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一人で寂しい夜は
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クールビューティーなお姉さんが、口を尖らせて拗ねている。
「ええ~? やっぱりダメ? もしかして、処女?」
「いや、一応そんなことないけど。女は初めて。」
「女は、女の体わかってるし、力加減も男みたいに強すぎないから、女の方がイキやすいんだよー。」
「それは女もOKって前提の場合でしょ。」
「なら、OKかNGか試してみる~?」
「試すってどうやって…いやいや、そうじゃなくて!」
「あ、興味ある? 実践してみようか~?」
試すって、え! いやいやいや。かつて気持ち良い所どこだろうとお腹側をグリグリしてみても、婦人科の内診みたいな気分で、違和感、異物感しかなく何が気持ちいいのかさっぱりわからなかった。生温かいぐんにゃりした感触が生々しすぎ。一度で懲りて指が触れた途端冷静になってしまう。
ヒロインちゃんみたいに、ああんとか、んぅっとか言えないし。何をどうやると、どんな状態になるとあんな声が出るのかわからない。
でも気持ち良さそうな声を上げるシーンを思い出してしまいじんわりくる。すかさず万理江さんが後ろから巻きついてきて、足の付け根に手を伸ばす。
「あはっ、ヌルヌルじゃん。それ、読んでなよ。合わせてあげるから」
頭の中がぐるぐる回って何が何だか何をされているのかわからなくなり、気がつくと体を弄られていた。シナリオの中のヒロインちゃんは、イケメンにいじられてあんあん言っている。本当に処女か、この女。
でも、彼女の細い指が柔らかいところに触れた途端冷めた。
「万理江さん、終わり。」
「へ? ……あ…」
私の思いっきり白けた表情を見て、残念そうに「それじゃ痛いだけね」と、諦めてくれた。こういうところは女だからわかってもらえるのか。ウェットティッシュを持って来て私によこした。ノンアルコールの赤ちゃんのお尻も拭けるタイプだ。
彼女は手を洗いに行った。
とんだ出会いもあったものだ。それでも、万理江さんとは仲がよくなり、毎日ランチを一緒するしプライベートで買い物に出かけたりもする。
新年、部署内でチームシャッフルがあった。派遣スタッフは業務内容が変えられないので、正規社員だけがシャッフルする、いわゆるジョブローテーション。新しいリーダーはいつぞやの幹事の男性だった。
「お、君は」
「その節は、大変ご迷惑をおかけしました。加藤葵と申します。宜しくお願いします。」
新年初日はチームシャッフルの後、新年会を兼ねた飲み会で、私と万理江さんは前回の反省を生かし、飲みすぎずはしゃぎすぎず、節度ある飲酒を心がけた。
「ショウくんのパートは終わった~?」
「終わったことは終わったんだけどー、分岐点が19話目始まり時点だと思ってたら、18話目終わり時点と気がついて、スパエン逃した。」
「ああ~、それ私がスパエン逃したときと同じパターン。残念ながら私はショウくんはあんまりノレなくてノマエン止まり。イケメンシリーズはどうした?」
「ん、今ゼノを攻略中、あと2話。多分ハピエン。」
「ゼノか~、私一度も回ってない。」
「ふふふ……あ、でも彼は…自分で読むのが好きなんだよね? 多分万理江の好みじゃないかも。」
「やっぱり?」
「おいおい、二人ともせっかくチームシャッフルしてんだから、たまにはあまり喋んないやつと喋っておいでよ?」
新リーダーがやってきた。万理江さんは「は~い」と言いながら彼女のリーダーとなった飯田さんの輪へ行ってしまった。
彼女を見送ると、リーダーに話しかけられた。
「君ら、毎日毎日昼休みだけでも飽き足らず、よくしゃべること尽きないな。」
「やってるゲームの進捗報告会ですから。」
「ぶ……」
「趣味ですから。」
「どんなゲーム?」
「多分男性がやっても理解できないし、つまらないと思いますよ?」
「…恋愛シミュレーションゲームみたいなの?」
「…まさしくそれですが。」
「親戚の子がはまってたな。あれだろ、壁ドンが『うるせー!』って抗議から、女を口説く時に迫るお作法って、意味を塗り替えさせたやつ。」
「そういうシチュエーションで壁ドンって使われてるけど、塗り替えさせたのはゲームだけじゃないと思いますけど?」
「一気に広めたのはドラマだったけどな。」
「ですね。」
「それ、やってみたいと思う?」
じりりと壁側に寄っていく。
「思いませんよ。」
壁際に立っている時、正面に立たれると怖い。圧迫感がある。
慌てて答えれば、彼はすっと体をずらし隣に並んで壁に寄りかかった。
私はほっとして静かにグラスを傾けた。そおっとグラス越しに彼の顔を盗み見る。口元は口角が上がっているわけでも、引き結んでいるわけでもなくリラックスしているのがわかる。会場全体を見渡すようのんびりとした視線で、意外とイケメンだと気がついた。
※ただし、イケメンに限る。は、壁ドンには、現実には通用しないとわかった。だからこの表現は見かけなくなったのだろう。
ただそこに存在するだけで圧迫感があるので、顔がどうとか関係ない。怖い。
「相手による?」
「関係ないですよ。圧迫感があって怖いです。」
「怖くない人って、わかってる人なら?」
「……どうなんでしょ?」
「試してみる?」
え? と思って振り向くと、にこっと柔らかく笑った。
ドキュンと射抜かれた。
こういうことって本当にあるんだ。一瞬で真っ赤になってしまい、満足そうに微笑む彼に手を引かれて会場を抜け出た。
「ええ~? やっぱりダメ? もしかして、処女?」
「いや、一応そんなことないけど。女は初めて。」
「女は、女の体わかってるし、力加減も男みたいに強すぎないから、女の方がイキやすいんだよー。」
「それは女もOKって前提の場合でしょ。」
「なら、OKかNGか試してみる~?」
「試すってどうやって…いやいや、そうじゃなくて!」
「あ、興味ある? 実践してみようか~?」
試すって、え! いやいやいや。かつて気持ち良い所どこだろうとお腹側をグリグリしてみても、婦人科の内診みたいな気分で、違和感、異物感しかなく何が気持ちいいのかさっぱりわからなかった。生温かいぐんにゃりした感触が生々しすぎ。一度で懲りて指が触れた途端冷静になってしまう。
ヒロインちゃんみたいに、ああんとか、んぅっとか言えないし。何をどうやると、どんな状態になるとあんな声が出るのかわからない。
でも気持ち良さそうな声を上げるシーンを思い出してしまいじんわりくる。すかさず万理江さんが後ろから巻きついてきて、足の付け根に手を伸ばす。
「あはっ、ヌルヌルじゃん。それ、読んでなよ。合わせてあげるから」
頭の中がぐるぐる回って何が何だか何をされているのかわからなくなり、気がつくと体を弄られていた。シナリオの中のヒロインちゃんは、イケメンにいじられてあんあん言っている。本当に処女か、この女。
でも、彼女の細い指が柔らかいところに触れた途端冷めた。
「万理江さん、終わり。」
「へ? ……あ…」
私の思いっきり白けた表情を見て、残念そうに「それじゃ痛いだけね」と、諦めてくれた。こういうところは女だからわかってもらえるのか。ウェットティッシュを持って来て私によこした。ノンアルコールの赤ちゃんのお尻も拭けるタイプだ。
彼女は手を洗いに行った。
とんだ出会いもあったものだ。それでも、万理江さんとは仲がよくなり、毎日ランチを一緒するしプライベートで買い物に出かけたりもする。
新年、部署内でチームシャッフルがあった。派遣スタッフは業務内容が変えられないので、正規社員だけがシャッフルする、いわゆるジョブローテーション。新しいリーダーはいつぞやの幹事の男性だった。
「お、君は」
「その節は、大変ご迷惑をおかけしました。加藤葵と申します。宜しくお願いします。」
新年初日はチームシャッフルの後、新年会を兼ねた飲み会で、私と万理江さんは前回の反省を生かし、飲みすぎずはしゃぎすぎず、節度ある飲酒を心がけた。
「ショウくんのパートは終わった~?」
「終わったことは終わったんだけどー、分岐点が19話目始まり時点だと思ってたら、18話目終わり時点と気がついて、スパエン逃した。」
「ああ~、それ私がスパエン逃したときと同じパターン。残念ながら私はショウくんはあんまりノレなくてノマエン止まり。イケメンシリーズはどうした?」
「ん、今ゼノを攻略中、あと2話。多分ハピエン。」
「ゼノか~、私一度も回ってない。」
「ふふふ……あ、でも彼は…自分で読むのが好きなんだよね? 多分万理江の好みじゃないかも。」
「やっぱり?」
「おいおい、二人ともせっかくチームシャッフルしてんだから、たまにはあまり喋んないやつと喋っておいでよ?」
新リーダーがやってきた。万理江さんは「は~い」と言いながら彼女のリーダーとなった飯田さんの輪へ行ってしまった。
彼女を見送ると、リーダーに話しかけられた。
「君ら、毎日毎日昼休みだけでも飽き足らず、よくしゃべること尽きないな。」
「やってるゲームの進捗報告会ですから。」
「ぶ……」
「趣味ですから。」
「どんなゲーム?」
「多分男性がやっても理解できないし、つまらないと思いますよ?」
「…恋愛シミュレーションゲームみたいなの?」
「…まさしくそれですが。」
「親戚の子がはまってたな。あれだろ、壁ドンが『うるせー!』って抗議から、女を口説く時に迫るお作法って、意味を塗り替えさせたやつ。」
「そういうシチュエーションで壁ドンって使われてるけど、塗り替えさせたのはゲームだけじゃないと思いますけど?」
「一気に広めたのはドラマだったけどな。」
「ですね。」
「それ、やってみたいと思う?」
じりりと壁側に寄っていく。
「思いませんよ。」
壁際に立っている時、正面に立たれると怖い。圧迫感がある。
慌てて答えれば、彼はすっと体をずらし隣に並んで壁に寄りかかった。
私はほっとして静かにグラスを傾けた。そおっとグラス越しに彼の顔を盗み見る。口元は口角が上がっているわけでも、引き結んでいるわけでもなくリラックスしているのがわかる。会場全体を見渡すようのんびりとした視線で、意外とイケメンだと気がついた。
※ただし、イケメンに限る。は、壁ドンには、現実には通用しないとわかった。だからこの表現は見かけなくなったのだろう。
ただそこに存在するだけで圧迫感があるので、顔がどうとか関係ない。怖い。
「相手による?」
「関係ないですよ。圧迫感があって怖いです。」
「怖くない人って、わかってる人なら?」
「……どうなんでしょ?」
「試してみる?」
え? と思って振り向くと、にこっと柔らかく笑った。
ドキュンと射抜かれた。
こういうことって本当にあるんだ。一瞬で真っ赤になってしまい、満足そうに微笑む彼に手を引かれて会場を抜け出た。
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