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進展
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やたらと眠い日が続く。と、思ったら月のものが始まる。貧血気味の青白い私の顔を見て吏作さんがニコニコして訊く。
「つわり?」
「違います」
万理江がプルーンヨーグルトのジュースを奢ってくれた。ありがたいけど、その気遣いは嬉しいけど、寒い時期に冷たい飲み物は……。
「あれ? それ嫌いだったけ?」
「そんなことないけど、寒いから冷たいの飲むのがちょっと。」
「寒い? 今日室内結構あったかくない?」
「んー、おかしいな…今日、ちょっと薄着だったかな」
万理江がふとスマホから顔をあげ、まじまじと私を眺める。胸と顔に視線が行ったり来たりする。ぽりぽりとマカデミアナッツをかじる。
馬油やマカデミアナッツには老化防止や傷の修復を助ける脂肪酸、パルミトレイン酸が多く含まれる。吏作さんに痕をつけられるので、馬油は吏作さんの部屋にも化粧ポーチの中にも常備。翌日はこうしてマカデミアナッツをかじる。おかげで彼と付き合いだしてから定期的にスーパーのおつまみ売り場に足を運ぶようになった。菓子売り場のチョコがけのものはカロリーが高すぎる、でも少し太ったかも。
「本当なら、ここは痩せた? って聞くところなんだろうけど、葵、胸のボリュームアップしてない?」
「う! …私胸が張るんだよね。痛くて結構辛いんだよ。」
「……」
ふんっとこれ見よがしに鼻を鳴らして人が通り過ぎた。
思わず万理江と顔を見合わせる。
入れ違いに吏作さんと上野さんがやってきて怪訝そうな顔をしながら席に着く。
「胸が小さく見えるブラって結構売れてるらしいね」
「へえ」
「なんで!?」
「なんでって、今みたいにデブと勘違いされるから切実なんだよ?」
「カットソーとかもう少しぴったりした服着てみたら?」
「ダメ」
「なんで?」
「葵ちゃんのエロい体型は俺だけが知ってればいいの。」
「ぶ」
「3人とも、ここ、職場でランチタイムなんですけど。そう言うのは、夜飲みながら本人がいない時に、こっそりバレないように話してください。」
「男の前で堂々そう言う話しておいて、よく言うわ。」
ランチタイムのテーブルには、ランチミーティングをしたことをきっかけに吏作さんと上野さんが加わった4人で食事を取ることが増えた。慰労会のビンゴ大会、景品のスープジャーを万理江とお揃いで色違いで当てた。
万理江は気が利くんだか利かないんだか、ズボラなんだかマメなんだか、気温が下がってからは毎日お昼には具沢山のスープなどの汁物を持ってくるようになった。
「具沢山にしようといろんな具材を入れると、必然的に量も多くなるじゃない?」
「わかるわかる。」
「だから悪くなる前に食べきるように、お昼に持ってくるの。」
「私も。今日は何?」
「けんちん汁。万理江は?」
「具沢山すぎてもはや水炊き。」
「トレードしない?」
「いいね、それ」
そんなに沢山作ったのなら、俺を呼べばいいのにとか言っているのを無視して、スマホゲームの体力消費をしながらお昼をとる。
昼休憩が明けて、午後一で依頼のあった恒例のリライトを行うべく、指示書を受け取りに行く。彼のチームでもリライトの業務は行なっているがこの案件は先方から私を指名されていた。上野さんの席に近づくと女性スタッフと話しているのがわかった。鼻を鳴らした女性だった。上野さんは難しい顔をしている。
タイミングが悪かったか、後にしようかと思ったが先に上野さんに気がつかれ、声をかけられた。
「加藤さん、指示書だよね?」
「あ、はい。」
書類の入ったクリアファイルを差し出されたので、近づき、手に取った。真横にいた女性の視線が痛かった。
なんだ、私が何をしたと言うのだろうか。受け取るとついでに作業ブースの鍵と予約票を渡してくれた。気が利く人だ。
ブースに入り、パソコンを立ち上げノイズキャンセリングのヘッドホンを被った。ツールを立ち上げるとともにメールをチェックしていると、社内メッセンジャーアプリに万理江から状況報告のメッセージが届く。
『上野さんとこにいた女、葵が固定の仕事持ってるのに文句をつけてるみたいよ?』
『そうなの? 何を今更。1年以上担当してるのに。』
『リライトの通信教育修了したし、タイピングの速度に自信があるから是非やらせろって言ってるみたい。』
『ふーん』
『先方のご指名だって一蹴されてたけど。』
『通信教育なんて受けてまでよくやる気になったなあ。』
『どう言うこと?』
『ドラマのセリフやアナウンサーみたいに理路整然、滑舌よく喋りやしないよ、人って。
実際音源聴くと、万理江が思っているよりひどいよ?』
『淡々とキー打ってもダメなんだ?』
『一人一人順番に話してくれないし、「ええと」「あの」「なんか」だらけ、
聞き取れなくて何度も巻き戻す。全然進まない。』
『そっか』
『なのに誌面には文章として読んだ時に意味の伝わるように、ごそっと削り取られる。』
『まあ、誌面は文字数に制限あるしね。』
『そ、だから私は、初めから話し言葉を書き言葉へという翻訳しながら打ち込んで要約する。』
『だから早いんだ。』
『そうなのかな? じゃあ、私これから作業に集中するから。』
『うん、頑張って。』
「つわり?」
「違います」
万理江がプルーンヨーグルトのジュースを奢ってくれた。ありがたいけど、その気遣いは嬉しいけど、寒い時期に冷たい飲み物は……。
「あれ? それ嫌いだったけ?」
「そんなことないけど、寒いから冷たいの飲むのがちょっと。」
「寒い? 今日室内結構あったかくない?」
「んー、おかしいな…今日、ちょっと薄着だったかな」
万理江がふとスマホから顔をあげ、まじまじと私を眺める。胸と顔に視線が行ったり来たりする。ぽりぽりとマカデミアナッツをかじる。
馬油やマカデミアナッツには老化防止や傷の修復を助ける脂肪酸、パルミトレイン酸が多く含まれる。吏作さんに痕をつけられるので、馬油は吏作さんの部屋にも化粧ポーチの中にも常備。翌日はこうしてマカデミアナッツをかじる。おかげで彼と付き合いだしてから定期的にスーパーのおつまみ売り場に足を運ぶようになった。菓子売り場のチョコがけのものはカロリーが高すぎる、でも少し太ったかも。
「本当なら、ここは痩せた? って聞くところなんだろうけど、葵、胸のボリュームアップしてない?」
「う! …私胸が張るんだよね。痛くて結構辛いんだよ。」
「……」
ふんっとこれ見よがしに鼻を鳴らして人が通り過ぎた。
思わず万理江と顔を見合わせる。
入れ違いに吏作さんと上野さんがやってきて怪訝そうな顔をしながら席に着く。
「胸が小さく見えるブラって結構売れてるらしいね」
「へえ」
「なんで!?」
「なんでって、今みたいにデブと勘違いされるから切実なんだよ?」
「カットソーとかもう少しぴったりした服着てみたら?」
「ダメ」
「なんで?」
「葵ちゃんのエロい体型は俺だけが知ってればいいの。」
「ぶ」
「3人とも、ここ、職場でランチタイムなんですけど。そう言うのは、夜飲みながら本人がいない時に、こっそりバレないように話してください。」
「男の前で堂々そう言う話しておいて、よく言うわ。」
ランチタイムのテーブルには、ランチミーティングをしたことをきっかけに吏作さんと上野さんが加わった4人で食事を取ることが増えた。慰労会のビンゴ大会、景品のスープジャーを万理江とお揃いで色違いで当てた。
万理江は気が利くんだか利かないんだか、ズボラなんだかマメなんだか、気温が下がってからは毎日お昼には具沢山のスープなどの汁物を持ってくるようになった。
「具沢山にしようといろんな具材を入れると、必然的に量も多くなるじゃない?」
「わかるわかる。」
「だから悪くなる前に食べきるように、お昼に持ってくるの。」
「私も。今日は何?」
「けんちん汁。万理江は?」
「具沢山すぎてもはや水炊き。」
「トレードしない?」
「いいね、それ」
そんなに沢山作ったのなら、俺を呼べばいいのにとか言っているのを無視して、スマホゲームの体力消費をしながらお昼をとる。
昼休憩が明けて、午後一で依頼のあった恒例のリライトを行うべく、指示書を受け取りに行く。彼のチームでもリライトの業務は行なっているがこの案件は先方から私を指名されていた。上野さんの席に近づくと女性スタッフと話しているのがわかった。鼻を鳴らした女性だった。上野さんは難しい顔をしている。
タイミングが悪かったか、後にしようかと思ったが先に上野さんに気がつかれ、声をかけられた。
「加藤さん、指示書だよね?」
「あ、はい。」
書類の入ったクリアファイルを差し出されたので、近づき、手に取った。真横にいた女性の視線が痛かった。
なんだ、私が何をしたと言うのだろうか。受け取るとついでに作業ブースの鍵と予約票を渡してくれた。気が利く人だ。
ブースに入り、パソコンを立ち上げノイズキャンセリングのヘッドホンを被った。ツールを立ち上げるとともにメールをチェックしていると、社内メッセンジャーアプリに万理江から状況報告のメッセージが届く。
『上野さんとこにいた女、葵が固定の仕事持ってるのに文句をつけてるみたいよ?』
『そうなの? 何を今更。1年以上担当してるのに。』
『リライトの通信教育修了したし、タイピングの速度に自信があるから是非やらせろって言ってるみたい。』
『ふーん』
『先方のご指名だって一蹴されてたけど。』
『通信教育なんて受けてまでよくやる気になったなあ。』
『どう言うこと?』
『ドラマのセリフやアナウンサーみたいに理路整然、滑舌よく喋りやしないよ、人って。
実際音源聴くと、万理江が思っているよりひどいよ?』
『淡々とキー打ってもダメなんだ?』
『一人一人順番に話してくれないし、「ええと」「あの」「なんか」だらけ、
聞き取れなくて何度も巻き戻す。全然進まない。』
『そっか』
『なのに誌面には文章として読んだ時に意味の伝わるように、ごそっと削り取られる。』
『まあ、誌面は文字数に制限あるしね。』
『そ、だから私は、初めから話し言葉を書き言葉へという翻訳しながら打ち込んで要約する。』
『だから早いんだ。』
『そうなのかな? じゃあ、私これから作業に集中するから。』
『うん、頑張って。』
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