腐った林檎

第４章 名もなき島

05 世界

　暗闇の海は沢山を捕食した。ありとあらゆるものを。
　我々は知らない。その底を。
　吐き出すこともしないその捕食者の海を帆船が突き進む。
　行き先は自由。
　海賊は暗闇を恐れはしない。
　歌を歌い、夜は騒いだ。
　彼らを拘束するものはない。
　そんな彼らは家族を一度失い、船の上で仲間と出会う。
　それは時に脆く、殺し合うが、また戻る。
　彼らは海賊。



　夜明けが海賊達にやってくると、まず最初に下っ端が働き始める。甲板をデッキブラシで掃除をし、決まった一日が始まる。
　船の上では規則正しく、時計はなくとも、染み付いた感覚はほぼ正確だった。
　アペールは海賊として船長から認められ、見習いとして働いた。
　彼もまた海賊だ。



　雪が溶けきり、春を知らせる風が陸にいる人々に伝える。
　乾いた空気を湿らせるのがもう涙でないようにイリゼの市長は今日も平和を目指し働く。そんな彼女は単に平和だけを求めてはいない。その先も見据え、社会のシステムをよりよいものへと変えようと努力をしていた。



　バラバラになった親友。
　いたずらな運命は彼らを苦しませたが、逆に彼らをむしろ強くした。
　ルルーは賢者へ進む道を見つけ、オラスはようやく自分を理解した。
　運命の歯車はまだ回り続けている。



　一方、人間に絶望し滅ぼすことを選択し、闇落ちしたオスマン達は着実に実現に向かっていた。
　闇を世界が覆うことで、世界は静けさを取り戻し、戦争というやかましい連中ごと消し去る。
　人間のいない世界で自然は再生を始め、ようやく理想を創造する。
　それこそが理想郷であり、それは人がいては実現出来ない。人はそれを破壊するからだ。



　世界は広い。それは誰のものでもない。どのように転ぶかは知る由もない。