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進展
25.5
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来るものが来ない。冷静に思い返す。ただのストレスと過労だ。このところ、仕事帰りあちらこちら不動産屋を回っているからだ。
「葵、顔色悪くない?」
「大丈夫、今日はまっすぐ帰る。」
「送っていこうか? うち泊まる?」
万理江が心配そうに声をかけてくれる。
いつもならつり革につかまって過ごす電車内で、目の前の空いた席を見て思わずストンと腰を下ろした。
駅前商店街のドラッグストア前で思わず立ち止まる。いやいやいや調べるまでもない。
『今日だいぶ調子悪そうだったから、まっすぐ帰るんだよ』
吏作さんからのメッセージが届いた。
自宅へ歩を進めた。吐き気を催して病院に駆け込んだら、ストレスによるただの遅れ、想像妊娠でしたってエピソードがあったな。超有名企業の社長さんと恋に落ちちゃったのは●キスシリーズだったっけ? って言うか、一緒に慌てる男も男だ、自分が一番わかってるはずなのに……避妊してないんだ。今はまだ場が整ってないまずい、順番がってこだわってる割に。
下衆い想像をして嫌になる。
メイクも落とさず、着替えもせずベッドに転がって考え込む。
「ちゃんとしてる、してた…はず」
吏作さんとは温泉での一夜以外は、触れる前にちゃんと着けてる。吏作さんはイッたあとはお願いしてもサッと出て行ってしまう、処理も的確で丁寧。
「だよなあ…」
「何が?」
ぱっと明かりがつく。吏作さんがベッドの縁に座る。
「電気もつけないで、寝てるのかと思ったら、何? 考え事?」
「…はい。いついらしたんですか?」
「今だよ。」
「そうですか」
時計を見れば大分時間が経っている。ドラッグストア前で時間を食ったのか、思ったより長く考え込んでいたのか。
「パートの一人がインフルエンザになった。葵ちゃんは大丈夫?」
「熱も風邪っぽいのもないです、ただの疲れです。」
「まあ、いろいろあったしな。」
吏作さんが髪を撫でてくれる。目を瞑ってめまいのようなぐるぐる回る感覚に不安になる。
「今日泊まっていこうか? 帰ったほうがいい?」
「…一緒にいてください。」
「わかった。お風呂沸かす?」
うなずけば、彼も私の部屋は勝手知ったるもので、風呂を沸かしに行ってしまった。
「飯は?」
「食べてないです、作る気力ないです。」
「そう言うと思って…買って来た。」
持ち上げて見せてくれたのは、コンロで火にかけるだけの鍋焼きうどんだった。
「風呂と飯、どっちが先?」
「…お風呂。」
またベッドサイドに戻って来ると、私の髪を撫で始める。
「部屋探し、そんなに頑張らなくていいよ。俺んところに来ればいいんだから。」
「ん…」
「葵ちゃん、それ、悪阻?」
「多分
ガタタ!
すごい音で吏作さんが、ベッドから崩れ落ちた。
…ただの遅れかと、」
呆然とした顔で吏作さんが這い上がって、続きを聞きほっとする。
「そう言い切れない気もして、だから本人に聞いてみようかと」
「え!!」
「実は中で破けちゃってたとか、外れてたとか、」
「ないない! あったら言ってる。」
「私が朦朧としてる時に付けずにしたとか…」
「それは絶対ない!」
「ですよねえ、だから今週末まで待ってみます。」
「うん…待って、病院行く?」
「来なければ。」
「俺もついて行く?」
「必要ないですよ。ただの不順ですから。……」
吏作さんが不安げに私の瞳を覗き込む。
「ちょっと? 不安になるようなことしたんですか?」
「いや…でも」
「だったら、堂々としててください。吏作さんがそんな顔すると、私までもしかしてって思っちゃうじゃないですか。」
風呂の沸く電子音が流れて来る。
ガバッと起き上がって足元にあった部屋着をとってバスルームへ向かう。
つけてんのにできたって言うの、つけてないからできたって言うのがほとんど。気が付いたら脱げてた、出す時にだけつけたとか、先っぽだけだから大丈夫だと思ったとか、安全日だから大丈夫かと思ったとか、つまりどれもつけてない、避妊してない。
予約を入れようかと思ったクリニックのQAを見返す。吏作さんが次にバスルームを使い、私はコットンパックをしている間に髪を乾かし、スマホをいじった。
職場から数駅離れる自宅とは反対方向にあるクリニックは評判が良かった。行ってみれば男性医師か女性医師を選ばせてもらえ安心できた。
給湯室でぬるま湯をマグカップに注ぎ、小さな錠剤を飲み下す。PTPシートはポーチにしまった。
「あれ、薬でも飲んでた?」
「あ、お疲れ様です。」
コーヒーを淹れに来たらしい上野さんに声をかけられた。
ドリップバッグにお湯を落とし、待つ。私もドリップバッグをマグカップにセットし、お湯をおとす。
「パートさんのが感染ったのかな、奥園さんもインフル発症。」
「はい、聞きました。」
コポポポ……
順番でお湯を落とす。
「もうちょっと待ってな。」
「はい?」
「複合機の出力ログと防犯カメラの記録とも照合してる。」
「え、そこまでしてるんですか?」
「ここで活用しなかったら、何のため記録取ってるのさ。」
ドリップパックを三角コーナーへポイっと捨てる。
「あ、奥園さんが復帰するまで1週間お昼は俺か吏作がつくから、一人でふらふらするなよ?」
…過保護すぎやしませんか?
「葵、顔色悪くない?」
「大丈夫、今日はまっすぐ帰る。」
「送っていこうか? うち泊まる?」
万理江が心配そうに声をかけてくれる。
いつもならつり革につかまって過ごす電車内で、目の前の空いた席を見て思わずストンと腰を下ろした。
駅前商店街のドラッグストア前で思わず立ち止まる。いやいやいや調べるまでもない。
『今日だいぶ調子悪そうだったから、まっすぐ帰るんだよ』
吏作さんからのメッセージが届いた。
自宅へ歩を進めた。吐き気を催して病院に駆け込んだら、ストレスによるただの遅れ、想像妊娠でしたってエピソードがあったな。超有名企業の社長さんと恋に落ちちゃったのは●キスシリーズだったっけ? って言うか、一緒に慌てる男も男だ、自分が一番わかってるはずなのに……避妊してないんだ。今はまだ場が整ってないまずい、順番がってこだわってる割に。
下衆い想像をして嫌になる。
メイクも落とさず、着替えもせずベッドに転がって考え込む。
「ちゃんとしてる、してた…はず」
吏作さんとは温泉での一夜以外は、触れる前にちゃんと着けてる。吏作さんはイッたあとはお願いしてもサッと出て行ってしまう、処理も的確で丁寧。
「だよなあ…」
「何が?」
ぱっと明かりがつく。吏作さんがベッドの縁に座る。
「電気もつけないで、寝てるのかと思ったら、何? 考え事?」
「…はい。いついらしたんですか?」
「今だよ。」
「そうですか」
時計を見れば大分時間が経っている。ドラッグストア前で時間を食ったのか、思ったより長く考え込んでいたのか。
「パートの一人がインフルエンザになった。葵ちゃんは大丈夫?」
「熱も風邪っぽいのもないです、ただの疲れです。」
「まあ、いろいろあったしな。」
吏作さんが髪を撫でてくれる。目を瞑ってめまいのようなぐるぐる回る感覚に不安になる。
「今日泊まっていこうか? 帰ったほうがいい?」
「…一緒にいてください。」
「わかった。お風呂沸かす?」
うなずけば、彼も私の部屋は勝手知ったるもので、風呂を沸かしに行ってしまった。
「飯は?」
「食べてないです、作る気力ないです。」
「そう言うと思って…買って来た。」
持ち上げて見せてくれたのは、コンロで火にかけるだけの鍋焼きうどんだった。
「風呂と飯、どっちが先?」
「…お風呂。」
またベッドサイドに戻って来ると、私の髪を撫で始める。
「部屋探し、そんなに頑張らなくていいよ。俺んところに来ればいいんだから。」
「ん…」
「葵ちゃん、それ、悪阻?」
「多分
ガタタ!
すごい音で吏作さんが、ベッドから崩れ落ちた。
…ただの遅れかと、」
呆然とした顔で吏作さんが這い上がって、続きを聞きほっとする。
「そう言い切れない気もして、だから本人に聞いてみようかと」
「え!!」
「実は中で破けちゃってたとか、外れてたとか、」
「ないない! あったら言ってる。」
「私が朦朧としてる時に付けずにしたとか…」
「それは絶対ない!」
「ですよねえ、だから今週末まで待ってみます。」
「うん…待って、病院行く?」
「来なければ。」
「俺もついて行く?」
「必要ないですよ。ただの不順ですから。……」
吏作さんが不安げに私の瞳を覗き込む。
「ちょっと? 不安になるようなことしたんですか?」
「いや…でも」
「だったら、堂々としててください。吏作さんがそんな顔すると、私までもしかしてって思っちゃうじゃないですか。」
風呂の沸く電子音が流れて来る。
ガバッと起き上がって足元にあった部屋着をとってバスルームへ向かう。
つけてんのにできたって言うの、つけてないからできたって言うのがほとんど。気が付いたら脱げてた、出す時にだけつけたとか、先っぽだけだから大丈夫だと思ったとか、安全日だから大丈夫かと思ったとか、つまりどれもつけてない、避妊してない。
予約を入れようかと思ったクリニックのQAを見返す。吏作さんが次にバスルームを使い、私はコットンパックをしている間に髪を乾かし、スマホをいじった。
職場から数駅離れる自宅とは反対方向にあるクリニックは評判が良かった。行ってみれば男性医師か女性医師を選ばせてもらえ安心できた。
給湯室でぬるま湯をマグカップに注ぎ、小さな錠剤を飲み下す。PTPシートはポーチにしまった。
「あれ、薬でも飲んでた?」
「あ、お疲れ様です。」
コーヒーを淹れに来たらしい上野さんに声をかけられた。
ドリップバッグにお湯を落とし、待つ。私もドリップバッグをマグカップにセットし、お湯をおとす。
「パートさんのが感染ったのかな、奥園さんもインフル発症。」
「はい、聞きました。」
コポポポ……
順番でお湯を落とす。
「もうちょっと待ってな。」
「はい?」
「複合機の出力ログと防犯カメラの記録とも照合してる。」
「え、そこまでしてるんですか?」
「ここで活用しなかったら、何のため記録取ってるのさ。」
ドリップパックを三角コーナーへポイっと捨てる。
「あ、奥園さんが復帰するまで1週間お昼は俺か吏作がつくから、一人でふらふらするなよ?」
…過保護すぎやしませんか?
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