〜異世界自衛官〜戦闘経験ゼロですが、89小銃で無双します!!

木天蓼

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三章 首無し騎士と幻想無し

気不味い空気

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「それで、なんであんな所に?」

「はい? あの、ええっと?」

「彼は何故あんな所に隠れていたのか聞いている」

「あ、はい。実は……」

 先程のエレットの登場の仕方には驚いたが、無事であった事には変わりない。俺達三人はひとまず落ち着く為に暖炉の火を囲み腰を下ろして話し合う事にした。
 俺の言葉はエレットに通じないので今のようにグロリア語を喋れるイオンを介さなければならない。少し手間になるがこうしなければ俺とエレットは会話をする事が出来ないのだ。

 話によると冒険者達はこの城に着いた時にゾンビの大軍に襲われたらしい。野営地を襲った数とは比較にならないほど多くて苦戦したとの事だ。エレットも当初は負傷者の救護は回っていたのだが戦局が思わしく無く自らも戦いに参加した。
 教会という組織に所属する神官は主に治癒魔法や補助魔法を得意とするらしいのだが、ほかにも対不死者の魔法も使いこなすとの事だ。俺は魔法についてよく分からなかったので小声でイオンにこっそり聞いてみる。

「いわゆる成仏させるってことか?」

「その言葉の前に無理矢理ってつけるモノだと思った方がいい」

 どうやら不死者を強制的に浄化させる魔法を神官達は使えるらしい。神官には対不死者専門の者もいるとの話だが、エレットは補助や治癒を専門としているとのことであり、対不死の魔法は不慣れで消耗が激しくそう何回も発動できないという説明だ。
 やがて疲労していく姿を心配して冒険者達はエレットを先に城内へ逃がした。一旦避難したエレットは適当な部屋を見つけ休息を取っていたのだが、不意になにかの気配を感じて暖炉に逃げ込んだ。そこに俺は火を付けさらには棒で突いてしまったのだ。

 気づかなかったとはいえ、とんでも無い事をしてしまった。反省の意味も込めて俺はエレットに大きく頭を下げる。

「すまないエレット、でも生きててよかったよ」

「彼は害虫並みのしぶとさだなっと言っている」
「言って無えよ! 翻訳下手くそか!?」

 イオンの悪意ある翻訳に俺はすかさず背中を軽く叩いた。まるで漫才の一場面のように綺麗に入った突っ込みを受け、イオンは軽く咳き込んだ。

「あの、付かぬ事を聞きますが……貴方は?」

 エレットは俺では無くイオンの方を向いて言う。
 そう言えばイオンは神官に対してあまり良い顔はしていない。その理由は分からないが今のイオンら不機嫌な様子が見てとれる。
 俺はイオンが俺に対してやるように、エレットの尻を蹴らないか内心冷や冷やしていた。

「僕は幻想調査隊の監視者だ。僕と同じ監視者は教会にもいるだろう?」

「えぇ、こちらにもおります。皆さん良い人ばかりですよ!」

 意外にも普通の返しにエレットは満面の笑みで答える。無表情な仮面のイオンとは真逆の姿に俺は軽く笑ってしまった。

「あの、ハジメさん。貴方は幻想調査隊の人でいいんですよね?」

「仮のな」

「彼はまだ無職だ」

「翻訳はもっとオブラートに包んでくれないかな?」

 俺の返しの言葉を聞いてエレットは頬を緩ませクスクスと笑いだす。言葉は通じて無いはずなのに何故笑ったのか、それが分からず俺が眉間にシワを寄せているとエレットは咳払いを一つして気を取り直す。

「すいません。幻想調査隊の方々は頭がおかしい人ばかりと教えられてましたので。なんか普通に笑ってて意外に親しみやすい人達なんだなって」

「……火の中から飛び出てくる神官に言われたく無えよ」

 俺は頭がおかしいと言われ少しだけ頬を膨らませて反論する。そして俺の反論をイオンは一言一句違えずにエレットへ伝えた。

「それはその……声が聞こえた時に村で会ったハジメさんだとわかってたんですが……幻想調査隊とあまり関わるなと上から言われているので……私だって好き好んで火の中に入ってた訳では無いんですよ!」

 本人も自分が取った行動には思う所があったのか恥ずかしそうに目を伏せ、言葉を詰まらせながらも言い訳をする。

「つーか、なんで火の中に入ってて火傷一つ無いんだよ?」

 エレットの身体は灰や土などで汚れてはいるが、火傷を負っている様子は無いし、それどころか傷も負っている様子も無い。いくらなんでも火の中にいたら火傷の一つや二つ、むしろ全身大火傷するのが普通だ。どう考えてもおかしい話と思う。

「教会の神官が着る修道服はああ見えて防御性能がとても高い。魔法で火や熱の耐性を上げれば出来なくは無いな」

 イオンが俺の疑問に答えてくれたのだが、どうにも納得出来ない。丈夫だからといって燃えない訳では無く、ただ燃えにくいだけだ。俺の戦闘服も難燃性の素材で出来ているが火に触れれば当然熱いし長時間火にさらされれば無論燃える。
 森羅万象の自然現象が魔法一つでなんとか出来るというのは、魔法を使えない俺からすればどうしても理解できない事だ。

「それだけ補助の魔法が強力なんだろう」

「私はこれでも補助や治癒の分野では教会でも指折りの神官なんですよ! 付与魔法エンチャントのエレットって言えば分かる人には分かるんですよー!」

 エレットの二つ名を聞いた俺はそっと首を左右に振った。悪いが俺はまだ異世界に来て長く無い。分からない人には分からないのだ。
 俺の何とも言えない顔を見てエレットは自分の知名度がそこまで高くは無いと思ってしまったのか、舞い上がっていた自分を恥じて耳を赤くして小さくなってしまった。
 場に気まずい空気が立ち込め俺とエレットの誤魔化しの咳払いが響く中、イオンはゆっくりと立ち上がってコートの裾を払う。

「無駄な話はこれぐらいにして行こうか。ハジメくん、僕らは首無し騎士を目的に来たんだろう?」

「あっ、でしたら私も付いて行っていいですか? 仲間とはぐれてしまったので心細くて……」

 エレットが胸の辺りに手を置き、縋るような目で俺に頼み込む。当然、二つ返事で答えたいのだが俺の胸には一つの懸念事項がある。

「………………どうするハジメくん。君の判断に従うよ」

 長めの沈黙の後のイオンの冷たい視線。言葉の後に、僕は嫌だがね、っと付け加えられそうな程に嫌々感が滲み出ている。
 けれども、せっかく見つけた知り合いを見捨てて行くほど俺は薄情でも無い。
 イオンには悪いが俺は俺の答えを出す。

「構わねぇよ。って言葉は通じねえか。これならどうだ?」

 俺は右手の親指を立てにこやかに笑って見せた。サムズアップはルチアも真似した人類共通言語だ。俺は絶対の自信を持ってエレットが返してくれるのを待った。

「はい?」

「……?」

「な、何でもないッ!」

 エレットとイオンの困惑の返事が届き、俺は急いで親指を下げ顔を晒した。

【争いは同じレベルの者同士にしか起こらない。同時に話し合いも同じレベルの者同士でないと通じない】

(俺とルチアは同レベルか……)

 村を出る前に見た幸せそうにぐっすりと熟睡してたルチアの顔を思い出す。よだれを口の端から垂らし寝言も何やら言っていたその様子はお馬鹿さん丸出しだった。それと同じレベルである事に俺は複雑な思いを抱きながらタバコに火をつけた。
 煙る室内、タバコが放つ独特な臭いに顔をしかめたエレットが口元を押さえ出したので俺は二口だけ吸うと、勿体無いと思いつつも暖炉にタバコを投げ捨てる。

(こういう所がお馬鹿さんなんだよなぁ)

 一本分無駄になったタバコが燃えるのを見つめ、俺は今の微妙な場の空気を打開する言葉が思いつかない事を自嘲し、そっと暖炉の火に当たった。
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