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フラッシュバック
歌い手名を考えよう!
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昼休みの勢いのまま、あれよあれよと乗せられ、気づいたら雪の家に辿り着いていた。
東京都内の二階建ての一軒家の雪の部屋。
白を基調にしたインテリアで統一されていた部屋はモデルルームのようだ。
雪の部屋のソファに横並びになりながら、雪が俺の歌い手活動の最初に一歩について力説していた。
「まず、綾人の歌い手名を考えないといけないね」
「えっ!?俺も雪と同じようにカタカナで『アヤト』にしようと思っていたんだけど」
名前を考える、という可能性を1ミリも考えていなかった俺は雪の提案に驚く。
「身ばれの可能性を考えるとあまり好ましくないよ。僕はなにも考えずにこれにしちゃったけど、いま想うと迂闊だった。だから綾人はもう少し捻ったほうが良い」
「そうか…難しいな」
「好きな言葉とか、食べものとか、ぶっちゃけなんでも良いよ」
うーん、うーんと頭を抱えながら必死に考えるが、なかなか思いつかない。
せいぜい思いつくのはサッカー用語だが、いまはそこまでサッカーに思い入れがあるわけではない。
「雪、なんか案ないか?」
早々に諦めた俺に雪は片眉を上げる。
「少しぐらいは自分で考えなよ」
「頼むよ~」
俺は隣に詰め寄って、雪の顔をみて懇願する。
「その顔はずるいよ…」
雪は口元を押さえながら少し俯く。
「なんか言ったか?」
「なんでも・・・。ハァ、仕方ないな」と言い、雪は腕を組みながら「う~ん」と唸る。
こんな何気ない動作でも美しく見えるのはイケメンの特権だな。
ーーずるい。
俺はそう思いつつ、必死に自分の名前を考える。
しばらく無言の時間が流れ、俺はやや俯きながら自分の脳内にある単語をひとつひとつあげていると、
「あのさ」
真剣に考える俺の耳元に雪の吐息を感じた。
「うお!なんだよ」
俺はむず痒いと肩で耳を守るように竦む様子に雪はクスッと笑う。
「耳、弱いの?」
「うるさいな、なんだよ」
思わぬ発見に俺自身も戸惑う。
戸惑いと恥ずかしさで赤面してしまう。
クスクスッと雪は笑いつつ、提案した。
「綾人の歌い手名だけどさ、僕の名前と同じように二文字とかどう?」
「えっ?それは良いけど…。肝心の二文字が思いつかないんだよ」
「じゃあ、『ホシ』とかどう?」
ーーあまりにも煌びやかな名前だ。
「えっ、『ホシ』…」
「駄目かな…?」
傷ついたように声が小さくなっていく雪に、俺は声を重ねるように慌てて言った。
「違う、違う!むしろ俺にはもったいない名前だよ」
「大丈夫、それにしようよ。名前さえ決めちゃえばあとは活動するだけ。立ち上げは僕に任せて」
生き生きしながら自分のPCから動画サイトのアカウントを開設し始めた。
「SNSもやろう!僕をフレンド追加してね」
「自分じゃできないから、悪いけど開設お願いします」
動画アカウントの開設だけじゃなくて、SNSの開設もしないといけないとは。
俺だけだったら絶対できていない。
SNSに疎い俺はメッセージアプリ以外のSNSアプリはスマホに入っていない。
俺は大人しくソファから彼の作業を見守っていた。
***
よくよく考えると、当然だが、アカウントを開設して終わりではない。
そこから雪からやれ、アイコン画像の作成やら、彼が過去に使っていた機材のマイクを渡され、さらには録音方法と動画作成をもろもろ手取り足取り教わった。
俺のアイコンはどうやら雪と同じ絵師さんが担当したらしい。
「ユキ」は銀髪に青い瞳を持つ男の子。
「ホシ」青髪に黄色い瞳の男の子。
絵柄はカッコイイけどポップなイラストタッチだ。
ホシはユキのキャラに比べると、目元がキリッとしている男の子の印象だ。
儚い、清楚な印象を持つユキに比べ、キリッとしているホシのデザインに安心した。
「よかった!イメージ通りだ!」と俺以上に雪がイラストのデザインを気に入っていた。
***
イラストアイコンはできたものの、肝心の投稿がなければ存在しないに等しい。
最初の歌ってみたは雪が「監修する!」と一歩も譲らないため、雪に見られながら録音された。
ーー恥ずかしすぎる!
しかもこいつと来たら、良くも悪くもひたすら褒める。
「綾人、ちゃんと声が出ている、良いね!」
「低い音程も取れている、良いよ」
「リズムも合っている、大丈夫」
・・・。
ーー子供のお遊戯会を見ている保護者かい!
「もうやめろ、これ以上喋るな」
ただでさえ見られて恥ずかしいのに!
こんなに褒められると身がもたない。
自分でも赤くなっていることを自覚する。
そんな俺を見て、雪はニマニマしながら微笑む。
「僕は本当のことしか言わないよ?どうしたの、綾人?嬉しいの?」
「うるせぇ!」
と羞恥心に駆られながら、なんとか初めての「歌ってみた」の録音を終えた。
***
その後、歌のミクシングやらマスタリングを終え、やっとの思いで俺の「歌ってみた」の動画が完成した。
想像以上の手順に俺は圧倒された。
これを毎回投稿する歌い手さんたちに感動すら覚えた。
既に何本も投稿している雪に尊敬してしまう。
「ほら、綾人。この『投稿』ボタンを押したら世界に公開されるよ」
改めて雪に言われると緊張する。
俺は無名の新人歌い手だけど、それでも自分が作ったものが「公開」されるというのは緊張する。
俺は雪に見届けながら、その日、初めての「歌ってみた」を投稿した。
「綾人の初いいね、は僕だよ」
雪は公開した直後に「いいね」を押してくれた。
ユキのSNSでの共有も提案してくれたが、俺は断った。
ひとまず、自分の最初の「歌ってみた」をこのまま見届けたい。
初めて踏み込む世界。
怖くないと言ったら嘘だけど。
正直、ワクワクはしていた。
東京都内の二階建ての一軒家の雪の部屋。
白を基調にしたインテリアで統一されていた部屋はモデルルームのようだ。
雪の部屋のソファに横並びになりながら、雪が俺の歌い手活動の最初に一歩について力説していた。
「まず、綾人の歌い手名を考えないといけないね」
「えっ!?俺も雪と同じようにカタカナで『アヤト』にしようと思っていたんだけど」
名前を考える、という可能性を1ミリも考えていなかった俺は雪の提案に驚く。
「身ばれの可能性を考えるとあまり好ましくないよ。僕はなにも考えずにこれにしちゃったけど、いま想うと迂闊だった。だから綾人はもう少し捻ったほうが良い」
「そうか…難しいな」
「好きな言葉とか、食べものとか、ぶっちゃけなんでも良いよ」
うーん、うーんと頭を抱えながら必死に考えるが、なかなか思いつかない。
せいぜい思いつくのはサッカー用語だが、いまはそこまでサッカーに思い入れがあるわけではない。
「雪、なんか案ないか?」
早々に諦めた俺に雪は片眉を上げる。
「少しぐらいは自分で考えなよ」
「頼むよ~」
俺は隣に詰め寄って、雪の顔をみて懇願する。
「その顔はずるいよ…」
雪は口元を押さえながら少し俯く。
「なんか言ったか?」
「なんでも・・・。ハァ、仕方ないな」と言い、雪は腕を組みながら「う~ん」と唸る。
こんな何気ない動作でも美しく見えるのはイケメンの特権だな。
ーーずるい。
俺はそう思いつつ、必死に自分の名前を考える。
しばらく無言の時間が流れ、俺はやや俯きながら自分の脳内にある単語をひとつひとつあげていると、
「あのさ」
真剣に考える俺の耳元に雪の吐息を感じた。
「うお!なんだよ」
俺はむず痒いと肩で耳を守るように竦む様子に雪はクスッと笑う。
「耳、弱いの?」
「うるさいな、なんだよ」
思わぬ発見に俺自身も戸惑う。
戸惑いと恥ずかしさで赤面してしまう。
クスクスッと雪は笑いつつ、提案した。
「綾人の歌い手名だけどさ、僕の名前と同じように二文字とかどう?」
「えっ?それは良いけど…。肝心の二文字が思いつかないんだよ」
「じゃあ、『ホシ』とかどう?」
ーーあまりにも煌びやかな名前だ。
「えっ、『ホシ』…」
「駄目かな…?」
傷ついたように声が小さくなっていく雪に、俺は声を重ねるように慌てて言った。
「違う、違う!むしろ俺にはもったいない名前だよ」
「大丈夫、それにしようよ。名前さえ決めちゃえばあとは活動するだけ。立ち上げは僕に任せて」
生き生きしながら自分のPCから動画サイトのアカウントを開設し始めた。
「SNSもやろう!僕をフレンド追加してね」
「自分じゃできないから、悪いけど開設お願いします」
動画アカウントの開設だけじゃなくて、SNSの開設もしないといけないとは。
俺だけだったら絶対できていない。
SNSに疎い俺はメッセージアプリ以外のSNSアプリはスマホに入っていない。
俺は大人しくソファから彼の作業を見守っていた。
***
よくよく考えると、当然だが、アカウントを開設して終わりではない。
そこから雪からやれ、アイコン画像の作成やら、彼が過去に使っていた機材のマイクを渡され、さらには録音方法と動画作成をもろもろ手取り足取り教わった。
俺のアイコンはどうやら雪と同じ絵師さんが担当したらしい。
「ユキ」は銀髪に青い瞳を持つ男の子。
「ホシ」青髪に黄色い瞳の男の子。
絵柄はカッコイイけどポップなイラストタッチだ。
ホシはユキのキャラに比べると、目元がキリッとしている男の子の印象だ。
儚い、清楚な印象を持つユキに比べ、キリッとしているホシのデザインに安心した。
「よかった!イメージ通りだ!」と俺以上に雪がイラストのデザインを気に入っていた。
***
イラストアイコンはできたものの、肝心の投稿がなければ存在しないに等しい。
最初の歌ってみたは雪が「監修する!」と一歩も譲らないため、雪に見られながら録音された。
ーー恥ずかしすぎる!
しかもこいつと来たら、良くも悪くもひたすら褒める。
「綾人、ちゃんと声が出ている、良いね!」
「低い音程も取れている、良いよ」
「リズムも合っている、大丈夫」
・・・。
ーー子供のお遊戯会を見ている保護者かい!
「もうやめろ、これ以上喋るな」
ただでさえ見られて恥ずかしいのに!
こんなに褒められると身がもたない。
自分でも赤くなっていることを自覚する。
そんな俺を見て、雪はニマニマしながら微笑む。
「僕は本当のことしか言わないよ?どうしたの、綾人?嬉しいの?」
「うるせぇ!」
と羞恥心に駆られながら、なんとか初めての「歌ってみた」の録音を終えた。
***
その後、歌のミクシングやらマスタリングを終え、やっとの思いで俺の「歌ってみた」の動画が完成した。
想像以上の手順に俺は圧倒された。
これを毎回投稿する歌い手さんたちに感動すら覚えた。
既に何本も投稿している雪に尊敬してしまう。
「ほら、綾人。この『投稿』ボタンを押したら世界に公開されるよ」
改めて雪に言われると緊張する。
俺は無名の新人歌い手だけど、それでも自分が作ったものが「公開」されるというのは緊張する。
俺は雪に見届けながら、その日、初めての「歌ってみた」を投稿した。
「綾人の初いいね、は僕だよ」
雪は公開した直後に「いいね」を押してくれた。
ユキのSNSでの共有も提案してくれたが、俺は断った。
ひとまず、自分の最初の「歌ってみた」をこのまま見届けたい。
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正直、ワクワクはしていた。
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