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しおりを挟む明るい部屋で目が覚めた。人の気配、体温、自分の体臭ではない嗅ぎ慣れないいつもの石鹸とは違うボディソープの香りと男性的な汗の匂い、大きな体。柔らかな温もりに包まれていて心地好い。頬を、髪を撫でる掌の感触が気持ちいい。
「翠、酷いよ。俺に付き合うって言っておきながら寝ちゃうなんて」
「あ、…」
ゆっくりと柔らかな低い声が落ちてくる。そうっと目線を上げると竜一さんの顔がある。そっと脚の間に竜一さんの逞しい脚が割り込んでくる。私の脚を割り開くと手が伸びてくる。この後どうされるか、昨夜しっかり体は覚えてしまった。
昨夜、散々この人にイカされ続けたことを思い出す。2度目強烈なのをもらい、落ちて、その後、もう一度竜一さんに組み敷かれたのは辛うじて覚えている。組み敷かれたというか、竜一さんの上に乗せられ跨がされた。腰を掴まれ押さえつけられ下から突き上げられ、奥を攻められた。でも必死すぎて何度も名前を呼んで、そのうちもっととか、イカせてとか、なんか口走った気がする。
で、これは?まだ続き?そんなまさか、いや、眠った感覚がある。なら朝の再戦? っていうか、どこまで付き合えばいいのよっ!
「翠、お仕置き」
いつのまにか正面に回った竜一さんがヌプッとゆっくりと入ってくる。
「ぁあ……っん、りゅ、う、いちさん!…ああっ」
「何、翠? 挿れただけでそんな声出して」
気持ち良すぎる!昨日の感覚がまた一気に蘇る。
「はっ…ぁう……っン」
「ああ、やっぱり翠のナカ、気持ち良い。」
竜一さんがとろけそうな表情を見せる。私のナカも勝手に蠢き、蜜を溢れさせ、彼に吸い付く。彼が優しい表情で私を覗き込み、腰を引き寄せ、下から手前のあたりを突き上げる。私への気遣いや仕草、表情の優しさとは裏腹に私を追い詰めることには容赦がない。
淡々と突き上げられ、でも私の全身はザワザワと粟立ち始め、どんどん昇っていく。不意に彼が悪戯ぽい笑みを浮かべると、ギュッと花芽を押し潰した。瞬間、私は声を上げ一気に快楽の頂上へ押し上げられた。外でイカされ、ナカのいいところを突かれてはイカされ、全身ガクガク痙攣して、意識も朦朧とし息も絶え絶えなのに、太腿を押し上げられたと思ったら休む間も無く、容赦無く奥を攻められた。昨夜の激流を再現され、私の体はすっかり竜一さんを覚えてしまったらしく、あっという間に私はまた最奥でもイカされた。私は今、きっと、真夏の道端に落ちたアイスのように、全身ドロドロに溶けている。放心し全身痙攣してて、なのに奥への攻めは続いている。竜一さんの声が聞こえても、耳から甘い痺れに変わるだけ。
「翠、俺のものになれ、もっと最高の、教えてやる。」
最奥へ切っ先が擦り付けられ、腰骨の髄を伝って全身へ痺れが巡り、脳を突き破る、また意識が遠のきかけたところで切羽詰まった声が聞こえる。
「翠、くっ…出すぞ、ちゃんと感じろよ!……・・・!」
ズンッと一際彼が大きくなりナカを圧し拡げられる感じがし、ジワと熱が伝わる。先程までとは比にならない強烈な快感に全身襲われ、駆け巡り、意識が途切れた。
最奥に切っ先を押し当てビュルルッと思い切り噴き付けた。翠がぶるぶる震え全身を硬直させ、フッと脱力し激しく痙攣し気を失ってしまった。
「翠…」
気を失った翠に、更に数度腰を打ち付け出し切り、そのまま彼女の上に倒れこみ抱きしめる。思いがけず手に入れた彼女は最高に愛おしい。彼女のナカは一滴も逃さず搾り取るかのように根元から先端に向って締め上げ、キュゥーッと奥が吸いついてきた。
「すげぇ、コレやば……」
彼女のナカの収縮がおさまると、押し出された。一緒にナカに放ったものも溢れ出た。
「翠…、……」
再び目が覚めると、バスルームからザアザアと水音が聞こえていた。視線を巡らし周りを見る。何時だろう。人の気配を感じてそちらに頭を向ける。振り返るだけでも『よっこらしょ』と言いたくなるくらい重くて大変。
ピタリと、冷たいペットボトルを頬に押し当てられた。
「水、飲む?」
起き上がろうとしたけど、ミシミシいうだけでうまく力が入らない。全身筋肉痛?激しい行為の翌日体が動かなくなるっていうけど、本当なんだ。思わず涙目で竜一さんを見る。バスローブを羽織っている。
「ああ、ごめん。ほら、捕まって」
捕まってと言われても、捕まるだけの力もないし腕が上がらない。上半身を起こしてもらい竜一さんに寄りかかる。ペットボトルの蓋を開けて渡される。老人のようにプルプルしながらボトルを持とうとするがズルっと落としそうになり、支えてもらいながら水を飲む。介護されている老人になってしまったようだ。充分飲んで、落ち着くと少し頭が冴える。支えてくれるたくましさが安心感があり気持ち良い。
「お湯、もうすぐ溜まるけど、入る?」
うん、とうなずく。でもバスルームまで歩けないや、と思ったら肩と膝の下に腕を入れられ、運んでくれるとわかった。持ち上げられる瞬間、すっと息を吸い重心を上に上げる。ひょいと持ち上げられ、また竜一さんが目を丸くする。
「え?なんで?」
「ふふ、錯覚だよ。一歩歩けば重くなるよ。」
「…ああ、良かった。現実だ、ちゃんと重みある……溺れるなよ。」
バスチェアに座らせると去ってしまった。
ザーザーとシャワーに打たれながら、昨夜を思い出す。昨夜初めて会った人なのに、濃厚過ぎる時間を過ごしたせいで初対面に感じない。恋人と勘違いしてしまった。昨夜はそうして、と頼んだ。でも今朝、もう名前を呼んでくれない。
あ、違う、朝改めて抱かれ名前をたくさん呼んでくれた。朝だけで何度もイカされ、昨夜一晩かけたのと同じくらい強烈に気持ちよかった。官能小説の主人公みたいにこんな体験をするとは思わなかった。
あ!あれ? 出すぞって言ってなかった? え? 昨夜彼はイクときなんて言ってた? キュンと子宮が締め付けられるような感覚に襲われる。ゴムをつけなかっただけでなく中で出された!とか私から誘っておきながらバカなことを言うつもりはない。相手任せにせず、自分の身は自分で守れば良い、それだけだ。
シャワーを止め、髪を洗い、バスリリーにたっぷり泡を作り身体を洗う。指先を清めて、そっとナカに入れ探る。散々イカされた後だから、全体がまだ柔らかい。掻き出せたのかわからないけど、シャワーでしっかり洗い流し、ヨレヨレしながら湯槽に沈み込んだ。
ぼーっとしながら湯槽の横の壁のパネルをいじる。パッと照明が消え、暗くなる。もう一度スイッチを押すと湯槽の中がカラフルに光りだす。意味がわからない。更にもう一度押すと照明が戻る。
別のスイッチを押すと、液晶にテレビ番組が流れ出す。画面右上の時刻表示で8時過ぎと分かり、テレビを消す。
パネルの他のスイッチを押すと、ゴゴゴッと音がしジェットバスのスイッチとわかる。疲れを癒すのにちょうどいいかもと思い噴出されるのを待った。
が、思ったより水流が強く、くすぐったくて身をよじったら、お尻がつるりと滑り、更に水流に押されドプンと湯槽に沈んでしまった。
ウッソ!と思って起き上がろうとするが、体にうまく力が入らない上に水流が強い。本気でまずいとぞっとしたら、ぐいっと水面に引き揚げられジェットバスのスイッチを止められた。
「何やってんの!? 本当に溺れるなよ!」
助かったと思い、はぁはぁ息を吐いていると、顔に張り付いた髪を撫で付けてくれる。
「…くすぐったくて、身をよじったら水流に押されて滑って、そのまま勢いに押されて倒されて潜っちゃった……」
涙目になって、真剣に恐怖を訴えれば、一瞬シンとし、直後に吹き出され思い切り笑われた。
「ぶはっ……ジェットバスで溺れる人間、初めて見たわ!……っ!」
肩を震わせながらシャワーの前に行き、コックをひねると、シャワーを浴び出した。一緒に入るつもりなのか。私はまだゆっくりお湯で体をほぐしていたい。湯槽が広すぎて私には合わない。身体の大きな人なら、浴槽にゆったりと体を横たえるのにちょうどいい傾斜なのだろうが、身体の小さな私には座り心地の悪い滑り台だ。足の突っ張り、腹筋の緊張を解くと、つるーっと水中に潜り込んでしまうので、洗い場に背を向けるように長短逆で体を凭せ掛け、目をつぶった。
シャワーの音が止み、竜一さんが湯槽の横に立つのがわかった。
「真ん中にズレて」
頭を起こし、素直に言われた通りにする。私が寄りかかっていた側に、竜一さんが入り込む。思わず超ドアップで見てしまい、ギョッとして反対を見れば、あちら側は蛇口と排水口で座り心地は悪そうだ。
勢いよくお湯が溢れ出るのもかまわず、竜一さんが両脚の間に私を納め、湯槽に座り込み背後から私をそっと抱き締める。
「大洪水…」
「昨夜の翠みたい」
「え!!大袈裟な!」
思わず振り向いて抗議しようとしたら、肩と首すじの間辺りに歯型を見つけた。
「え、コレ、私?」
そっと指先でなぞる。もしイクときなら、本気で食いちぎるくらい、歯を食いしばってたはず。
顔を見上げれば、セットされていた髪は洗いざらしでまっすぐで、昨夜見上げた時より更に若く見える。なのに、悪戯っぽくニッと笑う。
「名誉の負傷、覚えてない? 直ぐアンアン言い出したから、噛み付いたの一瞬だけど。」
「……ごめんなさい。」
全く覚えてない。三回戦目だろうか。二回戦目、奥で激しくイカされ、多分竜一さんも果てた。気が付いたら三回戦目が始まってて……
「気持ちよかったんだろ?」
「多分…」
「え!よくなかった?」
「え!そうじゃなくて、あの、必死すぎて、多分、噛んでしまった時のは殆ど覚えてないです。」
「なら、再現する?」
「ええ!? もう無理です!時間切れです!」
「わかってるよ。翠、良かった。俺もすげぇ気持ち良かった。」
名前を呼ばれた。それだけでキュンとする。ちょっとだけ私を抱きしめる竜一さんの腕に力が入った。恋人のフリは昨夜だけ、今朝ちょっと延長しちゃったけど。だから、今は、なんと言うんだろう、こんな関係。
戦友、そんな感じだ。昨夜三回戦交え、今朝も再戦したし、戦友、うまいこと考えついたもんだ。オヤジか私は。
風呂から上がり、全身筋肉痛でミシミシ言うけど、自力でなんとか動ける。でもドライヤーを持っていられなくて髪は乾かしてもらった。服を着て簡単なメイクを済ます。言葉にすれば簡単だけど、体が動かずあり得ないほどノロノロ時間がかかった。
彼はその間、私の分もコーヒーを淹れのんびりテレビを観てる。
私の身支度が済む頃、チェックアウトの時間になってしまう。内装と部屋の備品の記名で気が付いていたが、ホテルを出るとやっぱりそこは、下手なシティホテルよりずっと高級な、リゾートホテル風の所だった。かつて恋人と一度来てみたかったところだ。
私から誘っておきながら、全部出させるのはあんまりだろうと、支払いを申し出たが、もう充分貰ったと言われタクシーに押し込まれた。
バーのあった駅名を言い、そっち向かってくださいとドアを閉められてしまった。
彼はニコニコして手を振っている。タクシーが走り出してしまった。私は諦めて、掛かり付け医のいる駅名を言い、行き先変更をお願いした。
家に帰り、ベッドに横になる。昨夜あまり寝てないのと、全身筋肉痛と、副作用は殆どないはずの薬のプラセボ効果でよく寝た。目が覚めたら薄暗く外も静かで、明け方なのか夕方なのかわからず混乱した。遠くで子供達の声が聞こえ、夕方とわかる。朝から何も食べていないことに気付くが食べたくなくて、大量にはちみつレモンを作り、グビグビ飲む。朝よりは身体の動きもマシになってる。
改めて昨夜からの事を思い返した。
ヤケになっていた。思い切って入ったバーで知り合った彼は当たりだった、大当たり。見つめた瞬間、嫌な感じがない、吸い込まれるような気さえした。私の人に対する直感は外れたことがない、付いて行って大丈夫だろうと思ったら、予想以上だった。歩く速度に、段差の前で注意を促してくれたり、すれ違う人からさり気なく庇ってくれたり。肌を重ねればどうしてそれだと知ってるの? と言いたくなるくらい、気持ちよくされあっさり何度もイカされた。
本来なら愛情を確かめ合う行為、コミュニケーションだったり、快楽を求め合う行為だったりするものが、私にはストレスと不満を募らせる行為でしかなかったから、私は憧れていた。ナカでイクのって、クリでイクより気持ち良いっていうし、それより奥はもっと凄いらしい、一度くらい体験してみたいものだ、まあ、私は経験値低すぎてたどり着けそうに無いし、相手もないし。と諦めて考えていたら、見透かすように網羅、完遂された。
竜一さんはただ私の肉欲を満たすだけでなく、心まで満たしてくれた。端々の仕草に私を気遣う優しさが見え、本当の恋人より恋人らしく、何気ない仕草を優しさと愛情と勘違いした。
あんな風にされたら、落ちない女はいないだろう。ああ、きっと私みたいな女は私だけでないだろう。一夜だけなんて、また会いたい。抱きしめて頭を撫でてもらいたい。なら、体だけの割り切った関係? それなら今後も何度も会える。でも彼は昨夜だけのつもりだっただろう。しかも、もう連絡先すらわからない。胸がギュッとなり、涙がにじむ。これって恋をするのとどう違うのだろう。男は一度で去る場合が多く、女は一度で落ちる場合が多いって典型だ。
過ぎた時間は戻らない。自分で決めたことだ。
翌日、昼過ぎに起きた。昨日あんなに眠ったのに、また昼過ぎまで眠っていた。自分の体がどうかしている。顔を洗い洗面台の鏡に映ったすっぴんの顔は、目の下にクマ、頬はこけ肌はくすみ、老けたとしみじみ思った。竜一さんはこんな女になぜ引っかかってくれたんだろう、私ってそんなにメイク上手だったっけ? 試しに一昨日のメイクを再現する。下地にリキッドファンデ、コンシーラーにフェイスパウダー、淡くアイカラーを載せ眉を足しマスカラを塗る。チークをふわり、唇の縦じわのごまかしにマキシリップを塗る。最後にハイライトにもなる、お気に入りジバンシイのフェイスパウダーをひとはけ。
腕はなくても、優秀なメイク用品に助けられ、くすみと血色の悪さはごまかせる。頑固なクマはコンシーラーでももはや隠しきれない。薄暗いバーやホテルの部屋なら気がつかれなかっただろう。でも朝の明るい部屋で、お風呂で、私の顔を見てきっと彼は後悔したのでは? 何がまた会いたいだ、彼はもう会いたくないだろう。
ははは、と乾いた笑いを漏らし、髪をまとめ前髪をピンで留め、メイクを落としもう一度顔を洗い、ベッドに突っ伏した。肝心なことはいつも後から気づく。
竜一さんとの行為を思い出し、正直、今までの恋人はヘッタクソと思った。どこで仕入れたのか、全く気持ちよくもないテクニックらしきものを披露して、男は得意になっていたり、私もそんなもんなんだと思ってた。男性向けAVの情報を鵜呑みにする男もバカだけど、でも女優さんたちのように反応できない私は不感症なのかもと、悲しくなった私も私だ。
恋人と別れしばらくしてから女性向け情報や商品を扱っているウェブショップのコラムで、女性は初めから中では感じられない、自分でどこがいいか確かめて知り、イク練習が必要だと書かれているのを読み衝撃を受けた。そもそも中イキできる女性は1~3割だと知って、TLもレディコミも所詮ファンタジーだと知った。
でも、どうなら良いのか知らず、言えない、伝えられない、知ろうとしない。そもそも自分自身を知るということに思い到らなかった私にはどうすることもできなかった。相手だけに求めて、自分で何もしていなかったなら、一方通行だ。キャッチボールじゃなくてドッヂボールだ。
コミュニケーションだとは上っ面だけで知ってるつもりになって、求め合い与え合うことができなかった、求めるだけで、相手から求められるものに応えることも、自分から与えることもできていなかった、しようとしていなかったとわかった。
それはもちろん平時においても言えることだ。竜一さんの手を引く力の優しさを思い出し、どっと涙が溢れた。
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