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慣れと馴れ
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吏作さんは、私の胸元に印をつけるのが好きだ。多分好きなんだと思う。毎回つけられる。冬でよかった。でも襟元のやや広めの服も着れない。ハイネックか第一ボタンまできっちり閉めたシャツしか着れない。
まあ、別に仕事には『おしゃれな私』を見せびらかしに行くわけじゃないから、清潔感があれば地味な格好でも構わない。胸のサイズがそれなりにあると、前びらきのブラウスやシャツはボタンの間が広がってしまい綺麗に着こなせない、みっともない。必然的にブラウスやシャツはふんわりしたものになるので、シャキッと感が出ない。イメージが固定されデブと誤解される。
最近のゲームのイラストや漫画の女の子は、胸の谷間はおろか下側までぴったりと乳房に服が張り付いている。重力を無視してる、静電気か? シワもない、補正用下着のボディスーツだってあんな立体的には作られていない。いやあれはボディペイントじゃないか? すごいなあ、と男のおっぱいに対する執着心に感心する。
背筋を滑る指先に思わず仰け反ると、吏作さんに胸を差し出した状態になり、そのままパクリと口に含まれた。頂を舌で弄ばれる。連動して別の粘膜がジワリと潤う。ふと口を離された。
濡れたところに空気が触れ、ひんやりする。
「葵、俺のものにならない?」
「……?」
意味がわからなくて、首を傾げぽけーとする。すでに吏作さん以外の男性とどうこうなりたいなんて思ってないし、吏作さんもそう思ってくれているのだと思っていたのに、違うの? もしかして私だけ、そう思っていたの? 悲しくなってきて涙が滲んだ。
ぎゅうっとしがみつく。
「わ、葵ちゃん? なんで泣くの?」
「だって、私もう、とっくに吏作さんのものだよ? なのに、そんなこと言うの、今までそう思ってたの私だけ?」
「え…」
「私一人で、恋人気取りで、彼女ヅラしてたの?」
「え、違うよ、ごめん。言葉が足りなかった。」
「わかんないよ。」
「これからもずっと俺のそばにいろよ。」
「……だから、そのつもりだよ?」
「派遣の契約更新、そろそろだろ?」
「……!」
うちの会社は、付き合ってるくらいじゃなんともないが結婚すると部署が離される。一方が役職者だと間違いなく。贔屓や甘えが有る無しに関わらず、そう言う目で見る人は見る、繁忙期に家庭で休まざるを得ない事情が発生した場合、痛手が2倍。そう言ったこともあり、痛くない腹を探られる必要もないのでハナから影響しない部署へ分けてしまう。
年始の部内チームシャッフル、春の大異動。世間一般は年度制で、新入社員は4月に入って来る。それに伴い、3月で社内も人事異動の発令がある。
かく言う、私も去年、その人事異動に合わせて補充された派遣スタッフだ。
「うちの会社って、1年超える勤務があって、今後も長期勤務の希望があれば、積極的に直接雇用に切り替えるんだけど…」
「はい…ちょうど来月で1年ですね…」
「葵ちゃん、契約満了でうち、辞めない?」
「えええ!!」
「だって、このまま契約更新したら、多分俺、異動。」
「え!」
「独身なのをいいことに、引越しありの転勤もありうる。」
「ええ!」
「でも、派遣スタッフは、業務内容と勤務地が固定だから動かせない。」
「あ……」
「バレなきゃいい、って考えもあるけど、でも葵ちゃんのこと、俺自慢したいから却下。」
「う…。で、私、クビ?」
「契約満了で、別の派遣先に行く? 直接雇用に切り替えて、別の部署で違う内容で働く?」
「どっちもイヤです~」
「ワガママな…俺としては、直に切り替えて部署変えて働いててくれると嬉しいな」
「それは、上司としての意見? 個人としての意見?」
「両方。部署変わるって言っても、葵ちゃんの仕事柄、他の事務所行くことないだろうし、せいぜいお隣の部署? だから直に切り替えた方がいいんじゃないかなって」
「隣って、総務ですか?」
「そう。それか…」
「まだあるんですか?」
「俺のところに永久就職。」
吏作さんが、にっこりと微笑んだ。
それか。今日ずっとニコニコ上機嫌だったのは。
「吏作さん? 永久就職だ、わーいって喜ぶような人は、『就職』しないって知ってます?」
「は? どう言う意味?」
「仕事をしたくなくて専業主婦狙いで結婚に逃げる人が、家事業務を務めあげると思います? 私の知る限りでは、夫を人間ATMくらいにしか思わない人ですよ。」
吏作さんが、たじろぐ。
「安心してください。私、専業主婦願望はありません。」
「まあ一日中暇を持て余して寂しい思いさせるより、働いて元気でいてくれた方が、俺も嬉しい。けど……」
「ちょっと、ちょっと、吏作さん? 話、前のめりすぎません?」
「んじゃ、続きは来週の面接で。今は、この続きしようか?」
吏作さんが甘ったるい表情を見せる。腰を引き寄せられる。
「吏作さん、もう気分それちゃいました。また今度…」
「却下」
「そんなこと言っても……~!!」
でも、大きくなってしまった彼を無視してまで狸寝入り決め込むのも気がひけるし、そんなことしたくない。どうせ吏作さんに気持ち良くされる。体はどんどん反応して行くのに、心と感情と気持ちとが宙ぶらりんなまま。心と感情と気持ちってどう違うんだろう……ぼんやり、切ない表情の吏作さんを眺めた。
まあ、別に仕事には『おしゃれな私』を見せびらかしに行くわけじゃないから、清潔感があれば地味な格好でも構わない。胸のサイズがそれなりにあると、前びらきのブラウスやシャツはボタンの間が広がってしまい綺麗に着こなせない、みっともない。必然的にブラウスやシャツはふんわりしたものになるので、シャキッと感が出ない。イメージが固定されデブと誤解される。
最近のゲームのイラストや漫画の女の子は、胸の谷間はおろか下側までぴったりと乳房に服が張り付いている。重力を無視してる、静電気か? シワもない、補正用下着のボディスーツだってあんな立体的には作られていない。いやあれはボディペイントじゃないか? すごいなあ、と男のおっぱいに対する執着心に感心する。
背筋を滑る指先に思わず仰け反ると、吏作さんに胸を差し出した状態になり、そのままパクリと口に含まれた。頂を舌で弄ばれる。連動して別の粘膜がジワリと潤う。ふと口を離された。
濡れたところに空気が触れ、ひんやりする。
「葵、俺のものにならない?」
「……?」
意味がわからなくて、首を傾げぽけーとする。すでに吏作さん以外の男性とどうこうなりたいなんて思ってないし、吏作さんもそう思ってくれているのだと思っていたのに、違うの? もしかして私だけ、そう思っていたの? 悲しくなってきて涙が滲んだ。
ぎゅうっとしがみつく。
「わ、葵ちゃん? なんで泣くの?」
「だって、私もう、とっくに吏作さんのものだよ? なのに、そんなこと言うの、今までそう思ってたの私だけ?」
「え…」
「私一人で、恋人気取りで、彼女ヅラしてたの?」
「え、違うよ、ごめん。言葉が足りなかった。」
「わかんないよ。」
「これからもずっと俺のそばにいろよ。」
「……だから、そのつもりだよ?」
「派遣の契約更新、そろそろだろ?」
「……!」
うちの会社は、付き合ってるくらいじゃなんともないが結婚すると部署が離される。一方が役職者だと間違いなく。贔屓や甘えが有る無しに関わらず、そう言う目で見る人は見る、繁忙期に家庭で休まざるを得ない事情が発生した場合、痛手が2倍。そう言ったこともあり、痛くない腹を探られる必要もないのでハナから影響しない部署へ分けてしまう。
年始の部内チームシャッフル、春の大異動。世間一般は年度制で、新入社員は4月に入って来る。それに伴い、3月で社内も人事異動の発令がある。
かく言う、私も去年、その人事異動に合わせて補充された派遣スタッフだ。
「うちの会社って、1年超える勤務があって、今後も長期勤務の希望があれば、積極的に直接雇用に切り替えるんだけど…」
「はい…ちょうど来月で1年ですね…」
「葵ちゃん、契約満了でうち、辞めない?」
「えええ!!」
「だって、このまま契約更新したら、多分俺、異動。」
「え!」
「独身なのをいいことに、引越しありの転勤もありうる。」
「ええ!」
「でも、派遣スタッフは、業務内容と勤務地が固定だから動かせない。」
「あ……」
「バレなきゃいい、って考えもあるけど、でも葵ちゃんのこと、俺自慢したいから却下。」
「う…。で、私、クビ?」
「契約満了で、別の派遣先に行く? 直接雇用に切り替えて、別の部署で違う内容で働く?」
「どっちもイヤです~」
「ワガママな…俺としては、直に切り替えて部署変えて働いててくれると嬉しいな」
「それは、上司としての意見? 個人としての意見?」
「両方。部署変わるって言っても、葵ちゃんの仕事柄、他の事務所行くことないだろうし、せいぜいお隣の部署? だから直に切り替えた方がいいんじゃないかなって」
「隣って、総務ですか?」
「そう。それか…」
「まだあるんですか?」
「俺のところに永久就職。」
吏作さんが、にっこりと微笑んだ。
それか。今日ずっとニコニコ上機嫌だったのは。
「吏作さん? 永久就職だ、わーいって喜ぶような人は、『就職』しないって知ってます?」
「は? どう言う意味?」
「仕事をしたくなくて専業主婦狙いで結婚に逃げる人が、家事業務を務めあげると思います? 私の知る限りでは、夫を人間ATMくらいにしか思わない人ですよ。」
吏作さんが、たじろぐ。
「安心してください。私、専業主婦願望はありません。」
「まあ一日中暇を持て余して寂しい思いさせるより、働いて元気でいてくれた方が、俺も嬉しい。けど……」
「ちょっと、ちょっと、吏作さん? 話、前のめりすぎません?」
「んじゃ、続きは来週の面接で。今は、この続きしようか?」
吏作さんが甘ったるい表情を見せる。腰を引き寄せられる。
「吏作さん、もう気分それちゃいました。また今度…」
「却下」
「そんなこと言っても……~!!」
でも、大きくなってしまった彼を無視してまで狸寝入り決め込むのも気がひけるし、そんなことしたくない。どうせ吏作さんに気持ち良くされる。体はどんどん反応して行くのに、心と感情と気持ちとが宙ぶらりんなまま。心と感情と気持ちってどう違うんだろう……ぼんやり、切ない表情の吏作さんを眺めた。
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