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一人で寂しい夜は
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「その省略形を知ってるってことは、奥園さんもやってるの?」
「そう! この間お昼で後ろ通ったら、チラッと画面見ちゃって、吹きそうになりました。」
「ちょうど今、ミッション消化中で。イベントシナリオに逃げてるところです。」
「あれって、イベントのトップランカーって毎回同じ? 毎月どれだけ課金してるんでしょうね。」
「一人くらいならストーリー読めても、もう一人はギリギリ間に合わない。」
「絶妙なバランスですよねー。加藤さん課金したことあります?」
「無課金でやってて最近つまんない。ランカーってお金持ちの日中暇な専業主婦? 毎回毎回よくそんなにお金かけられるよなーって思ってる。」
「そう? ガチャのあるゲームより、課金額少なくて済むんじゃない?」
「ああ、そうかも。月3千円でも十分余りますねー」
「私は前に少し課金したけど、ネタバレサイトを見つけちゃって。その人の解説が面白くて、読めなかったシナリオはその人の解説で読みたくて読みに行っちゃいます。」
「え、ってことはそのサイト書いている人ってクリアしてるんだ。」
「家族の話とかたまに出てきますから、社員とかじゃなくて、実在する一般人だと思いますよ。」
「趣味なのかな?」
「興味のない人にゲームのアイテム課金に毎月1万使ってますって言ったら、無駄遣いって言われそうだけど、」
「確かに、何か趣味ないのって言われそう…」
「趣味に使う費用は毎月1万円までと決めていますって言えば、まあ、そんなもんかなって思う。」
「独身なら使う人はもっと使うし既婚者なら贅沢?」
「そうそう、そんな感じ?」
「ドライブが趣味なら、ガソリン代に高速代、行ったら帰ってこなきゃだし、ご飯でも食べてってなると…うーん」
「でしょ、だから、趣味なんでしょうね。」
いつのまにか話し込む。しゃべれば喉が乾く。喉が乾けばグラスの中身を口にする。
「昨日、ふとさ、今日の飲み会でゲームみたいになんか良い出会いが~って期待したんだけど……しなかった?」
「あはは。何言ってんですか、飲み会なんて毎回そう思ってますよ。」
キリっと眼鏡の縁を上げながら返された。
「あらら?」
「でも、そうそういい出会いなんてないもんですよね。」
あまりお酒は強くないのに、グダグダな話に盛り上がりジュースのようにカブガブと飲んでいたらすっかり酔っ払った。トイレも近い。断って席を立つ。
用を済ませて手を洗う。水が冷たくて気持ちいい。鏡を見ればなんか見たことのあるようなものが写っていて、真っ赤な顔の自分がいた。
「わ、トマトみたい……」
こんな熱を持ってたら瞼も重くなってもおかしくない。眠いし、頭重いし働かないし顔が熱い。化粧も関係なく水でバシャバシャと冷やした。しばらくバシャバシャとやっていたら目が冴えてきて、鏡に映ったのはほんのり赤ら顔のほぼすっぴんの自分だった。カバンからティッシュを出し、顔を拭く。化粧ポーチを取り出し、お直し。切れかかった眉を一旦消す。目の下の黒ずみを落とす。ファンデをのせなおし眉を描き、リップを薄く塗って終了。酔っ払ってすでに頬は赤いから、チークはいらない。ご機嫌に上気した自分の顔を眺める。
おお、こんな丁寧にメイクのお直しなんてしたことないや。いつもテカってても、もう帰るだけだし、と白粉のついたあぶらとり紙で押さえるだけ、面倒な時はそれすらしない。あんだけバシャバシャやってたらほとんど化粧も落ちるもんだ。お直しというより初めからやり直しだ。
鼻歌交じりにトイレを出る。会場に戻ろうとしたらパラパラと人が移動していて、会場内をのぞいたらほとんど人がいなくなっている。あまりに長いこと洗面所でバシャバシャやっていたから、宴会時間が終わってしまったのだろう。
さっき友達になった彼女はどこに行ったんだろう。
そういえば、ゲームの話で盛り上がり過ぎて連絡先交換してない。どうしよう、心配してるかな、鞄ごと持ってきたから忘れ物はないけど。入り口でぼんやり突っ立っていると、中で会社の携帯を握った男性が声をかけてきた。会社で見たことある顔…誰だっけ?
「君は、忘れ物?」
「……そうかもしれません。」
「……いや、ごめん。君は何か忘れ物をしたの? 君、飯田のチームの子だよね?」
「はい」
「この携帯以外何もなかったよ。」
「みんなはどこへ?」
「外に出てるよ。多分、二次会行く人はもう向かってるんじゃないかな?」
ひどい、誰も私に気がついてくれなかった。彼女もトイレに声をかけにきてくれてもいいのに。帰ってしまったのか。みんな冷たい。
じんわり涙が出てきた。
「みんなに忘れられた~、私忘れものですー」
「ええ!ここで泣くの? とりあえず、外で待ってるかもしれないから、外出よう?」
「ふえええ…」
外に連れ出されたが、彼女はいなかった。
「そう! この間お昼で後ろ通ったら、チラッと画面見ちゃって、吹きそうになりました。」
「ちょうど今、ミッション消化中で。イベントシナリオに逃げてるところです。」
「あれって、イベントのトップランカーって毎回同じ? 毎月どれだけ課金してるんでしょうね。」
「一人くらいならストーリー読めても、もう一人はギリギリ間に合わない。」
「絶妙なバランスですよねー。加藤さん課金したことあります?」
「無課金でやってて最近つまんない。ランカーってお金持ちの日中暇な専業主婦? 毎回毎回よくそんなにお金かけられるよなーって思ってる。」
「そう? ガチャのあるゲームより、課金額少なくて済むんじゃない?」
「ああ、そうかも。月3千円でも十分余りますねー」
「私は前に少し課金したけど、ネタバレサイトを見つけちゃって。その人の解説が面白くて、読めなかったシナリオはその人の解説で読みたくて読みに行っちゃいます。」
「え、ってことはそのサイト書いている人ってクリアしてるんだ。」
「家族の話とかたまに出てきますから、社員とかじゃなくて、実在する一般人だと思いますよ。」
「趣味なのかな?」
「興味のない人にゲームのアイテム課金に毎月1万使ってますって言ったら、無駄遣いって言われそうだけど、」
「確かに、何か趣味ないのって言われそう…」
「趣味に使う費用は毎月1万円までと決めていますって言えば、まあ、そんなもんかなって思う。」
「独身なら使う人はもっと使うし既婚者なら贅沢?」
「そうそう、そんな感じ?」
「ドライブが趣味なら、ガソリン代に高速代、行ったら帰ってこなきゃだし、ご飯でも食べてってなると…うーん」
「でしょ、だから、趣味なんでしょうね。」
いつのまにか話し込む。しゃべれば喉が乾く。喉が乾けばグラスの中身を口にする。
「昨日、ふとさ、今日の飲み会でゲームみたいになんか良い出会いが~って期待したんだけど……しなかった?」
「あはは。何言ってんですか、飲み会なんて毎回そう思ってますよ。」
キリっと眼鏡の縁を上げながら返された。
「あらら?」
「でも、そうそういい出会いなんてないもんですよね。」
あまりお酒は強くないのに、グダグダな話に盛り上がりジュースのようにカブガブと飲んでいたらすっかり酔っ払った。トイレも近い。断って席を立つ。
用を済ませて手を洗う。水が冷たくて気持ちいい。鏡を見ればなんか見たことのあるようなものが写っていて、真っ赤な顔の自分がいた。
「わ、トマトみたい……」
こんな熱を持ってたら瞼も重くなってもおかしくない。眠いし、頭重いし働かないし顔が熱い。化粧も関係なく水でバシャバシャと冷やした。しばらくバシャバシャとやっていたら目が冴えてきて、鏡に映ったのはほんのり赤ら顔のほぼすっぴんの自分だった。カバンからティッシュを出し、顔を拭く。化粧ポーチを取り出し、お直し。切れかかった眉を一旦消す。目の下の黒ずみを落とす。ファンデをのせなおし眉を描き、リップを薄く塗って終了。酔っ払ってすでに頬は赤いから、チークはいらない。ご機嫌に上気した自分の顔を眺める。
おお、こんな丁寧にメイクのお直しなんてしたことないや。いつもテカってても、もう帰るだけだし、と白粉のついたあぶらとり紙で押さえるだけ、面倒な時はそれすらしない。あんだけバシャバシャやってたらほとんど化粧も落ちるもんだ。お直しというより初めからやり直しだ。
鼻歌交じりにトイレを出る。会場に戻ろうとしたらパラパラと人が移動していて、会場内をのぞいたらほとんど人がいなくなっている。あまりに長いこと洗面所でバシャバシャやっていたから、宴会時間が終わってしまったのだろう。
さっき友達になった彼女はどこに行ったんだろう。
そういえば、ゲームの話で盛り上がり過ぎて連絡先交換してない。どうしよう、心配してるかな、鞄ごと持ってきたから忘れ物はないけど。入り口でぼんやり突っ立っていると、中で会社の携帯を握った男性が声をかけてきた。会社で見たことある顔…誰だっけ?
「君は、忘れ物?」
「……そうかもしれません。」
「……いや、ごめん。君は何か忘れ物をしたの? 君、飯田のチームの子だよね?」
「はい」
「この携帯以外何もなかったよ。」
「みんなはどこへ?」
「外に出てるよ。多分、二次会行く人はもう向かってるんじゃないかな?」
ひどい、誰も私に気がついてくれなかった。彼女もトイレに声をかけにきてくれてもいいのに。帰ってしまったのか。みんな冷たい。
じんわり涙が出てきた。
「みんなに忘れられた~、私忘れものですー」
「ええ!ここで泣くの? とりあえず、外で待ってるかもしれないから、外出よう?」
「ふえええ…」
外に連れ出されたが、彼女はいなかった。
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