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第3章 パクス
14 三文字
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尻餅をつく程驚いたことは人生で何回あったか? ほとんどは驚くことはあっても思わず尻餅をついた人はそうない体験ではないのか?
空が鳴いている。灰色の分厚い雲から眩しい程の光が何度も発生しては耳を塞ぎたくなる程の轟音が響いた。その光から一瞬見える巨大な獣の影は、それが何であれ選ばれし者が変身した姿であることは瞬時に理解できた。
恐らくは雷獣であろう。雷を操る化け物。
周りの反応は様々で、唖然とする者、おかしくなったのか哄笑する者、泣き出す者、逃げ出す者……少なくとも自分のような恥を見せた者はいない。
誰かが「立て、立つんだ!」と腕を引っ張られ、よろめきながら立ち上がる。
雷は地上に雨のように降り注いだ。
まるで狂ったように踊ろされた兵士達のように、敵兵はそれを嘲笑う。
そこへ、炎がその敵兵を飲み込み、一瞬にして悲鳴へと変わった。
誰かが言った。
「援軍が来たぞ!」
赤い巨大なトカゲ、その口からは炎が放たれていた。
サラマンダー。あれは確かゼレール…… 。
「何でもっと早く来てくれないんだよ!」 と、むしろ仲間に対して文句を吠える奴もいたが、自分はそれを無視した。
ここよりもっと重要な場所はある。そこの方が深刻だ。こんな状況でも、まだマシなのだ。
最低と思っていても、まだその下があるもので、本当の最低はもっと深い。
顔はすっかり汚れたコリーナはとにかく足を動かした。この場所からまずは離れなければ。
仲間達の死体を避けながら走る。
ここは死に一番近い場所。
顔見知りの死体もあった。名はパシーだ。彼女はこの世界では珍しく神を信じていた。
神を信じることで、死後の先まで考えていた。天国、地獄、輪廻転生。無神論者は神を信じていない為に死後の世界は考えない。死んだら終わり。そんな殺伐とした考えは、しかし、それが真実だと信じていた。実際は分からない。死後のことなんて死んでみないと分からないもの。でも、死んだ先の事を考えてどうするのか? 先があることで死に対する恐怖心や不安を和らぎ死を受け入れやすくなるのか。死は平等に必ず最後に訪れる。死を恐れず受け入れている人やむしろ死を考えることで安らぐものもいる。死という最大のテーマにそれぞれ答えを導く。そして、それは共通して死と向き合っている。
他人の死、自分の死、その違いはなんだろうか? 目の前にある大量の死を目撃した上で、私は感じる。悲しい。これは間違っている。死には理想がある。これはそれではない。
初めて、自分のしている戦争にこれ程嫌いに感じたのは何故なのだろうか?
自分の知り合いが、仲間が、どんどん殺されていく。
両耳を塞ぎ、誰かの悲鳴を閉ざした。
やめて、もうやめて。
それは悲鳴だ。
頭の中が混乱する。
その時だった。雷が自分に向かって落ちた。
終わったと思った。いや、そんな時間は実際にはないだろう。しかし、不思議なことに死に直面すると、時間が遅く感じた。その時間の流れの感覚は周囲が感じる時間と大きな差がある。
家族と一緒に過ごしている自分、しかし、それは今の自分ではなく懐かしい昔の自分、それは一瞬で、走馬灯だった。
これが極限状態。
しかし、自分は死んではいなかった。
少年が片腕を変身させ、自分を守ってくれたのだ。その少年の腕はドラゴンの腕をしていたが、たくましい男の子の手でもあった。
純粋で、心強く、優しさが伝わったからだ。
「あなたの名前は?」
少年は答えてはくれなかった。困った顔をして、口パクでなんとか伝えようとした。
それはたった3文字だった。
空が鳴いている。灰色の分厚い雲から眩しい程の光が何度も発生しては耳を塞ぎたくなる程の轟音が響いた。その光から一瞬見える巨大な獣の影は、それが何であれ選ばれし者が変身した姿であることは瞬時に理解できた。
恐らくは雷獣であろう。雷を操る化け物。
周りの反応は様々で、唖然とする者、おかしくなったのか哄笑する者、泣き出す者、逃げ出す者……少なくとも自分のような恥を見せた者はいない。
誰かが「立て、立つんだ!」と腕を引っ張られ、よろめきながら立ち上がる。
雷は地上に雨のように降り注いだ。
まるで狂ったように踊ろされた兵士達のように、敵兵はそれを嘲笑う。
そこへ、炎がその敵兵を飲み込み、一瞬にして悲鳴へと変わった。
誰かが言った。
「援軍が来たぞ!」
赤い巨大なトカゲ、その口からは炎が放たれていた。
サラマンダー。あれは確かゼレール…… 。
「何でもっと早く来てくれないんだよ!」 と、むしろ仲間に対して文句を吠える奴もいたが、自分はそれを無視した。
ここよりもっと重要な場所はある。そこの方が深刻だ。こんな状況でも、まだマシなのだ。
最低と思っていても、まだその下があるもので、本当の最低はもっと深い。
顔はすっかり汚れたコリーナはとにかく足を動かした。この場所からまずは離れなければ。
仲間達の死体を避けながら走る。
ここは死に一番近い場所。
顔見知りの死体もあった。名はパシーだ。彼女はこの世界では珍しく神を信じていた。
神を信じることで、死後の先まで考えていた。天国、地獄、輪廻転生。無神論者は神を信じていない為に死後の世界は考えない。死んだら終わり。そんな殺伐とした考えは、しかし、それが真実だと信じていた。実際は分からない。死後のことなんて死んでみないと分からないもの。でも、死んだ先の事を考えてどうするのか? 先があることで死に対する恐怖心や不安を和らぎ死を受け入れやすくなるのか。死は平等に必ず最後に訪れる。死を恐れず受け入れている人やむしろ死を考えることで安らぐものもいる。死という最大のテーマにそれぞれ答えを導く。そして、それは共通して死と向き合っている。
他人の死、自分の死、その違いはなんだろうか? 目の前にある大量の死を目撃した上で、私は感じる。悲しい。これは間違っている。死には理想がある。これはそれではない。
初めて、自分のしている戦争にこれ程嫌いに感じたのは何故なのだろうか?
自分の知り合いが、仲間が、どんどん殺されていく。
両耳を塞ぎ、誰かの悲鳴を閉ざした。
やめて、もうやめて。
それは悲鳴だ。
頭の中が混乱する。
その時だった。雷が自分に向かって落ちた。
終わったと思った。いや、そんな時間は実際にはないだろう。しかし、不思議なことに死に直面すると、時間が遅く感じた。その時間の流れの感覚は周囲が感じる時間と大きな差がある。
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しかし、自分は死んではいなかった。
少年が片腕を変身させ、自分を守ってくれたのだ。その少年の腕はドラゴンの腕をしていたが、たくましい男の子の手でもあった。
純粋で、心強く、優しさが伝わったからだ。
「あなたの名前は?」
少年は答えてはくれなかった。困った顔をして、口パクでなんとか伝えようとした。
それはたった3文字だった。
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