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第3章 パクス
19 パクス
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パクスという場所に辿りついたルルーはとりあえずシェフェールの手書きの手紙の入った封筒を持って役所へ向かう為、その建物を探し回っていた。通りすがる若い女性は伝統的な長いスカートを履いており、ルルーはそういった衣装が好きだった。相手もルルーを見たが、その目は不思議そうにしていた。おそらく、ルルーの格好が白いローブだからだろう。
たまに軍用車両が通り過ぎ、軍服の兵士の姿も見える。ここまではシェフェールの言われた通りだった。
軍人の二人組がルルーに近づく。
「止まれ。見ない顔だな」
二人とも20代といったところか。二人はルルーを怪しい目で見ている。
「私もあなたの顔を初めて見たわ」
「ここへは何しに?」
「人探しに」
「どんな奴だ? 俺は自慢じゃないがだいたい顔は覚えているんだ」
嘘ではないとルルーは直ぐに分かった。
「子どもなんだけど。それも複数」
それからルルーは外見を一人一人説明した。
「いや、そんな子どもは見ていない。そもそも何で子どもだけで移動してる? 大人達は?」
「その子達は親がいないの」
「なら、何故保護施設に行かない?」
「カントンから脱出した筈なんだけど」
カントンという名前で二人の軍人は納得した。それを見て、ルルーは悪い人ではなさそうだと感じた。
「カントンか。それじゃ君も?」
ルルーは頷いた。
「混乱ではぐれてしまったの。それでイリゼに行ったんだけどいなくて、それでパクスまで来たわけ」
「そりゃ大変だったろう。しかし、君のその格好だが……まるで賢者みたいだな」
「あら、そう?」
どうせこの二人に賢者が何なのか分かる筈がない。せいぜいコスプレ程度にしか見ていないだろう。
「もし、賢者なら仲間の傷を治してやって欲しいんだが」
それは本気で言ってはいなかった。冗談半分。しかし、仲間思いは本当だろう。
「賢者は医者じゃないから出来ないわね」
「魔女なら出来ると思うか?」
「失ったものは取り戻せない。例え魔法に出来ても、それは偽りでしかない」
兵士は笑った。
「おいおい、それっぽいこと言うねぇ」
冗談に付き合ってくれたと思われたようだ。
冗談ではなく、本当なのだが。
ふと、ルルーの目線が近くの建物に目がいった。錬鉄の門の先にある大きな病院だ。
「ああ……そこで戦争で傷ついた兵士が治療を受けている。俺の仲間も片足を失ってね。地雷だよ。今も幻覚肢がある。幻覚肢は分かるか?」
ルルーは頷いた。
「人間は酷いもんを発明するもんだよなぁ。でも、俺達もその科学を使って戦ってるんだ」
「戦争をやめたい?」
「あまり大きな声では言えないけどね。たまに都会から新米の兵士がここを通過するんだ。戦地に向かってな。ビビってる奴もいるが、中には国の為に戦うんだっていきのいい奴もいてね。だが、戦場を知れば分かるさ。そこは地獄だって」
「あなたも行くんでしょ?」
「ああ」
「イリゼの市長が当選したニュース、どう思う?」
「シェフェール新市長か? ああ、もし本当に出来るなら期待したいよ。だが、それまでに生きてられればいいんだが」
「なら、名前を教えてよ」
「ファーブル」「俺はモラン」
「私はルルーよ」
「ルルー、パクスへようこそ」
(第三章・完)
たまに軍用車両が通り過ぎ、軍服の兵士の姿も見える。ここまではシェフェールの言われた通りだった。
軍人の二人組がルルーに近づく。
「止まれ。見ない顔だな」
二人とも20代といったところか。二人はルルーを怪しい目で見ている。
「私もあなたの顔を初めて見たわ」
「ここへは何しに?」
「人探しに」
「どんな奴だ? 俺は自慢じゃないがだいたい顔は覚えているんだ」
嘘ではないとルルーは直ぐに分かった。
「子どもなんだけど。それも複数」
それからルルーは外見を一人一人説明した。
「いや、そんな子どもは見ていない。そもそも何で子どもだけで移動してる? 大人達は?」
「その子達は親がいないの」
「なら、何故保護施設に行かない?」
「カントンから脱出した筈なんだけど」
カントンという名前で二人の軍人は納得した。それを見て、ルルーは悪い人ではなさそうだと感じた。
「カントンか。それじゃ君も?」
ルルーは頷いた。
「混乱ではぐれてしまったの。それでイリゼに行ったんだけどいなくて、それでパクスまで来たわけ」
「そりゃ大変だったろう。しかし、君のその格好だが……まるで賢者みたいだな」
「あら、そう?」
どうせこの二人に賢者が何なのか分かる筈がない。せいぜいコスプレ程度にしか見ていないだろう。
「もし、賢者なら仲間の傷を治してやって欲しいんだが」
それは本気で言ってはいなかった。冗談半分。しかし、仲間思いは本当だろう。
「賢者は医者じゃないから出来ないわね」
「魔女なら出来ると思うか?」
「失ったものは取り戻せない。例え魔法に出来ても、それは偽りでしかない」
兵士は笑った。
「おいおい、それっぽいこと言うねぇ」
冗談に付き合ってくれたと思われたようだ。
冗談ではなく、本当なのだが。
ふと、ルルーの目線が近くの建物に目がいった。錬鉄の門の先にある大きな病院だ。
「ああ……そこで戦争で傷ついた兵士が治療を受けている。俺の仲間も片足を失ってね。地雷だよ。今も幻覚肢がある。幻覚肢は分かるか?」
ルルーは頷いた。
「人間は酷いもんを発明するもんだよなぁ。でも、俺達もその科学を使って戦ってるんだ」
「戦争をやめたい?」
「あまり大きな声では言えないけどね。たまに都会から新米の兵士がここを通過するんだ。戦地に向かってな。ビビってる奴もいるが、中には国の為に戦うんだっていきのいい奴もいてね。だが、戦場を知れば分かるさ。そこは地獄だって」
「あなたも行くんでしょ?」
「ああ」
「イリゼの市長が当選したニュース、どう思う?」
「シェフェール新市長か? ああ、もし本当に出来るなら期待したいよ。だが、それまでに生きてられればいいんだが」
「なら、名前を教えてよ」
「ファーブル」「俺はモラン」
「私はルルーよ」
「ルルー、パクスへようこそ」
(第三章・完)
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