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幕間__SS
SS
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本日のオススメを見て、彼女があっという表情をした。
店内カウンターを何かを探すようにキョロキョロとしてる。目的のものを見つけると、嬉しそうに手を伸ばす。
コロンビアスプレモ、柔らかな苦味と酸味、コクと甘みがありバランスの良い味わいの銘柄だ。
ふと、手にしたと思ったら彼女が手を引っ込め、しげしげと自分の指先を眺める。
指先をスリスリと擦り合わせ、眉をしかめる。
反対の手で、挽いていない豆の方の袋をとる。
レジカウンターに並びながら、喫煙席の方を眺め焼き菓子を1つ手に取る。
「こちらは挽きますか?」
「いいえ、豆のままでいいです。あと、店内でこれと、本日のコーヒーMサイズでお願いします。」
店内で一服するとわかる。
豆のまま、ということは自宅に豆を挽くグラインダーかミルを持っているんだろう。豆の銘柄を知っているだけのことはある。
彼女が指先を眺めたのが気になる。
一度手に取り、戻した品を見る。少しべたついている。
「店長」
「はい。なんでしょう?」
「掃除、甘くない? あそこ。」
「え? あ、粉溢れてますね。申し訳ありません。」
「俺に謝るなよ。掃除。あと、これベタついてる。シーラーかグラインダー確認して、必要ならすぐメンテナンス呼んで。」
店長にベタついた豆の袋を渡し、書類とノートパソコンを持って空いている客席の隅に陣取り書類仕事をする。
ふと、喫煙席の方を見ると、彼女がタバコケースから1本タバコを取り出し、火をつけようとし、灰皿にタバコを置く。コーヒーカップを持ち上げ、クンクンとしてキョトンとした表情を浮かべる。購入した豆の袋を持ち上げ、鼻を近づける。にこーっと笑う。
ああ、カップに注がれた状態のコーヒーはそこまで香らない。一番香るのは豆を挽いたとき、焙煎した豆を冷ますのに広げるとき。焙煎機からザラザラーっと豆が出てくるときの、あの香りをかがせてあげたいな。どんな表情を見せてくれるんだろう。
思わず自分の口元が緩んでいるのに気がつき、慌てて気を引き締め、書類仕事に取り組んだ。
土曜日13:30、平日より遅めのランチのピークが来る。今日は近所で結婚式か葬式があるのか、華やかな装いの団体と喪服の団体に占拠されていた。
その団体の来店と退店の隙間を縫うようなタイミングで例の彼女がやって来た。喪服の団体を見て一瞬ギョッとした様子だったが、喫煙席が空いてるのを確認し、ハンカチと一冊の本を席に置いて、カウンターにやって来た。
団体が立った席のテーブルを布巾で掃除し、戻って来た店長が俺に声をかける。
「彼女、良いタイミングで来ましたね。ちょうど席が空いて良かった。」
店長の口もとが少し緩んでる。見たことのない目をしていた。
彼女に目をつけていたのは自分だけじゃないと知る。しかし、客に手を出すわけにはいかない。
「店長、なんであそこ、ブラインド上がってるの? 眩しいし暑いだろう。」
「あー、さっき団体客の一人が上げちゃったんですよ。あの辺り彼らの仲間うちしかいなかったから。」
「もう帰ったから下げとくか。」
仕事するふりをして彼女に近づく。
嬉しそうにサンドウィッチを頬張っている。透明な尻尾がパッタパッタと揺れているのが見えた。小さな口でパクリと食いつく。顎も細いし、顎関節症? 大きく口を開けられないのかな、と思いつく。ああ、エビが落ちそう。
ぽちゃん
「あ!」
案の定、エビがサンドウィッチから抜け落ち、コーヒーカップに落ちた。
瞬間を目撃してしまった。愕然とした表情を浮かべている。
もうダメだ、可愛い。
ぷっ
思わず吹き出した。
店内カウンターを何かを探すようにキョロキョロとしてる。目的のものを見つけると、嬉しそうに手を伸ばす。
コロンビアスプレモ、柔らかな苦味と酸味、コクと甘みがありバランスの良い味わいの銘柄だ。
ふと、手にしたと思ったら彼女が手を引っ込め、しげしげと自分の指先を眺める。
指先をスリスリと擦り合わせ、眉をしかめる。
反対の手で、挽いていない豆の方の袋をとる。
レジカウンターに並びながら、喫煙席の方を眺め焼き菓子を1つ手に取る。
「こちらは挽きますか?」
「いいえ、豆のままでいいです。あと、店内でこれと、本日のコーヒーMサイズでお願いします。」
店内で一服するとわかる。
豆のまま、ということは自宅に豆を挽くグラインダーかミルを持っているんだろう。豆の銘柄を知っているだけのことはある。
彼女が指先を眺めたのが気になる。
一度手に取り、戻した品を見る。少しべたついている。
「店長」
「はい。なんでしょう?」
「掃除、甘くない? あそこ。」
「え? あ、粉溢れてますね。申し訳ありません。」
「俺に謝るなよ。掃除。あと、これベタついてる。シーラーかグラインダー確認して、必要ならすぐメンテナンス呼んで。」
店長にベタついた豆の袋を渡し、書類とノートパソコンを持って空いている客席の隅に陣取り書類仕事をする。
ふと、喫煙席の方を見ると、彼女がタバコケースから1本タバコを取り出し、火をつけようとし、灰皿にタバコを置く。コーヒーカップを持ち上げ、クンクンとしてキョトンとした表情を浮かべる。購入した豆の袋を持ち上げ、鼻を近づける。にこーっと笑う。
ああ、カップに注がれた状態のコーヒーはそこまで香らない。一番香るのは豆を挽いたとき、焙煎した豆を冷ますのに広げるとき。焙煎機からザラザラーっと豆が出てくるときの、あの香りをかがせてあげたいな。どんな表情を見せてくれるんだろう。
思わず自分の口元が緩んでいるのに気がつき、慌てて気を引き締め、書類仕事に取り組んだ。
土曜日13:30、平日より遅めのランチのピークが来る。今日は近所で結婚式か葬式があるのか、華やかな装いの団体と喪服の団体に占拠されていた。
その団体の来店と退店の隙間を縫うようなタイミングで例の彼女がやって来た。喪服の団体を見て一瞬ギョッとした様子だったが、喫煙席が空いてるのを確認し、ハンカチと一冊の本を席に置いて、カウンターにやって来た。
団体が立った席のテーブルを布巾で掃除し、戻って来た店長が俺に声をかける。
「彼女、良いタイミングで来ましたね。ちょうど席が空いて良かった。」
店長の口もとが少し緩んでる。見たことのない目をしていた。
彼女に目をつけていたのは自分だけじゃないと知る。しかし、客に手を出すわけにはいかない。
「店長、なんであそこ、ブラインド上がってるの? 眩しいし暑いだろう。」
「あー、さっき団体客の一人が上げちゃったんですよ。あの辺り彼らの仲間うちしかいなかったから。」
「もう帰ったから下げとくか。」
仕事するふりをして彼女に近づく。
嬉しそうにサンドウィッチを頬張っている。透明な尻尾がパッタパッタと揺れているのが見えた。小さな口でパクリと食いつく。顎も細いし、顎関節症? 大きく口を開けられないのかな、と思いつく。ああ、エビが落ちそう。
ぽちゃん
「あ!」
案の定、エビがサンドウィッチから抜け落ち、コーヒーカップに落ちた。
瞬間を目撃してしまった。愕然とした表情を浮かべている。
もうダメだ、可愛い。
ぷっ
思わず吹き出した。
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