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前のめり
21.5
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もふもふが恋しくなるのは、人肌不足のせいだ。
吏作さんと知り合ってから、そう言えばもふもふをぎゅーっとしたいとか、わしゃしゃしゃって撫でくり倒したいとか強烈に思い焦がれることはなくなった。人肌が恋しくて、温めてくれる人がいないからもふもふに逃げるのかな。ハグをされて人の体温を感じると落ち着く、安定してしまう。
吏作さんがラビットファー調のカバーのついたパウダービーズのクッションを買ってくれた。
食事が終わると吏作さんは仕事の続きのため、パソコンに向かった。一緒にいるのに、寂しくてクッションを抱きしめる。もふもふと気持ち良い肌触りに少し気が紛れる。
今日、職場を出るときに仕事を持ち帰ることを見て知っていたし、パソコンの電源を点ける前にも、とても申し訳なさそうに謝ってくれた。でも、寂しいと思うのはどうしようもない。もふもふに顔を埋める。
思いついて、スマホを手に取り、ゲームを始める。1分もあれば作業的ミニゲームは終わる。フレンドさんのメッセージボードを見に行く、特にこれといった情報はない。運営からのお知らせを見てみる。尊敬語と謙譲語と丁寧語がごっちゃになって、動詞や形容詞構わず何でもかんでも『御』をつければ良いと思っている、熟語や慣用句を途中でぶった切って接頭語を入れたり謙っちゃたりしたおかしな文章を読む。二重敬語どころか三重敬語…と思ったら謙譲語、機械の翻訳より読みにくい。わかりにくくなくない、こともなくはなかったりしなかったりしなくはない…みたいな分かりにくさだ。
「引越したら犬飼う?」
「二人で心置きなくお泊まりとかできなくなりますよ?」
「一緒に住むようになったら、外泊する必要なくなるんじゃない?」
「…そういえばそうですね。」
吏作さんがふと振り返り、会話を始める。
「帰国子女の子ってさ、」
「ん~?」
「よく、慣用句やことわざとかわからないって言うよね。擬態語が独特だったり。」
「第一言語と母語の違いですねー。」
「葵ちゃんってそう言うのあんまり聞かないし、感じないね。」
「んー、私、子供の頃から本の虫、日本語の本も沢山読んでましたから。」
「ああ、なるほど。地の語彙力の差か……」
またパタパタと軽やかにキーボードが鳴り始める。不意に充電量の警告が出て邪魔する。そっとソファを降り、スマホを充電しに行く。またソファに戻り、クッションをもふもふしながら吏作さんの背中を眺める。私も今日はかなりの集中力を要する仕事をこなしたので、眠くなって来た。あの背中にごつんとおでこをぶつけたい、ぎゅうっと抱きついて温かさを感じたい。リネンウォーターの優しい香りが混じった吏作さんの匂いを感じて安心する。髪を撫でる優しい手の感触にうっとりする。私より少しだけ高く感じる体温に、温かさにとろんとする。
ずっとこうしていたい、そうすれば寒くない、寂しくない。ずっとこうしていて欲しい、この時間が続けば良いのに。
うとうとと心地よい感触にまどろむ。抱き上げられているような浮遊感をかすかに感じた。このまま気がついたらお布団の中とかだったら最高だな、と思った。
吏作さんと知り合ってから、そう言えばもふもふをぎゅーっとしたいとか、わしゃしゃしゃって撫でくり倒したいとか強烈に思い焦がれることはなくなった。人肌が恋しくて、温めてくれる人がいないからもふもふに逃げるのかな。ハグをされて人の体温を感じると落ち着く、安定してしまう。
吏作さんがラビットファー調のカバーのついたパウダービーズのクッションを買ってくれた。
食事が終わると吏作さんは仕事の続きのため、パソコンに向かった。一緒にいるのに、寂しくてクッションを抱きしめる。もふもふと気持ち良い肌触りに少し気が紛れる。
今日、職場を出るときに仕事を持ち帰ることを見て知っていたし、パソコンの電源を点ける前にも、とても申し訳なさそうに謝ってくれた。でも、寂しいと思うのはどうしようもない。もふもふに顔を埋める。
思いついて、スマホを手に取り、ゲームを始める。1分もあれば作業的ミニゲームは終わる。フレンドさんのメッセージボードを見に行く、特にこれといった情報はない。運営からのお知らせを見てみる。尊敬語と謙譲語と丁寧語がごっちゃになって、動詞や形容詞構わず何でもかんでも『御』をつければ良いと思っている、熟語や慣用句を途中でぶった切って接頭語を入れたり謙っちゃたりしたおかしな文章を読む。二重敬語どころか三重敬語…と思ったら謙譲語、機械の翻訳より読みにくい。わかりにくくなくない、こともなくはなかったりしなかったりしなくはない…みたいな分かりにくさだ。
「引越したら犬飼う?」
「二人で心置きなくお泊まりとかできなくなりますよ?」
「一緒に住むようになったら、外泊する必要なくなるんじゃない?」
「…そういえばそうですね。」
吏作さんがふと振り返り、会話を始める。
「帰国子女の子ってさ、」
「ん~?」
「よく、慣用句やことわざとかわからないって言うよね。擬態語が独特だったり。」
「第一言語と母語の違いですねー。」
「葵ちゃんってそう言うのあんまり聞かないし、感じないね。」
「んー、私、子供の頃から本の虫、日本語の本も沢山読んでましたから。」
「ああ、なるほど。地の語彙力の差か……」
またパタパタと軽やかにキーボードが鳴り始める。不意に充電量の警告が出て邪魔する。そっとソファを降り、スマホを充電しに行く。またソファに戻り、クッションをもふもふしながら吏作さんの背中を眺める。私も今日はかなりの集中力を要する仕事をこなしたので、眠くなって来た。あの背中にごつんとおでこをぶつけたい、ぎゅうっと抱きついて温かさを感じたい。リネンウォーターの優しい香りが混じった吏作さんの匂いを感じて安心する。髪を撫でる優しい手の感触にうっとりする。私より少しだけ高く感じる体温に、温かさにとろんとする。
ずっとこうしていたい、そうすれば寒くない、寂しくない。ずっとこうしていて欲しい、この時間が続けば良いのに。
うとうとと心地よい感触にまどろむ。抱き上げられているような浮遊感をかすかに感じた。このまま気がついたらお布団の中とかだったら最高だな、と思った。
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