腐った林檎

アズ

文字の大きさ
上 下
31 / 67
第2章 イリゼ

17 投票日

しおりを挟む
 朝7時と共に各地にある投票所が開き投票が始まった。混雑を避ける為に朝から投票に来た人達が次々と投票所へと入っていった。投票は例年と違い厳重な警備体制となり、不正行為に対する監視の目も強化された。
 報道では早速お祭り騒ぎとなり、現状の調査段階ではシェフェールがややリードしているとの見解だった。
 ただ、最後まで何があるのか分からないのが選挙でもある。街中では警察がパトロールを強化し、明らかに違った日常といった雰囲気だった。
 その街の中心に近い位置にある会場、1500人は入れるホールに8時からマスコミやクレーク支持者が徐々に会場入りした。
 限られた記者のみ裏で待機しているクレークに取材が許された。
「クレーク市長、いよいよこの日が来ましたね。今のお気持ちをどうぞ」
「これまで応援して下さった方にまず感謝を述べたい」
「しかし、クレーク市長。現状シェフェールが僅かに優勢とありますが」
「必ず巻き返せると確信しています」
「シェフェールについてどう思われていますか?」
「とても手強い相手だったのは間違いありません。しかし、よく考えてみて下さい。シェフェールは現政権を批判する立場。もし、そのシェフェールの当選が確実となれば、それは他の地域にも当然影響を及ぼすでしょう。来年は重要な選挙があります。政治的空白をつくることはむしろ敵に対し都合を与えるも同然なのです」
「しかし、市長。シェフェールを支持する中には戦争によって子供を失った家族が多いです。そして、国民は平和を求めています」
「私も、平和を求めています。そうあるべきだと考えます。しかし、敵はそうはいかないのです。戦争を始める前、政府はむしろ平和に努力してきました。シェフェールの発言には多少誤解がある。敵は策略で、我々が平和を維持する間、密かに我が国にスパイを送り、目には見えないかたちで徐々に侵略しようとした過去があります。実際に、スパイ容疑で逮捕された事件もある。このように目に見える侵略、つまり暴力であり、それは戦争を意味しますが、必ずしも敵が分かりやすい攻撃を我々に仕掛けてくるとは限りません。そして、我々は常に隣国に怯え、常に監視をし、備え続けなければならなかったでしょう。それが果たして平和でしょうか? そもそも平和とは何か? それは脅威となる明確な敵が存在しない世の中でしょう。しかし、そうなるには戦争でしかないでしょう。シェフェールは戦争による平和を明確に否定している。だが、そうなれば先程言ったように我が国は永遠に隣国からの脅威に怯え続けなければならなかったでしょう。我々政党は最終的には平和を求めています。その為に我々は戦い続けているのです」
「戦争は現状膠着状態にありますが、この状況を打開する策はあると思いますか?」
「あるでしょう。今は思いつかなくても、それが直ちにないという結論にはならない」
「では、シェフェールは間違っていると」
「ええ、それは間違いないでしょう。彼女のやっていることはむしろこの国の分断です」



 一方、別の会場のシェフェールの主張。
「クレークの巧みな嘘に騙されてはいけません。拮抗した状況で戦争を続けても犠牲を増やすだけです。それよりもカントンで起きた悲劇。突如魔人の出現によりカントンは滅ぼされ、その魔人はどこかへと姿を消しました。政府は敵国の仕業だと主張しますが、あれは真っ赤な嘘です。ここに来て国家を持たない新たな敵が出現したのです。それは目に見える敵とは違い、私達にとって最大の脅威が出現したことを意味します。今こそ、この戦争を直ちに中断し、団結すべきなのです。このまま、政府の嘘のせいで真実を知らずにいたら、本当の敵を知ることなく私達は敗北を知ることになるでしょう」
 その話を裏で聞いていたラサールは苦渋の決断をしなければならなかった。
「どこまで知っているんだ、あの女は……」






 場所変わって魔女の城の地下牢。
「ルルーにまた変な事言ったわね。あの子は直ぐにあなたの話を信じたわよ」
「その声はアウレリアか」
 老人は酷い咳をしながらそう言った。
「その話は本当のことだ」
「だとしても今のあの子ではイリゼに行かせるわけにはいかないわ」
「アウレリアよ……何もしなくとも必ず変化は訪れる。そして、その変化は決まって人の中心に起きる。何故、いつもイリゼからなのか。お前さんは考えたことがあるか?」
「あなたとお喋りするつもりで来たわけではないわ」
「なら、ワシの最後を見届けに来たのか?」
 アウレリアは答えなかった。
 すると、老人は笑った。
「あんたがか?」
 笑い過ぎて、口から血を吐き出した。
 そして、胸をおさえ苦しみをおさえようとした。
「どこまで知っている……最後くらい聞かせてはくれないか……」
「あなたが最後の賢者の一人ということくらいね」
 老人はもう、笑うことは難しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

処理中です...