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俺は元相方から逃げたい
推しキャラに罪はない
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雪、いや、ユキによる『ダイヤモンド・ダスト、再始動』のデマが流れてから3週間。
ネットで一時はこの話題で盛り上がっていたものの、さすがに3週間も経つと、話題はすっかり風化されていた。
俺としては嬉しい限りだが。
綾人はそう思いながら、会社の昼休みに相変わらず一人で自分の弁当を食べながらスマホをいじっている。
いまはナツのゲーム配信のアーカイブを観ていた。
「学生のころみたいに明け方は配信できないし、最近は配信頻度が落ちちゃっているのが悔しい」と光が言っていたが、俺は会社員をやりながら上手く両立をしようとしている光がすごいと思う。
配信頻度は減っているものの、動画を積極的に作るようにしたり、光は常に挑戦している。
彼の配信をリアルタイムで追えていないのは残念だけど、俺は面白いと思ったものはなるべくメッセージで連絡していた。
「『今回のロールプレイゲーム、「ディストピア12」の実況よかった』と、、、うおぉぉ!?」
ちょうどメッセージを打ち終わって送信しようとしたところ、光から電話がかかってきた。
なんだ、平日の昼休みに電話は珍しいな。
「はい、どうした、光?」と俺が電話に出ると
「綾人!緊急事態!緊急事態!!!」
電話口からは光の切羽詰まった声が聞える。
ーーおかしい、平日の昼間にこのテンションは確実におかしい
「光、どうした?落ち着け」
「どうもこうも、さっき雪が会社前に現れた!」
「はぁあ!?」
「おかしいだろ!?僕もおかしいと思う!大体、雪が丸の内に用がある訳ないだろ!ここはビジネス街だぞ!」
「ほら、東京駅があるから新幹線に乗ろうとしていたとか?」
「だとしても、僕の会社の前にいるのはおかしいだろ!」
少しパニックを起こしていた光だったが、彼は大きく深呼吸をして続けた。
「それで会社前まで来ていると聞いたから会ったんだよ。そしたら、あいつこれを渡してきた」
光からメッセージで写真が送られる。
「あっ!」俺は思わず声を漏らしてしまった。
「僕と綾人が好きな『サファリカート8』のキャラクターグッズ。」
そこには俺が大好きなゲーム、『サファリカート8』のキャラクターぬいぐるみ:赤い熊の『ベリオ』、緑の熊の『ベジージ』そして俺の推しの白アザラシの『ミゾレ』の3つの写真が送られた。
「それ幻の!限定ぬいぐるみ!どうして!?」
「雪曰く、ゲームの更新コンテンツの一部のゲーム音楽を担当することになったから貰ったんだって。それで金曜日のお詫びも兼ねて、僕と綾人にプレゼントだってさ」
「そんな貴重なものを・・・」
「どうする?雪からだけど・・・いる?」
ーーうっ、どうしよう
「う~」とうなり出す俺に、電話口の光もウンウンと相槌を打った。
「分かるよ、悩むよな。自分の推しには罪はないし、」と光が言う。
その発言に俺は100%同意した。
そうなんだ、そうなんだよ!
「あっ、あのさ、とりあえず現物を見てもいいかな?見るだけで充分だよ」と俺はなんとか決断した。
「いいよ。今晩、実況の予定も入れてないから大丈夫だけど、綾人はどう?」
「大丈夫、俺は定時に上がれそう」
「じゃあ、とりあえず丸の内の書店で18:00に集合しよう」
「あぁ、またな」
と光との通話を終えた。
幻のサファリカート8のぬいぐるみをこの目で拝めるとは。
雪の手を渡っているのは癪だけど、推しに罪はない。
「楽しみだな」と呟くと残りの弁当を掻き込んだ。
**********
ソワソワと俺は書店の入り口前でスマホと人混みを交互に見ながら光を待った。
ーあぁ、ついに拝める!
「綾人!お待たせ!」
スーツ姿の光が手を振りながら向かって来る。
「全然、待っていないよ」
「じゃあ、どうしようか。飲みに行く?それとも僕の家に行ってゲームでもする?」
「そうだね、ぬいぐるみに匂いつくのもなんだし。家に行こうか。でもいつも光の家に行って悪いから、俺の家に行く?」
「珍しい!」
「落ち着いて、ミゾレの写真とかも撮りたいし」
「いいよ、綾人の家に行こう!そしてご飯食べながらゲームしよう」
「ご飯は任せろ」
「やったぁ!大学生の頃から綾人は料理好きだよな。僕も綾人のご飯好きだから嬉しいけど」
「おだててもなにも出ないぞ!」
俺たちは話ながら地下鉄に乗って、俺の最寄り駅に向かう。
この時間がすごく懐かしい。
ーー大学生の頃は、4人でそれぞれの家によく集まっていたな。懐かしい。
まだまだ雪が駆け出しのミュロボPで、瞬もまだモブAぐらいの役しか貰えない新人声優の頃、大体俺か光の家でみんなでよく集まっていたなぁ。
全員、それぞれの活動で金欠だったから、俺がよく料理して皆に振る舞っていたな。
あの頃のモヤシ料理・・・。
あれはあれで美味しかったよな。
少しノスタルジーに浸ってしまった俺に、光はなにかを感じとったのか、昔と変わらない笑顔で一言。
「大丈夫。これから昔みたいにゲームしよう」
そんな何気ない一言で俺は救われる。
**********
30分ほど、電車に乗ると俺の最寄り駅に着いた。
あまり大きい駅ではないが、都心へのアクセスも良いし、駅には大きなスーパーやドラッグストアもあるから生活しやすい駅だ。
「なにか食べたいものある?ホットプレートもあるから、お好み焼き、焼き肉、冷凍餃子とかなら早いかな」と俺は思いつく料理を口にする。
「いいね、気持ち的にお好み焼きとビールかなぁ」と光が言った。「すっかり口がソース気分」
「昨日の残りのポテトサラダとかもあるから、それも出しつつ冷凍枝豆とかも買うか」
「おお!綾人のポテトサラダ!今日はついている」
俺と光は最寄りのスーパーに寄るつもりで改札を出て、駅のロータリー前を歩く。
「そういえば、昼休みの電話で言えなかったけど、「ディストピア12」の実況よかっー」
言葉の途中で突然、勢いよく後ろに引っ張られた。
「うおぉぉ!?」
突然の動きに俺は思わず声を上げる。
「なに光?」
俺は思わず振り向くと、そこには険しい表情をした光。
急な変化に戸惑うと光が威嚇するように言った。
「なんで・・・なんでお前がここにいる」
光の視線を追うと、駅の改札を出てロータリエリアに佇む一人の男。
この高身長。
そして黒いバケットハットから覗く銀髪。
ーー嘘ッ・・・
「綾人の最寄りってここなんだぁ~」
「ッ!」思わず息を呑む。
嫌でも分かる。
この声は・・・。
「また会えたね、綾人」と彼は手を振る。
微笑む美しい彼。
誰もがきっと見とれる笑みに、俺は震えだした。
「なんでお前がここにいるんだ、雪!!!」
光は俺を守るように一歩前に立つ。
「なんでって、偶然だよ」と雪はにこやかな表情を崩さずに言う。
「しらばっくれるな!」と光が声を上げる。
すると、ひとつの可能性を見いだしたのか、光の顔が青くなる。
「まっ、まさか」
ガサガサッ、
光は手提げ鞄の中から白アザラシのぬいぐるみ、「ミゾレ」を取り出す。
そしてぬいぐるみのタグを確認するとそこには小さな黒いタブのようなものがくっついていた。
「クソ野郎」と光が雪に暴言を吐く。
俺はその黒いタグを見てただただ絶望していた。
推しに罪はない。
でもこのときは、白アザラシのミゾレを少し恨んだ。
ネットで一時はこの話題で盛り上がっていたものの、さすがに3週間も経つと、話題はすっかり風化されていた。
俺としては嬉しい限りだが。
綾人はそう思いながら、会社の昼休みに相変わらず一人で自分の弁当を食べながらスマホをいじっている。
いまはナツのゲーム配信のアーカイブを観ていた。
「学生のころみたいに明け方は配信できないし、最近は配信頻度が落ちちゃっているのが悔しい」と光が言っていたが、俺は会社員をやりながら上手く両立をしようとしている光がすごいと思う。
配信頻度は減っているものの、動画を積極的に作るようにしたり、光は常に挑戦している。
彼の配信をリアルタイムで追えていないのは残念だけど、俺は面白いと思ったものはなるべくメッセージで連絡していた。
「『今回のロールプレイゲーム、「ディストピア12」の実況よかった』と、、、うおぉぉ!?」
ちょうどメッセージを打ち終わって送信しようとしたところ、光から電話がかかってきた。
なんだ、平日の昼休みに電話は珍しいな。
「はい、どうした、光?」と俺が電話に出ると
「綾人!緊急事態!緊急事態!!!」
電話口からは光の切羽詰まった声が聞える。
ーーおかしい、平日の昼間にこのテンションは確実におかしい
「光、どうした?落ち着け」
「どうもこうも、さっき雪が会社前に現れた!」
「はぁあ!?」
「おかしいだろ!?僕もおかしいと思う!大体、雪が丸の内に用がある訳ないだろ!ここはビジネス街だぞ!」
「ほら、東京駅があるから新幹線に乗ろうとしていたとか?」
「だとしても、僕の会社の前にいるのはおかしいだろ!」
少しパニックを起こしていた光だったが、彼は大きく深呼吸をして続けた。
「それで会社前まで来ていると聞いたから会ったんだよ。そしたら、あいつこれを渡してきた」
光からメッセージで写真が送られる。
「あっ!」俺は思わず声を漏らしてしまった。
「僕と綾人が好きな『サファリカート8』のキャラクターグッズ。」
そこには俺が大好きなゲーム、『サファリカート8』のキャラクターぬいぐるみ:赤い熊の『ベリオ』、緑の熊の『ベジージ』そして俺の推しの白アザラシの『ミゾレ』の3つの写真が送られた。
「それ幻の!限定ぬいぐるみ!どうして!?」
「雪曰く、ゲームの更新コンテンツの一部のゲーム音楽を担当することになったから貰ったんだって。それで金曜日のお詫びも兼ねて、僕と綾人にプレゼントだってさ」
「そんな貴重なものを・・・」
「どうする?雪からだけど・・・いる?」
ーーうっ、どうしよう
「う~」とうなり出す俺に、電話口の光もウンウンと相槌を打った。
「分かるよ、悩むよな。自分の推しには罪はないし、」と光が言う。
その発言に俺は100%同意した。
そうなんだ、そうなんだよ!
「あっ、あのさ、とりあえず現物を見てもいいかな?見るだけで充分だよ」と俺はなんとか決断した。
「いいよ。今晩、実況の予定も入れてないから大丈夫だけど、綾人はどう?」
「大丈夫、俺は定時に上がれそう」
「じゃあ、とりあえず丸の内の書店で18:00に集合しよう」
「あぁ、またな」
と光との通話を終えた。
幻のサファリカート8のぬいぐるみをこの目で拝めるとは。
雪の手を渡っているのは癪だけど、推しに罪はない。
「楽しみだな」と呟くと残りの弁当を掻き込んだ。
**********
ソワソワと俺は書店の入り口前でスマホと人混みを交互に見ながら光を待った。
ーあぁ、ついに拝める!
「綾人!お待たせ!」
スーツ姿の光が手を振りながら向かって来る。
「全然、待っていないよ」
「じゃあ、どうしようか。飲みに行く?それとも僕の家に行ってゲームでもする?」
「そうだね、ぬいぐるみに匂いつくのもなんだし。家に行こうか。でもいつも光の家に行って悪いから、俺の家に行く?」
「珍しい!」
「落ち着いて、ミゾレの写真とかも撮りたいし」
「いいよ、綾人の家に行こう!そしてご飯食べながらゲームしよう」
「ご飯は任せろ」
「やったぁ!大学生の頃から綾人は料理好きだよな。僕も綾人のご飯好きだから嬉しいけど」
「おだててもなにも出ないぞ!」
俺たちは話ながら地下鉄に乗って、俺の最寄り駅に向かう。
この時間がすごく懐かしい。
ーー大学生の頃は、4人でそれぞれの家によく集まっていたな。懐かしい。
まだまだ雪が駆け出しのミュロボPで、瞬もまだモブAぐらいの役しか貰えない新人声優の頃、大体俺か光の家でみんなでよく集まっていたなぁ。
全員、それぞれの活動で金欠だったから、俺がよく料理して皆に振る舞っていたな。
あの頃のモヤシ料理・・・。
あれはあれで美味しかったよな。
少しノスタルジーに浸ってしまった俺に、光はなにかを感じとったのか、昔と変わらない笑顔で一言。
「大丈夫。これから昔みたいにゲームしよう」
そんな何気ない一言で俺は救われる。
**********
30分ほど、電車に乗ると俺の最寄り駅に着いた。
あまり大きい駅ではないが、都心へのアクセスも良いし、駅には大きなスーパーやドラッグストアもあるから生活しやすい駅だ。
「なにか食べたいものある?ホットプレートもあるから、お好み焼き、焼き肉、冷凍餃子とかなら早いかな」と俺は思いつく料理を口にする。
「いいね、気持ち的にお好み焼きとビールかなぁ」と光が言った。「すっかり口がソース気分」
「昨日の残りのポテトサラダとかもあるから、それも出しつつ冷凍枝豆とかも買うか」
「おお!綾人のポテトサラダ!今日はついている」
俺と光は最寄りのスーパーに寄るつもりで改札を出て、駅のロータリー前を歩く。
「そういえば、昼休みの電話で言えなかったけど、「ディストピア12」の実況よかっー」
言葉の途中で突然、勢いよく後ろに引っ張られた。
「うおぉぉ!?」
突然の動きに俺は思わず声を上げる。
「なに光?」
俺は思わず振り向くと、そこには険しい表情をした光。
急な変化に戸惑うと光が威嚇するように言った。
「なんで・・・なんでお前がここにいる」
光の視線を追うと、駅の改札を出てロータリエリアに佇む一人の男。
この高身長。
そして黒いバケットハットから覗く銀髪。
ーー嘘ッ・・・
「綾人の最寄りってここなんだぁ~」
「ッ!」思わず息を呑む。
嫌でも分かる。
この声は・・・。
「また会えたね、綾人」と彼は手を振る。
微笑む美しい彼。
誰もがきっと見とれる笑みに、俺は震えだした。
「なんでお前がここにいるんだ、雪!!!」
光は俺を守るように一歩前に立つ。
「なんでって、偶然だよ」と雪はにこやかな表情を崩さずに言う。
「しらばっくれるな!」と光が声を上げる。
すると、ひとつの可能性を見いだしたのか、光の顔が青くなる。
「まっ、まさか」
ガサガサッ、
光は手提げ鞄の中から白アザラシのぬいぐるみ、「ミゾレ」を取り出す。
そしてぬいぐるみのタグを確認するとそこには小さな黒いタブのようなものがくっついていた。
「クソ野郎」と光が雪に暴言を吐く。
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