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第4章 名もなき島
06 愛のかたち
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誰もが母の子である。しかし、シェジーにとって母の顔を覚えてはいなかった。どんな顔をしているのか、写真さえあればいいのだが、それは一枚も存在しなかった。
気づけばルルーがシェジーの面倒を見ていて、ルルーが母親だった。
しかし、ルルーがシェジーを産んだわけではない。
母親というのは自分にとって特別な存在。それを時々思い出しては考え、どんな顔かを想像した。
春になり、シェジーは9歳となった。
自分には家族がいた。それは本物ではなかったけれど、絆は本物だった。
カントンで起きた混乱に巻き込まれ、小さな体は我先にと大人達に押され、気づけばアペールと一緒に離れてしまった。そのアペールとも離れてしまい、自分は一人になってしまった。
泣けば誰かが助けてくれるわけではないことは知っていた。皆、見てみぬふりで、内心なんて思おうとも、それは同情だけに留まり救われたりはしない。
海賊達に売られたのは自分を含む女性ばかりで、馬車に乗せられ大移動したのち、大きな街へと到着した。
馬車を降りれば、立派な宮殿のような建物で、沢山の絵画や高そうな花瓶には真っ赤な薔薇が飾られ、赤い高級そうな絨毯に、音楽がスピーカーから流れていた。
小太りからスーツを着た怖いおじさんや優しそうな男性など、年齢幅の広い、しかし、男性しか宮殿にはいなかった。
そこに自分達若い女性が宮殿に入った。
そこでこれから何をされるのか、それは葉巻をくわえ金色の腕時計をしたスーツの男が説明した。
ここに来るまで他の女性達が怯えてた理由がこれで納得できた。でも、具体的にはまだよく分かっていなかった。
宮殿の地下には女達の控室になっていた。
そこでは化粧に香水に派手なドレスを着た大人な女性達がいた。
その人達は自分達よりずっと前からここで働いている。
シェジーはそのお姉さん達に優しくされ、色々なことを教わった。
例えば男達がここに来る理由。
男達は欲求を満たす為にここに来ていて、女性達はその手伝いを行わされているということを。
「ここでは既婚の男性もいるのよ。優しい顔をしていても、外見で騙されては駄目」
そう言われたシェジーは気になった。何故、自分の家庭に奥さんがいながらその男はここへやって来るのか?
「ここに来る男達は愛を求めているのよ。最初は結婚しお互い愛を確認できるけど、次第に不安になってくる。そして男は他で愛を求めるようになる」
それは承認欲求だった。
「でもね、愛は求めるものではないのよ。与えるものなの。不安ならまず自分から奥さんに愛を与えるべき。ここにやってくる男達はそれを理解出来ていないのよ。愛にはいろんなものがある。でも、重要なのは相手が受け取って一番嬉しいことよ。そこに見返りを求めては駄目なの」
シェジーは不安になった。自分はどうだろうかと。母を知らず、ルルーや仲間がシェジーと仲良くしてくれた。でも、自分はどうだっただろうか。
「本物の愛は難しい。大人になってもよく分かっていない」
その目は震えていた。
その日、ある男が暴れその優しくしてくれたお姉さんはその男に殺害されてしまった。
男は直ぐに取り押さえられ、その後どうなったのか分からない。
上の階で起こったことは直ぐに地下の女性達にも伝わった。
男達は騒ぐなと言い、殺した男は無事捕まえたと言った。それで安心できるとその男達は思っていたようだ。
他のお姉さん達はシェジーに近づき「目を瞑って」と優しく話かけた。
不安だったが、そのようにした。シェジーにとって信用できる人達だからだ。
目隠しをされ、その後抱きつかれると、背中を擦ってくれた。
「あなたはここにいてはいけないわ」
それが最後に聞いた声だった。
突然の別れ。その時は分からなかった。ただ、暗闇の中、孤独と不安だけが襲った。
気づけば、シェジーは眠っていた。
起きた時には積荷の木の箱の中にいた。
目隠しを外し、手の中に封筒が入っているのに気づく。
封筒を開けると、お金が入っていた。
それから手紙が。
シェジー、あなた一人で行かせたことを許してちょうだい。でも、一緒についていくことは出来ないの。
シェジーはこれから一人になるけど、直ぐに近くの人に助けを求めなさい。ただし、信用できる人に。あなたには人を見分けるすべを教えました。私達が見てきたノウハウをあなたに伝わったと思います。それを思い出して。
お金は無駄遣いしないように。
それからシェジー、あなたを忘れないわ。無事を祈っています。
シェジーは木箱の蓋を開けた。顔を出すと、そこは初めて見る景色だった。
目の前に牛がいて、モーと鳴いている。
近くではニワトリの鳴き声が聞こえた。
コケコッコー!
「え? ここはどこ?」
木箱から身を乗り出し脱出すると、そこに一人の作業服を着た若い女性が現れた。ルルーよりやや歳上といった感じだ。
「あら大変!?」
女性はシェジーを見て驚いた。
シェジーにとって、新たな出会いだ。
運命の歯車は回りだす。どこでどんな出会いが待っているのか想像出来ない。
シェジーはこれからも沢山と出会うだろう。そこで色んな話を聞き、色々目で見て経験するだろう。
それが彼女の成長物語であり、これは始まりに過ぎない。
気づけばルルーがシェジーの面倒を見ていて、ルルーが母親だった。
しかし、ルルーがシェジーを産んだわけではない。
母親というのは自分にとって特別な存在。それを時々思い出しては考え、どんな顔かを想像した。
春になり、シェジーは9歳となった。
自分には家族がいた。それは本物ではなかったけれど、絆は本物だった。
カントンで起きた混乱に巻き込まれ、小さな体は我先にと大人達に押され、気づけばアペールと一緒に離れてしまった。そのアペールとも離れてしまい、自分は一人になってしまった。
泣けば誰かが助けてくれるわけではないことは知っていた。皆、見てみぬふりで、内心なんて思おうとも、それは同情だけに留まり救われたりはしない。
海賊達に売られたのは自分を含む女性ばかりで、馬車に乗せられ大移動したのち、大きな街へと到着した。
馬車を降りれば、立派な宮殿のような建物で、沢山の絵画や高そうな花瓶には真っ赤な薔薇が飾られ、赤い高級そうな絨毯に、音楽がスピーカーから流れていた。
小太りからスーツを着た怖いおじさんや優しそうな男性など、年齢幅の広い、しかし、男性しか宮殿にはいなかった。
そこに自分達若い女性が宮殿に入った。
そこでこれから何をされるのか、それは葉巻をくわえ金色の腕時計をしたスーツの男が説明した。
ここに来るまで他の女性達が怯えてた理由がこれで納得できた。でも、具体的にはまだよく分かっていなかった。
宮殿の地下には女達の控室になっていた。
そこでは化粧に香水に派手なドレスを着た大人な女性達がいた。
その人達は自分達よりずっと前からここで働いている。
シェジーはそのお姉さん達に優しくされ、色々なことを教わった。
例えば男達がここに来る理由。
男達は欲求を満たす為にここに来ていて、女性達はその手伝いを行わされているということを。
「ここでは既婚の男性もいるのよ。優しい顔をしていても、外見で騙されては駄目」
そう言われたシェジーは気になった。何故、自分の家庭に奥さんがいながらその男はここへやって来るのか?
「ここに来る男達は愛を求めているのよ。最初は結婚しお互い愛を確認できるけど、次第に不安になってくる。そして男は他で愛を求めるようになる」
それは承認欲求だった。
「でもね、愛は求めるものではないのよ。与えるものなの。不安ならまず自分から奥さんに愛を与えるべき。ここにやってくる男達はそれを理解出来ていないのよ。愛にはいろんなものがある。でも、重要なのは相手が受け取って一番嬉しいことよ。そこに見返りを求めては駄目なの」
シェジーは不安になった。自分はどうだろうかと。母を知らず、ルルーや仲間がシェジーと仲良くしてくれた。でも、自分はどうだっただろうか。
「本物の愛は難しい。大人になってもよく分かっていない」
その目は震えていた。
その日、ある男が暴れその優しくしてくれたお姉さんはその男に殺害されてしまった。
男は直ぐに取り押さえられ、その後どうなったのか分からない。
上の階で起こったことは直ぐに地下の女性達にも伝わった。
男達は騒ぐなと言い、殺した男は無事捕まえたと言った。それで安心できるとその男達は思っていたようだ。
他のお姉さん達はシェジーに近づき「目を瞑って」と優しく話かけた。
不安だったが、そのようにした。シェジーにとって信用できる人達だからだ。
目隠しをされ、その後抱きつかれると、背中を擦ってくれた。
「あなたはここにいてはいけないわ」
それが最後に聞いた声だった。
突然の別れ。その時は分からなかった。ただ、暗闇の中、孤独と不安だけが襲った。
気づけば、シェジーは眠っていた。
起きた時には積荷の木の箱の中にいた。
目隠しを外し、手の中に封筒が入っているのに気づく。
封筒を開けると、お金が入っていた。
それから手紙が。
シェジー、あなた一人で行かせたことを許してちょうだい。でも、一緒についていくことは出来ないの。
シェジーはこれから一人になるけど、直ぐに近くの人に助けを求めなさい。ただし、信用できる人に。あなたには人を見分けるすべを教えました。私達が見てきたノウハウをあなたに伝わったと思います。それを思い出して。
お金は無駄遣いしないように。
それからシェジー、あなたを忘れないわ。無事を祈っています。
シェジーは木箱の蓋を開けた。顔を出すと、そこは初めて見る景色だった。
目の前に牛がいて、モーと鳴いている。
近くではニワトリの鳴き声が聞こえた。
コケコッコー!
「え? ここはどこ?」
木箱から身を乗り出し脱出すると、そこに一人の作業服を着た若い女性が現れた。ルルーよりやや歳上といった感じだ。
「あら大変!?」
女性はシェジーを見て驚いた。
シェジーにとって、新たな出会いだ。
運命の歯車は回りだす。どこでどんな出会いが待っているのか想像出来ない。
シェジーはこれからも沢山と出会うだろう。そこで色んな話を聞き、色々目で見て経験するだろう。
それが彼女の成長物語であり、これは始まりに過ぎない。
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