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進展
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報告書を仕上げたあと、データを引用しつつ提案書を書き上げる。
タンッ
上書き保存して文書作成ソフトを終了させる。はっと気がつく。バッと後ろを振り返ればいつのまに風呂に入ったのか、すっぴんでパジャマに着替えクッションを抱えてソファにもたれて眠りこけた彼女がいる。
しまった、と思いつつも幸せそうに眠っている顔に癒される。ベッドに運ぼうと寄せれば、こてっと人形のように力なくもたれかかる。いつもより少し体温が高いように感じる。ブランケットが肩からずり落ちていた、もしかして風邪をひかせてしまったか。慌ててブランケットごと彼女をベッドに運ぶ。少しひんやりした布団に居心地悪そうに縮こまる彼女を見守る。
シャワーを浴びて戻って来れば、犬のように横を向き丸くなって眠っていた。そっと、布団を上げ彼女の右側に潜り込む。くうくうと寝息を立て、甘えるようにすり寄ってくる。可愛くて見てるだけじゃすまなくて、腕に彼女の頭を乗せて抱きしめキスをする。
唇で感じる熱は、やっぱりいつもより少し高い。薬を飲ませたほうがいいか、でもぐっすりとよく寝ている。無理に解熱剤で下げずに汗をかかせて自然に熱を下げさせた方がいいか。せっかくの連休だけど、のんびり過ごせばいいか。
彼女の体温を感じて自分も眠くなり、眠気に身を任せた。
朝、目が覚めると、視界が色鮮やかででも滲んでいて世界がぼんやりしていた。あ、熱があるんだ、と他人事のように気がついた。
ごめん、今日は行けなくなった…
ドアの向こうから吏作さんの声がかすかに聞こえた。電話しているのだと気がつく。大量のスポーツドリンクを飲まされた。生姜がピリリと効いた即席生姜湯を大きめのマグカップで、これまたたっぷり飲まされた。生姜で温まり、汗をたくさんかいたおかげで途中トイレに起きることもなく長時間眠り込んだ。
次に意識がハッキリすると、吏作さんがおでこに唇を当てたり、離したりしていた。キスにしてはちょっと違う、ふにゅふにゅした感触がくすぐったかった。熱を測っていたんだと気がつき、ほわっと暖かい気持ちになる。
「吏作さん…」
「ん、起きた? 熱はだいぶ下がったけど、もうしばらく寝てな。」
「体温計無いんですか?」
「あるけど、体温計使うと治りが早くなるわけじゃ無いし。」
「あんなに何度も確かめなきゃならないなら、なら…あれ?? なら、?」
「一緒に布団入ってる時点まだ熱があるってわかってるよ。安静にしてなきゃいけないのは変わらないだろ?」
「まあ、そうですけど」
唇が遠ざかるとよく冷えたタオルをおでこに乗せてくれた。
ひんやりして気持ちが良い。吏作さんの手をぎゅっと握りしめて、また眠った。
更に、次に目がさめると、早朝だった。ベッドには吏作さんがいなかった。早朝ランニングでも行ってるのだろうか? ジムに通ってるとは聞いていたけど、走ってるとは、早朝ランニングしてるとは聞いてない。泣きそうになる。
慌ててベッドを抜け出てリビングに行けば、ソファで吏作さんが寝ていた。私の気配でモゾモゾし、眠そうな目でこちらを見る。数秒の間の後、パッと起き上がり、腕を伸ばして私を抱きしめた。
「吏作さん、ごめんなさい。ベッド占領しちゃいましたね。」
「うん…」
体温を確かめるように、吏作さんがゆっくりおでこにキスをし、柔らかく微笑む。
「熱、下がったね。良かった。」
「はい。ベッドに吏作さんが居なくて、泣きそうになりました。」
「一昨日は、ベッドにゆったり一人で寝かせようと思ったら抱きついて離してくれなかったのに、昨日は俺がベッドにいると暑いから嫌なのか、押し退けられてイヤイヤってされて泣きそうになった。」
「え、うそ…」
「ホント。まだ早いからもう少し寝てたら?」
「スッキリ目が覚めちゃって、もう寝られそうにないです。シャワー浴びたいです。」
「…ちょっと待ってな」
キッチンからスポーツドリンクを持ってくると大きなグラスになみなみと注ぎ、手渡された。
「それ、全部飲んだら良いよ。」
こんなにたくさん飲めない、と思ったのに、体は乾いていたのか一口飲むと、あっという間に飲み干してしまった。水分補給をし、バスルームに向かう。
ヘッドマッサージャーを使いながら、頭を洗い、足の指の間まで一つ一つこすって隅々丁寧にゆっくり体を洗った。ほんのり柑橘系の香りのする残り湯が沸いて、体を沈める。病み上がりで体力がないから、熱めのお湯にも長湯もできない。
ドライヤーで髪を乾かし、部屋に戻るとベッドで吏作さんが寝ていた。ベッドの縁に座り吏作さんの寝顔を眺めつつ、昨日は全く手をつけられなかったスマホをいじり、体力を消費する。数分とかからず、すぐ作業は終わってしまい暇を持て余し吏作さんの横にコテっと倒れる。気がついたら布団の中に引き込まれて吏作さんの抱き枕にされていた。
「たまには、こんなぐうたらした連休もいいかな」
「ん……って、私たちって、いつものんびり過ごしてると思うんですが…」
「でも昼まで布団に入ってることはないだろ?」
「え、今何時ですか?」
「12時ちょっとすぎ。さすがに、腹減ったし、起きようか」
タンッ
上書き保存して文書作成ソフトを終了させる。はっと気がつく。バッと後ろを振り返ればいつのまに風呂に入ったのか、すっぴんでパジャマに着替えクッションを抱えてソファにもたれて眠りこけた彼女がいる。
しまった、と思いつつも幸せそうに眠っている顔に癒される。ベッドに運ぼうと寄せれば、こてっと人形のように力なくもたれかかる。いつもより少し体温が高いように感じる。ブランケットが肩からずり落ちていた、もしかして風邪をひかせてしまったか。慌ててブランケットごと彼女をベッドに運ぶ。少しひんやりした布団に居心地悪そうに縮こまる彼女を見守る。
シャワーを浴びて戻って来れば、犬のように横を向き丸くなって眠っていた。そっと、布団を上げ彼女の右側に潜り込む。くうくうと寝息を立て、甘えるようにすり寄ってくる。可愛くて見てるだけじゃすまなくて、腕に彼女の頭を乗せて抱きしめキスをする。
唇で感じる熱は、やっぱりいつもより少し高い。薬を飲ませたほうがいいか、でもぐっすりとよく寝ている。無理に解熱剤で下げずに汗をかかせて自然に熱を下げさせた方がいいか。せっかくの連休だけど、のんびり過ごせばいいか。
彼女の体温を感じて自分も眠くなり、眠気に身を任せた。
朝、目が覚めると、視界が色鮮やかででも滲んでいて世界がぼんやりしていた。あ、熱があるんだ、と他人事のように気がついた。
ごめん、今日は行けなくなった…
ドアの向こうから吏作さんの声がかすかに聞こえた。電話しているのだと気がつく。大量のスポーツドリンクを飲まされた。生姜がピリリと効いた即席生姜湯を大きめのマグカップで、これまたたっぷり飲まされた。生姜で温まり、汗をたくさんかいたおかげで途中トイレに起きることもなく長時間眠り込んだ。
次に意識がハッキリすると、吏作さんがおでこに唇を当てたり、離したりしていた。キスにしてはちょっと違う、ふにゅふにゅした感触がくすぐったかった。熱を測っていたんだと気がつき、ほわっと暖かい気持ちになる。
「吏作さん…」
「ん、起きた? 熱はだいぶ下がったけど、もうしばらく寝てな。」
「体温計無いんですか?」
「あるけど、体温計使うと治りが早くなるわけじゃ無いし。」
「あんなに何度も確かめなきゃならないなら、なら…あれ?? なら、?」
「一緒に布団入ってる時点まだ熱があるってわかってるよ。安静にしてなきゃいけないのは変わらないだろ?」
「まあ、そうですけど」
唇が遠ざかるとよく冷えたタオルをおでこに乗せてくれた。
ひんやりして気持ちが良い。吏作さんの手をぎゅっと握りしめて、また眠った。
更に、次に目がさめると、早朝だった。ベッドには吏作さんがいなかった。早朝ランニングでも行ってるのだろうか? ジムに通ってるとは聞いていたけど、走ってるとは、早朝ランニングしてるとは聞いてない。泣きそうになる。
慌ててベッドを抜け出てリビングに行けば、ソファで吏作さんが寝ていた。私の気配でモゾモゾし、眠そうな目でこちらを見る。数秒の間の後、パッと起き上がり、腕を伸ばして私を抱きしめた。
「吏作さん、ごめんなさい。ベッド占領しちゃいましたね。」
「うん…」
体温を確かめるように、吏作さんがゆっくりおでこにキスをし、柔らかく微笑む。
「熱、下がったね。良かった。」
「はい。ベッドに吏作さんが居なくて、泣きそうになりました。」
「一昨日は、ベッドにゆったり一人で寝かせようと思ったら抱きついて離してくれなかったのに、昨日は俺がベッドにいると暑いから嫌なのか、押し退けられてイヤイヤってされて泣きそうになった。」
「え、うそ…」
「ホント。まだ早いからもう少し寝てたら?」
「スッキリ目が覚めちゃって、もう寝られそうにないです。シャワー浴びたいです。」
「…ちょっと待ってな」
キッチンからスポーツドリンクを持ってくると大きなグラスになみなみと注ぎ、手渡された。
「それ、全部飲んだら良いよ。」
こんなにたくさん飲めない、と思ったのに、体は乾いていたのか一口飲むと、あっという間に飲み干してしまった。水分補給をし、バスルームに向かう。
ヘッドマッサージャーを使いながら、頭を洗い、足の指の間まで一つ一つこすって隅々丁寧にゆっくり体を洗った。ほんのり柑橘系の香りのする残り湯が沸いて、体を沈める。病み上がりで体力がないから、熱めのお湯にも長湯もできない。
ドライヤーで髪を乾かし、部屋に戻るとベッドで吏作さんが寝ていた。ベッドの縁に座り吏作さんの寝顔を眺めつつ、昨日は全く手をつけられなかったスマホをいじり、体力を消費する。数分とかからず、すぐ作業は終わってしまい暇を持て余し吏作さんの横にコテっと倒れる。気がついたら布団の中に引き込まれて吏作さんの抱き枕にされていた。
「たまには、こんなぐうたらした連休もいいかな」
「ん……って、私たちって、いつものんびり過ごしてると思うんですが…」
「でも昼まで布団に入ってることはないだろ?」
「え、今何時ですか?」
「12時ちょっとすぎ。さすがに、腹減ったし、起きようか」
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