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13章 見える
07 リュー・メレディス
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「さて、リュー・メレディスのご友人にあたるにあたって、まだ彼について分からないことがあります。それは彼のご職業です」
「私は仕事部屋に入ることを許されていないので、彼がこの部屋でどんなことをしていたかまでは知らないんです。でも、一度だけ入ってしまったことがあるの。それは私が彼の部屋に飲み物を持って行った時に図面のようなものを見たんです。それは何かの建物のようだった気がします。しかし、彼は怒りました。そんな気遣いはいらない! とにかく邪魔をしないでくれ。集中したいんだ! 君は約束を守っていればいいんだ! と。その時の彼の様子は今でも覚えています。とても怖かったわ。でも、それは私が悪かったの。だから、彼を責めることは出来ないわ。彼は最初に会った時、建築関係の仕事をしていると言っていたわ。多分、図面は彼の仕事に関係するんじゃないかしら。設計士なら部屋で仕事も出来るでしょうし。彼がパリに来たのもパリの大規模な都市開発に興味を持ったからだって言っていたわ」
「他に何か仰ってませんでしたか?」
「いいえ?」
「彼のご友人はどうですか?」
「彼の友達もアメリカ人で、ただフランス語はいまいちでしたね。その友人から仕事の話しは一切ありませんでした」
すると、刑事が咳払いをした。
「設計士がフランスの建築に興味を持つのは分かる。しかし、この部屋を捜査した時、あなたが見たという図面はこの部屋からは出ていない」
「そんなことを言われても私には分かりません」
「確かに、本棚を見る限り建築関係の本は見当たりません。モラーヌさんの仰る通りならこの本棚にはフランスの建築関係の本がある筈でしょう」
「私、嘘はついてません!」
「ええ、そうでしょう。そんな嘘にどんな意味があるのか? それを考えるよりも、リュー・メレディスがあなたに嘘をついたと考える方が納得いくと思います」
「どうして彼が私に嘘を?」
「それはまだ分かりません。しかし、あり得なくはないでしょう。あなたをこの部屋に近づけないのは仕事熱心な彼の性格上と考えられますが、別の考えでは彼に秘密があってそれを知られたくない為にあなたをこの部屋に近づけさせないようにした。だから、もの凄く彼はあなたに叱ったんではありませんか? だとすれば辻褄は合います」
すると、刑事はため息をもらした。
「全く二人揃って秘密事とは」
「おや? 刑事さんも私に秘密事をしたじゃありませんか」
「何を言っている。今こうして君に協力してるじゃないか!」
「それが協力的な態度でしょうか? 失礼ですが、引き出しの中にあったものを私が質問するまで黙っているつもりだったのでは? そして、その中には重要なもの、そう、例えば手紙が入っていた」
「なら、言わせてもらうが君は彼女を信用しているようだが、それは君にとって依頼人だからではないのか? 捜査は公平でなければならない」
「ええ、私はいつだって公平の立場です。犯人をただ捕まえたい。それはあなたと同じ目的の筈ですよ? ただ、私には私のやり方があり、警察のやり方とは違う」
「どうやらそのようだ。そして、経験者から言わせてもらえば、君のやり方は正しいとは言えない。捜査において基本は初動捜査だ。それによって事件の捜査状況は大きく変わる。しかし、探偵はどうだ。突然現れ、現場を見て知った顔をする。私から言わせてもらえば、捜査はやはり警察が行うべきだ」
すると、マーニーは遂に痺れを切らし「いい加減にしてよ!」と吠えた。
「私達は犯人逮捕に集中すべきなのに、なんでこんな殺人現場で言い合ってるの!」
そう言われた刑事は少し反省した顔になりながらも「勿論、犯人逮捕は当然だ。我々は最初からそのように全力を尽くしている」と苦しい言い訳をした。
「本当に?」とマーニーは問い詰める。
「なら、素直に情報提供しなさい。確かに、探偵は依頼を受けてからでは警察と比べ事件に関わるのが遅れるわ。でも、初動捜査こそ警察が行っているのなら、その情報を此方に流せば、私達は支障なく犯人の手掛かりを追える。勿論、分かったことは逐一あなた達にも伝えるわ。だから、そちらもよ」
「分かりました。しかし、手紙の件は本当に今はないので署に来て下さい。そこでお見せします」
「分かりました」
それから全員が書斎を出た。
マーニーとジークは最後に出た。
「あなたとあの刑事では相性最悪ね」
「どうやらホランド警部のようにはいかないようだ」
「あの刑事は私に任せて」
「ええ、お願いします」
「それで、どうなの? 今の話しで何か分かった?」
「リュー・メレディスには秘密があった。しかし、書斎からはモラーヌが見たという図面が無くなっているのが気になります。ただ、それはメレディスがどこかに持ち出したかもしれませんし、犯人が持ち出した可能性もあり得なくはないんでしょうが、あの部屋からは彼の仕事が判明するようなものは見当たりませんでした。仕事部屋と言う割にはですよ。となれば、彼はあの部屋で別のことをしていたと考えられるでしょう。それは図面が必要なものです。ですが、それだけではまだ何もつかめないでしょう」
「なら、情報収集ね」
「私は仕事部屋に入ることを許されていないので、彼がこの部屋でどんなことをしていたかまでは知らないんです。でも、一度だけ入ってしまったことがあるの。それは私が彼の部屋に飲み物を持って行った時に図面のようなものを見たんです。それは何かの建物のようだった気がします。しかし、彼は怒りました。そんな気遣いはいらない! とにかく邪魔をしないでくれ。集中したいんだ! 君は約束を守っていればいいんだ! と。その時の彼の様子は今でも覚えています。とても怖かったわ。でも、それは私が悪かったの。だから、彼を責めることは出来ないわ。彼は最初に会った時、建築関係の仕事をしていると言っていたわ。多分、図面は彼の仕事に関係するんじゃないかしら。設計士なら部屋で仕事も出来るでしょうし。彼がパリに来たのもパリの大規模な都市開発に興味を持ったからだって言っていたわ」
「他に何か仰ってませんでしたか?」
「いいえ?」
「彼のご友人はどうですか?」
「彼の友達もアメリカ人で、ただフランス語はいまいちでしたね。その友人から仕事の話しは一切ありませんでした」
すると、刑事が咳払いをした。
「設計士がフランスの建築に興味を持つのは分かる。しかし、この部屋を捜査した時、あなたが見たという図面はこの部屋からは出ていない」
「そんなことを言われても私には分かりません」
「確かに、本棚を見る限り建築関係の本は見当たりません。モラーヌさんの仰る通りならこの本棚にはフランスの建築関係の本がある筈でしょう」
「私、嘘はついてません!」
「ええ、そうでしょう。そんな嘘にどんな意味があるのか? それを考えるよりも、リュー・メレディスがあなたに嘘をついたと考える方が納得いくと思います」
「どうして彼が私に嘘を?」
「それはまだ分かりません。しかし、あり得なくはないでしょう。あなたをこの部屋に近づけないのは仕事熱心な彼の性格上と考えられますが、別の考えでは彼に秘密があってそれを知られたくない為にあなたをこの部屋に近づけさせないようにした。だから、もの凄く彼はあなたに叱ったんではありませんか? だとすれば辻褄は合います」
すると、刑事はため息をもらした。
「全く二人揃って秘密事とは」
「おや? 刑事さんも私に秘密事をしたじゃありませんか」
「何を言っている。今こうして君に協力してるじゃないか!」
「それが協力的な態度でしょうか? 失礼ですが、引き出しの中にあったものを私が質問するまで黙っているつもりだったのでは? そして、その中には重要なもの、そう、例えば手紙が入っていた」
「なら、言わせてもらうが君は彼女を信用しているようだが、それは君にとって依頼人だからではないのか? 捜査は公平でなければならない」
「ええ、私はいつだって公平の立場です。犯人をただ捕まえたい。それはあなたと同じ目的の筈ですよ? ただ、私には私のやり方があり、警察のやり方とは違う」
「どうやらそのようだ。そして、経験者から言わせてもらえば、君のやり方は正しいとは言えない。捜査において基本は初動捜査だ。それによって事件の捜査状況は大きく変わる。しかし、探偵はどうだ。突然現れ、現場を見て知った顔をする。私から言わせてもらえば、捜査はやはり警察が行うべきだ」
すると、マーニーは遂に痺れを切らし「いい加減にしてよ!」と吠えた。
「私達は犯人逮捕に集中すべきなのに、なんでこんな殺人現場で言い合ってるの!」
そう言われた刑事は少し反省した顔になりながらも「勿論、犯人逮捕は当然だ。我々は最初からそのように全力を尽くしている」と苦しい言い訳をした。
「本当に?」とマーニーは問い詰める。
「なら、素直に情報提供しなさい。確かに、探偵は依頼を受けてからでは警察と比べ事件に関わるのが遅れるわ。でも、初動捜査こそ警察が行っているのなら、その情報を此方に流せば、私達は支障なく犯人の手掛かりを追える。勿論、分かったことは逐一あなた達にも伝えるわ。だから、そちらもよ」
「分かりました。しかし、手紙の件は本当に今はないので署に来て下さい。そこでお見せします」
「分かりました」
それから全員が書斎を出た。
マーニーとジークは最後に出た。
「あなたとあの刑事では相性最悪ね」
「どうやらホランド警部のようにはいかないようだ」
「あの刑事は私に任せて」
「ええ、お願いします」
「それで、どうなの? 今の話しで何か分かった?」
「リュー・メレディスには秘密があった。しかし、書斎からはモラーヌが見たという図面が無くなっているのが気になります。ただ、それはメレディスがどこかに持ち出したかもしれませんし、犯人が持ち出した可能性もあり得なくはないんでしょうが、あの部屋からは彼の仕事が判明するようなものは見当たりませんでした。仕事部屋と言う割にはですよ。となれば、彼はあの部屋で別のことをしていたと考えられるでしょう。それは図面が必要なものです。ですが、それだけではまだ何もつかめないでしょう」
「なら、情報収集ね」
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