元相方は最強歌い手から逃れたい

すずらん

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フラッシュバック

ユキ vs ナツ?

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 背後から現れた雪に俺とナツくんは思わず絶叫してしまった。

「なんだよ雪!驚かすなよ」
 バクバクッと鳴る心臓を押さえつけるように俺は胸に手を当てる。

「で、この方は?」
 雪はナツくんのほうを一瞥する。

「この人はー」俺は紹介しようと思った矢先、硬直してしまった。

 その様子に雪は片眉を上げ、怪しそうに俺を見つめる。
 

 ーーそうだ、俺ナツくんの本名知らない!!!

 俺の様子にナツくんは咄嗟に助け船を出す。

「いま会ったばかりできちんと自己紹介していなかった、ごめんな。」
 ナツくんはそう言うと、俺と雪、ふたりに自己紹介を始めた。

「僕は江夏 光エナツ ヒカル。平野中学校から来た。光と呼んでほしいな、よろしく」


 ーーそうか、ナツくんは光というのか!


「よろしく、光」と俺もあとに続くように自己紹介をする。
「俺は高橋 綾人。平野中学校より南にある三谷中学校出身だ。俺のことは綾人と呼んでくれ」

「よろしく、綾人」と光は愛想良く微笑んでくれた。

 ーーさすがナツくん!配信同様、同様社交性がある!
 
 ーーその一方・・・


「ほら、雪も」
 俺は隣の雪を肘で優しく促す。
 
 どうしてこいつは俺以外のやつに対してこんなに固いのだろうか?
 お前はイケメンだから許されるけど、俺がやってみろ!
 不愉快極まりないんだぞ!

 俺の圧に負けたのか、雪は少し目を泳がせながら光に自己紹介した。

「二宮 雪です。よろしく」

 こんな短い自己紹介にもかかわらず、光は不快感を表わさず、穏やかだ。
「よろしく、雪と呼べば良いのかな?雪はどこの中学校出身なの?」
 
 光の質問に雪は目を逸らす。
 そういえば、俺も知らないぞとぼんやり思いながら雪の反応を待つ。

「・・・椿台中学校」

 まさかの学校名に俺と光は驚きを隠さずにいた。

 椿台中学校と言えば、中高一貫校だけでなく、小学校のいわゆる幼稚舎もある学校である。
 小学校から入る場合、えげつない入学金はもちろん、そこの学校に入る子供はいわゆる良いところのご子息というイメージだ。

 だけど、雪の反応を見るからにあまり触れてほしく無さそうだった。
 それを察した俺たちは特に追及することもなく、光も「そうなんだ」と流した。

「それで」雪が俺と光を交互に見る。「二人は何でそんなに盛り上がっていたの?」

 チラッと俺は光のほうを見る。
 素直に光が歌い手の『ナツ』だということを話せば簡単だが、バラされたくないという可能性もある。

 光の反応を待っていると彼のほうから申し出た。
「雪は綾人の活動を知っているんだろ?だったら僕のこと話しても良いよ」

「ありがとう!雪は口が堅いから安心しろ」

 ーーこれで雪を安心させれる!

「雪、実は光が俺が初めて出来た歌い手友達なんだ。ほら、さっき俺が言っていた、ナツくん!彼だったんだ!」
 俺は興奮を隠さずに雪に報告する。
「まさか、同じ高校とは思わないよな。すげぇよな!」

 俺の興奮に対し、雪は光のほうに向くと一言。

「僕が綾人の初めての歌い手友達だから」

 ・・・・・・。

 ーーお前は!なぜそこを張り合う!?

 俺が呆れるなか、光はその一言にキョトンとするが、すぐに笑い出した。
「ハハッ。そうなんだ、そうなんだ。分かったよ」

 ーーマジで光が優しい人でよかった。
 光の優しさに俺は今日何回救われているのだろう。

「雪が綾人の初めての歌い手友達、ということは雪も活動者なのか?」

「・・・・・・そうだ」

「そうなんだ、もし可能だったら活動名教えてくれないか?僕の周りに活動している人はいなくて、こうやってリアルで会えたのも何かの縁の気がするんだ。」

 誠実な光の反応に雪は一瞬黙りながらも、素直に答えた。
「カタカナで「ユキ」という名前で活動している」

「知っている!声めちゃくちゃ透き通っているよね!僕、ユキの『サマーアゲイン』の歌ってみた好きだよ」

 素直に褒められ、雪の頬が色づく。
「あっ、ありがとう」とぶっきらぼうに返す姿に俺は思わず笑った。


***

 この出会いをきっかけに俺たちは相互フォローするようになった。
 そしてその直後に俺も2曲目の歌ってみたを投稿。
 ふたりが告知と拡散してくれたおかげで「再生回数:150回、いいね数:45」と前回よりも良い結果を出せた。ありがたい。

 そしてあの日から俺たちは放課後は毎日、図書室で集まるようになった。
 その時間は、最新のミュロボ曲の情報交換、歌ってみたのトレンド、それぞれの活動についても共有する時間だ。

 変わらず無人の図書室で俺たちは宿題をやりつつ、雑談をしていると、バタンッと乱暴に図書室の扉が開けららる音がした。
 その音に俺たちは入り口へと目をやると、ズカズカッと大股で俺たちのほうへ向かってくる男子生徒が。
 彼は俺たちの机へ近づくと、開口一番怒鳴りだした。


「お前たちか?光を振り回しているのは?」


 ーーいきなり何だ!?この失礼な奴は!
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