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こんなことってあるんですね
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万理江と喋りながらスマホをいじるのはいつものことだが、映し出されている画面はメッセージチャットだ。
『先週の飲み会であんた達が手を繋いで出て行くの見ちゃった。』
「え!」
「だから名前、なんて読むんだろうって、もう一度確認して覚えちゃっただけ。」
『見られてた!』
「他の人は?」
「多分いないんじゃない?」
『あの後、話題に上がらなかったもん。』
「そっか」
『気づかれてないとは言ってない』
『う』
「口で言いっていいよ、それくらい。」
万理江にコロコロと笑われる。
「続きは、今日うち泊まりに来ない?」
「ううう、一旦ウチによっても…」
「葵でも着れそうな服貸すよ。逆じゃできないでしょ?」
月曜、早々に万理江にバレた。と言うことは、もしかしてもう社内で気づいている人いる?
一人見かけたら100人、いやGじゃない。
コンビニに立ち寄り、「今日は月曜だから1本だけね」と言い、レモンの絵柄の缶チューハイをカゴに入れる。なら飲まなくてもいいのにと思うが、私も桃のサワーを1本カゴに入れる。女同士なので小さな箱は要らない。メイク落としも要らない。
あまりに頻繁に私が彼女の部屋に泊まりに行くので、私用の下着とボディクリームが常備されている。彼女はズボラ過ぎて風呂上がり、何も肌につけない。自然乾燥の方が髪に優しいと信じていて、ドライヤーは持っているのに夏でも冬でも濡れた髪を放置する。彼女が私の部屋に泊まった時ナノイオンドライヤーで、オイルを塗って乾かしてあげるとツヤッツヤになった。
「なにこれ! 美容室帰りみたい!」
「髪は濡れたままだと、キューティクルが開いててそこから水分がどんどん蒸発して行っちゃってパサパサになるし、地肌もジメジメ蒸れた状態になるし。ドライヤーでさっと乾かしちゃった方が髪にも地肌にも良いんだよ?」
「そっかー、熱がダメージになるかと思ってた。」
髪を乾かし終え、ローテーブルの前に座る。何に対してだかわからない乾杯をし、彼女はグビグビっと小気味いい音を立ててふた口煽る。
「で、で? あんた達、いつから?」
「いつからって? あの後からだよ」
「うっそ。早速バレてんじゃん。で、ヤっちゃった? 良かった?」
万理江がこんにゃくジャーキーを噛みちぎる。
「いやいやいや、単刀直入すぎるでしょ…」
私も1枚こんにゃくジャーキーを口に放り込む。ビーフコンソメ味がジュワッと広がる。
「え~……って、だって、二人で手を繋いでどこ行ったの? どうせ彼の家かホテルでしょ。」
万理江とは一線を越えかけてから、遠慮も何もない。目の前でげっぷもするし鼻もかむ。背中の産毛対策に豆乳ローションを塗ったくり合う。
でも、これはなんと言うべきなのか、言えることがない。困った。
「あら? 揶揄っちゃいけない感じね…悪かったの?」
「さあ? 良くわかりません。基準がわからないので」
「何それ? 初めてってわけじゃないんでしょ。」
「まあ、そうなんですけど、前の彼を基準にしちゃ多分間違いなのだとはわかりました。」
「え~って、なんで突然敬語になってるのよ。」
「なんとなく?」
「前の彼、下手くそだった? …乱暴だった? …小さかった…んだ。へえ、…」
「ちょっとちょっと、どこまで話させる気?」
万理江がニヤニヤ笑ってる。ビーフ風味のこんにゃくジャーキーをまた一つ取り、むっちむっちと噛み締めている。缶チューハイを一口ぐびっと飲む。
「く~…ほら、早く! 飲み終わっちゃうでしょ!」
酒の肴ですか。そうですか。
諦めて口を割る。
「吏作さんは普通です、多分。コンビニで買えるサイズなら」
「コンビニで買えるって、なんかお手軽そうね。」
「どっちが!?」
「職場内の女で遊ぶようなバカには見えないけど?」
万理江がおつまみカゴから別の袋を取り出す。
「と思ってたのは、私だけとかだったら悲しすぎる~」
「どこまでネガティブなのよ。」
ふと顔を上げた万理江の目がイキイキとしている。
「へえええ、じゃあ、安心させてあげるから、私にしとく~?」
「あああ! もう! 万理江うっとおしい!」
万理江が巻きついてくる。ジャーキーとアルコールの匂いを振りまいて、ふんふん言って襟元を覗き込んでくる。
「あ!」
「ちょっと、離れてってば!」
「ずるい! これは私のおっぱいなのに!」
「いや、違うから。」
「何よ、見せびらかして!」
「自分から覗き込んできたんでしょうが!」
クールビューティーなお姉さんが人の胸をむにむにと揉んでくる。彼女はバイだ。どっちもいけるクチだ。
でも、私が嫌、と言うことはしない。すぐやめr……
本当、私ってば何やってんだろう。
(え、誰と? 相手誰?)
(何、何?)
(金曜の飲み会で水上さんが誰かお持ち帰りしたんだってー)
げ! 見られてたー!
トイレの個室から出るに出られなくなる。声の主の心当たりを考える。仲がいいのは万理江だけなので、わからない。
(え?『みずかみ』でしょ?)
(違うよ『みなかみ』じゃないの? 温泉だってみなかみじゃん?)
(え、そうだっけ?)
あれ~? どっちだっけとかケラケラ笑いながら声が遠ざかる。ホッとして、執務スペースへ戻る。途中、自販機の影からこっそり吏作さんにメッセージを送る。
『お持ち帰り、見られてますよ?』
『先週の飲み会であんた達が手を繋いで出て行くの見ちゃった。』
「え!」
「だから名前、なんて読むんだろうって、もう一度確認して覚えちゃっただけ。」
『見られてた!』
「他の人は?」
「多分いないんじゃない?」
『あの後、話題に上がらなかったもん。』
「そっか」
『気づかれてないとは言ってない』
『う』
「口で言いっていいよ、それくらい。」
万理江にコロコロと笑われる。
「続きは、今日うち泊まりに来ない?」
「ううう、一旦ウチによっても…」
「葵でも着れそうな服貸すよ。逆じゃできないでしょ?」
月曜、早々に万理江にバレた。と言うことは、もしかしてもう社内で気づいている人いる?
一人見かけたら100人、いやGじゃない。
コンビニに立ち寄り、「今日は月曜だから1本だけね」と言い、レモンの絵柄の缶チューハイをカゴに入れる。なら飲まなくてもいいのにと思うが、私も桃のサワーを1本カゴに入れる。女同士なので小さな箱は要らない。メイク落としも要らない。
あまりに頻繁に私が彼女の部屋に泊まりに行くので、私用の下着とボディクリームが常備されている。彼女はズボラ過ぎて風呂上がり、何も肌につけない。自然乾燥の方が髪に優しいと信じていて、ドライヤーは持っているのに夏でも冬でも濡れた髪を放置する。彼女が私の部屋に泊まった時ナノイオンドライヤーで、オイルを塗って乾かしてあげるとツヤッツヤになった。
「なにこれ! 美容室帰りみたい!」
「髪は濡れたままだと、キューティクルが開いててそこから水分がどんどん蒸発して行っちゃってパサパサになるし、地肌もジメジメ蒸れた状態になるし。ドライヤーでさっと乾かしちゃった方が髪にも地肌にも良いんだよ?」
「そっかー、熱がダメージになるかと思ってた。」
髪を乾かし終え、ローテーブルの前に座る。何に対してだかわからない乾杯をし、彼女はグビグビっと小気味いい音を立ててふた口煽る。
「で、で? あんた達、いつから?」
「いつからって? あの後からだよ」
「うっそ。早速バレてんじゃん。で、ヤっちゃった? 良かった?」
万理江がこんにゃくジャーキーを噛みちぎる。
「いやいやいや、単刀直入すぎるでしょ…」
私も1枚こんにゃくジャーキーを口に放り込む。ビーフコンソメ味がジュワッと広がる。
「え~……って、だって、二人で手を繋いでどこ行ったの? どうせ彼の家かホテルでしょ。」
万理江とは一線を越えかけてから、遠慮も何もない。目の前でげっぷもするし鼻もかむ。背中の産毛対策に豆乳ローションを塗ったくり合う。
でも、これはなんと言うべきなのか、言えることがない。困った。
「あら? 揶揄っちゃいけない感じね…悪かったの?」
「さあ? 良くわかりません。基準がわからないので」
「何それ? 初めてってわけじゃないんでしょ。」
「まあ、そうなんですけど、前の彼を基準にしちゃ多分間違いなのだとはわかりました。」
「え~って、なんで突然敬語になってるのよ。」
「なんとなく?」
「前の彼、下手くそだった? …乱暴だった? …小さかった…んだ。へえ、…」
「ちょっとちょっと、どこまで話させる気?」
万理江がニヤニヤ笑ってる。ビーフ風味のこんにゃくジャーキーをまた一つ取り、むっちむっちと噛み締めている。缶チューハイを一口ぐびっと飲む。
「く~…ほら、早く! 飲み終わっちゃうでしょ!」
酒の肴ですか。そうですか。
諦めて口を割る。
「吏作さんは普通です、多分。コンビニで買えるサイズなら」
「コンビニで買えるって、なんかお手軽そうね。」
「どっちが!?」
「職場内の女で遊ぶようなバカには見えないけど?」
万理江がおつまみカゴから別の袋を取り出す。
「と思ってたのは、私だけとかだったら悲しすぎる~」
「どこまでネガティブなのよ。」
ふと顔を上げた万理江の目がイキイキとしている。
「へえええ、じゃあ、安心させてあげるから、私にしとく~?」
「あああ! もう! 万理江うっとおしい!」
万理江が巻きついてくる。ジャーキーとアルコールの匂いを振りまいて、ふんふん言って襟元を覗き込んでくる。
「あ!」
「ちょっと、離れてってば!」
「ずるい! これは私のおっぱいなのに!」
「いや、違うから。」
「何よ、見せびらかして!」
「自分から覗き込んできたんでしょうが!」
クールビューティーなお姉さんが人の胸をむにむにと揉んでくる。彼女はバイだ。どっちもいけるクチだ。
でも、私が嫌、と言うことはしない。すぐやめr……
本当、私ってば何やってんだろう。
(え、誰と? 相手誰?)
(何、何?)
(金曜の飲み会で水上さんが誰かお持ち帰りしたんだってー)
げ! 見られてたー!
トイレの個室から出るに出られなくなる。声の主の心当たりを考える。仲がいいのは万理江だけなので、わからない。
(え?『みずかみ』でしょ?)
(違うよ『みなかみ』じゃないの? 温泉だってみなかみじゃん?)
(え、そうだっけ?)
あれ~? どっちだっけとかケラケラ笑いながら声が遠ざかる。ホッとして、執務スペースへ戻る。途中、自販機の影からこっそり吏作さんにメッセージを送る。
『お持ち帰り、見られてますよ?』
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