42 / 84
三章 首無し騎士と幻想無し
祈りを捧げる場所
しおりを挟む
薄暗い廊下を三つの灯りが進む。二本の松明の灯りは揺らめいて三人の影を長く伸ばしていく。時折、隙間風が流れてきて三人の影を揺らめかせ照らされた壁を波うたせる。
「エレットは何故首無し騎士を?」
「……」
「イオン?」
俺の言葉を訳さずにイオンは黙って歩く。黙って松明で行先を照らし、やや早足で歩く姿は怒っているようにも俺の目には映った。
「イオン? 無視すんなって!」
「ちっ、教会は命というものを重んじている」
俺の質問とは全く関係無さそうな事をイオンは喋る。声の抑揚は普段通り控えめなのだが機嫌が悪いのか舌打ちを混ぜ、俺を仮面越しに睨みつける。怒気が込められている視線に俺は思わず身を引いてしまう。
「あの、どうかしました? 地面も照らした方がいいでしょうか?」
そう言うエレットの頭の上にはピンポン球ほど小さな光の玉が浮いていて、エレットが指先で下を指し示すと光の玉は俺の足元に来て地面を淡く照らし出した。
「初級魔法の光というものです。便利ですよ?」
はにかんだ笑顔で指を一本立てて、そこからさらにもう一つ光の玉を作り出しイオンの足元へと指で導く。
「僕のは要らない」
足元に来た光の玉を足で払いのけイオンは先へ進む。俺は慌ててイオンを追いかけ肩を掴んでこちらを向かせる。
「どうしたんだイオン? なんでそんなに怒ってるんだよ?」
「僕は怒ってないッッ!」
急に声を荒げ、イオンは俺の腕を掴み力ずくで振り払う。掴まれた腕がうっすらと赤くなるほどイオンの力は強く、殺気すら感じさせる眼光に俺はまた距離を取ってしまいエレットのそばまで下がる。
「あの……私、何かしてしまいましたか?」
俺とイオンの間の険悪な様を見たエレットはおどおどとしていて、俺とイオンを交互に見やる。
荒い呼吸を繰り返し、肩で大きく息をするイオンは幾らか落ち着いて来たのか気まずそうに顔を背ける。
「……光魔法は苦手なんだ。なんか嫌なんだ」
それだけ言うとスタスタと足音を鳴らしながらイオンはまた先に向かってしまう。その背中は背丈相応の子供らしい幼い背中に見えた。
「ハジメさん……」
自分が何かしてしまったのかと不安になるエレットは申し訳なさそうに俺の名を呼ぶ。俺はエレットの肩にそっと触れると慰めるように優しく言葉をかける。
「エレット気にするな、イオンも悪気がある訳じゃ無いと思う」
「……ありがとうございます。言葉は分かりませんが、貴方が私を励まそうとしてくれてるのは分かります」
感謝の言葉を述べ一礼をし、エレットは先を歩くイオンの後を追いかけるように小走りで駆け出す。
(光魔法が苦手? それは違うだろ)
村での食事の際、ルチアが光の魔法を使った際にイオンは何も言わなかった。
イオンの取る行動は明らかにエレットを、いや、神官を嫌っている。その証拠にイオンは一度も彼女の名前を呼んでいない。名前を知っているにも関わらずにだ。
「なんか気に食わない事があるなら言えよ……」
小声で呟き、俺は二人の後を追いかけた。暗い城内に響く足音は不気味な程静かに広がって行った。
その後、しばらく探索を続けていく俺達。他の部屋も探索し客間や寝室と思われる場所、食糧庫とおぼしき腐った肉や作物が貯蔵されてる場所も行った。朽ちた槍や錆だらけの剣が置かれる武器庫らしき場所にも行った。そして探索の中で俺はあることに気が付いた。
「砦として使われてたんだな」
城と言っていた割には所々狭い廊下。そして外壁に近い部屋には小さな穴の様なモノが沢山あった。
これは銃眼と呼ばれる構造のモノであり、この穴から弓などの飛び道具で攻めてくる敵を撃退する為の防衛設備だ。
「特に東側が多いんだな」
「この城はな、遠い昔に対魔族の為に建てられた城なんだ」
「魔族? またえらくファンタジーなモノが出てきたな」
魔族と言われてゲームが好きな俺がピンと来ない訳が無い。やれ人類共通の敵だとか、お姫様を攫う奴だとか。基本的に悪役として描かれるモノが多いのは周知の事実だ。
「もしかして魔王とかもいるの?」
「いるよ。今の魔王は……」
「あっ、すいません。少しいいですか?アレを……」
イオンとの会話を遮りエレットが指差す先を見るとそこには一つの部屋があった。
部屋の入り口となる両開き扉は片側は壊れて外れ床に倒れていて、もう片方のドアも金具で吊られているだけで宙ぶらりんとなっていた。
俺の目から見て特に他の部屋とは変わった様子は無く、わざわざ話を遮る程の事では無いと思えた。
「……礼拝堂か」
イオンは小さく呟いてため息をつく。
「そうです。少し見に行ってもいいですか?」
同意を求めるエレットの目をイオンは避ける。すると次に俺を見てきたので少し考えてから俺は頷いた。
「ありがとうございます!」
答えるが早いか歩き出すエレットの後を追う様に、俺が行きその後を渋々といった具合にイオンが付いてきた。
「すげっ。こんなん初めてみたぜ」
中に入るとまず目に付いたのは並べられた長椅子。全てが正面を向いていて入り口側に背を向けている。
次に目に付いたのは部屋の奥にある七色のステンドグラスだ。日本にいた時はテレビでしか見た事が無かった俺としては、実際に初めて見るソレは長年手入れがされて無く大きなヒビ割れがある事を考えても綺麗であった。
最後に目に付いたのはスタンドグラスの光を浴び、両腕を広げる女性の像だった。白い石材を丁寧に磨き女性特有の柔らかさすら感じさせてくれる像は思わず感嘆の声が出てしまう。
「でも、可哀想だね」
「あぁ、そうだな……」
女神像の首から上は何かで折られた様に断面が荒く、女神の無念を表しているかの様に丁度ヒビ割れで光の具合が美しくない場所であった。
まるで女神が悲しみ、この世界を見たくないとも言っている様にも感じる。
「……」
そんな女神にエレットは跪き祈りを捧げた。小石や割れたガラスの破片を意に介す事もなく膝をつき、両手を組んで目を瞑っていた。
「……」
「……」
祈りを捧げる姿は一枚の絵画の様に幻想的な光景を映し出す。俺とイオンは言葉を一言も発する事なく黙ってそれを見ていた。
「……?」
急にイオンがそわそわしだす。何かの気配を感じつつも、どこから感じるのか分かはないといった具合だ。
俺も何か言葉に出来ない違和感を感じ辺りを見回すが当然この場には俺達三人しかいない。他に気配は何も無かった。
(気の所為か?)
静かな場所にいると人は情報を求め感覚が鋭くなるという話を聞いた事がある。その所為で大したことの無い些細な事でも注意が行くようになってしまうらしい。俺は気にしすぎだなと思い直し、気を落ち着けるために一度深呼吸をする。
「命というものは限りあるからこそ輝くものなのです」
誰に言うにもなくエレットは言う。
「その理を乱すのは決して許される事では無いのです」
エレットは立ち上がり俺とイオンの方へ向かってくる。その姿はまるで神の代弁者と言わんばかりに自信に溢れ、妄信的な危うさも兼ね備えていた。
「だから教会は不死者を率先して討伐するんだろう?」
横のイオンがエレットへ声をかける。その声はさっきまで不機嫌そうな声とは違い、普段通りの抑揚が無い声だった。
「えぇ。私が今回首無し騎士討伐に参加した理由がそれです。不死者を操るデュラハンだと聞きましたので」
一点の曇りも無い茶色の眼は確かな決意と変わらぬ意思すら感じる。眼力の強さに村で見たエレットの面影は無く俺は少し怖くなってしまった。
「だから、そうやって……お前らは……」
「イオン? さっきからどうしたんだ?」
ぶつぶつと独り言のように呟くイオンは俺の顔を一切見ずに俯いたままだ。返答が無く言葉に詰まった俺は手持ち無沙汰に銃を弄る。
射撃方法を変える切り替えレバーを安全装置や三点制限射機構に切り替える度になるカチカチとした音だけが礼拝堂に鳴り響く。
(……? ……ッ!?)
そこで俺はやっと気が付いた。今の今まで感じていた違和感の正体を。
「静か過ぎないか?」
そう。あまりにも静か過ぎるのだ。この城に来るまでの間やたらと吹かれていたラッパの音が今は全く聞こえない。それどころかエレットといた冒険者達がこの城に来ている気配も無い。さらにあんなにいたゾンビも城に入ってから一度も見ていない。
「確かにそうだな。静か過ぎる」
イオンも違和感を感じたのか立ち上がり周囲を見渡す。
「冒険者の皆さんがゾンビを倒し尽くしたのでは?」
可能性は無くは無い。しかし、そうだとしたら冒険者達の探索の気配はあるはずだ。そういった気配は城内を探索中に一度も感じ無かった。
辺りに漂う緊張感。場所も空気も変わらないにも関わらずまるで別の世界に迷い込んだかのような違和感すら覚える。
「ツッ!? 警戒ッ!」
「イオン!?」
「え? は、はいっ!」
怒鳴りつけるようなイオンの声に俺は素早く松明を床の上に投げ捨て銃の安全装置を解き入り口に向け構える。反応の遅れたエレットは俺が投げた松明を拾い胸の前で構える。
「ラッパの音ッ!」
イオンの声から一拍置いて聞こえて来たのは馴染みのラッパの音。ただ一つ、今までと違うのはそれは俺の背後から聞こえてきたという事だ。
「は、ハジメさんッ! 後ろですッ!」
「マジかよォッ!?」
エレットの言葉とほぼ同時に俺は振り向き照準しようとする。だが、銃は何かに当たりソレを狙うことは叶わなかった。
「……勘弁してくれよ。こんなんありかよ?」
俺の目の前には壁のように立ちはだかる赤黒い鎧を着て直立不動する騎士。まるで杖をつくかのように剣を地面に刺し、剣の柄頭に片手を置いて仁王立ちしていた。もう片方の手には金色のラッパ。そして、本来頭があるべき場所には紫色の炎が立ち込める他、何も無かった。
身長百七十五センチの俺が大きく見上げる存在。
首無し騎士デュラハンは存在しない瞳で俺を見下ろしていた。
「エレットは何故首無し騎士を?」
「……」
「イオン?」
俺の言葉を訳さずにイオンは黙って歩く。黙って松明で行先を照らし、やや早足で歩く姿は怒っているようにも俺の目には映った。
「イオン? 無視すんなって!」
「ちっ、教会は命というものを重んじている」
俺の質問とは全く関係無さそうな事をイオンは喋る。声の抑揚は普段通り控えめなのだが機嫌が悪いのか舌打ちを混ぜ、俺を仮面越しに睨みつける。怒気が込められている視線に俺は思わず身を引いてしまう。
「あの、どうかしました? 地面も照らした方がいいでしょうか?」
そう言うエレットの頭の上にはピンポン球ほど小さな光の玉が浮いていて、エレットが指先で下を指し示すと光の玉は俺の足元に来て地面を淡く照らし出した。
「初級魔法の光というものです。便利ですよ?」
はにかんだ笑顔で指を一本立てて、そこからさらにもう一つ光の玉を作り出しイオンの足元へと指で導く。
「僕のは要らない」
足元に来た光の玉を足で払いのけイオンは先へ進む。俺は慌ててイオンを追いかけ肩を掴んでこちらを向かせる。
「どうしたんだイオン? なんでそんなに怒ってるんだよ?」
「僕は怒ってないッッ!」
急に声を荒げ、イオンは俺の腕を掴み力ずくで振り払う。掴まれた腕がうっすらと赤くなるほどイオンの力は強く、殺気すら感じさせる眼光に俺はまた距離を取ってしまいエレットのそばまで下がる。
「あの……私、何かしてしまいましたか?」
俺とイオンの間の険悪な様を見たエレットはおどおどとしていて、俺とイオンを交互に見やる。
荒い呼吸を繰り返し、肩で大きく息をするイオンは幾らか落ち着いて来たのか気まずそうに顔を背ける。
「……光魔法は苦手なんだ。なんか嫌なんだ」
それだけ言うとスタスタと足音を鳴らしながらイオンはまた先に向かってしまう。その背中は背丈相応の子供らしい幼い背中に見えた。
「ハジメさん……」
自分が何かしてしまったのかと不安になるエレットは申し訳なさそうに俺の名を呼ぶ。俺はエレットの肩にそっと触れると慰めるように優しく言葉をかける。
「エレット気にするな、イオンも悪気がある訳じゃ無いと思う」
「……ありがとうございます。言葉は分かりませんが、貴方が私を励まそうとしてくれてるのは分かります」
感謝の言葉を述べ一礼をし、エレットは先を歩くイオンの後を追いかけるように小走りで駆け出す。
(光魔法が苦手? それは違うだろ)
村での食事の際、ルチアが光の魔法を使った際にイオンは何も言わなかった。
イオンの取る行動は明らかにエレットを、いや、神官を嫌っている。その証拠にイオンは一度も彼女の名前を呼んでいない。名前を知っているにも関わらずにだ。
「なんか気に食わない事があるなら言えよ……」
小声で呟き、俺は二人の後を追いかけた。暗い城内に響く足音は不気味な程静かに広がって行った。
その後、しばらく探索を続けていく俺達。他の部屋も探索し客間や寝室と思われる場所、食糧庫とおぼしき腐った肉や作物が貯蔵されてる場所も行った。朽ちた槍や錆だらけの剣が置かれる武器庫らしき場所にも行った。そして探索の中で俺はあることに気が付いた。
「砦として使われてたんだな」
城と言っていた割には所々狭い廊下。そして外壁に近い部屋には小さな穴の様なモノが沢山あった。
これは銃眼と呼ばれる構造のモノであり、この穴から弓などの飛び道具で攻めてくる敵を撃退する為の防衛設備だ。
「特に東側が多いんだな」
「この城はな、遠い昔に対魔族の為に建てられた城なんだ」
「魔族? またえらくファンタジーなモノが出てきたな」
魔族と言われてゲームが好きな俺がピンと来ない訳が無い。やれ人類共通の敵だとか、お姫様を攫う奴だとか。基本的に悪役として描かれるモノが多いのは周知の事実だ。
「もしかして魔王とかもいるの?」
「いるよ。今の魔王は……」
「あっ、すいません。少しいいですか?アレを……」
イオンとの会話を遮りエレットが指差す先を見るとそこには一つの部屋があった。
部屋の入り口となる両開き扉は片側は壊れて外れ床に倒れていて、もう片方のドアも金具で吊られているだけで宙ぶらりんとなっていた。
俺の目から見て特に他の部屋とは変わった様子は無く、わざわざ話を遮る程の事では無いと思えた。
「……礼拝堂か」
イオンは小さく呟いてため息をつく。
「そうです。少し見に行ってもいいですか?」
同意を求めるエレットの目をイオンは避ける。すると次に俺を見てきたので少し考えてから俺は頷いた。
「ありがとうございます!」
答えるが早いか歩き出すエレットの後を追う様に、俺が行きその後を渋々といった具合にイオンが付いてきた。
「すげっ。こんなん初めてみたぜ」
中に入るとまず目に付いたのは並べられた長椅子。全てが正面を向いていて入り口側に背を向けている。
次に目に付いたのは部屋の奥にある七色のステンドグラスだ。日本にいた時はテレビでしか見た事が無かった俺としては、実際に初めて見るソレは長年手入れがされて無く大きなヒビ割れがある事を考えても綺麗であった。
最後に目に付いたのはスタンドグラスの光を浴び、両腕を広げる女性の像だった。白い石材を丁寧に磨き女性特有の柔らかさすら感じさせてくれる像は思わず感嘆の声が出てしまう。
「でも、可哀想だね」
「あぁ、そうだな……」
女神像の首から上は何かで折られた様に断面が荒く、女神の無念を表しているかの様に丁度ヒビ割れで光の具合が美しくない場所であった。
まるで女神が悲しみ、この世界を見たくないとも言っている様にも感じる。
「……」
そんな女神にエレットは跪き祈りを捧げた。小石や割れたガラスの破片を意に介す事もなく膝をつき、両手を組んで目を瞑っていた。
「……」
「……」
祈りを捧げる姿は一枚の絵画の様に幻想的な光景を映し出す。俺とイオンは言葉を一言も発する事なく黙ってそれを見ていた。
「……?」
急にイオンがそわそわしだす。何かの気配を感じつつも、どこから感じるのか分かはないといった具合だ。
俺も何か言葉に出来ない違和感を感じ辺りを見回すが当然この場には俺達三人しかいない。他に気配は何も無かった。
(気の所為か?)
静かな場所にいると人は情報を求め感覚が鋭くなるという話を聞いた事がある。その所為で大したことの無い些細な事でも注意が行くようになってしまうらしい。俺は気にしすぎだなと思い直し、気を落ち着けるために一度深呼吸をする。
「命というものは限りあるからこそ輝くものなのです」
誰に言うにもなくエレットは言う。
「その理を乱すのは決して許される事では無いのです」
エレットは立ち上がり俺とイオンの方へ向かってくる。その姿はまるで神の代弁者と言わんばかりに自信に溢れ、妄信的な危うさも兼ね備えていた。
「だから教会は不死者を率先して討伐するんだろう?」
横のイオンがエレットへ声をかける。その声はさっきまで不機嫌そうな声とは違い、普段通りの抑揚が無い声だった。
「えぇ。私が今回首無し騎士討伐に参加した理由がそれです。不死者を操るデュラハンだと聞きましたので」
一点の曇りも無い茶色の眼は確かな決意と変わらぬ意思すら感じる。眼力の強さに村で見たエレットの面影は無く俺は少し怖くなってしまった。
「だから、そうやって……お前らは……」
「イオン? さっきからどうしたんだ?」
ぶつぶつと独り言のように呟くイオンは俺の顔を一切見ずに俯いたままだ。返答が無く言葉に詰まった俺は手持ち無沙汰に銃を弄る。
射撃方法を変える切り替えレバーを安全装置や三点制限射機構に切り替える度になるカチカチとした音だけが礼拝堂に鳴り響く。
(……? ……ッ!?)
そこで俺はやっと気が付いた。今の今まで感じていた違和感の正体を。
「静か過ぎないか?」
そう。あまりにも静か過ぎるのだ。この城に来るまでの間やたらと吹かれていたラッパの音が今は全く聞こえない。それどころかエレットといた冒険者達がこの城に来ている気配も無い。さらにあんなにいたゾンビも城に入ってから一度も見ていない。
「確かにそうだな。静か過ぎる」
イオンも違和感を感じたのか立ち上がり周囲を見渡す。
「冒険者の皆さんがゾンビを倒し尽くしたのでは?」
可能性は無くは無い。しかし、そうだとしたら冒険者達の探索の気配はあるはずだ。そういった気配は城内を探索中に一度も感じ無かった。
辺りに漂う緊張感。場所も空気も変わらないにも関わらずまるで別の世界に迷い込んだかのような違和感すら覚える。
「ツッ!? 警戒ッ!」
「イオン!?」
「え? は、はいっ!」
怒鳴りつけるようなイオンの声に俺は素早く松明を床の上に投げ捨て銃の安全装置を解き入り口に向け構える。反応の遅れたエレットは俺が投げた松明を拾い胸の前で構える。
「ラッパの音ッ!」
イオンの声から一拍置いて聞こえて来たのは馴染みのラッパの音。ただ一つ、今までと違うのはそれは俺の背後から聞こえてきたという事だ。
「は、ハジメさんッ! 後ろですッ!」
「マジかよォッ!?」
エレットの言葉とほぼ同時に俺は振り向き照準しようとする。だが、銃は何かに当たりソレを狙うことは叶わなかった。
「……勘弁してくれよ。こんなんありかよ?」
俺の目の前には壁のように立ちはだかる赤黒い鎧を着て直立不動する騎士。まるで杖をつくかのように剣を地面に刺し、剣の柄頭に片手を置いて仁王立ちしていた。もう片方の手には金色のラッパ。そして、本来頭があるべき場所には紫色の炎が立ち込める他、何も無かった。
身長百七十五センチの俺が大きく見上げる存在。
首無し騎士デュラハンは存在しない瞳で俺を見下ろしていた。
0
お気に入りに追加
226
あなたにおすすめの小説
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。
―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――
EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。
そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。
そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。
そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。
そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。
果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。
未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する――
注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。
注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。
注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。
注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる