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第2章 イリゼ
13 ラサール
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ラサール少佐はバイクを走らせ街角の喫茶店の前にとめると、その喫茶店へと入った。
店はカウンターとテーブル席があり、カウンターにいた店主が目線で合図を送った。店内奥のテーブル席へ目を向けると、一人先に座っている50代の男性が砂糖やミルクの入っていない珈琲を飲んでいた。
店内はその男性しかいない。男は髭を生やし、黒いスーツを着ている。それなりのブランドもので、服装から見て裕福そうであることが分かる。髪は黒で染めており、白髪を気にするタイプだった。
そして、その男の顔はこの街の住人なら知らぬ者はいないイアン現職市長クレーク氏だ。少佐は軍帽を外し会釈した。それから、目の前の空いている席に座った。
「わざわざ呼び出してすまない」
低い声でクレークは話を始めた。
「君も知っている通り今回の市長選に勝ち続投を目指している。だが、世論調査ではあの女は徐々に私に迫ってきている。このままいけば接戦になるだろう。もし、シェフェールが市長選で勝つようなことが起きれば、それは全国へと影響する。今やシェフェールの人気は絶大になろうとしている。その前に……分かるな?」
少佐は「ええ」と短く返事をした。
「それと、選ばれし者が見つかったそうだな。捜索はどうなってる? 見つけたか?」
「今、他の者が追っているところです」
その捜索の最中に呼び出したのはお前ではないか。しかし、その愚痴はこらえる。
「必ず見つけだせ。あれを野放しにはしてられん」
「分かっております」
少佐は席を立ち、一礼すると店を出た。
政治家が色んな人脈を持っていることは珍しいことではない。あの市長も含め政治家達は自分達の権力を守る為に、大金を持つ企業と裏で繋がっていることはよくある話しだ。官僚にとっては天下り先となり、ズブズブな関係が出来上がる。一度関係が築かれると、その関係を解消することは容易ではない。
この国の民主主義は富を持つ者によって成り立っており、国民は金持ちによって支配される。シェフェールはそれに気づいている。
シェフェールは革命の火種になり兼ねない。というより、既に一部からは救世主、女神といった扱いだ。あの市長はシェフェールを始末出来れば問題が解決出来ると思っているようだが、むしろ逆だろう。あれは火薬庫に火をつける行為で、しかし、そうなると簡単には触れることは出来ない。あれはそういうものだ。
既にカントンで起こっていた悪政は世間に知れ渡っている。
あの市長はむしろ市民に金と物質を配り市長選を越える努力を考えた方がいい。金で票を買うんだ。裏でやってきたことを今更躊躇してどうする? 政策に理由なんて適当に幾らでも付足せばいい。
市長選さえ乗り越えれば、四年の任期は確実だ。その四年でシェフェールを社会的抹殺をした方が安全だ。マスコミを買収しフェイクニュースを垂れ流す。
しかし、そこまで考えても市民は既にシェフェールによって真実に気づき始めている。それほどまでに市民の不満は膨れ上がっており、このままでは現市長の器ではおさえきれないだろう。
最近では金持ちを狙った犯罪も増加している。金持ちも政治家と一緒に目立った行動はできない。
クレークは終わりかもしれない。
シェフェールはうまいこと民衆を味方につけている。その策略も見事だ。既に、市長選前からシェフェールはクレークと戦っており、準備段階で既にクレークを倒す力をつけていたというべきか。こうなると、後は結果だけだ。
そこまで考えて尚も続投の為に自分に依頼してきたということは、よほどの執念と言えよう。
少佐は無線機を使った。無論、暗号化されている。
「こちらラサール、軍曹状況を伝えろ」
「こちらコラス、駅に到着しましたが連中の姿確認出来ず」
「了解した。私も今からそちらに向かう」
通信を終えた少佐はエンジンをかけ、バイクを走らせた。
うまく逃げたようだ。ウーリーという土地勘のある男のせいだろう。追うのが面倒になった。だが、あのような男の考えることはだいたい予想がつく。先回りして、そこで捕獲するか。
少佐は更にスピードを上げた。
もし、シェフェールを始末すれば革命が起こるかもしれない。火薬庫に火を付ければ国内は滅茶苦茶になるだろう。
正直、少佐にとって政治はどうでも良かった。結局のところシェフェールの考えも、現状も、どちらも問題は存在し、人間はそれにぶつかり頭を悩ませる。
完璧な社会は存在せず、政治家や学者は人々を幸福には出来ない。人が幸せを感じるのは己の中でしか見出せない。コップの水問題と同じだ。
人が貧しいのは決まって心が貧しいからだ。しかし、食料問題や戦争は個人では解決出来ないから、結局社会や政治を考える。
その点、海賊は自由でいい。そんなことを考える必要がない。兵士になって死ぬくらいなら海賊になりたいと願う男は意外にいる。
世界で唯一あの海を渡れる海賊船が自由への切符なのだ。
もし、機会が訪れるのなら、自分も軍帽を捨て海賊になっていただろう。
店はカウンターとテーブル席があり、カウンターにいた店主が目線で合図を送った。店内奥のテーブル席へ目を向けると、一人先に座っている50代の男性が砂糖やミルクの入っていない珈琲を飲んでいた。
店内はその男性しかいない。男は髭を生やし、黒いスーツを着ている。それなりのブランドもので、服装から見て裕福そうであることが分かる。髪は黒で染めており、白髪を気にするタイプだった。
そして、その男の顔はこの街の住人なら知らぬ者はいないイアン現職市長クレーク氏だ。少佐は軍帽を外し会釈した。それから、目の前の空いている席に座った。
「わざわざ呼び出してすまない」
低い声でクレークは話を始めた。
「君も知っている通り今回の市長選に勝ち続投を目指している。だが、世論調査ではあの女は徐々に私に迫ってきている。このままいけば接戦になるだろう。もし、シェフェールが市長選で勝つようなことが起きれば、それは全国へと影響する。今やシェフェールの人気は絶大になろうとしている。その前に……分かるな?」
少佐は「ええ」と短く返事をした。
「それと、選ばれし者が見つかったそうだな。捜索はどうなってる? 見つけたか?」
「今、他の者が追っているところです」
その捜索の最中に呼び出したのはお前ではないか。しかし、その愚痴はこらえる。
「必ず見つけだせ。あれを野放しにはしてられん」
「分かっております」
少佐は席を立ち、一礼すると店を出た。
政治家が色んな人脈を持っていることは珍しいことではない。あの市長も含め政治家達は自分達の権力を守る為に、大金を持つ企業と裏で繋がっていることはよくある話しだ。官僚にとっては天下り先となり、ズブズブな関係が出来上がる。一度関係が築かれると、その関係を解消することは容易ではない。
この国の民主主義は富を持つ者によって成り立っており、国民は金持ちによって支配される。シェフェールはそれに気づいている。
シェフェールは革命の火種になり兼ねない。というより、既に一部からは救世主、女神といった扱いだ。あの市長はシェフェールを始末出来れば問題が解決出来ると思っているようだが、むしろ逆だろう。あれは火薬庫に火をつける行為で、しかし、そうなると簡単には触れることは出来ない。あれはそういうものだ。
既にカントンで起こっていた悪政は世間に知れ渡っている。
あの市長はむしろ市民に金と物質を配り市長選を越える努力を考えた方がいい。金で票を買うんだ。裏でやってきたことを今更躊躇してどうする? 政策に理由なんて適当に幾らでも付足せばいい。
市長選さえ乗り越えれば、四年の任期は確実だ。その四年でシェフェールを社会的抹殺をした方が安全だ。マスコミを買収しフェイクニュースを垂れ流す。
しかし、そこまで考えても市民は既にシェフェールによって真実に気づき始めている。それほどまでに市民の不満は膨れ上がっており、このままでは現市長の器ではおさえきれないだろう。
最近では金持ちを狙った犯罪も増加している。金持ちも政治家と一緒に目立った行動はできない。
クレークは終わりかもしれない。
シェフェールはうまいこと民衆を味方につけている。その策略も見事だ。既に、市長選前からシェフェールはクレークと戦っており、準備段階で既にクレークを倒す力をつけていたというべきか。こうなると、後は結果だけだ。
そこまで考えて尚も続投の為に自分に依頼してきたということは、よほどの執念と言えよう。
少佐は無線機を使った。無論、暗号化されている。
「こちらラサール、軍曹状況を伝えろ」
「こちらコラス、駅に到着しましたが連中の姿確認出来ず」
「了解した。私も今からそちらに向かう」
通信を終えた少佐はエンジンをかけ、バイクを走らせた。
うまく逃げたようだ。ウーリーという土地勘のある男のせいだろう。追うのが面倒になった。だが、あのような男の考えることはだいたい予想がつく。先回りして、そこで捕獲するか。
少佐は更にスピードを上げた。
もし、シェフェールを始末すれば革命が起こるかもしれない。火薬庫に火を付ければ国内は滅茶苦茶になるだろう。
正直、少佐にとって政治はどうでも良かった。結局のところシェフェールの考えも、現状も、どちらも問題は存在し、人間はそれにぶつかり頭を悩ませる。
完璧な社会は存在せず、政治家や学者は人々を幸福には出来ない。人が幸せを感じるのは己の中でしか見出せない。コップの水問題と同じだ。
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その点、海賊は自由でいい。そんなことを考える必要がない。兵士になって死ぬくらいなら海賊になりたいと願う男は意外にいる。
世界で唯一あの海を渡れる海賊船が自由への切符なのだ。
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