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5章 呪いの海
08 秘密
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銃声が鳴り響いた。その後で、アーサー・トランスが崩れるようにその場に倒れ込んだ。
撃ったのは勿論少佐だった。
「おい! 何故撃った。これでは爆弾の隠し場所も分からないじゃないか」と警部は少佐に向かって言った。
「この船は捨てる」
少佐はそう言うと一人先に部屋を出て行った。
兵士は銃口を向けたまま「行け」と全員に向け言った。
銃を向けられた乗客は従うほかなく、階段をあがっていき、やがては甲板に出た。
すると、近くに船がもうニ隻あった。軍艦であり、既にボートで移動できる準備が整っていた。
少佐はジークと警部を指差しながら「この二人は私と一緒に来てもらう」と言って他の乗客とは違うボートに乗せられた。
ジークと警部に少佐の乗ったボートは皆とは違う軍艦に乗船し、船は動き出した。
暫くして、先程ジーク達が乗っていた船が爆発した。
衝撃がし、二人は燃える船を見た。
それは全く恐ろしい光景だった。
「どこへ向かっている?」と警部が少佐に訊くと、少佐は「カーソン・パロット大佐に合わせてやる」と答えた。
「何だって!?」
「今回、大佐に招待されたのはお前達二人だけだ」
「だったらあれは何だったんだ」
「それはさっきこいつが言っていた通りだ」
「どうにも分からん。何がなんだか」
「警部、少佐は裏切り者をおびき出す為にステージを用意したんです。そして、犯人にとって結果は果たせなかったですけど、少佐にとっては目的は達成されたことになるんです」
「それじゃ、俺達が招待されたのって」
「少佐ではなくカーソン・パロット元大佐が招待したからです。そう言えば少佐、カーソン・パロット氏のことを大佐と仰っていましたが、その方は既に退役されていんではないのですか?」
「あのお方は我々にとっては今も大佐なのだ」
船はとある無人島に向かっていた。どうやらそこに元大佐がいるようだ。
船は島に近づいたところで再びボートに乗り移り、そこから船着き場まで向かった。
船着き場でようやく上陸をすると、その島にも武装した兵士が何人も島を巡回していた。
「これは軍の管轄か?」と警部が呟くと少佐は「そうだ」と答えた。
船着き場から見える島の景色は船の上から見た景色と変わらず森に囲まれていた。
「島の中心に行くには一つのルートしかない。それ以外は地雷で踏み込めばバーンだ」
少佐が先頭を歩き、次にジークと警部、最後尾には武装した兵士がついた。
「この島にはいったい何があるって言うんだ」
しかし、警部の質問に少佐が答えることはなかった。
森の中に進んでいくと、白く冷たい殺風景な建物が出現した。芸術性もなく、立派な彫刻の柱があるわけでもない。つまらない建物だ。
その正面に分厚く頑丈な両扉があり、それは内側から開けられた。
現れたのは兵士だ。やはり、この島にはほとんど兵士しかいないようだ。
中に入るらしく、二人は少佐のあとへ続いた。
正面から長い通路があり、そこには両壁に大きな窓があり、部屋の様子が丸見えになっていた。
そこには緑色のライトに照らされた大型の水槽が幾つもあった。その周りには白衣を着た男女の職員が水槽の中を観察している。
「いったいアレは何だ……」
警部は自分の目で見たものを脳裏に焼き付けるかのように凝視していった。
更に奥の部屋へ入ると、そこは豪華な家具に包まれた、まるで特別な部屋となっていた。そのデスクに座っていたのはカーソン・パロット元大佐だった。
「バーソロミュー・ムーア少佐、予定より少し遅かったな」
「はっ! 申し訳御座いません」
「案内ご苦労。もう行っていいぞ」
「はっ!」
少佐はキビキビと踵を返した。
「俺達をこんな場所まで呼んで何の目的だ」
「警部、私達にこれを見せる為ですよ」
「何?」
「ここは研究施設なんでしょ? ロバート・エルフマンの。これだけの警備、流石にここまで忍び込める人はいないでしょう。それを私達にわざわざ見せたということは、脅しですか? いつでも口封じが出来るという」
元大佐は笑みを見せた。
「お前達は我々の秘密を見たわけだ。無論、ここを生きて出て行きたければ我々のことはこれ以上追わないことだ。エルフマン博士についてもだ。そこの警部が我々を嗅ぎまわっていることぐらい分かっているんだぞ!」
「殺人事件を起こしておいてよく言ってくれるぜ」
「警部、この状況はどうみても私達に不利です」
「流石、話しが早くて助かる」
警部は舌打ちした。
「それじゃ諦めろってか? 警察がみすみす事件を放り出せって?」
「どっちにしろここで死んでしまっては元も子もないですよ」
「………くそっ」
「諦めたようでなにより。それでは先程の少佐が君達の家まで届けてくれる」
「最後にいいですか?」
元大佐は「駄目だ」と言って、部下を呼んだ。
「こんな悔しいことはないぞ。目の前で殺人が行われたにも関わらず、その犯人を捕まえられないんだからな」
怒りをジークにぶつけた警部。だが、警部は決して悪くない。
甲板にはやや強い風が吹いていた。
そこに少佐が現れ二人のそばに立った。
「分かっただろ」少佐はそう言った。
それは抗うだけ無駄だという意味が込められている。
「言っとくが、あの島には簡単には行けない。地図にはないからではない。あの島に近づこうとした船は海の底から亡霊が現れ、船にいる人間全てを拐ってしまうという。その正体は人魚と言った奴もいる。とにかく、あの島に近づくことが出来るのは、あの海の航海を知る我々だけだ」
(第五章・完)
撃ったのは勿論少佐だった。
「おい! 何故撃った。これでは爆弾の隠し場所も分からないじゃないか」と警部は少佐に向かって言った。
「この船は捨てる」
少佐はそう言うと一人先に部屋を出て行った。
兵士は銃口を向けたまま「行け」と全員に向け言った。
銃を向けられた乗客は従うほかなく、階段をあがっていき、やがては甲板に出た。
すると、近くに船がもうニ隻あった。軍艦であり、既にボートで移動できる準備が整っていた。
少佐はジークと警部を指差しながら「この二人は私と一緒に来てもらう」と言って他の乗客とは違うボートに乗せられた。
ジークと警部に少佐の乗ったボートは皆とは違う軍艦に乗船し、船は動き出した。
暫くして、先程ジーク達が乗っていた船が爆発した。
衝撃がし、二人は燃える船を見た。
それは全く恐ろしい光景だった。
「どこへ向かっている?」と警部が少佐に訊くと、少佐は「カーソン・パロット大佐に合わせてやる」と答えた。
「何だって!?」
「今回、大佐に招待されたのはお前達二人だけだ」
「だったらあれは何だったんだ」
「それはさっきこいつが言っていた通りだ」
「どうにも分からん。何がなんだか」
「警部、少佐は裏切り者をおびき出す為にステージを用意したんです。そして、犯人にとって結果は果たせなかったですけど、少佐にとっては目的は達成されたことになるんです」
「それじゃ、俺達が招待されたのって」
「少佐ではなくカーソン・パロット元大佐が招待したからです。そう言えば少佐、カーソン・パロット氏のことを大佐と仰っていましたが、その方は既に退役されていんではないのですか?」
「あのお方は我々にとっては今も大佐なのだ」
船はとある無人島に向かっていた。どうやらそこに元大佐がいるようだ。
船は島に近づいたところで再びボートに乗り移り、そこから船着き場まで向かった。
船着き場でようやく上陸をすると、その島にも武装した兵士が何人も島を巡回していた。
「これは軍の管轄か?」と警部が呟くと少佐は「そうだ」と答えた。
船着き場から見える島の景色は船の上から見た景色と変わらず森に囲まれていた。
「島の中心に行くには一つのルートしかない。それ以外は地雷で踏み込めばバーンだ」
少佐が先頭を歩き、次にジークと警部、最後尾には武装した兵士がついた。
「この島にはいったい何があるって言うんだ」
しかし、警部の質問に少佐が答えることはなかった。
森の中に進んでいくと、白く冷たい殺風景な建物が出現した。芸術性もなく、立派な彫刻の柱があるわけでもない。つまらない建物だ。
その正面に分厚く頑丈な両扉があり、それは内側から開けられた。
現れたのは兵士だ。やはり、この島にはほとんど兵士しかいないようだ。
中に入るらしく、二人は少佐のあとへ続いた。
正面から長い通路があり、そこには両壁に大きな窓があり、部屋の様子が丸見えになっていた。
そこには緑色のライトに照らされた大型の水槽が幾つもあった。その周りには白衣を着た男女の職員が水槽の中を観察している。
「いったいアレは何だ……」
警部は自分の目で見たものを脳裏に焼き付けるかのように凝視していった。
更に奥の部屋へ入ると、そこは豪華な家具に包まれた、まるで特別な部屋となっていた。そのデスクに座っていたのはカーソン・パロット元大佐だった。
「バーソロミュー・ムーア少佐、予定より少し遅かったな」
「はっ! 申し訳御座いません」
「案内ご苦労。もう行っていいぞ」
「はっ!」
少佐はキビキビと踵を返した。
「俺達をこんな場所まで呼んで何の目的だ」
「警部、私達にこれを見せる為ですよ」
「何?」
「ここは研究施設なんでしょ? ロバート・エルフマンの。これだけの警備、流石にここまで忍び込める人はいないでしょう。それを私達にわざわざ見せたということは、脅しですか? いつでも口封じが出来るという」
元大佐は笑みを見せた。
「お前達は我々の秘密を見たわけだ。無論、ここを生きて出て行きたければ我々のことはこれ以上追わないことだ。エルフマン博士についてもだ。そこの警部が我々を嗅ぎまわっていることぐらい分かっているんだぞ!」
「殺人事件を起こしておいてよく言ってくれるぜ」
「警部、この状況はどうみても私達に不利です」
「流石、話しが早くて助かる」
警部は舌打ちした。
「それじゃ諦めろってか? 警察がみすみす事件を放り出せって?」
「どっちにしろここで死んでしまっては元も子もないですよ」
「………くそっ」
「諦めたようでなにより。それでは先程の少佐が君達の家まで届けてくれる」
「最後にいいですか?」
元大佐は「駄目だ」と言って、部下を呼んだ。
「こんな悔しいことはないぞ。目の前で殺人が行われたにも関わらず、その犯人を捕まえられないんだからな」
怒りをジークにぶつけた警部。だが、警部は決して悪くない。
甲板にはやや強い風が吹いていた。
そこに少佐が現れ二人のそばに立った。
「分かっただろ」少佐はそう言った。
それは抗うだけ無駄だという意味が込められている。
「言っとくが、あの島には簡単には行けない。地図にはないからではない。あの島に近づこうとした船は海の底から亡霊が現れ、船にいる人間全てを拐ってしまうという。その正体は人魚と言った奴もいる。とにかく、あの島に近づくことが出来るのは、あの海の航海を知る我々だけだ」
(第五章・完)
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