感じる首への重みはこの世界で戦う意味を導いてくれてるようにも見える。

(戦った事なんて一度も無かったのにな……)

 戦争の無い平和な日本にいるのだから当たり前なのだが、よもやこの世界に来てからこれ程まで戦いに明け暮れるとは思ってもいなかった。

「コホンっ。ええっと、あともう一つ……良いかい?」

 わざとらしく咳払いをし、イオンは何やら指をもじもじと動かして落ち着かない様子を見せる。
 ここ数日とはいえイオンの事はある程度理解していた俺はその行動がイオンらしく無いことに違和感を覚える。

「なんだよ?」

「君のお願いに対する個人的な・・・・答えを言って無かった。彼女・・がいない今の内にそれを言わせてくれ」

 僅かに朝日が昇る空を背景に、イオンは俺を真っ直ぐに見据える。金色の瞳は揺らがぬ決意の表れか強く輝いていた。
 ポケットから手を出し、白い指でイオンは自分のフードを外す。青い髪が朝日の元に晒され淡く煌めく。

「互いの命尽きるまで。君はそう言ったね?」

 後ろで結んである仮面を固定している紐を外す。手のひらで仮面を押さえながらゆっくりと外しその顔を陽の下へとさらけだす。
 先程見たときは暗い室内でさらに血で汚れていた為に細かには見れなかったが、今改めて見るとイオンの顔は一目で分かるほど女性的な美しさを感じさせる。

「優しい僕は優しい君に、最期・・まで付き合ってあげるよ」

 金色の瞳を輝かせ、ニッコリと頬を緩ませる姿は俺の胸をまた違う意味で熱くさせる。焦げ付くような胸の熱さに俺は息を飲み込んだ。

「僕の名前はイオン。不死者アンデッドの……陽の下を歩く不死者デイ・ウォーカーのイオンだ。君が死ぬまで僕は君に付き合ってあげるよ。だからよろしく、日本一ヒノモトハジメくん」

 朝日の輝きの下に照らされたイオンの笑顔は、俺が今まで目にしたモノの中でも一番の美しさを誇っていた。

「あ、ああ……よろしくイオン……」

 俺は目の前で眩いばかりの光を放つイオンに照れてしまい、顔を赤面させながらも差し出された手を握り締める。互いの手から共有する体温は、夜明けの春風でも冷やさないほど熱いものであった。
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