腐った林檎

アズ

文字の大きさ
上 下
54 / 67
第4章 名もなき島

01 オラスVS雷獣

しおりを挟む
 オラス……オラス……選ばれし者は単に恵まれているだけでは駄目だ。その先がなければ力はお前のものにはならんぞ。



 父の声がまた自分の中から聞こえてきた。
 懐かしい声。寂しく感じさせる声。出来れば目の前で姿を現して欲しい。
 まるで守護霊のように父がどこかで自分を見守ってくれていると感じる時がある。そして、一番困っているときに父は現れ、声だけで助言をする。でも、答えをそのまま教えてくれるわけではない。
 そんなの分かっていた。これは、自分の中にある父親像が現れているからだ。自分の知らないものは助言してはくれない。
 答えは自分で見つけるしかない。



 空から笑い声がする。笑うのは好きだ。皆が笑っていると心が晴れ、自分の心までも明るくしてくれる。だが、この笑いは嫌いだ。
 人を殺してもなんとも思わず、むしろ一人だけ楽しんでいる笑いが。
 何が楽しいのか?
 一人で楽しむより、皆で楽しめるものが好きだ。
 でも、自分にそんな相手はいない。
 父を目の前で失い、孤独となった。
 生きる目標を失い、生きる目的を失った自分は、父親を殺したあの男へ復讐することで、それを自分の目的としていた。
 だが、ルルーと出会うことでそれは間違いだと気づいた。
 ルルーはそんな自分を嫌ってくれた。
 でも、ルルーは優しかった。
 この力は何の為にある?
 何の為に生きる?



 そうだ、オラス。信念を持て。信じられるものは何だ?



 今までは父親だけだった。だから、自分に語りかけるのはいつだって父親の声だった。
 でも、今は違う。
「オラス! オラス、しっかりしろ」
 ゼレールが必死にオラスの名前を呼んでいる声が聞こえる。
 そうだ。今は一人ではない。
 父さん、ずっと僕を見守ってくれてありがとう。でも、父さん。ずっと見守ってくれなくても、僕は成長してみせるよ。でも、突然消えるのは寂しいから、時々でいいから見守っていて欲しい。



 ああ、分かった。



 オラスは目を覚ますと、ゼレールの腕の中にいた。
「目覚めたか。良かった」
 何があったのか思い出せない。でも、聞かない。今はやるべきことがある。
 オラスはゼレールの腕から起き上がると、自分の足で立ち上がった。
「おい、大丈夫なのか?」
 オラスはゼレールを見て、それから頷いた。
 オラスは空を見た。
 雷がゴロゴロと鳴っている。
 あれにやられたのを思い出した。
 ゼレールはオラスの変化に気づいた。
「ピンチはチャンスとは本当によく言ったもんだ」
 守られてばかりじゃ駄目だ。今度は自分が守らなきゃ。
 あの時、父親の背中には僕がいた。だから、父はあの場から逃げられなかった。逃げるのも選択肢だったが、父はしなかった。
 守るものがある父の背中は大きく、それが僕の目標だった。
 もう、僕は孤独になるのは嫌だ。
 オラスに黄金に輝くオーラが漂い始めた。
 オラスの瞳の色が金に変わる。
 直後、オラスは全身を変身させた。
 それを見たゼレールは驚いた。
「何のドラゴンかは気になってはいたが、まさかラードーンだったとは」
 百ある頭が出現し、その頭は空にいる雷獣に向けられた。
 泣き、怒り、苦しみ、あらゆる感情を持った頭達。全て、オラスである。
 雷獣はオラスの変身を見て逃げ出した。
「こんなの聞いてない」
 だが、オラスは逃がすつもりはなかった。
 百ある頭の口が開き、一斉に黄金色の閃光を放った。回避はもはや不可能に近かった。
 決着はつき、雷獣は煙をあげながら落ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

運命のいたずら世界へご招待~

夜空のかけら
ファンタジー
ホワイト企業で働く私、飛鳥 みどりは、異世界へご招待されそうになる。 しかし、それをさっと避けて危険回避をした。 故郷の件で、こういう不可思議事案には慣れている…はず。 絶対異世界なんていかないぞ…という私との戦い?の日々な話。 ※ 自著、他作品とクロスオーバーしている部分があります。 1話が500字前後と短いです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スウィートカース(Ⅱ):魔法少女・伊捨星歌の絶望飛翔

湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
ファンタジー
異世界の邪悪な存在〝星々のもの〟に憑依され、伊捨星歌は〝魔法少女〟と化した。 自分を拉致した闇の組織を脱出し、日常を取り戻そうとするホシカ。 そこに最強の追跡者〝角度の猟犬〟の死神の鎌が迫る。 絶望の向こうに一欠片の光を求めるハードボイルド・ファンタジー。 「マネしちゃダメだよ。あたしのぜんぶ、マネしちゃダメ」

処理中です...