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俺は元相方から逃げたい
思い出に浸る
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「やっぱり人の数がすごいな」
名古屋支店から本社勤務が決まり、3年ぶりの東京だった。
そびえ立つ高層ビルに圧倒されながら綾人は街を練り歩く。
東京を離れて寂しくなかったと言ったら嘘だ。
光や衛さんに会えなくなるのは寂しかった。
だけど解散寸前のダイダス、相方とは言えない雪と物理的に離れられた安心感のほうが勝った。
自分が不在だった間の街を確認するように気づいたら思い出の地を巡っていた。
大学が近かった新宿。
ダイダスとサマサイで一緒に歌ってみたを録音するときにスタジオを借りる場所は必ず新宿だった。
--就活が終わったら4人で歌ってみたをだそうと言ったけど……。結局叶わなかったなぁ…
新宿をぶらぶらと歩くと大きなビジョンからオリコランキングの発表音声が聞こえた。
『今週のオリコンランキング!新登場!ユキの『トワイライト・サーガ』が4位にランクイン!』
--耳を塞ぐ。
足早に俺は地下道に入る。
あの歌声を聴きたくない。
あんなに大好きだった彼の歌声も、歌も。
いまは俺をどん底に叩き落とす呪いの歌にしか聴こえない。
・・・・・・
卒業直前で名古屋の配属が決まり、俺は連絡があってから一週間足らずで名古屋の新しい家に引っ越した。
光は引越しを手伝ってくれて、名古屋の新居の荷解きも手伝ってくれた。
「綾人の新しい新居の周りを開拓しよ!」と光は言って一週間ぐらい一緒にいてくれた。
無期限の歌い手活動、そしていまの俺と雪の関係を知っている彼は俺のことを心配してくれていたのだろう。
名古屋でひとりぼっちの俺に光は何度も会いにきてくれた。
瞬からは連絡は来なかった。
雪からは連絡が立て続けに来た。
4月末、ゴールデンウィークに入る一週間前に彼は俺の存在を思い出したかのように連絡がきた。
一日一通だったものが、日を追うごとに増えていく。
メッセージを開けることはできなかったから、増えていく。
『綾人、あいつをブロックしな。』
社会人になって初めてのゴールデンウィーク。
光はまた俺に会いにきた。
そして雪の連絡を無視して、9日目。
雪からの連絡が100を超えたころ、光は俺の携帯の通知欄を見て思わず言った。
『大丈夫、僕がうまく雪をかわすから、綾人の場所を教えない。だから綾人はあいつからの連絡が途絶えるまではメッセージを開けてはいけない。分かった?』
『既読がついたら、メッセージは鳴り止まないから。』
ブロックする勇気もなく、彼が諦めるまで俺は光の言う通り、チャットメッセージを開けなかった。
最後のメッセージが送信された2ヶ月後に俺はようやくメッセージを開いた。
溢れる雪からのメッセージを眺めた。
『綾人どこにいるの?』
『なんで返信してくれないんだ?』
『話そう。いろいろ報告し合おう』
『ごめんなさい、お願いだから返信ください』
『綾人、ごめんなさい』
『どこにいるの?』
『綾人、もう会えないのか?』
『綾人、会いたい』
最後のメッセージを見て、
俺はトークルームを静かに消した。
・・・・・・
ぼんやり思いながら、俺は新宿から港区エリアへ移動する。
『新しい商業施設もできたから行ってみな!』と光に勧められ、俺は六本木を降りる。
近くに東京タワーが見える。
学生時代にほとんど寄り付かなかった港区エリア。
相変わらず煌びやかな街だ。
・・・・・
「いつかここに住む!」と瞬が高々に宣言していたのを思い出す。
「家賃どんだけだよ!」と俺がツッコむ。
「その金があったら最新ゲーミングPC買うわ」
「もしくは楽器」
と光と雪が思い思いにコメントする。
「お前らロマンがない!」と瞬が不貞腐れる。「ここに住めるぐらい稼ぐんだよ!俺は売れっ子声優になる!」
学生時代、ちょうど瞬の声優事務所が彼をいわゆるアイドル声優としてデビューしようとしていた2ヶ月前のことだ。
「いつか主人公役をもらって、そのアニメのオープニング曲は俺たち4人の曲になるんだ!」と瞬が言うと俺たちは照れくさそうに笑う。
「『ダイサイ』で出せるように僕たちそれぞれ頑張らないととな!」と光もニコニコしている。
「ダイダスとサマサイの活動も頑張ろう!」と俺も頷く。
「僕もオリジナル曲たくさん書く」と雪も宣言した。
俺たちが意気込みを口しして、光は瞬を見て微笑んだ。
「瞬がここに住むなら、いつか東京タワーを眺めながら皆んなで飲みたいね」
「あぁ、いつかみんなで!」と瞬はニカッと俺たちに笑った。
・・・・・
ぶらぶら歩いていたら、それを思い出させる高級住宅街に迷い込んでいた。
目の前には大きく聳え立つ高級マンション。
コンシェルジュがいそうな、芸能人が入居してそうなマンションだ。
ーー雪と瞬はこういうところに住んでいるのかな?
あんなに売れている二人だ。
当たり前に住んでいるだろう。
すると目の前に黒いバンが一台、マンション前で止まる。
サラサラの銀髪の男性が降りて、思わず雪の顔を思い出す。
--あっ、銀色。
--雪の色だ。
ーーあいつはいま何色に染めているんだろう?
ぼんやりと黒いバンから降りた人物を眺めてしまった。
--って!ここ高級マンションだよな。
こんなところに突っ立っていたら出待ちと間違えられそうだ。
俺はそう思い、駅のほうに向かおうと背を向けると、記憶から封印していた声が聞こえた。
「綾人?」
名古屋支店から本社勤務が決まり、3年ぶりの東京だった。
そびえ立つ高層ビルに圧倒されながら綾人は街を練り歩く。
東京を離れて寂しくなかったと言ったら嘘だ。
光や衛さんに会えなくなるのは寂しかった。
だけど解散寸前のダイダス、相方とは言えない雪と物理的に離れられた安心感のほうが勝った。
自分が不在だった間の街を確認するように気づいたら思い出の地を巡っていた。
大学が近かった新宿。
ダイダスとサマサイで一緒に歌ってみたを録音するときにスタジオを借りる場所は必ず新宿だった。
--就活が終わったら4人で歌ってみたをだそうと言ったけど……。結局叶わなかったなぁ…
新宿をぶらぶらと歩くと大きなビジョンからオリコランキングの発表音声が聞こえた。
『今週のオリコンランキング!新登場!ユキの『トワイライト・サーガ』が4位にランクイン!』
--耳を塞ぐ。
足早に俺は地下道に入る。
あの歌声を聴きたくない。
あんなに大好きだった彼の歌声も、歌も。
いまは俺をどん底に叩き落とす呪いの歌にしか聴こえない。
・・・・・・
卒業直前で名古屋の配属が決まり、俺は連絡があってから一週間足らずで名古屋の新しい家に引っ越した。
光は引越しを手伝ってくれて、名古屋の新居の荷解きも手伝ってくれた。
「綾人の新しい新居の周りを開拓しよ!」と光は言って一週間ぐらい一緒にいてくれた。
無期限の歌い手活動、そしていまの俺と雪の関係を知っている彼は俺のことを心配してくれていたのだろう。
名古屋でひとりぼっちの俺に光は何度も会いにきてくれた。
瞬からは連絡は来なかった。
雪からは連絡が立て続けに来た。
4月末、ゴールデンウィークに入る一週間前に彼は俺の存在を思い出したかのように連絡がきた。
一日一通だったものが、日を追うごとに増えていく。
メッセージを開けることはできなかったから、増えていく。
『綾人、あいつをブロックしな。』
社会人になって初めてのゴールデンウィーク。
光はまた俺に会いにきた。
そして雪の連絡を無視して、9日目。
雪からの連絡が100を超えたころ、光は俺の携帯の通知欄を見て思わず言った。
『大丈夫、僕がうまく雪をかわすから、綾人の場所を教えない。だから綾人はあいつからの連絡が途絶えるまではメッセージを開けてはいけない。分かった?』
『既読がついたら、メッセージは鳴り止まないから。』
ブロックする勇気もなく、彼が諦めるまで俺は光の言う通り、チャットメッセージを開けなかった。
最後のメッセージが送信された2ヶ月後に俺はようやくメッセージを開いた。
溢れる雪からのメッセージを眺めた。
『綾人どこにいるの?』
『なんで返信してくれないんだ?』
『話そう。いろいろ報告し合おう』
『ごめんなさい、お願いだから返信ください』
『綾人、ごめんなさい』
『どこにいるの?』
『綾人、もう会えないのか?』
『綾人、会いたい』
最後のメッセージを見て、
俺はトークルームを静かに消した。
・・・・・・
ぼんやり思いながら、俺は新宿から港区エリアへ移動する。
『新しい商業施設もできたから行ってみな!』と光に勧められ、俺は六本木を降りる。
近くに東京タワーが見える。
学生時代にほとんど寄り付かなかった港区エリア。
相変わらず煌びやかな街だ。
・・・・・
「いつかここに住む!」と瞬が高々に宣言していたのを思い出す。
「家賃どんだけだよ!」と俺がツッコむ。
「その金があったら最新ゲーミングPC買うわ」
「もしくは楽器」
と光と雪が思い思いにコメントする。
「お前らロマンがない!」と瞬が不貞腐れる。「ここに住めるぐらい稼ぐんだよ!俺は売れっ子声優になる!」
学生時代、ちょうど瞬の声優事務所が彼をいわゆるアイドル声優としてデビューしようとしていた2ヶ月前のことだ。
「いつか主人公役をもらって、そのアニメのオープニング曲は俺たち4人の曲になるんだ!」と瞬が言うと俺たちは照れくさそうに笑う。
「『ダイサイ』で出せるように僕たちそれぞれ頑張らないととな!」と光もニコニコしている。
「ダイダスとサマサイの活動も頑張ろう!」と俺も頷く。
「僕もオリジナル曲たくさん書く」と雪も宣言した。
俺たちが意気込みを口しして、光は瞬を見て微笑んだ。
「瞬がここに住むなら、いつか東京タワーを眺めながら皆んなで飲みたいね」
「あぁ、いつかみんなで!」と瞬はニカッと俺たちに笑った。
・・・・・
ぶらぶら歩いていたら、それを思い出させる高級住宅街に迷い込んでいた。
目の前には大きく聳え立つ高級マンション。
コンシェルジュがいそうな、芸能人が入居してそうなマンションだ。
ーー雪と瞬はこういうところに住んでいるのかな?
あんなに売れている二人だ。
当たり前に住んでいるだろう。
すると目の前に黒いバンが一台、マンション前で止まる。
サラサラの銀髪の男性が降りて、思わず雪の顔を思い出す。
--あっ、銀色。
--雪の色だ。
ーーあいつはいま何色に染めているんだろう?
ぼんやりと黒いバンから降りた人物を眺めてしまった。
--って!ここ高級マンションだよな。
こんなところに突っ立っていたら出待ちと間違えられそうだ。
俺はそう思い、駅のほうに向かおうと背を向けると、記憶から封印していた声が聞こえた。
「綾人?」
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