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幕間__SS
SS3
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最近、彼女を見かけていない。たまたま俺がこの店に来る日には来店されていないからだろうか。引っ越してしまったのだろうか。どこか近くに似たようなカフェできたとは聞いていない。コロンビアスプレモ、彼女も気に入ったかな。自宅で飲むにしてもそろそろ豆、切れるよな。
彼女を最後に見てから2ヶ月、担当エリアが変わり会えなくなると知る。
「マネージャー別の地区になるんですかー。いや、残念。」
「むしろ嬉しそうに見えるぞ。」
「いえいえ、ライバルが減るかなーっと。」
「そうかよ。」
やはり、彼女はこの2ヶ月ほどは来ていないらしい。引っ越したのか? 会員カードを作ってあったから、もしかしたら、引越し先でもここのチェーン店があれば通ってくれるかもしれない。
もしそれが、今度自分が担当するエリアだったら。
もちろん世の中そんな甘くない。やっぱり彼女には会うことはなかった。
服に撥ねたコーヒーを拭き取ろうと、ペーパーナプキンで吸い取ろうと服の生地を摘む。湿ったおしぼりで撥ねた部分をトントンと叩くように吸い取ろうとすれば、柔らかそうな胸がふるふる揺れる。
2年経ち、その間全く女を絶っていたわけじゃない。酒の席で酔った勢いとか寄って来た女とか。抱いても、ふと彼女だったらと思い出す。あの軽やかで甘いよく通る声、白い肌にさらさらと流れる濃いめの栗色の髪。どんな甘い声を聞かせてくれるんだろう。白い肌が紅潮したら綺麗だろう。汗ばんで栗色の髪がしっとり肌に貼り付く様なんか、たまらなく色っぽいだろう。
目の前にはいない別の女を思ってする行為は、生理現象の解消でしかなくなんの感慨もない。甲高い声を大仰にあげるが、汗ひとつかいてないどころか体温の上昇もない。『イック~』とか言ってるけどナカの状態は変化してない、演技だってバレバレだ。クッサい香水の匂いをプンプン振りまき、キスをせがまれるが鼻が曲がりそうで、拒んだ。もう一度と寄って来た女も素気無く断る。
元のエリアに戻って来た。彼女にはまだ会えていない。店長は変わっていた。中途半端だった喫煙席と禁煙席の仕切りは、よく磨いたガラスで完全に別室化されていた。当時はビルオーナー側から許可が下りなかった工事がされている。今は受動喫煙の問題や、煙が苦手な人が大きな声で反対を言うのに躊躇がなくなった時代だ。
彼女は喫煙者だったが、その煙は少な目で桃の香りか花の香りが微かにする、嫌な感じはない銘柄を吸っていた。綺麗なタバコケースに入れていたので銘柄はわからない。
土曜の夜、開店したばかりの当時と違い客足も落ち着いていて、この時間は空いている。書類仕事のため隅の席に陣取ると、ふと聞き覚えのある声が聞こえる。
目をあげると、彼女がいた。
楽しげな表情で後ろにいた男性に振り返る。話をする。
なんだ、そう言うことか。
ため息をついて書類に取りかかろうとするが、気になって見てしまう。
姿勢が悪い。おどおどびくびくと頼りない感じの男だ。彼女は慈愛の目で諭すように何かを話しかけている。恋人じゃなくて部下とか後輩とか? いや、手を繋いでる、指を絡めて…クソッ
無性に腹立たしく感じた。男の方が背が高いのにもかかわらず下から覗き込むような視線、相手の出方を怯えて窺っているような、自信無げに見える。彼女の返事を聞き、途端にドヤ顔になる。
さらに腹立たしい。なんなんだ、アイツ。なんで彼女はヤツを選んだ? そんなため息ついて趣味の悪い指輪なんか眺めてないで。彼女には申し訳ないが、早く別れちまえ、そう思った。
彼女を最後に見てから2ヶ月、担当エリアが変わり会えなくなると知る。
「マネージャー別の地区になるんですかー。いや、残念。」
「むしろ嬉しそうに見えるぞ。」
「いえいえ、ライバルが減るかなーっと。」
「そうかよ。」
やはり、彼女はこの2ヶ月ほどは来ていないらしい。引っ越したのか? 会員カードを作ってあったから、もしかしたら、引越し先でもここのチェーン店があれば通ってくれるかもしれない。
もしそれが、今度自分が担当するエリアだったら。
もちろん世の中そんな甘くない。やっぱり彼女には会うことはなかった。
服に撥ねたコーヒーを拭き取ろうと、ペーパーナプキンで吸い取ろうと服の生地を摘む。湿ったおしぼりで撥ねた部分をトントンと叩くように吸い取ろうとすれば、柔らかそうな胸がふるふる揺れる。
2年経ち、その間全く女を絶っていたわけじゃない。酒の席で酔った勢いとか寄って来た女とか。抱いても、ふと彼女だったらと思い出す。あの軽やかで甘いよく通る声、白い肌にさらさらと流れる濃いめの栗色の髪。どんな甘い声を聞かせてくれるんだろう。白い肌が紅潮したら綺麗だろう。汗ばんで栗色の髪がしっとり肌に貼り付く様なんか、たまらなく色っぽいだろう。
目の前にはいない別の女を思ってする行為は、生理現象の解消でしかなくなんの感慨もない。甲高い声を大仰にあげるが、汗ひとつかいてないどころか体温の上昇もない。『イック~』とか言ってるけどナカの状態は変化してない、演技だってバレバレだ。クッサい香水の匂いをプンプン振りまき、キスをせがまれるが鼻が曲がりそうで、拒んだ。もう一度と寄って来た女も素気無く断る。
元のエリアに戻って来た。彼女にはまだ会えていない。店長は変わっていた。中途半端だった喫煙席と禁煙席の仕切りは、よく磨いたガラスで完全に別室化されていた。当時はビルオーナー側から許可が下りなかった工事がされている。今は受動喫煙の問題や、煙が苦手な人が大きな声で反対を言うのに躊躇がなくなった時代だ。
彼女は喫煙者だったが、その煙は少な目で桃の香りか花の香りが微かにする、嫌な感じはない銘柄を吸っていた。綺麗なタバコケースに入れていたので銘柄はわからない。
土曜の夜、開店したばかりの当時と違い客足も落ち着いていて、この時間は空いている。書類仕事のため隅の席に陣取ると、ふと聞き覚えのある声が聞こえる。
目をあげると、彼女がいた。
楽しげな表情で後ろにいた男性に振り返る。話をする。
なんだ、そう言うことか。
ため息をついて書類に取りかかろうとするが、気になって見てしまう。
姿勢が悪い。おどおどびくびくと頼りない感じの男だ。彼女は慈愛の目で諭すように何かを話しかけている。恋人じゃなくて部下とか後輩とか? いや、手を繋いでる、指を絡めて…クソッ
無性に腹立たしく感じた。男の方が背が高いのにもかかわらず下から覗き込むような視線、相手の出方を怯えて窺っているような、自信無げに見える。彼女の返事を聞き、途端にドヤ顔になる。
さらに腹立たしい。なんなんだ、アイツ。なんで彼女はヤツを選んだ? そんなため息ついて趣味の悪い指輪なんか眺めてないで。彼女には申し訳ないが、早く別れちまえ、そう思った。
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